Slash×Slash

Slash(m/m小説) レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
→このブログについて

His Royal Secret
Lilah Pace
HisRoyalSecret.jpg★★★ summary:
2012年5月。イギリス王室の王位継承権第一位のJames王子の恋人、Cassandraの火遊びの写真が新聞にすっぱ抜かれる。不実な恋人として世論に叩かれるCassだったが、Jamesにとってはかけがえのない友人で、そしてJamesを守ってくれる存在だった。
ただし、恋人ではない。一度も。これからも。

新聞社勤務のBenは、本来は経済担当だったが同僚の代打でケニヤの北方、王子のサファリ訪問の取材に行く。
部屋でのんびりしていたBenは、土砂降りになった雨の中を走ってくる人影を見て、こっちに来いと怒鳴る。ためらって、それから走りこんできたのは、James王子その人だった。

世界に二人だけしかいないと錯覚するような厚い雨のカーテンの中、二人はお互いの秘密を語り合い、チェスを始める。濃厚に、互いの距離が近づいていくのを感じながら。
二度と会わない筈だった。
もしふたたび、次は新聞記者と王子として出会っても、なにも起こる筈のない二人だった。起きてはならない二人だった。
.....



続編の「His Royal Favorite」と合わせた二冊シリーズ。

王子と新聞記者の恋!って、じつに古典的というか伝統技の感すらありますが、それを真正面から、きわめて現代的なテーマも絡めて書ききったシリーズです。
Jamesはゲイである自分を恥じているわけではない。ただ、自分のカミングアウトは無理だろうとあきらめています。
イギリスの王は英国国教会の首長でもある。その宗教との兼ね合い。国教会が認めてくれなければJamesは王になることはできない。
そして何より、彼には妹のIndigo(あだ名)がいる。繊細な彼女は人前に出るのを極端に恐れ、プレッシャーに負けて自傷行為に走っては自己嫌悪に陥る。Jamesがもし王位の責任を放って逃げれば、次にそれを背負わなければならないのはIndigoだ。そんな真似ができるわけはなかった。
2012年が話の舞台というところも肝で、イギリスで同性婚を認める法案が成立したのは2013年。だから「話は出ているけれどもまだ決まっていない」くらいの頃なんですね。こんな時期に「王子のカミングアウト」というのは政治的な影響を持ちかねない行為でもある。国民の反発も怖い。

そんな微妙なバランスの中で、それでもJamesはBenに惹かれるし、BenもJamesに惹かれます。
Benは非常に独立心が強く、人に縛られることに耐えられない。Jamesとの秘密の関係は、そんな彼には丁度いい筈だった。なにしろBenとのことを知られたくないJamesはBenを独占する権利もなければそんな関係に発展する心配もない。
でも、だんだんとBenの心がとらわれていき、それにBenは自分で反発してしまう。自分という存在を失いたくない。Jamesの添え物にはなりたくない。

様々な政治的要素も取り込みながら、ロマンスとしての骨格は外さず、二人の恋が時に美しく、時に痛々しく描かれています。
Jamesには王位を捨てられない。Benには「王子のパートナー」として自由を失った生活など考えられないし、耐えられない。パパラッチに四六時中追い回され、一挙一動をあらゆる人間に見張られて? それは普通の人間にはできない暮らしです。
なら、恋を捨てるしかないのか。捨てられるのか。

周囲の人々もそれぞれ生き生きと描かれていて、特にIndigoの存在が物語に深みを出していると思う。人の視線が恐ろしく、自傷して長袖やタイツをまとい、公式の場でうっかり挙動不審になれば新聞やネットで「ラリっているか酔っているか」と叩かれる彼女の逃げ場のなさは、現代的な問題の象徴でもある気がします。
Jamesは彼女を守りたい。でも、スキャンダルを恐れて治療を受けさせることすらできない。

皆が、何かをのりこえなければならない。そののりこえる力を描くのも「ロマンス」のひとつの美しさなのだなと、噛みしめることのできた物語でした。
おすすめの一作です。特に身分差好きならたまらないですよ!

