Slash×Slash

Slash(m/m小説) レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
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Here Be Dragons
T.A. Chase
HereBeDragons★★★ summary:
アイルランドで爬虫類の研究をしているKael Hammersonには、暴力的な恋人から逃げ出してきた過去があった。その経験は彼の中に深いトラウマとなり、今でもフラッシュバックに苦しめられている。
Kealの上司のHugh Priceは、この物静かで知性的な部下に強い興味を持っていたが、部下と関係を持つことが利口には思えずに一歩距離をあけたままでいた。

だが海に奇妙な生き物が現れはじめ、KealとHughはともにその調査にあたることになる。
巨大な海蛇か何かと思われたそれは、船舶を襲い、毒を吐く。KealとHughは目撃証言のある海域を調査中、その生き物に襲われたが、あやういところで難をのがれた。

Kealは夢の中で奇妙な世界に入りこんでしまい、大地の女神ガイアとエルフのモルドレッド、竜殺しのセント・ジョージ(聖ゲオルギウス)によって、あの「蛇」がドラゴンであること、ガイアたちの世界から人間の世界へ魔法の生き物たちを送りこんでいる勢力があることを知らされる。かつて2つの世界を隔てた幕を、引き裂こうとする者たちがいる。
ガイアたちは人間の世界にじかに力を及ぼすことはできない。Kealたちは自分の力でドラゴンを、そして続々と現れはじめる神秘の生き物たちをとめなければならない。だがKealは「異質だから」というだけの理由で神話の生き物たちが迫害されていくことには耐えられなかった。

一方でHughとの関係は急速に深まっていく。だがささいな瞬間がKealにフラッシュバックを呼びおこす。自分がいつかそれをのりこえられる日がくるのかどうかKealにはわからなかった。それまで待ってくれとHughに言うのがフェアなことかどうかも。
またKealには、ほかにも人に言うことのできない秘密があった…
.....



T.A.Chaseの現代ファンタジー。続編(完結編…だと思う)の「Dreaming of Dragons」も先日出ました。
この一作目は、KealとHughのカップルを中心に進んでいきます。

Kealは前の恋人からひどい暴力を受け、支配され、命もあぶないような状態からやっとのことでアイルランドへ逃げてきた。他人とまだ深い関係を持つ心構えができていませんが、Hughに磁力のように引きつけられていく。
Hughはとてもいい男で、Kealの事情を知って互いの関係をゆっくりとすすめていこうとするけれども、時おりKealのフラッシュバックはHughに対して向けられてしまう。Hughが何かをしたからではなく、昔の恋人と同じ位置に立ったからとか、同じ台詞を(ちがう意図でも)口にしたからとか。
その馬鹿馬鹿しさをわかっていても、Kealは反射的にフラッシュバックをおこすのをやめられない。

Kealがフラッシュバックをのりこえるには、時間の経過だけでなく、自分に対する確信を取り戻す必要がある。
Hughはそれをわかっていて、それを手伝いたいと思う。ただ真綿にくるむように守ってやりたいが、それだけでは何も解決しない。常に一歩引き、Kealに自分で立ち上がるチャンスと、自由な空間を与える。
自分を受けとめてくれるHughに対してKealは幸せと後ろめたさ、自分自身へのコンプレックスを同時に感じながら、壊れる前の自分自身を取り戻そうともがきます。
2人ともとても優しく、魅力にあふれた人間で、読んでいるとKealを応援したくなります。傷を負い、後ろ向きになることもあるが、彼はしなやかで強い男です。

その一方、彼らはドラゴンとも戦わなければならない。Kealが好むと好まないとにかかわらず、ドラゴンはこの世界に害を為し、この凶暴で強大な生き物を放置しておくことはできないのだった。
だがどうやれば、人がドラゴンを殺せるのだろう?

私はこれがはじめて読んだT.A.Chaseの本で、ドラゴンだ!とタイトルだけ見て買ったら現代ものだったので、ちょっと騙された感を持ちつつ(自分が悪いんだけど)読んでみたらすっごくおもしろかったのでした。
以来T.A.のファンですが、彼の魅力はある程度「王道」を抑えながら、その先にひろがりのある世界を描き出すところではないかと思います。豊かな情感を持つキャラクター、孤独や愛情、融和といった強烈なテーマ、わかりやすいが陳腐ではないストーリー。世界とキャラクターの中に、読む者を引きずりこむ力を持っている作家です。
その魅力が存分に味わえるシリーズです。話としては荒唐無稽なようですが、キャラクターの感情の動きがしっかりと書かれているので、現実味がないという感じはあまりなく、現代ファンタジーとしても充分に楽しめると思います。
傲慢で美しく、気まぐれで勝手なモルドレッドがまた可愛い…
KealとHugh、モルドレッドとセント・ジョージ、この2つのカプの入り組み方もなかなかエロいところがあって、味わい深い。

★竜
★トラウマ(DV)

★でとりあえず分けてますが、迷うことも多いのでためしに☆もつけてみることにしました。
☆=0.5★ くらいのイメージで…

Sutcliffe Cove
Ariel Tachna & Madeleine Urban
SutcliffeCove★☆ summary:
Gerald Saundersは色々なことをして仕事以外の時間をつぶしてきたが、今度彼が興味を持ったのは乗馬であった。乗馬のレッスンをしているという牧場Sutcliffe Coveを訪れた彼は、牧場のオーナーBrett Sutcliffeに出会い、初心者レッスンを受けはじめる。

