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M/M小説 (原書)レビューブログ

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The Next Competitor
Goodreads-icon.pngKeira Andrews

TheNextCompetitor.jpg★★☆ summary:
フィギュアスケートの男子シングル金メダルを獲るためにAlex Gradyはひたすらにスケートに捧げた生活を送っていた。
四回転サルコウはすでに跳べる。だがオリンピックまでにはルッツも跳べるようにならなければ。

集中した、ほとんど取り憑かれたような日々の中、友情などに割いている時間はない。
同じ練習場にいるほかのスケーターから嫌われたり、お高くとまっていると思われてもかまわない。勝利こそすべてだ。
四年に一度のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

だがいつしかAlexの目は、Matt Savelliに引き寄せられていく。おだやかで人当たりのいいペアの男性スケーター。
二人は水と油のように対立しあった。
事実、誰とでもうまくいくMattを唯一嫌い、そして唯一嫌われているのがAlexであった。それともそこには隠れた感情があるのだろうか。
.....



フィギュアスケートものです。
わりと練習風景なんかもよく描かれていて、フィギュア好きな人でもそこを織り込んで楽しめるのではないかと思います。

この本のセカンドエディションが出たのが2016年。で、オリジナルは2010年かな、に出ていまして、カナダで練習している若き日本の人気スケーターなんかも登場していたりしますが、作者いわく「あの時は羽生もカナダで練習していなかったからね…偶然なの…」て前書きに書いています。にしてもこの2018年にも色々ありましたよフィギュア、て再読していて思いました。うむ。すごいなこの変化。
なので、まだこの話の中では「四回転ジャンプ一種類じゃ…二種類ないと…」てやってます。そこはそれとして。

厳しい女コーチに鍛えられながらAlexは必死に頂点を目指す。
そんな中、一緒に練習している人々との仲間意識なんか育てるひまはない。そしてその中のMattとは、とにかくそりがあわない。優等生タイプで「みんな仲良く」なMattを見るたびになにか腹が立つし、Mattも妙にAlexにつっかかってくる。

Alexは決して冷たい男ではない…いやまあ冷たいところはあるか、でも若い頃から競技スポーツの中で上を目指して必死にやってきた者の、それはひたむきな献身の姿です。周囲から常に評価の目で値踏みされてきた若者の、ある種の防御反応でもあるかもしれない。
でも彼は、子犬みたいに慕ってくる日本のスケーターの男の子を無碍にはできずについ相手をしてしまうし、競技で失敗して泣いているスケーターがいればそこにレポーターが入らないように態度悪く追い返す。普段の顔はつんけんしていても根っこまでそういう子じゃないんだよ、といういい感じのツンデレ候補。

そんな彼とMattも、さすがにトレーニングの中で少しは打ちとけるようになっていきます。というかAlexは相手のことを知ってしまうとあんまり冷たい顔はできない子なんだろうな。だからあまり人に近づかないのだけれども、Mattは生来のナチュラルな押しの強さでその距離をつめる。
そんな時、Mattが競技中にパートナーの女性をリンクに落下させてしまいます。

自己嫌悪で落ち込んで八つ当たり気味のMattを、Alexはこっそり人気のいないリンクに引っぱり出して一緒に滑る。これは可愛いシーンです。
しかしほかのスケーターたちとの交流はAlexの練習の足をひっぱり、コーチはまた孤立を命じるのです。
このコーチはじつに苛烈な女性コーチですが、ラトビアのスケーターを家に下宿させて教えているとか、なかなかよいエピソードも持っていて、スケート界の紆余曲折をくぐってきたような風格を漂わせている。
スポーツもののコーチの存在感て本当に大事だ。

スケートはシーズンになると各国をめぐって試合に参加していきますが、その中で色々なことがおきる。体調を崩したり、航空会社が荷物をなくしたり。
そういう周囲のディテールもきちんと書きこまれていて、競技者としてのAlexの側面と人間的な弱さとを同時に描き出している。
好みとしてはもう少しAlexとMattが対立している時間が長くてもいいよね!とか思いますが(対立カプ好きなのでな)、二人の距離の縮まり方は自然な感じで可愛いし、氷の女王っぽいAlexがデレていくのを愛でる展開もよいものでした。

