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M/M小説 (原書)レビューブログ

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A Casual Weekend Thing
Goodreads-icon.pngA.J. Thomas

ACasual.jpg★★ summary:
Doug Heavy Runnerはつねに他人と線を引いてきた。
ネイティブアメリカンの居留地で育ち、だが祖父たちは牧場の成功により地元で妬まれてきた。一方、居留地の外に行けば地元では人種に対して白い目を向けられる。
遠いマイアミで警官となり、その時だけはゲイということもオープンにして暮らしていたが、犯罪者につけこまれて酷い目にあってから、地元に戻って保安官としてひっそりと生きてきた。

そんなある時、男の死体を山から引きあげる。
自殺のようだったが、その男の両腕には「Happy Birthday」と刻まれていた。
Dougは唯一の肉親である男の弟に連絡を入れる。

Christopher Hayesは肩を撃たれて命をとりとめたが、人生の転換期を感じていた。右手がうまく動かない。拳銃を撃てなければ刑事の仕事は続けていけない。
ずっと刑事として悪人を裁き、走りつづけてきた。
兄から逃げるために。
その兄が死んだという連絡を受け、彼は一人でその町へ向かう。
.....



走りつづけてきた男の話。

Christopherは走るのが好きな男です。何が何でも走る。肩を撃たれたあとも、走りすぎて傷がひらいてしまうくらいに走る。マラソンどころか、百キロ以上のいわゆるアドベンチャーレース(荒野を走ったり砂漠を走ったりするやつ)も走る。
彼が走るのは、自分の中にかかえている何かを押しとどめておくため、そして過去から迫ってくる何かを振り払うためなのです。
なんだか落ちつきのない男なのですが、そこのところが見えてくるとおもしろくなってくる。

彼は、もう二十年くらい会っていない兄が死んだと連絡を受けて、小さな町へ向かう。山の上にある町に行く前に、泊まったふもとで色っぽい男を引っかけて一夜のお楽しみと洒落込むわけですが、その相手が山の上の保安官Doug。
お約束といえばお約束だけど、ちょいと都合よすぎでもある。わりとちょいちょいそういうところのあるお話ですが、キャラの作りにちゃんと厚みがあり、展開にスピード感があるのでその辺はさらっと流して読めると思う。

この話で一番おもしろかったのは、走ることにかけてのChristopherの執着と、そしてその兄のキャラクター。
兄はもう死んでいますが、Christopherは検死報告書を見て彼の死亡日が自分の誕生日であると知る。そう、この兄ちゃんは長年会っていない弟のために腕に「Happy Birthday」と刻んで自殺するような男なのです。
それを読んだChristopherもまばたきひとつしない。ただ走る。倒れそうになるまで走る。
彼はずっとそうやってきた。兄に傷つけられた子供の時から。兄が「逃げろ」とChristopherを追い出した時から。
兄は養父から虐待を受けていて、その虐待をそのままChristopherへと転化していた。傷つけられたものが別の誰かを傷つける負の連鎖。「逃げろ」と言ったのはChristopherを守るためだったのだろうか? その環境から、そして自分から。Christopherを逃がし、刑務所に入った兄はその連鎖から逃げられずに闇に呑み込まれたのだろうか。
語られることのない、想像するしかない闇ですが、その闇は話の中心にずっと居座っていてChristopherを引き込みそうになる。

でも彼にはDougがいます。
週末に遊びで寝てみただけの男。タイトルどおり「A Casual Weekend Thing」でしかない筈の相手。
お互い、この関係はカジュアルだし一時的なものでしかないし、と自分に言い聞かせながら二人はそれぞれの弱みを相手に見せるようになっていく。
それは深みじゃないのか?って誰が見てもハマりつつあるんだけど、二人だけは「いや、ゆきずりの関係だから」とあらかじめ守りに入っている。傷ついたことのある男ってのはこれだからたちが悪いし、楽しい。

兄の死が、この町でひっそりと起きていた犯罪をあぶり出していきます。町の子供たちが、保護と養子のシステムの中で消えている。誰の目も届かないところで、誰かが子供たちを食いものにしている。
そこにはやはり兄が抜けきれなかった「負の連鎖」の悲劇があって、それを断ち切るため、そしてChristopherを呼ぶためには死ぬしかなかった兄の決断の愚かさと悲しさが印象に残った一冊でした。
兄ちゃんのことはもう少し知りたかったな!ほんとどうしようもない奴だが!

