With the Band
L.A. Witt
★☆ summary:
Aaron McClureは、バンドのメンバーと恋に落ち、彼らの関係と破局がバンドをも終わらせてしまう。
バンドメンバーと肉体関係を持つことほどまずいことはない。
その教訓を胸に刻み、彼はバンドと恋人の元を去って、故郷へ戻ってきた。
そこで待っていたのは新たなバンドのオーディションだった。
無事テストに合格し、兄と姉がメンバーになっているハードロックバンド「Schadenfreude」のリードボーカルとして迎えられたAaronは、このバンドが成功への道を駆け上がっていくことをほとんど確信していた。それだけの力のあるバンドだ。
その一方で、AaronはメンバーのBastianに強く惹かれていく。ほとんど息苦しいほどに。
バンドメンバーとの関係は、バンドに悪影響をもたらす。バンドのことを考えたら、Bastianとの距離は保っておかなければならない。
だが、もし…
.....
バンドもの。
ロックバンドの仲間がみんな仲が良く、かなりキツい冗談を飛ばしたりお互いを楽しく罵ったりして、「バンド」感がよく出てます。
ステージの上での緊張感もよく伝わってくる。
AaronとBastianとの間にある磁力も鮮やかで、一気に坂をころがりおちるように関係を深めていくスピード感が充分に味わえる1冊です。
特にキスシーンがなかなかに秀逸。とにかく相手を離したくない、離せない、バンドメンバーにばれないように早くみんなのところに戻らなければならないのに、どうしようもなく「one more kiss」をくり返してしまう様子がかわいい。
AaronもBastianも、互いの関係だけでなく、自分がゲイだということも兄弟や家族に秘密にしています。バンドに対して自分たちの関係を明かすということは、ゲイであるとカミングアウトしなければならないことも意味する。
バンドは少しずつ成功への道をのぼりつつある。そんな時に水を差すようなことを言いたくはない。でもどこかからばれる前に言わなければならない、それはわかっている。複雑に絡みあうプレッシャーの中で、「いつかは言わなければ」と思いながら、「いつか」を先のばしにしてしまう様子はリアルだと思う。
ただ、後半の展開がちょっと解せないまま、消化不良に話がまとめあげられた感じで、終わり方が唐突です。うーん。複雑な感情を書くのはうまい作家なので、その技が見られなかったのは残念。
色々と納得できないところが残ってしまって、ちょっと宙ぶらりんな感じですね。勿体ないなあ。2人だけの問題ではなく「周囲の」問題でもあるんだけど、そこがそのまま棚上げされてしまっているのが消化不良。
ロックバンドの疾走感とか、それと同じペースで恋に落ちていく2人の様子を読むのが楽しい1冊。エロシーン多し。切羽つまったギリギリのところで相手に手をのばし、しがみつく、そんな刹那の濃厚さがいいです。
BastianがAaronにベースを教えるシーンもエロティックで印象深い。
バンドもの好きな人におすすめ。秘密の関係に萌える人にも。
★エロ多め
★バンドもの
Finding Home
Cameron Dane
★☆ summary:
Quinn Securityシリーズ
Adam Reyesは人の荷物やサイフをかすめとることで、どうにかその日を食いつないでいた。
だがある日、シカゴの空港で彼の幸運は尽きる。セキュリティの専門家、Rhone Quinnに狙いを付けたのがあやまちだったのだ。
いやもしかしたらそれは、これまでの人生の中で、Adamがつかんだもっとも大きな幸運だったのかもしれない。
Rhone Quinnは彼の携帯電話を狙ったすばしこい掏摸のガキをつかまえて、その素早さに内心舌を巻いていた。
理性に従えば、この少年を警察に突き出すべきだっただろう。だがRhoneは直感を選んで、Adamに人生をやり直すチャンスを与えることにする。
仕事と、住む場所も。
何年かをともにすごすうちに、Adamの存在はRhoneにとってかけがえのない仕事の片腕となっていた。そしてプライベートにおいても、AdamはRhoneの心の支えであり、常によい友であった。
だがAdamにはRhoneには言えない秘密があった。
彼はこの年上の男、自分の人生を救ってくれた男に長い間恋をしてきたのだ。ストレートであるRhoneが決して返してはくれない恋を。
.....