競技か、恋か。
それは選ばなければならないものなのか?
その上、Alexの言葉を選ばない物言いは時にトラブルを呼びよせてしまう。今はネットの炎上もおっかないからなー、大変だなー、と読みながらしみじみします。マスコミは本当にもう少し選手を大事にしてやらなきゃ駄目だよ。
勝利とはすべてを賭けるほどのものなのか。そうだとしても、4年に1度のオリンピックで金メダルをとれるのはたった一人です。
競技スポーツ好きの人なら、コーチのセリフ "Victory depends on four and a half minutes on ice. Life cannot."(勝利は氷の上の4分半だけで決まる。人生はそうではない)がぐっと胸に来るのではないかと思います。

フィギュア好きな人、競技スポーツ好きな人におすすめ。全体に甘くて読みやすいロマンスです。

★オリンピック
★喧嘩からはじまる恋

Alpha Bodyguard
Goodreads-icon.pngErin McRae、Racheline Maltese

AlphaBodyguard.jpg★★ summary:
アルファでボディガードのRobertは、知事の息子であるオメガ、Jakeの護衛を引き受ける。
だがJakeは頑固で、過保護なアルファにあれこれ指図されるのを嫌がる。
オメガであろうとも、Jakeはアルファからの、いや誰からの命令も受ける気はなかった。彼はメイトも持たずに、大学なんか行ってしまうような無鉄砲なオメガだ。
薬を飲んで発情期を抑えてはいるが、本来、大体のオメガはメイトと結ばれたあとに大学に行くものなのだった。

Jakeはそんなふうに周囲のアルファによって人生を左右されるのはごめんだった。
えらそうにしているアルファを見ると腹が立つし、挑発もしたくなる。
そのJakeの反骨精神が、鉄の自制心を持つRobertを大きなトラブルに巻きこむのだった。
.....



たまにはオメガバース(妊娠あり)のレビューもね!
まああまり読まないんですが、最近のアメリカM/M界でのオメガバースの勢いというのもなかなかのものがあります。

そもそも人狼ものはアメリカでは絶大な勢力を誇ってきたわけですが、オメガバースと伝統的な人狼ものってどう違うのか?というあたりから。
オメガバースはアメリカのファンフィク界発祥(スパナチュからと聞いたことはあります)で、アメリカのロマンス界ですでに認知されていた人狼ジャンルも影響して作られたものではないかと私は勝手ににらんでいますが、基本的にふつうの人狼ものと同じ「アルファ、オメガ、ベータ」の設定を持っています。この役割自体は実際の狼社会にある狼同士の関係を踏襲しています。(※古い研究で。最近の研究では、こうした極端な社会構成を持つのは人間に飼われた狼のみであるという視点も出ています。脱線ですが)
オメガバースを独特なものにしているのは、やはりオメガの設定かなあと。発情期(ヒート)があり(これは人狼ものにもあるやつはある)、それを薬で抑えていることが多く(これもあるな…)、ヒートの時にアルファとセックスすると基本的に妊娠します。あと、狼の交尾から持ち込まれた設定として、ノットといってペニスにこぶのようなものがあり、アルファが射精するまで抜けないようになっているというのもある。
極端なカースト制度をもつ話が多く、オメガがカースト最下層。…まあこれも、もともと狼研究から持ち込まれた設定なので、人狼ものにも見受けられるな。