Brett Sutcliffeは、この魅力的な男がゲイなのかどうか知ろうとするが、GeraldはBrettのほのめかしにまったく応じない。この男はストレートだと判断し、彼は乗馬のレッスンと、友情のみに互いの関係をとどめることにした。
だから、しばらくしてGeraldがゲイだと知った時、Brettは心底驚いたが、その時彼にはもう新しい恋人がいた。それはカジュアルなつきあいで、決して深まらないタイプの関係だが、それでもBrettは二股をかけられるような性格ではなかった。

数月のうちに、Geraldはレッスンを受けにくるだけでなく、牧場の手伝いに訪れ、子供のレッスンのサポート役まで受けるようになる。かわりにBrettは無料のレッスン時間を提供し、彼らは古い友人のようになじみはじめていた。2人でいる時間がごく自然で、まるで当然のように感じられることを、2人のどちらもがこっそりと驚いていた。
そんな時、Geraldははじめて長い休暇を取り、祖父と祖母を訪れにいく。彼の長い不在は、互いに相手の存在の大きさを感じさせ…
.....



牧場で、乗馬を通じて近づく2人の男が、やがて恋に落ち、そしてそのもっと先にある深い関係へとたどりついていく話です。
全体におだやかな展開ですが、関係の進み方が繊細で説得力があります。

BrettとGeraldがつきあいはじめてから、Brettはとても幸せなのですが、どうしても気持ちに残るものがある。Geraldは何にでも気軽に「OK」と答え、反駁したりためらったりする様子がない。
乗馬のレッスンの後で、夕食を食べていけと言えば「OK」、泊まっていけと言えば「OK」、かと言って何も誘わずに帰してしまっても落胆した様子を見せない。
自分が押しすぎてしまっているのか、Geraldに選択の余地を与えていないのか、それともGeraldにとってこの関係は迷うほどのこともないカジュアルなものなのか。
一緒にいる間は忘れてしまっているけれども、離れている間、BrettはGeraldの気持ちがどこに向いているのかわからずに時おり袋小路に入ってしまいます。

Geraldは全般に呑気なんですね。ほのめかしとか、そういったものを一切読まない。自分が快適である限り、大体の物事は抵抗なく受けいれる。
Brettといる時間は彼にとって快適この上ない時間なので、大体そういう時に反駁したり迷ったり、あまりあれこれ考えたりはしません。
で、呑気なものだからBrettが何を悩んでいるのかさっぱわからない。ただ彼が何かを悩み出したのは感じていて、どうにかそれを解決してあげたいと思う。勿論、BrettはGeraldにとって誰よりも大切な相手ですが、呑気なものだからそういうことを口に出して伝えようとしない。伝えてやれよ。

この2人の、のどかな行きちがいがとても可愛らしい。読んでいてほのぼのと楽しめます。
牧場の生活や、馬房の掃除、また乗馬についても結構細かい描写があり、きっちりと生活感が感じられるあたりも気持ちのいい話です。馬かわいいなー!

★乗馬

Vertigo
Jordan Castillo Price
Vertigo★★ summary:
Channeling Morpheusシリーズ2作目。

MichaelとGrayとの邂逅から2ヶ月。Wild Billは吸血鬼の集団とともに、吸血鬼グルーピーの連中の血を吸い、セックスし、それなりに平和にすごしていた。
だがそこに、ついに彼の居場所をつきとめたMichaelが現れる。
Michaelはここに「吸血鬼を狩りにきたわけではない」と言う。彼はWild Billに会いに来たのだ。「杭のことは心配しなくてもいい」と言われるが、Wild Billが心配しているのは杭のことなどではなかった。

彼はMichaelに惹かれていた。強烈に。
だがMichaelは吸血鬼を狩る人間で、Wild Billはもう何十年も前に人間であることをやめ、吸血鬼となっている。どれほど惹かれても、Michaelに近づくのがいい考えだとは思えなかった。

そしてMichaelは、Wild Billの思った通り、その手の中にひとつふたつ、巧みな仕掛けを準備していたのだった。
.....



前作「Payback」に続く、今度はWild Billの視点から書かれる再会話です。やはり短編。
退廃的で、重く湿った、その一方でストイックなJordan Castillo Priceの雰囲気は健在。

MichaelとWild Billとをつなぐものは、そういう重く湿った「何か」であるように見えます。欲望なのか、それともそれが欲望以上のものなのか。互いにそれがわからないまま、Wild Billは逃げようとするが、Michaelは彼を追う。
2人の関係は、「Payback」の出会いからはじまり、この「Vertigo」で決定的な変化を迎えます。

ひどく微妙な、闇のふちをMichaelは歩きはじめているようにも見える。彼をつき動かすものはきっと孤独で、Wild BillもまたMichaelの孤独に惹きつけられる。
深い、暗い予感を含んだ物語です。
「Payback」を楽しんだ人なら絶対におすすめ。

★吸血鬼×人間
★短編

Payback
Jordan Castillo Price
Payback★★ summary:
Scary Maryはデトロイトのゴスクラブで行方不明となり、死体となって発見された。

Michaelは、親友が吸血鬼に殺されたと知っていた。
その存在をあからさまにされることはないが、吸血鬼たちは都市の闇に息づき、「吸われたがる」若者たちなどをその餌食にしていた。だがそのことを警察や家族に言うことはできない。
Michaelは家を去り、様々な事件の新聞記事などをもとに吸血鬼を追い、2年かかってその中の1人を発見する。

杭や槌、十字架、聖水、そしてドラッグまで用意して、吸血鬼が立ち寄るバーに出かけたMichaelは、体良くその吸血鬼、Grayとともにバーを出ることに成功する。
だが彼にとって計算ちがいだったのは、Wild Billという男も一緒についてきたことだった。タトゥを入れ、レザージャケットをまとったセクシーな男。
もし狩りに心を取られていなければ、Michaelがデートしたにまちがいない男。

3人の生々しいセックスの最中、Wild Billは何故か、吸血鬼に薬を盛ろうとするMichaelに協力する。
彼は何者なのか。何が目的なのか。そしてMichaelはうまくGrayを「狩る」ことができるのか…

.....