掏摸の少年と、彼をとっつかまえて別の人生を与えた男。
男性版シンデレラと言うか、足長おじさんという感じです。
およそ10年に渡る2人のエピソードが書かれていて、彼らが濃厚な人生の一瞬を積み重ねてきたことがわかるので、AdamがRhoneにめろめろなのが痛いほどにつたわってくる。
彼らはルームメイト、というかAdamがRhoneの部屋に居候する形で彼らの暮らしが始まるのですが、今となってはその状態がどちらにとっても心地よく、誰よりも距離が近い2人になっていきます。でもRhoneはストレートなので、Adamのことをそういう目では見てくれないけれども。
保護者で同居人とか、ネタや展開は大好きな一作です。
しかし、個人的にこの話には全体に難があってこれまでレビューを書かずに放置してきました。でもシリーズ続編が出たので、今回こっちもレビューしとこうかなーと。
何が難かと言うと、話は好きなんだけど、正直ちょっとエロシーンがな。まあ色々あるんだけど、女性がらみになったり、「いやそれは微妙」と一歩引きたくなるようなシチュがあったりするのですよ。女性がらみ(ややアブノーマル)がOKな人なら濃厚でいいと思う。濃い濃いじつに濃い。
んでもって、続編として2人の後日談「Saying I Do」(エロだく楽しめ、なかなかにおすすめ)と、この話にも出てくるCaninとKaseyの男女SMもの「The Ultimate Kink」(男女もの好きな人に)なんかもあるので、興味があったらそのへんも。書店のページでシリーズ全体の確認ができます。
★保護者
★ルームメイト
I Heard Him Exclaim
Z.A. Maxfield
★☆ summary:
Chandler Traceyは、両親の家に向かって車を運転しながら、クリスマス気分などみじんも感じていなかった。弟夫婦が交通事故に巻きこまれて死に、彼の肩には残された5歳の姪に対する責任がのしかかっていたのだ。
子供から目を離さないようにしながら、Chandlerは必死に自分の務めを果たそうとするが、その責任は彼を押しつぶしかかっていた。
Steve Adamsは、いつも家族ぐるみで派手に飾り付けるクリスマスを離れ、気晴らしと楽しみを求めてラスベガスへ向けて車を走らせていた。
今年は彼はクリスマスを祝う気持ちにはなれなかった。
彼らの運命は路上で絡み合い、SteveはChandlerと姪を自分たちの家族ぐるみのクリスマスに招待する。
姪っ子は何故だか、Steveのことをサンタと信じて疑わない。痩せたサンタであっても、彼女にとってSteveは「サンタクロースの目をしている」のだった。
そしてChandlerにとっても、Steveはまるで奇跡をおこすサンタのような存在だった。おだやかで、ごく自然に人の求めに応じ、人を助ける。
.....
4人の作家によるクリスマスアンソロジーの一編。
「His for the Holidays」でまとめ買いできます(ちょっとお得)
この話は、子連れでくたくたに疲れた男と、本能的に彼を保護してしまう年上の男のクリスマスストーリー。
2人のロマンスである以上に、これは5歳の姪っ子の物語でもある気がします。両親が死んだ事故の時に車に乗り合わせていた彼女は、すべてを理解しているわけではないけれども、どこかで苦しんでいる。
Steveの家族が飾り付けるクリスマス!ってのがまたなかなかすごくて、家族が住んでいる家が集まる一帯が、まるでクリスマスの夢物語のようです。
子供から一瞬も目が離せずにガチガチに緊張していたChandlerは、やっとSteveの家でその責任感を手放すことができる。でもSteveによりかかってしまう自分に対しても後ろめたさを覚えていて、彼は結局、色々な罪悪感と責任感でがんじがらめになっています。
Steveはそれを助けてあげたいけれども、深く踏み込んでいいものかどうかためらっている。
大人同士が、惹かれあいながらもたじろぎ、立ちすくむ、そんな中でクリスマスを一番楽しんでいる様子の姪が可愛い。
Z.A. Maxfieldはわりとよく子連れの話を書くんだけれども、登場人物の子供に対する保護責任感がものすごく強い。過保護というか、一種の強迫観念と言っていいくらい、子供から目を離すことができなかったり、その責任感を真正面から受けとめようともがいていたり。
読んでいるとどうも、男性じゃなく「子連れのママ」を代わりに据えても違和感がないんじゃないかという瞬間があるのが、個人的には少しマイナスポイント。
子供の存在ががっつり話に絡んでくるので(責任感とか、子供を抱えた将来への不安とか)「子連れの男」に萌える人だとまた別のツボだと思うのです。
クリスマス、家族、子連れと、アットホーム感満載なので、クリスマス雰囲気に浸りたい時におすすめ。
★クリスマス
★サンタクロース
Scenic Route
Chrissy Munder
★☆ summary:
Ed Baldwinはシャイで、引っ込み思案で、人に自分の意見を言うことがほとんどできない男だった。
その彼が、ついに両親に恋人を紹介するために、恋人と二人で車の旅をしている。
ついナーバスになって恋人に当たってしまう彼を、Joe Suttonは時に意地悪に、時に優しく受けとめていた。
Joeには、Edが緊張のはけ口を求めているだけだとわかっていたのだ。
だが、ついにいささかうんざりしたJoeは、Edの反対を押し切ってさびれたモーテルの前に車を止める。そこで一晩頭を冷やそうと。
そのモーテル全体が、まるで営業していないかのようであった。
だがカウンターに現れた男からキーをもらって、二人は部屋に入る。
その夜、部屋に奇妙な電話がかかってきて…
.....