そして一番違ってくるのは全体の世界観。
オメガバース系は、世界全体がオメガバースなことが多くて(まあもともとそういう意味の言葉ですが)、人狼ものに多い「人間に隠れてひっそりと人狼が存在するのだ…」っていうよりもう世界全体がオメガとアルファの存在を織り込んでできている感じ。
この作品もそうですが、すでに「狼」って設定を捨ててきて、オメガとアルファがいる世界!とヒエラルキーの設定を純然と煮詰めた世界観になっていたりもします。
「オメガバース」って銘打てばそういう世界観がすでに共有されているという点では話が早いので、エロやカーストのドラマになだれこむのが全体に早い。人狼ものも「メイト」って言っちゃえばどんな展開も許されるぜみたいなところはありましたが、さらにそこがパワーアップされている。

で、本作のレビュー。
はねっかえりの坊ちゃんオメガと、彼を任務で守らねばならないボディガードのアルファという鉄板の組み合わせになってます。
アルファは、発情したオメガの匂いに反応する。Jakeは薬で匂いを抑えてますが、近くにいるボディガードの鉄面皮を崩してやりたいがためだけに薬を飲むのをやめるというチャレンジャーぶりを発揮します。やるなあ。ていうかデメリットでかくないか。
そしてRobertは、「依頼人の息子」で「知事の息子」であるJakeに手を出すわけにはいかないけれども、発情期に苦しんでいるオメガをアルファとしては放っておけないというエロくて楽しい葛藤の板挟みになるのです。

短めで読みやすく、エロ中心。そういうのが読みたい気分の時に気兼ねなく楽しめる一冊です。
女性のベータがいるところが人狼ものとちょっと違うなあと感心してしまった。M/Mの人狼は基本的に男社会だから。そのあたり、オメガバースだと違いが出てくるのかどうかは気になるのでまた読んでみよう。

★オメガバース
★強気オメガ

A Casual Weekend Thing
Goodreads-icon.pngA.J. Thomas

ACasual.jpg★★ summary:
Doug Heavy Runnerはつねに他人と線を引いてきた。
ネイティブアメリカンの居留地で育ち、だが祖父たちは牧場の成功により地元で妬まれてきた。一方、居留地の外に行けば地元では人種に対して白い目を向けられる。
遠いマイアミで警官となり、その時だけはゲイということもオープンにして暮らしていたが、犯罪者につけこまれて酷い目にあってから、地元に戻って保安官としてひっそりと生きてきた。

そんなある時、男の死体を山から引きあげる。
自殺のようだったが、その男の両腕には「Happy Birthday」と刻まれていた。
Dougは唯一の肉親である男の弟に連絡を入れる。

Christopher Hayesは肩を撃たれて命をとりとめたが、人生の転換期を感じていた。右手がうまく動かない。拳銃を撃てなければ刑事の仕事は続けていけない。
ずっと刑事として悪人を裁き、走りつづけてきた。
兄から逃げるために。
その兄が死んだという連絡を受け、彼は一人でその町へ向かう。
.....



走りつづけてきた男の話。

Christopherは走るのが好きな男です。何が何でも走る。肩を撃たれたあとも、走りすぎて傷がひらいてしまうくらいに走る。マラソンどころか、百キロ以上のいわゆるアドベンチャーレース(荒野を走ったり砂漠を走ったりするやつ)も走る。
彼が走るのは、自分の中にかかえている何かを押しとどめておくため、そして過去から迫ってくる何かを振り払うためなのです。
なんだか落ちつきのない男なのですが、そこのところが見えてくるとおもしろくなってくる。

彼は、もう二十年くらい会っていない兄が死んだと連絡を受けて、小さな町へ向かう。山の上にある町に行く前に、泊まったふもとで色っぽい男を引っかけて一夜のお楽しみと洒落込むわけですが、その相手が山の上の保安官Doug。
お約束といえばお約束だけど、ちょいと都合よすぎでもある。わりとちょいちょいそういうところのあるお話ですが、キャラの作りにちゃんと厚みがあり、展開にスピード感があるのでその辺はさらっと流して読めると思う。