展開をもうちょい整理してあると(あともうちょい短いと)ぐっと質があがったと思うのですが、ところどころにキラリと光るキャラ描写があって飽きさせない一冊です。
それぞれのバックグラウンドをかかえて、みんな何かから逃げているようでもある。その「われ鍋にとじ蓋」的な組み合わせぶりが味わい深い。
あとエロシーンがしっかりエロい作家さんなので(大事)、そこもしっかり楽しめます。
ちらっと出てくる本当にどうしようもねえ相棒が続編の主人公になっているので、これから読むぞっと。

★ランナー
★トラウマ

Running Blind
Goodreads-icon.pngKim Fielding, Venona Keyes

RunningBlind.jpg★★☆ summary:
人気アニメの声優Kyle Greenは熱烈なファンに支えられ、プライベートでは10年つれそった恋人と満たされた毎日を送っていた。
だが人生は一瞬で変わる。
脳梗塞で視力を失ったKyleは、ついに仕事のチャンスを手に入れた恋人と別れる。
もはや二人の間にあるのは「ロマンス」ではなくなっていたと感じていたし、恋人の新たなキャリアの邪魔をしたくはなかった。

アニメの仕事はもうできないだろう。絵と自分の声を合わせることができないのだ。
それでも小さな望みを得て、Kyleは走り始める。

そんな時、道でぶつかった男はSeth Caplan。
運命の出会いというほどドラマティックではなかった。少なくともその瞬間は。
.....

こういう話だと、パターンとしては「ハンディキャップを負った主人公を恋人が手のひら返しで捨てていく」ような導入がありますが、今回は違います。二人は子供のころからの友達で、恋人として仲良くも暮らしていたし、盲目となったことで心が醒めたわけでもない。
むしろ、彼らの間にあるものが「恋」ではなかったことが、その出来事によってはっきり見えてきたという感じ。恋人ではなく、兄弟のような存在になっていた。本当はずっとそうだったのかもしれない。

たとえそうであっても、自分に未来がなくなった(と思っている)状態で、恋人の手を離せるKyleを見ると、彼がフェアで芯の強い人だということがよくわかる。
視力を失い、恋人を別の世界に送り出し、Kyleは自分の新しい道を見つけようとするが勿論それは容易ではない。しかしそこの展開が地に足がついた筆致で描き出されているので、重くとも読んでいて苦しくはない。

共著者のひとりKim Fieldingは、そういうさじ加減がいつもうまいです。世界とうまく協調できずに(精神的あるいは肉体的に)自分の居場所をはっきりと定められないキャラの痛みや淋しさをしっかりと書きながら、声高ではない筆致がしみじみと味わい深い。

病院から家に戻ったKyleは、時々なにかが「見える」のに気付きます。
検査の結果、脳にダメージはあるが目は正常なので、その視覚情報を脳の別のところで処理するように適応してきているらしいということがわかる。要するに、動いていれば物が見える、ことがあるらしい。
そこでロッキングチェアを買って体を揺らし、新たな視野を得ようとして、さらに人生の新たな一歩として、Kyleは走り出す。
そしてそこで、Seth Caplanという男にぶつかるのです。

道でぶつかって恋が始まるなんてじつにクラシカル!(すぐに始まるわけじゃないですが)
ともあれKyleが持ち前の明るさとチャレンジスピリットを少しずつ取り戻していくさまは、読んでいて彼を励ましたい気持ちにさせられる。
ポジティブというか、繊細ながらに丈夫な人だ。ちょっと後ろ向きだったりするところにも共感が持てる。