Jordan Castillo Priceによる「Channeling Morpheus」のシリーズ1作目。
短編と言ってもいいような短さですが、シリーズ全体を通して濃厚でおもしろいです。この1作目は導入編という雰囲気がありますが、まずつかみとしても成功している。

Michaelはゴスメイク(主にアイライナーのようです)をしている美しい青年で、まだ若い。21歳。友人の仇の吸血鬼を1人で追っています。
退廃的で、少し疲れたような雰囲気を漂わせる青年だけれども、その内側は親友を失った痛みに満ちています。吸血鬼が元凶だと知った彼は、杭を手にしてそれを追わずにはいられない。勇気があり、向こう見ずでもある。世を投げた厭世的なところも見せる一方で、妙に純情なところもある。
吸血鬼たちは、彼の痛みと孤独に惹かれます。
そしてMIchaelは今回の狩りを通して、自分が持っていた「吸血鬼」の悪鬼のようなイメージをくつがえされることになる。それはScary Maryの死と同じように、彼の人生を変えていきます。

作中に出てくるRohyrnolというのは催眠鎮静薬で、デートドラッグ(レイプドラッグ)としても使われる。
吸血鬼はこれに弱くて「夢の世界へ行ってしまう」そうですよ。シリーズ名の「Channeling Morpheus」というのも、「Morpheus(モルペウス:ギリシア神話の夢の神)とチャネリングする」という意味かと。

このシリーズは、同じようにやや短めの連作で続きまして、今5作目まで出ています。MichaelとWild Billについて書かれたその先の話がおもしろいというか、やはり濃厚で、独特の香りがあります。
話もおもしろいシリーズなんですが、特筆するべきはその雰囲気のような気がする。
Jordan Castillo Priceの文章には不思議な雰囲気があります。ダークで、湿り気がある。かと言って饒舌ではなく、むしろ淡々とした筆致。
たとえばCameron Daneの文章は「温度が高い」といつも思うんですが(…70度くらいかな?)、Jordan Castillo Priceは「温度の低い」作家ですね。温度が低く、耽美な湿り気と、コンクリートの打ちっ放しのようなざらつきとストイックさが同居しています。
この先のシリーズで書かれる2人の道行きもまさにそういう、ダークなものがまとわりついた、どこに行くかわからない不安定さと、互いを求めてしまう激情とがどろどろに入りまじった話です。

吸血鬼ものが好きだとか、ダークっぽいものが好きな人におすすめ。まずは好みにあうかどうか、このシリーズ1を読んでみるというのもいいと思います。

★吸血鬼
★短編

最初にiPhone(iPodTouch)のStanzaをMac/PCのデスクトップ版Stanzaとつなぐ時、「共有をOKにしますか?」とデスクトップで聞かれます。
OKすればいいわけですが、うっかり「Never」をクリックしてしまう人もいます。ってか私の友人ですが。ネタにしてごめんね!

これをやると、二度とそのデスクトップとiPodTouchでは共有ができなくなります。
その場合の対策についてあんまり言及されてないようなので、のせておきます。


続き...

"It's my shout."

Tigers and Devilsにこういうセリフがあって、何?と思ったら、「俺の奢りだ」という意味でした。
"It's my treat." はよく見ますが、shoutを使った言い回しははじめてだったのでいくつか引いてみると、「豪略式」と書いてある辞書があった。オーストラリアの言い回しのようです。
でも「奢り」で和英を引いてもshoutが出てこない、微妙な不条理。「豪略式」だから仕方ないのか。

Tigers and Devilsの作家さんはオーストラリアの人なんでしょうか(話の舞台もオーストラリアだし)。ブログ見たところ、主人公と同じく本人もリッチモンドタイガース(オーストラリアンフットボールチーム)のファンらしいので、リッチモンドに住んでるのかなあ。「世界で二番目に淋しい都市に住んでいる」って言ってますが…そんなに淋しいところ?タスマニアだから淋しいか。

話はかわりますけど、フットボールファンて凄いですよね。作家のG.R.Rマーティンが熱狂的なアメフトファンですが、シーズンとドラフトの時期になるとブログがもうよくわからないことになっていて、ものすごく盛り上がっている!ということだけしか汲めない。命かかってそうだし、負けると本当に寝こんだりしてるし。
勿論サッカーファンも野球ファンも凄い人は凄いんだろうけど、アメフトなんかは馴染みが薄い分、より「凄え」という気持ちにさせられるのか…
アメフトのスラは前にどこかで読みました。あとNBA(バスケ)がいくつか。MLB(野球)かテニスとかやってくれないかな。テニスは見てると結構萌えどころあると思うんですが。下手すると5時間以上一対一で向きあっているし。
T.A.ChaseがLove of sportsシリーズで今度MLBもやるよ!とは言っていたので(これまでNBAとカーレースをやっている)、それは楽しみ。

The Ghost Wore Yellow Socks
Josh Lanyon
The Ghost Wore Yellow Socks★★ summary:
傷心をかかえてサンフランシスコの旅行から帰ってきたPerry Fosterが自分の部屋で見たのは、空のバスタブに入っている死体だった。穴のあいた靴、黄色い靴下。見知らぬ顔。
愕然として、Perryは部屋の外へとびだす。
彼の住むAlton Estateは古い建物で、今は各部屋ごとに住人がいる。Perryと同じ3階には、元海軍のSEALに所属していたNick Renoが住んでいた。
Nickは不承不承ながらも部屋をチェックしてくれる。だが死体はどこにもなかった。