この話で一番おもしろかったのは、走ることにかけてのChristopherの執着と、そしてその兄のキャラクター。
兄はもう死んでいますが、Christopherは検死報告書を見て彼の死亡日が自分の誕生日であると知る。そう、この兄ちゃんは長年会っていない弟のために腕に「Happy Birthday」と刻んで自殺するような男なのです。
それを読んだChristopherもまばたきひとつしない。ただ走る。倒れそうになるまで走る。
彼はずっとそうやってきた。兄に傷つけられた子供の時から。兄が「逃げろ」とChristopherを追い出した時から。
兄は養父から虐待を受けていて、その虐待をそのままChristopherへと転化していた。傷つけられたものが別の誰かを傷つける負の連鎖。「逃げろ」と言ったのはChristopherを守るためだったのだろうか? その環境から、そして自分から。Christopherを逃がし、刑務所に入った兄はその連鎖から逃げられずに闇に呑み込まれたのだろうか。
語られることのない、想像するしかない闇ですが、その闇は話の中心にずっと居座っていてChristopherを引き込みそうになる。

でも彼にはDougがいます。
週末に遊びで寝てみただけの男。タイトルどおり「A Casual Weekend Thing」でしかない筈の相手。
お互い、この関係はカジュアルだし一時的なものでしかないし、と自分に言い聞かせながら二人はそれぞれの弱みを相手に見せるようになっていく。
それは深みじゃないのか?って誰が見てもハマりつつあるんだけど、二人だけは「いや、ゆきずりの関係だから」とあらかじめ守りに入っている。傷ついたことのある男ってのはこれだからたちが悪いし、楽しい。

兄の死が、この町でひっそりと起きていた犯罪をあぶり出していきます。町の子供たちが、保護と養子のシステムの中で消えている。誰の目も届かないところで、誰かが子供たちを食いものにしている。
そこにはやはり兄が抜けきれなかった「負の連鎖」の悲劇があって、それを断ち切るため、そしてChristopherを呼ぶためには死ぬしかなかった兄の決断の愚かさと悲しさが印象に残った一冊でした。
兄ちゃんのことはもう少し知りたかったな!ほんとどうしようもない奴だが!

展開をもうちょい整理してあると(あともうちょい短いと)ぐっと質があがったと思うのですが、ところどころにキラリと光るキャラ描写があって飽きさせない一冊です。
それぞれのバックグラウンドをかかえて、みんな何かから逃げているようでもある。その「われ鍋にとじ蓋」的な組み合わせぶりが味わい深い。
あとエロシーンがしっかりエロい作家さんなので(大事)、そこもしっかり楽しめます。
ちらっと出てくる本当にどうしようもねえ相棒が続編の主人公になっているので、これから読むぞっと。

★ランナー
★トラウマ

Running Blind
Goodreads-icon.pngKim Fielding, Venona Keyes

RunningBlind.jpg★★☆ summary:
人気アニメの声優Kyle Greenは熱烈なファンに支えられ、プライベートでは10年つれそった恋人と満たされた毎日を送っていた。
だが人生は一瞬で変わる。
脳梗塞で視力を失ったKyleは、ついに仕事のチャンスを手に入れた恋人と別れる。
もはや二人の間にあるのは「ロマンス」ではなくなっていたと感じていたし、恋人の新たなキャリアの邪魔をしたくはなかった。

アニメの仕事はもうできないだろう。絵と自分の声を合わせることができないのだ。
それでも小さな望みを得て、Kyleは走り始める。

そんな時、道でぶつかった男はSeth Caplan。
運命の出会いというほどドラマティックではなかった。少なくともその瞬間は。
.....

こういう話だと、パターンとしては「ハンディキャップを負った主人公を恋人が手のひら返しで捨てていく」ような導入がありますが、今回は違います。二人は子供のころからの友達で、恋人として仲良くも暮らしていたし、盲目となったことで心が醒めたわけでもない。
むしろ、彼らの間にあるものが「恋」ではなかったことが、その出来事によってはっきり見えてきたという感じ。恋人ではなく、兄弟のような存在になっていた。本当はずっとそうだったのかもしれない。