★身分違いの恋
★王族(現代)

Carry the Ocean
Heidi Cullinan
CarryTheOcean.jpg★★★ summary:
The Rooseveltシリーズ1。
Jeremeyは高校を卒業したものの、今の望みはただ、大学に入るまでひたすら眠りたいだけ。誰にも気がつかれたくない。誰のことも気が付きたくない。
だがそんな望みは、Emmetと出会った瞬間に消えたのだった。大学で数学とコンピュータサイエンスを専攻するその少年は、頭が回って前向きで、Jeremeyとつきあいたがってて、高機能自閉症だった。

Jeremeyにはそれを気にする余裕はない。自分の気持ちを持て余し、そんな自分を責めていた。
自分と、両親の作った小さな規範の世界から抜け出せずにもがく彼を、Emmetが救い出し、彼らは共同生活を始める。

それぞれに問題をかかえ、葛藤し、二人のどちらにとっても世界は優しい場所ではない。
でもそんな世界でも、幸せに生きる方法はある。きっと。
.....



これジャンル的にはYA(ヤングアダルト:青少年向けの作品。一般に性描写淡し)のようなのですが、正直どこかのカテゴリに入れてしまうのはもったいないパワフルな作品です。
高機能自閉症で、知能は高いが感情の働き方が他人とは違っているEmmetと、鬱病に苦しみ、自分を受け止めることのできないJeremeyの2人の一人称で、物語は進んでいきます。読者はそれぞれの視線を通して世界を再認識することになる。彼らから見える世界、彼らに届く光と闇を通して。非常に挑戦的な、そして高いテクニックを要求される書き方ですが、お見事。
何に彼らが苦しめられているのか、感情を表に吐き出せないEmmetや、自分の感情に圧倒されてその向こうが見えなくなるJeremey、2人の苦しみや葛藤、不安、そして喜びや愛情がはっきりと伝わってくる。

それにしてもEmmetは偉いな!自分の障害を知り、考え、対処し、何か起きればその起因となることをつきとめてあらかじめ対処しようとする。障害を「個性」として生きていく強さがあり、輝きがある。
彼を支える両親も偉い。戦うこと、戦い続けること。それをしっかりと身につけて、Emmetは今度は初めて見つけた恋のために戦おうとするのです。その道は平坦とは言えないけれど。
その愛は、きっとJeremeyと彼の世界を救う。

繊細な、そしてとても豊かな物語です。文中に出てくるタイトルの由来が本当に美しくて、個人的にタイトル大賞をあげたい。
物語にしっかり浸ってみたい時におすすめの一作。

★共同生活
★YA(ヤングアダルト)

★Three-Star rating system★


[カテゴリ]View ALL
レビュー (314)
★★★ (90)
★★ (190)
★ (34)
モノクローム・ロマンス (10)
電子ブックリーダー (23)
iPodTouch・Stanza (19)
nook (4)
雑談 (84)
英語 (29)
文法 (4)
読書日記 (11)
…このブログについて (9)
…書店情報 (2)
[タグリスト]

11 | 2016/12 [GO]| 01
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

カテゴリ一覧 最近の記事一覧 プロフィール リンク一覧 メールを送る
[カテゴリ]


モノクロームロマンス(M/M翻訳)


■公式サイト■

・2017年
・後半 王子二巻
・12月 アドリアンXmas

・ほかにも出るかも
・王子とか何か売れてくれ〜(色々軽くピンチ)
・来年はもふもふやるよ!

*発行済*
・フェア・ゲーム
・フェア・プレイ
・ドント・ルック・バック
・恋のしっぽをつかまえて
・狼を狩る法則
・狼の遠き目覚め
・狼の見る夢は
・天使の影(アドリアン・イングリッシュ1)
・死者の囁き(アドリアン2)
・悪魔の聖餐(アドリアン3)
・海賊王の死(アドリアン4)
・瞑き流れ(アドリアン5)
・幽霊狩り(ヘルハイ1)
・不在の痕(ヘルハイ2)
・還流
・夜が明けるなら(ヘルハイ3)

*他訳者さん*
・わが愛しのホームズ
・ロング・ゲイン
・恋人までのA to Z
・マイ・ディア・マスター