Alton Estateに住む誰もが、そして警官たちも、死体はPerryの思いこみだと判断する。
だがNickだけは少しちがった。彼はPerryの部屋をチェックした時、床に落ちていた古ぼけた靴の片方を、何気なく窓際に置いたのだ。警官が来た時にはその靴は消え、かわりにPerryの靴が置いてあった。
Nickは死体は見ていない。それを信じればいいのかはわからない。だが、この部屋で何かがおこっている。それはたしかだ。

Perryは自分の見たものが幽霊だったとも、幻だったとも思っていなかった。誰かが彼の部屋に死体を隠したのだ。だがPerryが部屋の外に出てからNickが見にいくまでに、一体どうやって廊下を通ることなく死体を運び出したのだろう。Perryは事件を自分で調べようとする。
警告、新たな死体、建物にまつわる古い物語、遠い昔に恋人を奪おうとして死んだ男の伝説。住人たちは皆挙動不審になり、重苦しい空気の中で、彼らが秘めてきた隠された顔があらわにされていく。逃亡者、覗き屋、昔の持ち主の子孫…

その中で、殺人者の顔を持つのは誰なのか。
.....



Perryはゲイであることが原因で親元を離れ、画家を目指している23歳の童顔の青年です。喘息がちで、失恋したばかりで、今月の家賃まで旅費に使いこんでしまった上、とぼとぼと家に戻ってきたら死体が待っていた、と、もう踏んだり蹴ったり。
Nickはそんな彼に巻きこまれることを避けようとします。だがPerryは彼が思っていたような「ドラマクイーンタイプ」ではなく、じつのところは快活で賢く、粘り強い。最初こそじめじめ落ちこんでいますが、すぐに気をとりなおして、根っこにあるポジティブな気性を見せ、自分で建物の謎を調べはじめる。

Nickは軍をやめて仕事を探している最中で、LAの友人のところで職をもらえればバーモントを離れるつもりなので、なるべくPerryに近づきたくはないのですが、少しずつPerryの新たな一面を発見しながら段々と惹かれていくのをとめられない。
その経過はゆっくりで、まるで似たところのない2人が互いの距離をつめていく様子が、物語のもうひとつの核となっています。ものすごくドラマティックなことがおこるわけではありませんが、Nickが「駄目だ」とか「馬鹿げてる」とか思いながらちょっとずつ傾いていくのがおもしろい。Perryに対する庇護欲がどこからわいてくるのかわからなくて、自分でとまどっている。そしてNickが思っているほどPerryは子供でもなかった。
彼らは互いに惹かれるが、たとえ今はうまくいっても、Nickはバーモントへ行ってしまう。続くわけのない関係です。
だからといって踏みとどまれるものでもない。Perryもまた後からくる喪失をわかっていて、一歩踏みこむ。「ただのセックスでいい」と言うPerryに、Nickはたじろぐ。「お前に、そんな言い方は似合わない」

自分がこの場所を去る前に、Nickは死体の一件を解決したいと思う。何だかわからないものの中にPerryを残していくのは気がすすまない。
2人は一緒にこの事件に取り組むことになります。その先にある謎を、彼らは無事解くことができるのか?
そして謎を解いた先には、別れが待っている。


Josh Lanyonはおもしろいのがわかっているので、わざといくらか読み残してあって、その一冊。やはりおもしろいです。
こう、Lanyonの特徴でもある強烈に凝縮された感じはあまりないのですが、その分読みやすいとも思う。ミステリとしての核ははっきりとしているし、NickがぶすっとしながらPerryの面倒をついつい見てしまう様子がほほえましく、Perryは若々しくてかわいい。「こんなガキにかかわりたくない」と思いながらくらっとするNickがいい味を出してます。
甘くはない、さりとて苦くもない、映画のような陰影のくっきりした話です。話自体がおもしろく、雰囲気も楽しめますので、小説全体を楽しみたい人に特におすすめ。

★ミステリ(消えた死体)

Tigers and Devils
Sean Kennedy
Tigers and Devils★★★ summary:
フットボールの熱狂的なファンであり、FFFフィルムフェスティバルの総責任者のSimon Murrayは、ゲイとしてカミングアウトしてはいるが社交的な人間ではない。親友とその妻に無理矢理パーティにひっぱり出されても、居心地が悪いだけでしかなかった。
そんな時、客の何人かがフットボールについて話しているのを小耳にはさむうち、何故かSimonはフットボールスターのDeclan Tylerについて弁護する羽目になる。膝の負傷と手術によってゲームに出られないDeclanの、過去の功績までが侮辱されるのを彼は許せなかった。
「彼は傲慢なろくでなしかもしれないが、選手として素晴しいのはまちがいない」
そう言い切ったSimonの背後では、まさにDeclan Tylerその人が自分への賞賛と罵倒を同時に聞いていたのだった。

SimonとDeclanは彼らのぎこちない出会いをのりこえ、確かな関係を築きはじめる。少なくとも、当人たちはそうしようとした。
だがそれは簡単なことではなかった。Declanはオーストラリアで一番有名と言っても過言ではないフットボールプレーヤーであり、それは彼がスーパースターとしてメディアに扱われることを意味した。Declanはカミングアウトしておらず、Simonは2人の関係を隠そうと必死になる。自分のためではなく、Declanのために。
時にそれはSimonをいたたまれない気持ちにさせ、Declanを傷つける。

Simonの親友はそうした関係についてDeclanを責め、Simonは友人と大喧嘩をしてしまう。
人前でのスキンシップを避け、フットボールのパーティに出席するためにDeclanが女性のパートナーをエスコートする間、Simonは1人で待つ。そうして多くの犠牲を払いながら、それでもいつまでも彼らの気持ちを隠しとおせるものではなく…
.....