たとえそうであっても、自分に未来がなくなった(と思っている)状態で、恋人の手を離せるKyleを見ると、彼がフェアで芯の強い人だということがよくわかる。
視力を失い、恋人を別の世界に送り出し、Kyleは自分の新しい道を見つけようとするが勿論それは容易ではない。しかしそこの展開が地に足がついた筆致で描き出されているので、重くとも読んでいて苦しくはない。

共著者のひとりKim Fieldingは、そういうさじ加減がいつもうまいです。世界とうまく協調できずに(精神的あるいは肉体的に)自分の居場所をはっきりと定められないキャラの痛みや淋しさをしっかりと書きながら、声高ではない筆致がしみじみと味わい深い。

病院から家に戻ったKyleは、時々なにかが「見える」のに気付きます。
検査の結果、脳にダメージはあるが目は正常なので、その視覚情報を脳の別のところで処理するように適応してきているらしいということがわかる。要するに、動いていれば物が見える、ことがあるらしい。
そこでロッキングチェアを買って体を揺らし、新たな視野を得ようとして、さらに人生の新たな一歩として、Kyleは走り出す。
そしてそこで、Seth Caplanという男にぶつかるのです。

道でぶつかって恋が始まるなんてじつにクラシカル!(すぐに始まるわけじゃないですが)
ともあれKyleが持ち前の明るさとチャレンジスピリットを少しずつ取り戻していくさまは、読んでいて彼を励ましたい気持ちにさせられる。
ポジティブというか、繊細ながらに丈夫な人だ。ちょっと後ろ向きだったりするところにも共感が持てる。

Sethは母親の病気を看るために帰ってきて、自分も新しいテクノロジー関係の仕事を始めようとしている。
いい人で、ずっと遊び人だったけれどもそれにも疲れていて、何か人生でしっかりした基盤がほしくなっている頃です。そんな時にKyleと出会い、Kyleのランニングパートナーとなります。
二人の間には最初からおだやかなユーモアが流れており、SethがKyleとのディナーに「馬鹿みたいだけど、何を着ていこうか鏡の前ですごく悩んだ」と打ち明けて笑うところなんかも可愛いです。

人生にはつらいこともあるし、谷も坂もある。
そこで落ち込んでもいい、間違った判断をしてもいい、でもいつか走り出せば新しい何かに出会えるかもしれないという、地味に前向きな気持ちになれる話。目をみはるようなドラマがあるわけではないけれども、ゆっくり読みたい一冊。

アニメが仕事のひとつなので、日本の漫画作家さんとかもちらっと出てきて「sensei」と呼ばれているのがちょっとおもしろい。kake udonとか。
お好み焼きとか味噌汁とかちょいちょい日本の文化も出てきて、やはりアニメ文化というのは日本がイメージの中心にあるのだなとそんなところもおもしろく読みました。

「伴走者」っていう言葉は、この作品の中では実際の役割であると同時に、とても比喩的な意味を持っているのだと思う。

★アニメ声優
★伴走者

Murder and Mayhem
Goodreads-icon.pngRhys Ford

MurderAndMayhem.jpg★★☆ summary:
もと美術品泥棒のRook Stevensは、物なら山ほど盗んだが、人の命を奪ったことはない。そう告発されたことも。
だが今、自分の店で死体を見つけ、そして警察の掃射から命からがら逃げ出したRookは新たな危機に直面していた。
LA市警のハンサムな刑事、Dante Montoya。
まさに仇敵。

血まみれで逃げようとする男をとらえたDanteはショックを受けていた。なんと相手はRook、かつてDanteが刑務所に叩きこもうと全力を尽くした相手だ。
嘲笑うかのように法の手を逃れつづけたその男が、今、殺人の容疑者として追われている。

ついにこの男を塀の中に放りこめるのか?
だが果たして、この良心のない、恥知らずの犯罪者は…有罪なのだろうか?
.....