Sethは母親の病気を看るために帰ってきて、自分も新しいテクノロジー関係の仕事を始めようとしている。
いい人で、ずっと遊び人だったけれどもそれにも疲れていて、何か人生でしっかりした基盤がほしくなっている頃です。そんな時にKyleと出会い、Kyleのランニングパートナーとなります。
二人の間には最初からおだやかなユーモアが流れており、SethがKyleとのディナーに「馬鹿みたいだけど、何を着ていこうか鏡の前ですごく悩んだ」と打ち明けて笑うところなんかも可愛いです。

人生にはつらいこともあるし、谷も坂もある。
そこで落ち込んでもいい、間違った判断をしてもいい、でもいつか走り出せば新しい何かに出会えるかもしれないという、地味に前向きな気持ちになれる話。目をみはるようなドラマがあるわけではないけれども、ゆっくり読みたい一冊。

アニメが仕事のひとつなので、日本の漫画作家さんとかもちらっと出てきて「sensei」と呼ばれているのがちょっとおもしろい。kake udonとか。
お好み焼きとか味噌汁とかちょいちょい日本の文化も出てきて、やはりアニメ文化というのは日本がイメージの中心にあるのだなとそんなところもおもしろく読みました。

「伴走者」っていう言葉は、この作品の中では実際の役割であると同時に、とても比喩的な意味を持っているのだと思う。

★アニメ声優
★伴走者

Murder and Mayhem
Goodreads-icon.pngRhys Ford

MurderAndMayhem.jpg★★☆ summary:
もと美術品泥棒のRook Stevensは、物なら山ほど盗んだが、人の命を奪ったことはない。そう告発されたことも。
だが今、自分の店で死体を見つけ、そして警察の掃射から命からがら逃げ出したRookは新たな危機に直面していた。
LA市警のハンサムな刑事、Dante Montoya。
まさに仇敵。

血まみれで逃げようとする男をとらえたDanteはショックを受けていた。なんと相手はRook、かつてDanteが刑務所に叩きこもうと全力を尽くした相手だ。
嘲笑うかのように法の手を逃れつづけたその男が、今、殺人の容疑者として追われている。

ついにこの男を塀の中に放りこめるのか?
だが果たして、この良心のない、恥知らずの犯罪者は…有罪なのだろうか?
.....



Murder and Mayhemシリーズ1巻。
かつて盗みを働いて食っていた男と、彼を刑務所に放りこむべく全力を尽くして負けた刑事。
その二人の血みどろの(主に血まみれなのはRook)再会から、彼らの関係が転がり出します。

刑事のDanteと元犯罪者のRookにとっては五年ぶりの再会。
DanteにとってRookは憎んでも憎みきれない相手です。必死の捜査が報われなかっただけでなく、Danteの相棒は法でRookを裁けないことに絶望してついに偽の証拠をでっち上げることまでした。
結果、Danteは自分の面子を失い、彼を刑事として一人前にしてくれた相棒も失った。

いいですよね、猫と鼠の(刑事と犯罪者の)話って!!
しかもかつての因縁あり。Danteは心の底からRookを憎む一方、RookはDanteに対するひそかな気持ちも持っていたりとか。どれだけこじれるのかと読みながらわくわくします。期待にたがわず、まずRookにタックルして引っ立てていくDanteから話は始まる。

Rook自身は犯罪で人生を作ってきたことを恥じてはいない。自分が何歳なのかも正確に知らず、父親もわからない彼は、ついに自力で店を持つところまで這い上がってきた。
彼にとってそれは当然のサバイバルなのです。
Danteに惹かれてはいるけれども、いやだからこそか、Rookは本能的にDanteを挑発せずにはいられない。「警察っていうのは無能なものだからね。それともそれは俺を追っていた刑事さんたちだけかな?」みたいに。
DanteはそんなRookについ過剰に反応しますが、同時に自分に偏見があるのではないかとも悩む。過去の軋轢から、Rookのことを公正な目で見られていないのではないかと。彼を有罪にしたいあまり、正しく事件を判断できていないのではないかと。
真面目で、正義を信じる男なのです。