物語は、SimonとDeclanの関係の深まりと、そのたびごとに彼らが直面しなければならない様々な試練を中心にして展開していきます。
「スーパースターと一般人の恋」というテーマも、「カミングアウトしていないスポーツ選手の恋」というテーマもわりとよくあるんですが、この小説はSimonの視点から、彼らがくぐりぬけていく出来事と気持ちの揺らぎをとても丁寧に書いていて、読んでいるとどんどん彼らの人生に引きこまれます。
なんせSimonがいい。彼はシニカルで、正直で誠実、口が悪く、短気で、頑固で、そしてとても殻にこもった人間です。繊細な部分をもっているからこそ、時おり攻撃的に皮肉屋になるようにも見える。Declanはおだやかで包容力のある人間で、Simonの刺刺しいところを楽しんでいるふしもあります。
ひとつひとつの物事にSimonは傷つき、動揺し、それをDeclanがつなぎとめる。しかしDeclanの中にも迷いがある。あまりに多くをSimonに犠牲にさせること、そしてSimonがいつか自分を責めるのではないかと、彼は恐れている。

秘密、葛藤、そしてやがてはメディアからの注目、中傷。Simonの世界は、Declanとつきあうことによって何もかもがひっくりかえされてしまう。それでもSimonはDeclanと一緒にいたいが、どうしても未来を信じられない時もある。
問題は外部だけでなく彼らの間にもあって、むしろそちらから、2人は時おりどうにもならなくなって行きづまってしまいます。きっかけは些細なことだったりもするんですが、1本ずつ藁がつまれていって、小さな物事が最後の藁になる感じが苦しいほどにつたわってくる。
傷ついて、相手を守ろうとして、道を踏みちがえる。どちらもすまないと思っていても、あやまれずに問題をこじらせる。

読んでいて、こうまで気持ちをこめて主人公を応援した小説は久しぶりです。
Simonは決してよくできた人間でもなく、傲慢だったり、意地悪だったりもするんだけど、そこも含めてとても愛すべきキャラクターだと思う。周囲の友達が文句を言いながらもSimonをサポートする気持ちがよくわかる。
そしてSimonを愛でるDeclanの気持ちがとてもよくわかります。とは言え、Declanの包容力と忍耐には頭がさがる。ハリネズミを手の平でころがしてるようなもんです、ほんと。

嵐のような日々の中で、それでもDeclanといる時のSimonは幸せで、彼は少しずつかわっていく。本当に少しずつですが。どうにかして心をひらこうとする時もあるけれど、まだまだ孤独な人間でもある。
果たして彼らは嵐のような日々をのりこえて、共に未来を築いていくことができるのか。

私はフットボールは全然わからないんですが(あとオーストラリアの地理も)、そこのところは踏まえなくても楽しめます。
メロドラマ的ではなく、どちらかと言うとシニカルな感じに書かれている話なので、じめじめした恋愛ものはちょっと、という人でもおすすめ。Simonのえげつないユーモアのセンスはとってもおもしろい。「そこでそんなこと言わなくても!」と思いながら何度も笑わされました。

これはSean Kennedyの最初の長編なんだそうです。
で、かなり長い。相当な長さがあると思いますが、おもしろいです。
エロシーンはほとんど直截的な表現はないのですが(キスシーンはとってもエロティックですが!)、それでこれだけの長編を一気に読ませる力量はすばらしい。今後が注目の作家です。

★スーパースター/一般人

Surrender Love
Kayelle Allen
SurrenderLove★ summary:
Luc Saint-Cyrには多くの秘密がある。
彼は太古の昔に遺伝子操作で作り出された「戦士」たちの系譜につらなる、不死者の1人である。それも、流刑とされた銀河の果てで生きるのをよしとせず、そこから逃れ出た秘匿された一団の1人だった。
彼らのリーダーPietasは「peril」というゲームを作り出し、「死によってこそ生に意味がある」という信条のもと、プレイヤーである不死者たちに「死」と「生まれ変わり」によって数えきれないほどの人生を繰り返させる。
perilからは誰も抜け出せない。ゲームマスターのPiatasの意志の下で、様々な名で、生きてはまた死ぬ。Cyken Tomarusは、そうして数千年を生きつづけてきた。
Cyken Tomarus、今回の彼のゲームこそ「Luc Saint-Cyr」としての人生を生きることである。

その人生ごとに、彼は望みをもって恋をくり返してきた。そのことに何か意味があると信じて。永遠と思えるほどの時間の末に、まだ希望を捨てきれずに。
だが今回の恋も痛みだけを残して終わる。5年間ともにいた恋人のWulfは、Lukを去っていった。

Izzorah Ceeovwは、この2年でブレイクしたロックバンドKumwhatmayのドラマーである。彼は猫系のヒューマノイドであるKinの一族で、猫の目ととがった耳、そして体の一部に毛皮をもつ。
Izzorahもまた、秘密を隠していた。彼は、3つの時からほぼ盲目であったが、それを押し隠している。Kinの従兄弟による一族同士にしか聞こえない耳打ちや、Kin独特のするどい嗅覚がそのカモフラージュを可能にしていた。
男性を好む性癖を表に出したこともない。彼の故郷の星では女性だけが権利をもち、男性は1人の女性の戦士に複数で仕える存在でしかない。男同士の恋愛は死を意味した。Izzorahは15の時に位の高い女性の戦士のところへ嫁がされたが、必死の思いでそこから逃げ出し、5年かけてTarthの惑星にたどりついた。その来歴も、Izzorahが人に言うことのできない秘密であった。

彼らのバンド、KumwhatmayはLuc Saint-Cyrの会社と大きな契約を結ぶために招かれる。
その席でLucとIzzorahは顔をあわせ、互いが互いの運命だと知る。だが、あまりにも多くの秘密が彼らを取りまき…
.....