Murder and Mayhemシリーズ1巻。
かつて盗みを働いて食っていた男と、彼を刑務所に放りこむべく全力を尽くして負けた刑事。
その二人の血みどろの(主に血まみれなのはRook)再会から、彼らの関係が転がり出します。

刑事のDanteと元犯罪者のRookにとっては五年ぶりの再会。
DanteにとってRookは憎んでも憎みきれない相手です。必死の捜査が報われなかっただけでなく、Danteの相棒は法でRookを裁けないことに絶望してついに偽の証拠をでっち上げることまでした。
結果、Danteは自分の面子を失い、彼を刑事として一人前にしてくれた相棒も失った。

いいですよね、猫と鼠の(刑事と犯罪者の)話って!!
しかもかつての因縁あり。Danteは心の底からRookを憎む一方、RookはDanteに対するひそかな気持ちも持っていたりとか。どれだけこじれるのかと読みながらわくわくします。期待にたがわず、まずRookにタックルして引っ立てていくDanteから話は始まる。

Rook自身は犯罪で人生を作ってきたことを恥じてはいない。自分が何歳なのかも正確に知らず、父親もわからない彼は、ついに自力で店を持つところまで這い上がってきた。
彼にとってそれは当然のサバイバルなのです。
Danteに惹かれてはいるけれども、いやだからこそか、Rookは本能的にDanteを挑発せずにはいられない。「警察っていうのは無能なものだからね。それともそれは俺を追っていた刑事さんたちだけかな?」みたいに。
DanteはそんなRookについ過剰に反応しますが、同時に自分に偏見があるのではないかとも悩む。過去の軋轢から、Rookのことを公正な目で見られていないのではないかと。彼を有罪にしたいあまり、正しく事件を判断できていないのではないかと。
真面目で、正義を信じる男なのです。

そして、誰にも言えない。
Rookを檻の中に放りこみたいのと同じくらい、ベッドの中へ放りこみたいと強烈に願っているのだとは。

Danteはヒスパニックで、同居している叔父がドラァグクイーンでいい人なんですね。頭に血が上りやすい直情型のDanteをある意味で補っている感じ。
昔、ゲイだとカミングアウトして親から家を追い出されたDanteに、叔父さんが手を差し伸べてくれた。
ここには温かい家族の絆があって、Danteが頑固ながらもまっすぐでいいやつなんだなというのがじつによくわかる。

事件は大きなダイヤモンドを中心にめまぐるしく動いていき、Rookの過去の仲間にずるずると芋づる式につながっていく。
自分がここまで作り上げてきた人生を、店を守ろうとするRookに、愛憎入り混じる気持ちを抱きながらもDanteも巻きこまれていきます。

ちょっと展開が騒がしすぎるかなという感じもあるんですが(ここは読む時の気分との相性も大きいかな)、設定が大好きだしキャラも可愛い。
Rookだって彼なりにまっすぐな心を持っていて、手の届く範囲では優しい子なんですよ。ただ生きのびるために、犯罪のラインや世の中の常識というものにあまり重きを置いてこなかっただけで。でも自分は犯罪の世界からきちんと足を洗ったし、そうしたい仲間には道を開いてあげたりもしている。
今回、その中の誰かが彼を裏切っているかもしれないのですが。
そんなRookに対してDanteが抱くようになる保護欲と、法を守ろうとする精神がぐるぐると戦う葛藤もみどころです。

シリアスではあるけれどもにぎやかで軽いテンションのシリーズ。楽しい読書がしたい時におすすめ。

★犯罪者×刑事
★逃亡劇

How to Howl at the Moon
Goodreads-icon.pngEli Easton

howtohowlatthemoon.jpg★★★ summary:
Mad Creek。カリフォルニア州の、ひっそりと引きこもった山の中の小さな町。
その町には秘密があった。
そこは犬たちが暮らす町だったのだ。人の姿になれる犬が。

そうとも知らず、一文無しのTim Westonは人生を立て直すために町の小さなキャビンにやってくる。
新種のバラを育てられなければ、売れるだけの野菜を育てられなければ、半年後にはホームレスになるしかない。
金もなく友達もなく、信じられる相手もいない。Timは必死だった。

Timの態度を不審に思った町の保安官Lance Beaufortは、こっそりマリファナを育てようとしているのではないかとこの若者に目を光らせる。Lanceの家系は代々のボーダーコリーで、群れを守る義務感は強烈だ。
その義務感が暴走して、ある夜彼は思いきった行動に出る。犬の姿でTimに近づいたのだ。何をたくらんでいるのか探り出してやろうと。これはのぞきではない、潜入捜査だと自分に言い聞かせながら…
.....