そして、誰にも言えない。
Rookを檻の中に放りこみたいのと同じくらい、ベッドの中へ放りこみたいと強烈に願っているのだとは。

Danteはヒスパニックで、同居している叔父がドラァグクイーンでいい人なんですね。頭に血が上りやすい直情型のDanteをある意味で補っている感じ。
昔、ゲイだとカミングアウトして親から家を追い出されたDanteに、叔父さんが手を差し伸べてくれた。
ここには温かい家族の絆があって、Danteが頑固ながらもまっすぐでいいやつなんだなというのがじつによくわかる。

事件は大きなダイヤモンドを中心にめまぐるしく動いていき、Rookの過去の仲間にずるずると芋づる式につながっていく。
自分がここまで作り上げてきた人生を、店を守ろうとするRookに、愛憎入り混じる気持ちを抱きながらもDanteも巻きこまれていきます。

ちょっと展開が騒がしすぎるかなという感じもあるんですが(ここは読む時の気分との相性も大きいかな)、設定が大好きだしキャラも可愛い。
Rookだって彼なりにまっすぐな心を持っていて、手の届く範囲では優しい子なんですよ。ただ生きのびるために、犯罪のラインや世の中の常識というものにあまり重きを置いてこなかっただけで。でも自分は犯罪の世界からきちんと足を洗ったし、そうしたい仲間には道を開いてあげたりもしている。
今回、その中の誰かが彼を裏切っているかもしれないのですが。
そんなRookに対してDanteが抱くようになる保護欲と、法を守ろうとする精神がぐるぐると戦う葛藤もみどころです。

シリアスではあるけれどもにぎやかで軽いテンションのシリーズ。楽しい読書がしたい時におすすめ。

★犯罪者×刑事
★逃亡劇

How to Howl at the Moon
Goodreads-icon.pngEli Easton

howtohowlatthemoon.jpg★★★ summary:
Mad Creek。カリフォルニア州の、ひっそりと引きこもった山の中の小さな町。
その町には秘密があった。
そこは犬たちが暮らす町だったのだ。人の姿になれる犬が。

そうとも知らず、一文無しのTim Westonは人生を立て直すために町の小さなキャビンにやってくる。
新種のバラを育てられなければ、売れるだけの野菜を育てられなければ、半年後にはホームレスになるしかない。
金もなく友達もなく、信じられる相手もいない。Timは必死だった。

Timの態度を不審に思った町の保安官Lance Beaufortは、こっそりマリファナを育てようとしているのではないかとこの若者に目を光らせる。Lanceの家系は代々のボーダーコリーで、群れを守る義務感は強烈だ。
その義務感が暴走して、ある夜彼は思いきった行動に出る。犬の姿でTimに近づいたのだ。何をたくらんでいるのか探り出してやろうと。これはのぞきではない、潜入捜査だと自分に言い聞かせながら…
.....



Howl at the moonシリーズの一冊目。
Eli Eastonさんはもともとユーモアのある書き口で注目されてましたが、このシリーズで人気作家としての地位を固めた感がありますね。決してユーモアがいきすぎず、キャラが可愛くてそれぞれに大真面目で、読んでいて気持ちよく安心して手に取れる作家さんです。

シフターものはM/Mジャンルでとても大きな勢力で、メインは狼ながらも昨今はそこにオメガバース設定が入ってきたり、さらに狼以外の動物シフターネタももはや定番となった感があります。
その中で、このシリーズは犬のシフターがテーマ。それも飼い犬だった犬たち。ここは珍しい。
飼い主と強い絆を結んだ犬のほんの一部は、飼い主が死ぬと強い悲嘆の中でどうしてか人間に変身する力を得る。その能力を得た犬たちの子孫は、生まれながらにして変身の力を持っている(Lanceの家系は代々そう)。
なので、自分の世代で人に変身できるようになった犬たちは、必ず愛する人間との別れを経験している。そこには愛と悲しみと二度と取り戻せない郷愁があふれていて、犬好きならもうそこだけでぐっとくる。自分の体の仕組みすら変えてしまうほどの愛と献身。犬ってそうだよね!とぐっと拳を握りたくなるような設定です。