SFです。
Izzorahは猫科ヒューマノイドですが、Lucも黒い肌と、黒いコンタクトのサイバーアイをしていたりとか。多民族とか他種族のSFですね。

LucやIzzorahといったメインキャラクターもくっきりとした輪郭をもっていて、特に様々なハンディキャップを持ちながら昂然と頭をあげているIzzorahは愛らしく、読みどころは多いです。
なんせ猫科ヒューマノイドって、それだけでちょっと心ときめく。描写を読んだかぎりだと、尻尾がないようなのが残念です。でも耳プレイはあるし耳好きにはおすすめ(いるのかな?)。"pointed ear" としか描写がないんだけど、あれ獣耳(てか猫耳)じゃないのかなあ。pointed earだとエルフみたいな方を想像してしまうのですが、でも個人的には猫耳だとかたく信じております。伏せたりたてたりしてるし。

Lucは複雑な秘密をかかえた複雑な人物で、その幾重もの感情をIzzorahは嗅覚でかぎわけ、彼の望みを満たしたいと願う。Lucを幸せにしたい。
Lucは多くを持つ人間ですが、ただ何もかえりみず自分を幸せにしたいと願ってくれる相手ははじめてだった。
だがIzzorah自身は秘密のほかに、彼自身も知らない心臓の欠陥があり、それは彼の命を危機に陥れる。Lucは彼を救おうと奔走しますが、それによってまたひとつ、根の深い秘密と数千年にわたる陰謀が目の前にあらわれます。

不死者としてのゲームや、彼らの企みもからんでくるので、ちょっとわかりにくいかも。全部つかんでる気がしないのは英語力の問題かもしれませんが。設定がなじむまでややぎこちないですが、中盤からは色々と動いて盛り上がりもあり、とてもおもしろいです。
ただ、大筋と小枝含めて、かなり未解決の問題があるので、これは「待て続編」ってことなのかなあ。一段落はついてるんですが。ちょっと落ちつきの悪い感が残るのが残念です。
ですがSFの部分がよくできていると思うし、Kinの故郷の文化描写なんかもおもしろいので、そのあたりが好きな人にはおすすめ。超年上の不死者をたしなめつつ愛らしく手玉にとる、LucとIzzorahのカプはとてもほほえましいです。猫だしね!

スラには結構正面きったSFがありますね。どうしても設定がきっちりしている分、恋愛要素が薄くなりがちなんですが、この話はそのへんのバランスはいいです。
SF設定こみで、ストーリー全体を楽しみたい人に。

★異文化(SF)
★猫科ヒューマノイド

Object of His Desire
Ava March
ObjectOfHisDesire★★ summary:
1821年8月、イギリスのダーハム。
22歳のHenry Shawは、10歳以上年上のSomervilleの侯爵、Arsen Greyに恋をしていた。ロンドンで出会い、彼を所領へ招いたこの男は傲慢で、美しく、倦怠感を身にまとってなお優雅な男だった。
だがその恋は不可能なものだった。Arsenは領地を継ぐための跡継ぎが必要だし、いずれ妻を迎える。何より彼は、己の屋敷で連日ひらかれている淫蕩なパーティに訪れる魅惑的な高級娼婦にその目を向け、男に興味を見せなかった。

彼の屋敷にはさまざまな貴族たちが招かれ、口に出すこともはばかるような様々な欲望を満たしていく。Shawもそれらの女性たちに誘惑されつづけるが、パーティが続く一週間の間、彼は女たちにとりあおうとはしない。できなかった。彼が望むのはArsenだけで、それは決して手に入れられないものであった。

退廃のパーティ、女たち、ArsenのShawに対する無関心、無意味な嫉妬、苛立ち、無表情の下に覆った己の欲望──すべてのものに疲れきって、ShawはArsenのもとを離れようと決心する。
だがその時、Arsenが彼を寝室へといざなった。

ただ一度、この一度きり。気持ちと体を満たして、それで終わりにしようとShawは決める。Arsenのそばにはいたい。だが彼の秘められた愛人になって、ただ道具のように彼に使われていくことはできない。それをすれば、自分が自分でなくなってしまう。Shawにはそれがよくわかっていた。
.....