Howl at the moonシリーズの一冊目。
Eli Eastonさんはもともとユーモアのある書き口で注目されてましたが、このシリーズで人気作家としての地位を固めた感がありますね。決してユーモアがいきすぎず、キャラが可愛くてそれぞれに大真面目で、読んでいて気持ちよく安心して手に取れる作家さんです。

シフターものはM/Mジャンルでとても大きな勢力で、メインは狼ながらも昨今はそこにオメガバース設定が入ってきたり、さらに狼以外の動物シフターネタももはや定番となった感があります。
その中で、このシリーズは犬のシフターがテーマ。それも飼い犬だった犬たち。ここは珍しい。
飼い主と強い絆を結んだ犬のほんの一部は、飼い主が死ぬと強い悲嘆の中でどうしてか人間に変身する力を得る。その能力を得た犬たちの子孫は、生まれながらにして変身の力を持っている(Lanceの家系は代々そう)。
なので、自分の世代で人に変身できるようになった犬たちは、必ず愛する人間との別れを経験している。そこには愛と悲しみと二度と取り戻せない郷愁があふれていて、犬好きならもうそこだけでぐっとくる。自分の体の仕組みすら変えてしまうほどの愛と献身。犬ってそうだよね!とぐっと拳を握りたくなるような設定です。

人間の姿になった犬たちですが、犬としての本能や種類の違いが色濃く残っていて、ボーダーコリーの保安官Lanceの群れに対する忠誠心(ボーダーコリーは牧羊犬ですんで群れをまとめたり守ったりする性格)、なつきやすく忍耐づよいブルドッグのGus、そして警戒心が強く自分へのハードルが高いジャーマンシェパードのRomanなど、それぞれの犬の性格をよく描き出しているところもクスッとさせられます。
ていうかとにかく本当に可愛いな!

物語の中心は、町の秘密を知らないTimと、こいつはあやしいとTimに目をつけた保安官のLance。
生真面目きわまりないLanceは、上がり症ですぐドギマギするTimの態度に不信感を抱いてあの手この手で近づこうとするわけですが、Timも人付き合いは不器用だがLanceも空気読めないことにかけては引けを取らない。
全然駄目だ、この二人。
でもそこに謎の犬「Chance」が現われてTimの心をさらいます。孤独で、人間相手にあまりいい思いをしてこなかったTimははじめて誰かと一緒にすごす未来というものを夢見る。野菜を育てながらずっと一緒にいられたら。その誰かが犬であっても…というか犬なら傷つけたり裏切ったりしてこないはず。

不器用だけれどもそれぞれに一生懸命な二人(と一匹?)。ぎくしゃくと、まるで相手の足を踏んづけずにはいられないダンスのように足運びを間違えながら、二人の関係は進んでいきます。
そこにマリファナ騒動とか、Lanceのママの干渉とか(ママ…本当に、何してくれるんじゃ…)いろんな町の問題がやってきて、笑えるエピソードも絡めながら物語は軽やかに進んでいきます。
犬のひたむきさ、そのぶれることのない愛情と忠誠心にとにかくぐっとくる。こんな町があったら絶対住みたいぞ。
気持ちが元気になれる一冊。猫も大好きですけど、犬いいよねほんと…