人間の姿になった犬たちですが、犬としての本能や種類の違いが色濃く残っていて、ボーダーコリーの保安官Lanceの群れに対する忠誠心(ボーダーコリーは牧羊犬ですんで群れをまとめたり守ったりする性格)、なつきやすく忍耐づよいブルドッグのGus、そして警戒心が強く自分へのハードルが高いジャーマンシェパードのRomanなど、それぞれの犬の性格をよく描き出しているところもクスッとさせられます。
ていうかとにかく本当に可愛いな!

物語の中心は、町の秘密を知らないTimと、こいつはあやしいとTimに目をつけた保安官のLance。
生真面目きわまりないLanceは、上がり症ですぐドギマギするTimの態度に不信感を抱いてあの手この手で近づこうとするわけですが、Timも人付き合いは不器用だがLanceも空気読めないことにかけては引けを取らない。
全然駄目だ、この二人。
でもそこに謎の犬「Chance」が現われてTimの心をさらいます。孤独で、人間相手にあまりいい思いをしてこなかったTimははじめて誰かと一緒にすごす未来というものを夢見る。野菜を育てながらずっと一緒にいられたら。その誰かが犬であっても…というか犬なら傷つけたり裏切ったりしてこないはず。

不器用だけれどもそれぞれに一生懸命な二人(と一匹?)。ぎくしゃくと、まるで相手の足を踏んづけずにはいられないダンスのように足運びを間違えながら、二人の関係は進んでいきます。
そこにマリファナ騒動とか、Lanceのママの干渉とか(ママ…本当に、何してくれるんじゃ…)いろんな町の問題がやってきて、笑えるエピソードも絡めながら物語は軽やかに進んでいきます。
犬のひたむきさ、そのぶれることのない愛情と忠誠心にとにかくぐっとくる。こんな町があったら絶対住みたいぞ。
気持ちが元気になれる一冊。猫も大好きですけど、犬いいよねほんと…

全体にBLに近い雰囲気もあるので、M/M初心者とか入口入りかけとかの人にもおすすめです。犬好きならとにかく読みたいシリーズ。

★犬シフター
★不器用カップル

Model Citizen
Goodreads-icon.pngLissa Kasey

modelcitizen.jpg★★ summary:
Oliver(Ollie)は世界的に活躍する人気モデル。中性的な美貌と体つきを活かして働きながら、兄の探偵事務所を時々手伝っている。
そしてついに、兄と暮らせる理想の家を買った。
だが兄は現われない。
彼はその頃、軍人時代のPTSDから自殺していたのだ。

およそ一年後、兄の残した探偵事務所を必死で切り盛りしながら、探偵の免許も取れないOllieはもう限界に近かった。
そんな時、兄の友人のKade Almeが現われる。戦場の負傷で死にかけた彼は新たな人生のスタートを求めていた。
.....


Haven Investigations シリーズ1。というか、1をメインに、全4冊まとめてのレビューになります。
兄を心の底から愛し、兄の死後も意地になって探偵事務所を続けようとするスーパーモデル様!という設定が大好き。Ollieは意地っ張りで、そして盲目的に兄のNathanを愛していて、その聖域(主には探偵事務所)に誰かが入ってくることにとても反発しています。誰の助けも受け入れようとしないけれども、もう限界であるのは誰が見ても明らか。
そこに現われたKadeはまだ戦場の傷を引きずっていて、肉体的にも深く傷ついている。そして家族と縁を切り、孤独です。
傷を分かち合うように、二人は結びついていく。

このOllieがちょいと変わったキャラで、中性的というかむしろお姫様みたいな容姿で時にワンピースとか着ますが、女として装いたいということではなく、ただ性というどこかの枠に自分をはめこむことが不自然で窮屈だと感じている。gender fluidという(まあまたジャンルに入れてますが)、男女の性の間をシームレスに行き来して男性や女性というカテゴリにとらわれない人。
その自由さを、周囲はなかなか理解できない。ゲイならゲイ、女装すれば「女の子になりたい男」、というふうにOllieをくくろうとする。
だがKadeはそのままのOllieに惹かれ、Ollieを縛ろうとせず、ただ支えてくれる。