19世紀のイギリス、退廃の館とその主の話です。
中編なのであまり複雑な話ではありませんが、人の心の動きがよく書かれています。Shawは田舎の出で、大柄で、他の貴族たちのように洗練された美はないが、その館に集う人間の中でただ一人、Arsenに対する揺るぎのない忠誠心を持っている。
Arsenはそれを知っていて、Shawをくりかえしためします。

Arsenは富と身分をもち、美しい男ですが、傲慢で、その傲慢さとShawのまっすぐな心根が、一夜の情交を通じてぶつかりあう。Arsenの傲慢さは、本当に大事なものを失いかねないほどに強いものでもあり、Shawはその向こうにあるものを見なければならない。そしてShawもまた、プライドの低い男ではない。身分や名前ではなく、彼は自分自身でありつづけることによって背をのばして立つ、誠実で潔い男です。
Arsenに性の道具として使われるくらいなら、どれほど愛していてもArsenの元を離れた方がましだと思っているし、それを実行しようとする。
一方のArsenはShawの中にある誠実さを求め、自分が他の愛人たちから得られなかったものをすべてShawが与えてくれることを知っている。金では買えない、手に入らないものをShawがArsenに感じさせてくれることを知っている。
それぞれの心の動きと、求めるものがきちんと描き出されているので、読んでいて物語が心に入ってきます。

傲慢な年上の貴族、純朴でまっすぐな田舎出の青年──。
青年は貴族に恋をし、望みがないと思っているが、じつは青年にめろめろなのは貴族の方だった、というテンプレ鉄板。でも楽しいぞ!
そういう話が好きな人だったら絶対におすすめ。良質に楽しめる一編です。

★短編
★ヒストリカル(貴族)

ReneCade
Cameron Dane
ReneCade★★★ summary:
Cade McKennaは過去を忘れるため、モンタナの小さな町へ副保安官として赴任してきた。彼の顔の半分は傷で覆われているが、誰もその理由は知らない。Cadeは誰にも自分のことを語らない。仕事を黙々とこなし、社交的なやりとりは好まず、孤独で厳しい男であった。
保安官の息子Ren BooneはHawkins' Ranchで働きながら、牧場の仕事を何でもこなす日々が好きだった。父親と2人だけで暮らし、明るくふるまう彼は誰にでも好かれていたが、彼は自分がゲイであることを、2人の親友を除いて周囲に押し隠していた。父親にさえも。
だがCadeの、周囲を拒否するような殻の下に強い情熱と痛みを見て、RenはCadeに磁力のように惹きつけられる。CadeもまたRenの存在に心を乱され、彼らは秘密裏に関係を持ちはじめる。
Renは望み、Cadeは抗いながらも抗いきれない。いびつなものをかかえながら、それでも彼らは心を剥き出しにするように向きあい、少しずつ、2人の関係はうまくいきはじめたように思えた。
だが彼らの関係は最悪の形で崩壊する。Renの裏切り。

はたして、2人はその裏切りの裏にあるもの、Renの中にある深い痛みを明らかにできるのか。Cadeは傷の痛みを呑みこんで、ふたたびRenを腕に迎え入れることができるのか。
それは望みのない道のようにRenには思えたが、それでもRenはCadeをあきらめられない。裏切ったのは自分で、傷つけたのは自分だが、Renはその崩壊の中で自分の本当の気持ちに気付いていた。

一方、牧場の魚の養殖池に毒が入れられ、犯人探しがはじまる。その悪意は思わぬ形でCadeへと襲いかかり…
.....



Hawkins Ranchシリーズですが、他の作品とは関係なく独立して読むことのできる話です。Hawkins兄弟はちょっとした脇役で、ここでは彼らの牧場で働く若者Renと、保安官助手のCadeの話に焦点があたっている。

このCadeがじつに強烈で複雑な男です。顔に傷をもち、笑わない副保安官。何事にも厳しく、何より己を律して揺らぐところがありませんが、その内側にはまだ過去からの生々しい傷が残っています。Renの裏切りは、その傷をかきむしり、中から膿みのような痛みがあふれ出してくるのをどうすることもできない。彼が誰にも立ち入らせなかった深みへと、Renはやすやすと入りこんできて、挙句にそこに痛みを残した。
Renの裏切りは本当に馬鹿げたものですが、RenにはRenの暗い部分がある。少年時代、今の町に引っ越してきた時に切り捨ててきた筈の暗い痛み。彼はそのすべてを捨て、過去の自分を捨て、今の「明るく人なつっこい」自分をこの場所で一から作りあげてきた。だがCadeに向かう感情は彼を根っこから揺さぶり、怯えさせ、判断を歪めるほど強烈なものだった。
互いに衝動につかまれ、どうしようもないほど惹かれていますが、裏切りの痛みが2人を分かちつづける。

ただひとり、信頼できる家族である父親へのカミングアウト(Renの実の父ではありませんが)、昔からの親友との腐れ縁な関係、古い過去から追いかけてくる捨てた筈の「家族」。Renの痛みはあざやかで、それとクロスするCadeの苦痛もまた鮮烈なものです。
Cadeは自分を切り捨てて、ただ「副保安官」として立派につとめを果たそうと、自分の感情や痛みをどこかへ埋めてしまおうとするが、Renの存在は彼をつらぬくような傷となる。
2人は互いを求めずにはいられない。だが求めながら、そこにある痛みに息をつまらせる。そんな関係が痛々しく書かれています。

Renはとても若々しくて、のびやかでいい若者なんですけども。自分でした裏切りとは言え、彼が打ちのめされ、必死になる姿は胸にくるものがあります。
望みのないものを、人はいつまで待ちつづけていられるか。許しとは何か。そんなものが圧巻の迫力で書かれています。RenやCadeだけでなく、人と人の感情の交錯には時おり息がつまるような気がする。
がっつりボリュームもありまして全編激しいので、とにかく激しいものが好きな人におすすめ。

ところでこの「ReneCade」というタイトル、RenとCadeの名前をつなげたものでもありますが、「Renegade」(裏切り者)とのダブルミーニングでもあります。最近になってやっと気がついた…
個人的に、Hawkins Ranchシリーズで一番好きな話です。ほんとにキャラがいいし、まるで異なる2人が傷つけあいながら惹かれあう、その対比が荒々しくも美しいのです。