短いゴーストストーリー。
「Midsummer's Nightmare」という30の短編がおさめられたアンソロの一編ですが、この話だけでも買えます。正直この表紙はどうよと思いますが、Chrissy Munder 好きなので買ってみた。
ほんとに短いし、わりとありがちなオチだとも思うんですが、EdとJoeのカプの感じが好きです。
ナーバスで、ついつい八つ当たりしがちなEdと、彼にきついことを言ったりうんざりしながらも愛しているJoe。
短い話の中で、シャイなEdを相手にここまでの関係を作るのにJoeが結構苦労したこと、Edが両親に対して賛成されないのではないか(もしかしたらゲイであることを)と不安に思っていること、でも最後には何があろうと「その先」に二人で進むつもりであること、などが浮き上がってきます。
決して感情的に強調された話ではないんですが、この作家は抑えた表現でさりげない人の心の機微を書くのがうまいと思うのです。地味ではあるけど、その地味さが好きさ。
読書の目先を変えたい人や、ちょっとしたゴーストストーリーを読みたい人におすすめ。
主人公が決して「できた男」ではない感じがかわいい。
表紙はアンソロ全体の表紙なので、こういうシーンはないです。いいのか悪いのか…
★里帰り
Geography of Murder
P.A. Brown
★☆ summary:
サンタバーバラの殺人課刑事Alex Spiderは、誰にも弱みを見せない冷徹で有能な刑事であった。
彼は、殺人の容疑者であるJason Zacharyをとらえる。
22歳の若者Jasonは、起きたら死体と一緒のベッドで眠っている自分を発見して、仰天したのだった。
家を逃げるように出て、町の底辺で生きのびながら時おりドラッグに逃げるような暮らしをしていた彼だが、人が死ぬようなトラブルに巻きこまれたことはない。
Alexはやがて、Jasonが無実であることをつかみ、彼を留置場から出す。
だがJasonはそのままAlexの人生の中にとどまった。
お互いをつなぐ強い磁力を、どちらも無視できなかった。
Alexは「マスター」としてJasonの意志や欲望、生活を支配し、Jasonは主導権をすべてAlexに手渡す。
彼らの関係はBDSMのセックスパートナーのようにしてはじまり、やがて、AlexもJasonのどちらにも経験のない深い感情的なつながりに変化していく。
それは、AlexにもJasonにも、どちらにも心の準備ができていない関係でもあった。
.....