理解者であった兄でさえOllieに対しては支配的なところがあったのに(ていうか後の巻に出てくるけどNathanのOllieへの干渉ぶりは過保護を越えて兄貴のパワハラだと思うよ…)、KadeはOllieの自由さをそのまま愛します。
そこが読んでいて可愛い。Ollieは決して扱いやすい子ではないけれども、Kadeの助けすらなかなか受け入れようとしないけれども、ついに理解者と出会ったのだな!と読んでいてほのぼのする。

しかし、その包容力のあるKadeにいろんなことが起きるシリーズでもある。誘拐されたり、毒を盛られたり、偏執狂的になったり。もう大変。お前がいなかったらOllieはもう太陽を失った子供みたいだよ。

シリーズ通して、そして先に進むほどちょっとメロドラマ調になってくるところがあって、少し「ん?」と思う箇所もありますが全体に楽しく読める四冊です。
Ollieの元彼のロックスターが、セックスは好きでもロマンスに対してはまったく興味がない人間だとか、自分の性やセックスに対していろんな係わり方をしているキャラがほかにも出てきて、それぞれの生き方を見つけているところがこのシリーズを通した特徴というか、テーマではないかと思う。
誰でもみんな独特の性を持っているのだ、ということを感じられる話。社会と折り合いをつけやすい場合はその独自性が目立たないだけで、ひとりずつがそれぞれの形で独特で、人とは違っている。
その空気感がとても貴重。

誰かにさらわれたり(二人とも)、じつはKadeの親が億万長者で保守的だとか、Ollieの家系はとある財宝を追う連中に追われているとか、兄は本当に自殺だったのか?とか、あとからいろんなドラマが出てきてにぎやかです。うろたえ、ぶつかりあい、行き詰まり、そして成長したり手を取り合って、彼らは(二人だけではなく、みんな)がんばっていくのです。
わちゃわちゃと色々な出来事が襲ってくる洋ドラのノリで読むと楽しい。

★gender fluid
★探偵事務所

The Magpie Lord
Goodreads-icon.pngK.J. Charles

TheMagpieLord.jpg★★★ summary:
Lucien Vaudreyには上海から戻ってくるつもりなどなかった。
だが父と兄の死によって、新たなLord Craneとして伯爵位を継いだ彼は、やむなく永遠に足を踏み入れたくなかった地に戻ってくる。イギリスへ。
そこで謎の自殺願望にとらえられ、追いつめられた彼は超常的な力の救いを求める。

術師であるStephen Dayは、Craneの家系に憎しみを抱いていた。暴君であったCraneの父の権力によってStephenの家族は破滅させられたのだ。
だが魔術を欲のために濫用している者がいるなら放置しておくわけにはいかない。
やむなくCraneの依頼を受けた彼は、Craneが自分の想像とまるで違う男であることに驚く。家族によって上海に追放され、そこで何も持たずに生きのびてきた男は、体にカササギのタトゥを入れ、傲慢ではあったが残酷ではなく、貴族の血を持ちながらそれを恵みとは思っていない。そしてStephenにはっきりと興味を示していた。

そのCraneを誰かが殺そうとしている。とても強力な力を持つ術師が。
罠と魔術の入り組む中を、二人は生きのびられるのか。その力をあわせて…
.....