★エロ多め
★裏切り

With Caution
J. L. Langley
WithCaution★★ summary:
兄弟としての誓い。恋人としての約束。どちらも守るのは命懸けとなる。

Remington Lassiterは命を落とすところを人狼の血によって救われ、その結果人狼となってしまう。新しい生活に慣れるのに必死の彼に、弟から助けを求める電話がかかってくる。
年の離れた弟は、Remiにとって唯一の「家族」のようなものだった。子供を束縛し母やRemiを殴る父親と、その父親から離れられず言いなりになる母に、彼は愛情を感じられない。
だが弟を守るためなら、Remiは父の言うことすべてに従った。まだ14歳の弟がどうにか無事に大人になるまで、Remiは何でも耐える覚悟だった。

探偵事務所を営むJake Romeroは、Remiを助けようと決心する。
Remiは気付いていないが、彼を人狼に変えたのはJakeの血であった。その時にもう、彼はRemiは彼のmate(運命の相手)だと知っていた。だがそのことをRemiには言えない。Remiは人狼になったばかりで、しかもストレートで、友人のChayが男の恋人を持った時に口をきわめて罵った「ホモ嫌い」である。そして今や、弟と父親についてのトラブルもかかえている。
やむなく自分の欲望を押しこめ、JakeはRemiを守ろうとする。
Remiの父親の過去を調べはじめた彼は、やがて暗いRemiの過去と、そこにある殺人事件に行きあたる。

その一方で、RemiはどんどんとJakeに惹かれていく自分を抑えきれなくなってきていた。また、人狼としてのRemiにも奇妙な現象がおこりはじめ…
.....



Without Reservations」の続編です。Without..に出ていたChayの友人のRemiと、群れの仲間のJakeの話。
前作のネタバレ含むので、ご注意。


Remiは前作でKeatonを「おかま野郎」と罵倒したほどのhomophobia(恐怖症というより、homohaterって感じですが…)です。なので、Jakeが彼のmateであることは皆で「しばらくRemiには伏せておこうか」ということになっている。
しかしそれを知らないまま、RemiはJakeに惹かれて、あれだけ拒否反応を示したにしちゃJakeに近づくことに対してあまり葛藤がない。
Remiが何故そうなのか、何故あれほどKeatonをののしったのか、何故前作であれほど「嫌なやつ」でありながらChayの長年の友人だったのか、そういうことがこの作品できちんと語られていきます。
彼が何から自分を、そして年の離れた弟を守らなければならなかったのか。守るために多くを捨て、自分を覆い隠し、攻撃的な態度を身にまとった、そんなRemiの人生が次第に浮き上がってくる。

自分自身を犠牲にして弟を守ってきたRemiは、Jakeと出会ってはじめて弟と同じほど──あるいは弟以上に大切な存在を見つける。そのことが彼に戦う勇気を与えますが、過去の恐怖をのりこえることは簡単ではない。
それでも手遅れになる前に、彼は弟を父親の手から救い出そうとする。

この弟(Sterling)がかわいいんですよ。まあよくしゃべるよくしゃべる。明るくてこまっしゃくれてて、勘がよく、たじろがない。
Remiが彼をかわいがるのもよくわかります。SterlingにとってもRemiは父親がわりのようなもので、RemiがJakeやその友人と会っていることを知ったSterlingは(兄に友人ができたことを喜びつつ)、彼らを見定めにかかります。14歳ながらも、Remiのことを守ろうとするんですね。
だがその彼もまた、この戦いの中で無傷ではいられない。

一方で、Remiは狼として「オメガ」であり、Jakeは彼の「アルファ」であるということがわかる。それは彼らの属する群れを2つに割る結果となり、彼らは元の群れを離れて自分たちの群れを持たねばならない。
なかなか大変です。はたしてRemiはSterlingを守りきれるのか、そしてJakeはRemiを守りきれるのか。

補足すると、人狼もののスラにはよく「アルファ」「ベータ」、そしてたまに「オメガ」が出てきます。
動物学上、群れのリーダーをアルファ、そしてそのアルファをサポートする副官的存在がベータ、さらに群れで最弱の個体をオメガと言う。オメガはどうしてもみそっかすにされたりいじめられたりするのですが、群れという全体を構成する上で必要な存在らしい。
スラの場合、大抵オメガは珍重されます。オメガは弱いが、オメガを手に入れるということは名誉であり、オメガを自分のものにするということは自分が群れのアルファになるということを意味する。
で、何か元ネタがあるんじゃないかと思うけど、「オメガは戦いには向かないが、特殊能力がある」という設定がとても多いです。いわゆる超能力レベルのものから、群れをまとめるための何らかのシンパシー的能力まで色々ありますが。また一般に人狼のオメガは「オメガとして生まれる」存在で、オメガでなかった者がオメガになったりすることはない。
このへんの「お約束」はどこからはじまったんだろうなあ。


Remiの印象が前作とあまりにちがってくるのでとまどいましたが、次第にそれも納得いくし(もうちょっと変化の過程がほしい気もしましたが)ドラマティックでおもしろい話でした。
SterlingとRhysの話がまた後に引いてますけど、これはそのうち書くそうです。本当に愛らしいぞSterling。彼らの短編がJ.L.Langleyのサイトにのっていますので、本編読了後にどうぞ(下部の「free story」のところから)。
何かゴージャスで手に負えない男になりそうだなあ、Sterling…

ボリュームが結構あるんですが、スピード感もあり、バランスのとてもいい話です。
前作の「Without Reservations」を楽しんだ人なら絶対におすすめ。

★人狼もの
★運命の相手

★Three-Star rating system★


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