支配的なDomと自分の感情を持て余している若くて未熟なSubの出会い、そして関係を構築するまでの話。年の差8歳。
全体に硬派な筆致で書かれていて、殺人の捜査の部分もきっちりと描写されています。
…表紙はちょっとアレですが。
Alexは自分の生活を完全にコントロールしている、コントロールフリークです。彼は強く、支配的で、その場の主導権を握らないと気がすまない。警察の仕事は彼に対して強いプレッシャーでもあるけれども、そういうプレッシャーの中でこそ生きていく実感を得られるタイプの男です。
Jasonは若く、性格の中に強い芯をもっているけれども、弱い面もある。自分自身に対してもはや価値を持っていない、どこか投げやりなところがあるし、辛いことや嫌なことがあるとすぐドラッグに走ります。
だけれども、AlexはそんなJasonの中に、自分にはないやわらかさを見て惹かれていく。Jasonの弱さを、自分の強さで守ろうとする。
そしてJasonを完全にコントロールしないと気がすまない、Alexの支配欲は時に、自分で思うよりも強く暴走してしまうのです。
彼らは惹かれつつも互いを信頼できずに、一度は築いたものを壊してしまう。信頼のない支配関係はどちらにとっても危険なものです。
DomとSubの間の緊張感を、割と珍しい感じの視点から描いている話。両方の感情のエッジがよく描き出されています。
AlexはいかにもDomらしいDomで、人を支配するのは彼の「趣味」ではなく根っからの「生き方」なのだということがよくわかります。貴重なDomだ。
しかし、エロシーンの描写がとても少ない。個人的には、BDSMの話というのは(特にカップルが構築されていく過程では)プレイの中で極限まで剥き出しになった気持ちの交錯とか、その時の支配や服従の感情がとても重要だと思うので、そこが書かれていないとあちこち空白な感じがしてしまう。薄いと言うか。
あんまりエロエロしたくないのであれば、そのシーンそのものを書かなくとも、そこでどんな感情的な交錯があったか、2人の関係にどんな変化があったかなど、フォローを入れてほしかったところです。
うーん、勿体ない。
若い迷えるJasonと、彼にめろめろになりながらもそんな弱みを見せることなんてできないAlexのカプはとても味わい深いので、年の差BDSMカプが好きならおすすめです。
30歳と22歳の8歳差で、しかも刑事と容疑者という、まるで異なる2人の対照が鮮やか。
続編も出てますが、Jasonが成長していて、1から読むとなかなか味わい深いです。
★BDSM
★刑事×容疑者
The Distance Between Us
L.A. Witt
★☆ summary:
Rhett SolomonはEthan Malloryと10年、ともにすごしてきた。彼らは人生のパートナーとして、2人でRhettと前妻の娘を育て、家を買い、幸せに暮らしてきた。
だがそれももう過去のことだ。
別れる決心をした彼らは、だがまだ同じ家に住んでいた。
不動産市場の冷え込みのせいで、すぐに売ることができないのだ。かと言ってどちらにも別に家を借りるほどの余裕はない。
彼らは悩んだ末、とりあえず家が売れるまでの間、家をシェアするルームメイトを募集することにする。
かつて愛し合った、だが今は顔を合わせれば嫌みばかりを言いあう相手と、2人だけで暮らすのは息が詰まる。
ルームメイトの存在は、どちらにとっても一息つくきっかけになるはずだった。
Kieran Frost。新しいルームメイトは若くて美しい男で、一目でRhettを魅了する。
だがEthanもまたKieranに惹かれ、彼らとKieranの関係は、感情と欲望の中でもつれはじめる。
.....
シアトルでひとつ屋根の下に住む男3人の話。
2人は別れたカップル、1人は年上のイケてる男たちと簡単に寝てしまう、若くてきれいな男。
英語で3Pを読むと「he」ばっかりで誰が何だかわかりにくいですが、結構この話はそのへんはうまくこなしてくれています。
最近は3Pとか複数ものって一部で流行っているようで、たまに警告で「m/m/m/f/f」とか見ることもあります。どーなんだ。どんなでかいベッドだ。一部の書評サイトでは、「エロだくにするためにcockの数を増やしているだけだとしか思えないものもある」とか喝破されてて、笑ってしまいました。
その点、この話は「3人でなければならない理由」があります。エロも濃いめだけどね!