レビューしたいと思っていて、ここまでのびてしまったMagpieのシリーズ、やっとレビューだ!A Charm of Magpiesシリーズ1。
最初の版が出たのは五年くらい前になりますが(表紙も変わってる…)当時とても話題をさらったシリーズで、K.J. Charlesさんもすっかり押しも押されぬ人気作家になりました。ヒストリカルやオカルトジャンルを広げてくれた作家さんだと言ってもいいでしょう。
その原点はやはりMagpieシリーズ三部作。

Magpie、つまりカササギは、イギリスでは数え歌に使われていて(作中にも出てくる)たいへんなじみの深い鳥なんだそうです。
主人公のひとり、Lord Craneの紋章はカササギ。そして上海にいる間に、Crane自身もカササギのタトゥを(五羽!)体に入れている。このタトゥがやんちゃ。

このCrane、一冊目の最初こそ呪いにやられてへろへろしてますが、お貴族様のくせにじつに食えない、傲慢かつしたたかで鋼のような強さを持った男です。魔術がとびかう中、彼自身にはなんら魔術の素養はないいわば「無力」な人間のはずなのに、そんな弱さや恐怖はみじんも感じさせない。
それもそのはず、父に上海へ追い出され(海で死ぬかのたれ死ぬかと)、着の身着のままたどりついた上海でただ一人の下男とともに(彼がまたいい味を出している)文字通り何でもして叩き上げてきた不屈の男なのです。
ただの貴族ではない。なかなか絵に描いたようなスーパー攻め様でもある。彼は魔術を恐れない。見きわめて、自分の手にある武器や有利を使って戦うだけです。金や地位も含めて。

彼を救うために雇われたStephenは、警察とはまた違う英国のもうひとつの秩序を守る組織に属して、魔術の濫用について調査や取締りをしている。
その仕事に身を捧げるように働いている彼は、金がなく、疲れきっていて、はじめはCraneを救うことにも気がすすまない。前のLord Craneに家族を破滅させられたのだから当然ですが。
しかし正義を信じるStephenは、純然たる義務感からCraneを救うために力を尽くすし、Craneはそんな彼の頑固な誠実さに惹かれます。
そしてStephenの中には、Craneの揺るぎない力を、その傲慢さをどうしようもなく求めてしまう部分がある。Stephenにとってそれは手をのばしていい欲望ではないけれども、イギリスの法や常識など歯牙にも欠けないCraneは欲望に正直なのですよ。上海仕込みだからね。そうじゃなくてもCraneはそういう男だった気がするけどね!

この作者さんはとてもビジュアルな世界を作り上げるのがうまくて、Magpieでもしっかりその魅力は発揮されています。とんでもないお値段の服に身をばりっと包んだ貴族のCraneとよれよれで小柄なStephenという図(そして魔術の世界ではStephenが圧倒的な力をもつという逆転)、Craneの体を舞うカササギのタトゥ、ロンドンのよどみながら活気溢れるスラムと荘厳で空虚で冷たい貴族の館。Craneが語るカオスで貪欲な上海の回想。上海は実際には出てきませんが、もうひとつの舞台と言っていいくらいの存在感があり、そのミステリアスさ、オリエンタルで超常的な雰囲気がシリーズ全体に広がりを与えている。
舞台の雰囲気自体がエロティックというか、猥雑さがあって、本当になんでも起こりそうな、したたるような人間の欲と闇を感じさせてくれるのがこのシリーズのよさでしょう。その絡み合った欲と魔術の中をCraneはあくまで頭を昂然と上げてしたたかに、Stephenは自分の無力に打ちのめされながらも誠実に、一歩ずつを切りひらいていく。

かなり血しぶきがとびますので苦手な人ご注意で。
オカルト、ヒストリカル好きなら鉄板!

★魔術
★タトゥ

Where Death Meets the Devil
Goodreads-icon.pngL.J. Hayward

WhereDeathMeetstheDevil.jpg★★☆ summary:
Jack Reardon、SAS出身で今はオーストラリアの情報機関Meta-Stateの情報局員は、今、混乱していた。
潜入捜査の末にやっと犯罪組織のボスの信頼を得たと思ったら、砂漠の中のコンクリの部屋で椅子に縛られて、裏切者だと弾劾されている。
そして彼を処刑しに現われたのは伝説の殺し屋、Ethan Blade。
運命は尽きたのか。

だが気付けば彼はEthanに救い出されて二人で砂漠を逃げ出していた。
この男は死の使いなのか、救いの手なのか。無謀で良心というものを持たず、なににも執着しないEthanがJackにはまるで理解できない。

一年後。
やっと普段の人生を取り戻しつつあるJackだったが、そんな時、彼の働く情報局に客がやってくる。
客の名を聞いた瞬間、Jackは悟った。人生は決して元には戻らないのだと。
Ethan Bladeがふたたび目の前に現われた今は。
.....



