Lone Star
Josh Lanyon
★★★ summary:
テキサスの町で育ったMitchell Evansは、故郷の町を出てから12年経って、はじめて町へ戻ってきた。
彼にとっては明るい子供時代ではなかった。バレエダンサーになりたいと願ってレッスンしていたが父親には認められず、殴られて、彼は逃げ出した。血のにじむような苦労とともに成功をつかんでからも、帰るつもりはなかった。
半年前に父親が死んだと聞いた時も、その葬儀にも、ツアー中だった彼は帰らなかった。
だが、白鳥の湖の大役を逃し、その上恋人の裏切りを目の当たりにして、打ちひしがれたMitchが思いつく居場所は故郷の家だけだった。
家に向かってレンタカーを走らせていた彼は、目の前をトナカイが横切った──と思った──せいでクラッシュしてしまう。幸いケガはなく、すぐそばを走っていた警官が停まって彼を助けた。
まさか、その警官(レンジャー)がWeb Eisleyだとは、Mitchは予想もしていなかった。
彼の初恋、少年時代の彼の親友であり、それ以上であり、すべてだった年上の男。
ふたりの間にはまだ強い何かがある。それを感じながら、だが、Mitchはどうしたらいいのかわからない。
彼にも、Webにも、あきらめられないものがある。
夢か、初恋か。
それとも、どちらかを選ばなくてもいいのだろうか?
.....
Carina Pressのクリスマスアンソロジー「Men Under the Mistletoe」に含まれている1篇。
それぞれバラでも買えますが、まとめ買いがお得。
この1篇はJosh Lanyonらしい、切れ味のある、強い男2人の物語。
テキサスの町でバレエを習うこと、プロのダンサーになる夢を見続けることは簡単ではない。でもMitchはやりとげます。父親の反対や、時に折檻にも耐え、夢を追い求めた。
ある夜、Mitchは恋人のWebにカミングアウトを求めますが、拒否された。傷ついた彼は家に戻り、勢いのまま、父親にカミングアウトする。それきり家を出て、Mitchは帰らなかったのです。12年。
夢をかなえ、でも彼はこのクリスマスにひとりだった。
今、父が死んだ家に戻り、Webと再会して、その時の思い出が鮮やかにふたりの間によみがえる。少年同士の迷いや、時にまちがった判断。
そんなものが少しずつひも解かれていき、現在の彼らの関係をも変えていく、話の展開が鮮やかです。
Lanyonのうまさというのは、中心になっているキャラクターの描写だけでなく、周囲の人間も短いエピソードの積み重ねで見事に浮き上がらせる手腕です。今回は、Mitchの父親の姿がくっきりと、見えない影のように話の中に刻み込まれている。
Mitchは父が自分を憎んでいたと思っている。望まれたような、強いテキサス男の息子ではなく、バレエダンサーになりたがり、ゲイでもあった。だけれども、父は彼を愛していた。バレエダンサーになることも、ゲイであることも許せなかったけれども、彼は彼なりに、不器用にMitchを愛していたのです。
今になって、彼ははじめてそれを悟る。
Mitchにとって、故郷へ帰ってすごすこのクリスマスは、過去の自分には見えなかったものを見つめる時間でもある。
Webは「テキサスレンジャー」の一員で、これは(メジャーリーグの球団ではなく!)テキサスのひとつの警察機関です。元々は自警団のようなもので、騎馬警官とも訳されたようですが、今では公的な機関の中に組み込まれています。
Mitchが所属しているアメリカンバレエシアター(ABT)は世界的に有名なバレエ団で、日本にもよく来てますね。
それぞれの夢をつかんだ2人の男たちの、静かだけれども、パワフルな再会の物語。そして、ちょっとだけ、クリスマスの奇跡もあります。
派手ではないけれども、3万語ない短さの中で非常に濃厚に話が紡がれていて、やはりLanyonの手腕に舌を巻きます。
失われたもの、戻らない人への静かな思いと、未来への希望。リアルティのある、でもロマンティックな一編です。
話の最初にMitchが見たひとつの星(Lone Star)と、最後にWebがMitchに送るふたつの星との対比がきれいで、オチも素敵でした。
ゆったりとした、クリスマスの読書に。
★帰還
★再会
■JoshLanyon ■長さ:1~3万語 ■キャラ:警官 ■キャラ:ダンサー ■キーワード:再会 ■キーワード:カミングアウト ■キーワード:クリスマス