彼らはとてもいびつな状態にあります。主人公のRhettはかつて愛したEthanとの関係を終わらせようとしていて、二人で一緒にいるだけで息が詰まる。
そこに現れた、新鮮で美しい若者Kieran。
RhettはKieranに手を出すわけですが、EthanもまたKieranに早速手を付けている。お互い、それを知っています。
ただの遊びだと思いながら、彼らは家の中で、それなりに大人の顔をしてKieranをシェアしていくのです。
それだけでも充分に家の中は混沌としていますが、割りとKieranがさっぱりしているので、あまり修羅場の空気はありません。この若者は、セックスを娯楽だと割り切って、14歳も年上の男たちとのシェアを楽しんでいる。
でもすでに、種は蒔かれています。RhettはKieranを抱きながら、やはり同じようにKieranを抱いているであろうEthanのことを考えてしまう。そのベッドにはいない、かつて愛した男。
Kieranという新しい男をはさんで、RhettとEthanは自分たちにも解き明かせない、重くてもつれた感情を引き合っていきます。嫌いで別れる筈なのに、一人の男をシェアすることによって彼らは揺さぶられる。
その展開が、この作者独特の冷徹で精緻な筆致で書き明かされていきます。
非常にもつれた位置からはじまっていく関係で、ひねった話で、技ありという感じですね。
私は個人的に、あまりキャラに愛着を持てなかったので、話は楽しんだ一方、あまり感情的には入りこめなかった気もします。特に語りの主人公のRhettが、嫌いと言うわけではないけれども、どうもピンと来なかった。好みの問題だと思いますが、最初は嫌なヤツに見えたEthanの方が人間くさくて好きだなあ。
でも、話はうまくひねられているので、読書として楽しいです。
普通の展開のスラに飽きちゃったとか、ちょっと天の邪鬼な展開が好きな人におすすめ。いい男は2人より3人いた方がうれしい、という人にも。
★3P
★別れたカップル
Dracul's Blood
T.A. Chase
Carol Lynne
★☆ summary:
Dracul's Revengeシリーズ1
はじまりは大富豪の男が、家中の使用人──それも彼に長く仕えた使用人たち──を惨殺して血を飲んだ事件からだった。
ニューヨークの警察官Bobby Marksは、その凄惨な事件の捜査に取りかかる。
富豪の屋敷には古いワインボトルがあり、その調査のために彼は若い教授Nikolay Radinの力を借りることになった。
Nikはそのワインボトル、いや正確にはワインのキャスクにある古い刻印に注目して、つてをたよって深い調査を始める。
それはルーマニアの貴族ヴラド・ツェペシュの時代まで遡るワインであった。ヴラド・ツェペシュ。「ドラキュラ」のモデルとなった男。
そしてこのワインを作らせたのがヴラドの弟、Radu Draculであることまでもをつきとめた。
忌まわしい力を持つこのワインが人を狂わせるのだろうか?
そして、数千年の時を経てまだ隠然とした権力をふるいつづけるKnights of Paiderastiaの手が、事件を調べる彼らにまでのびつつあった。
.....
T.A. ChaseとCarol Lynneという、大御所作家ふたりの共作で、Dracul's Revengeシリーズ第一作。
全体にまだシリーズの入り口と言う感じで、ドラキュラ(つってもモデルになった人間の方です)の弟が復讐のために作ったワインの存在と、その力を説明するような巻になっています。
だからか、それとも共作がはじめてだからなのか、この2人の話にしてはちょっと全体に焦点が薄い感じかもしれない。気は優しいが力持ちの刑事Bobbyと、上がり症でオタク気質でシャイなNik、という組み合わせは王道なんですが。
2人の間にある引力がちょっと弱い感じで、カプ的な意味でのハラハラ感が薄いのが残念です。
でもいいところになるたびにBobbyに電話がかかってきて捜査に出かけないといけなくって、なかなか本番にまで至れないとか、Bobbyの好きな競馬につきあうものの賭事に興味がなく、それなのに馬の色だけで馬券を買って勝ってしまうNikとか、あちらこちらはすごくかわいい。
どうしてもつい庇護欲が強く出てしまう心配性のBobbyとか。事件が凄惨なだけに、2人でいる様子はほのぼのします。
ワインについての設定はなかなか凝っていて、ヴラド公の生い立ちや父親を殺した成り上がり方なども練り込まれています。
そのワインの力を手にしている「Knights of Paiderastia」の「Paiderastia」というのはギリシアの少年愛のことをさしていて、今に至る秘密結社もその伝統(と言っていいんだか)を受け継いでいます。清らかな少年を愛でることで至上の力を手に入れる、的な。
濃密な盛り上がりとかはありませんが、ほのぼのカプと、神秘的なお膳立てのストーリーで楽しく読めます。
シリーズ導入部としてはなかなかの出来かと。現在、続編の「Anarchy in Blood」が出ていて、こちらは大統領も絡むお話だったりします。
★ドラキュラ伝説
■L.A.Witt ■長さ:5~10万語 ■キャラ:ミュージシャン ■キーワード:バンド ■キーワード:カミングアウト