情報局員と殺し屋とラクダの話。

二重の展開で進んでいく話で、一年前のJackの(そしてEthanとの)逃亡劇と、現在のJackとEthanとの再会からはじまる情報戦とが交互に語られます。
ちょっとクセのある展開だけれども、かつて二人の間に何があったのか、何故またEthanがわざわざ身柄を拘束される危険を冒して現われたのかが少しずつ明らかになっていくところは盛り上がります。

それにしても設定が憎い。目的を果たすためならJackを売り渡し、それでいて眉ひとつ動かさずにJackを救う殺し屋のEthan。この男にいつ裏切られるかと思いながら、その手に救われるしかないJack。
人を殺して生きてきたEthanのことがJackは理解できないし、理解したくもないし、彼に救われる自分自身のことが嫌で仕方ない。しかし砂漠でたよれるのはEthanだけ。あとEthanが飼っている(というか友達らしい)ラクダ。
熱砂の砂漠を、二人は逃げながら、同時に敵を狩っていく。彼らがそれぞれ立つ世界は、ひとつは「悪」でひとつは「正義」といわれる側にあるけれども、していることはもしかしたら同じようなことなのかもしれない。
でもJackはそのことにも気付きたくない。否定するJackに対して、Ethanは至ってのどかなものです。彼は他人に理解されなくともどうでもいい、ただ仕事を果たすだけ。

謎は主にふたつ。
1年前、砂漠で二人に何があったのか、彼らの関係はどうなったのか。これは回想で少しずつ語られていく。
そしてもう一つの大きな謎は、Ethanは何故今になってまたJackの前に現われたのか。Jackは「次に現われたらつかまえる」と言っているし、事実、Ethanが現われた瞬間に情報局の建物を封鎖してEthanを拘束させています。
そっちの謎は少しずつ、過去と現在の両方を使って紐解かれていく。

過去と現在を重ねた語り方はなかなか効果的ですが、もう少しスイッチの回数が少なくてもよかったかなという気はする。ちょっと後半が長いというか、過去と現在の切り替えがチカチカするんですよね。回数じゃなくて、何か現在と過去をつなぐような強いエピソードや物があればもっと統一感が出せたのかもなあ。
とはいえ、この野心的な語り口と、骨太のテーマは評価高いです。周囲のキャラも、類型をうまく使ってわかりやすいながらもきちんと書きこんである。
謎めいたEthanに振り回されてばかりのJack。しかしそんなJackにEthanが振り回される瞬間もあるわけで、普段本音を見せないだけに無防備な一瞬のEthanはなかなかぐっとくる。動物が好きで車が大好き。どこか子供のような部分がEthanの中にはあって、彼がその無防備さを見せられるのはJackだけ。Jackが誠実で、頭は堅いが決して人を裏切ったりする男ではないとわかっているから。
味方とは言いきれないまま、おかしな絆が二人をつないでいる。むしろEthanのほうがJackを無条件に信頼しているかのように見えるのがおもしろい。その無邪気さが、この殺し屋の深い孤独をうつしているようにも思える。

しかしこれ、シリーズ物のようなんだけど、次の話はどうするんだろうっていうくらいこの一話でいろいろ書ききっていて、次の話を勝手に心配しつつ楽しみです。この作者さんのことだからきっとひねった話を投げてきてくれるに違いないけども。
展開にもキャラにも文句なし、もうちょい無駄なくまとめてくれると素晴らしかったなというところだけが残念。
その分は、次作への期待値としておきたい。

いわゆる冒険小説、スパイもの、殺し屋ものが好きなら是非おすすめの一冊。ずっしり骨太に楽しめます。

★殺し屋
★砂漠の逃亡劇

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