全体にBLに近い雰囲気もあるので、M/M初心者とか入口入りかけとかの人にもおすすめです。犬好きならとにかく読みたいシリーズ。

★犬シフター
★不器用カップル

Model Citizen
Goodreads-icon.pngLissa Kasey

modelcitizen.jpg★★ summary:
Oliver(Ollie)は世界的に活躍する人気モデル。中性的な美貌と体つきを活かして働きながら、兄の探偵事務所を時々手伝っている。
そしてついに、兄と暮らせる理想の家を買った。
だが兄は現われない。
彼はその頃、軍人時代のPTSDから自殺していたのだ。

およそ一年後、兄の残した探偵事務所を必死で切り盛りしながら、探偵の免許も取れないOllieはもう限界に近かった。
そんな時、兄の友人のKade Almeが現われる。戦場の負傷で死にかけた彼は新たな人生のスタートを求めていた。
.....


Haven Investigations シリーズ1。というか、1をメインに、全4冊まとめてのレビューになります。
兄を心の底から愛し、兄の死後も意地になって探偵事務所を続けようとするスーパーモデル様!という設定が大好き。Ollieは意地っ張りで、そして盲目的に兄のNathanを愛していて、その聖域(主には探偵事務所)に誰かが入ってくることにとても反発しています。誰の助けも受け入れようとしないけれども、もう限界であるのは誰が見ても明らか。
そこに現われたKadeはまだ戦場の傷を引きずっていて、肉体的にも深く傷ついている。そして家族と縁を切り、孤独です。
傷を分かち合うように、二人は結びついていく。

このOllieがちょいと変わったキャラで、中性的というかむしろお姫様みたいな容姿で時にワンピースとか着ますが、女として装いたいということではなく、ただ性というどこかの枠に自分をはめこむことが不自然で窮屈だと感じている。gender fluidという(まあまたジャンルに入れてますが)、男女の性の間をシームレスに行き来して男性や女性というカテゴリにとらわれない人。
その自由さを、周囲はなかなか理解できない。ゲイならゲイ、女装すれば「女の子になりたい男」、というふうにOllieをくくろうとする。
だがKadeはそのままのOllieに惹かれ、Ollieを縛ろうとせず、ただ支えてくれる。

理解者であった兄でさえOllieに対しては支配的なところがあったのに(ていうか後の巻に出てくるけどNathanのOllieへの干渉ぶりは過保護を越えて兄貴のパワハラだと思うよ…)、KadeはOllieの自由さをそのまま愛します。
そこが読んでいて可愛い。Ollieは決して扱いやすい子ではないけれども、Kadeの助けすらなかなか受け入れようとしないけれども、ついに理解者と出会ったのだな!と読んでいてほのぼのする。

しかし、その包容力のあるKadeにいろんなことが起きるシリーズでもある。誘拐されたり、毒を盛られたり、偏執狂的になったり。もう大変。お前がいなかったらOllieはもう太陽を失った子供みたいだよ。

シリーズ通して、そして先に進むほどちょっとメロドラマ調になってくるところがあって、少し「ん?」と思う箇所もありますが全体に楽しく読める四冊です。
Ollieの元彼のロックスターが、セックスは好きでもロマンスに対してはまったく興味がない人間だとか、自分の性やセックスに対していろんな係わり方をしているキャラがほかにも出てきて、それぞれの生き方を見つけているところがこのシリーズを通した特徴というか、テーマではないかと思う。
誰でもみんな独特の性を持っているのだ、ということを感じられる話。社会と折り合いをつけやすい場合はその独自性が目立たないだけで、ひとりずつがそれぞれの形で独特で、人とは違っている。
その空気感がとても貴重。

誰かにさらわれたり(二人とも)、じつはKadeの親が億万長者で保守的だとか、Ollieの家系はとある財宝を追う連中に追われているとか、兄は本当に自殺だったのか?とか、あとからいろんなドラマが出てきてにぎやかです。うろたえ、ぶつかりあい、行き詰まり、そして成長したり手を取り合って、彼らは(二人だけではなく、みんな)がんばっていくのです。
わちゃわちゃと色々な出来事が襲ってくる洋ドラのノリで読むと楽しい。

★gender fluid
★探偵事務所

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*他訳者さん*
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