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M/M小説 (原書)レビューブログ

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Bitter Legacy
Goodreads-icon.pngDal Maclean

BitterLegacy.jpg★★★ summary:
ロンドン警視庁、殺人課の巡査部長James Hendersonはたった三年の警察のキャリアで捜査官に抜擢されるほど勘が良く、仕事に誠実だった。
金持ちの親の跡取りになることを拒み、薄汚い部屋で暮らしながら、正義で世界を変えたいと願っていた。

そんな彼は、Mariaという弁護士の殺人事件の責任者として指名される。
Mariaがメモしていた住所に行ってみると、見事なフラットにそれは美しい男が暮らしていた。Benという男は、被害者のことは知らないと言うが、ルームメイトを探していて、うっかりJamesのことを内見にきた客のひとりだと勘違いする。

偶然、Jamesは引越先を探していた。フラットに、そしてBenに惹かれた彼はどうしてもその部屋をあきらめきれない。
もしかしたら、それが人生最悪の選択だとしても。刑事としても。男としても。
.....



Dal Macleanさんのデビュー作!
ラニヨンさんやジン・ヘイルさんに応援されてデビューしたというのも、この骨太なミステリの書きっぷりで納得いきます。

ただしこれを「ロマンス」と言っていいのかどうかはちょっと迷うところでもある。いや二人の男が(もしかしたら二人以上が)恋に落ちているのでちゃんとロマンスだとは思うんだけど。思うんだけど、結構ムカつく男なのですよ相手のBenがね!
いい奴に見えるけど全然誠実じゃないし、ことあるごとにJamesの心を掻き乱して、恋の甘い時間と嫉妬や諦念の苦い一撃とをくらわせてくれますし。もう段々Benにむかついてきて、Benにめろめろで翻弄されて大変なJamesにまでむかついてきちゃったからね、読んでいて。
途中で「いやこれくっつく相手はBenじゃないんじゃないの?」とまで思ったくらいです。実際は…うむ、実際は読んでみてもらいたいです。事件とも関係しているので。

Jamesもほんと人間が甘々で、可愛いっていうより「しゃんとしろお前は!」って気分で自分としてはあんまり感情移入できなかったんだけど、子犬のような無邪気な彼が傷ついていくのは読んでいてなんとも心が痛みました。
もうひとり、重要人物として同じフラットの違う階に住むポルノスターが出てくるんですが、いやもうこの子もいい味を出していて、いろいろと心にグサグサくる。
メインキャラにそれほど心寄せていないのに、最後まで話のパワーでぐいぐい読まされたので驚いたし、個人的にはDalさんはマストバイの作家リスト入りです。

さて、Jamesの、Benとの不安定な関係を軸とした私生活と、殺人事件の捜査の二つがメインの筋立てになっています。
Jamesはまだまだ捜査官として青いけれども、非常に勘がいい。その勘で、彼はMariaのあとに殺された女性が、事件に関係しているのではないかと感じます。これは連続殺人ではないのかと。
しかし二人の被害者をつなぐ何の糸もない。あちこちに奇妙な類似は見える。死んだ女達の性格も、男を自在に操る手管もよく似ている。そして二人とも体には古い傷がある。
偶然にしては似すぎている、でも偶然以上のものだと言うには弱すぎる。何かあるはずだが、それが何なのかJames自身にもわからない。ましてや上司には見えてこない。

この捜査がとてもおもしろいんですが、とてもキャラが多いです。うん。これはもうDalさんは、ミステリとしてもしっかり読めるミステリ書いているので周辺キャラが多いのは仕方ないんですが、日本語で読んでいても大変なんじゃないかってくらい要素が多かった。普通に分厚いハヤカワミステリ読んでるみたいだった。
なので、長いけれども一気に読んだほうがいいです。途中で忘れると大変そう。

途中でJamesが刑務所にいる女シリアルキラーに面会するシーンなんか、本当に映像化してほしいくらいよかったです。
強烈な悪意、鮮やかな支配者の姿。
そして、彼女の姿をそれだけ鮮やかに描いたからこそ、後半に事件が収束していく展開がぞくぞくするような凄みを帯びてきます。もうどうしようもないくらい閉塞的で停滞していた事件が、やっと見つけた突破口からJames自身をも巻き込んで一気に大きな絵図を描き出す。あのカタルシスと、ついにあらわれた真相への絶望感。

骨太で、捜査をがっつり描いていて、とてもおもしろかった一冊です。その一方、ちょっとクズっぽいキャラといい、煮え切らない関係や特に前半の事件の遅々として進まぬ捜査(リアルでいいと思いますが)といい、そういうのが苦手な人は持て余してしまうかも。わりと持って回った言い回しが多いしね。
本格捜査ものが読みたいとか、いきなりハッピーエンドじゃないものが読みたいとか、そういう気分の時におすすめ。でもじつに読みごたえがあって引き込まれた一冊なので、興味があったら是非読んでほしいです。
そしてBenがいかに駄目野郎か私と一緒に語り合ってほしい(本気)。あれだけ美形でモテモテで料理もできて気遣いもできる心優しい男なのにほんとJamesに対してはクズだからね!

心からおすすめなんですが、読む人を選びそうなのでめんどくさいおすすめの仕方になりました。シリアルキラー好きなら是非!

★オープンな関係
★ルームメイト

Weight of the World
Goodreads-icon.pngRiley Hart、Devon McCormack

WeightOfTheWorld.jpg★★★ summary:
Tommyは常に弟を守ろうとしてきた。父親からの暴力も自分が一手に引き受けて、弟にはその拳が及ばないようにした。
弟のためなら世界のすべての苦しみを引き受けてやりたかった。
だが弟のRobは、ある夜にビルから飛び降りて命を絶つ。

何故?
あんなに守ろうとしたのに、何故だ?

理解できないTommyの前に一人の若者が現われる。彼はRobを知っていると言った。
そのZackには、決してTommyに言えないことがあった。
自分はたしかにRobを知っている。だがそれは一夜だけのこと…Robが飛び降りた夜、そのビルでのわずかな出会いにすぎないのだ。
あの夜、命を絶とうとしていたのはZackのほうだった。それを救い、人生に希望を持たせてくれたのはRob。
そのRobが何故まさにその夜に飛び下りたのか、彼にはそれがわからなかった。

二人は、Robが死んだ理由を探そうとしはじめる。
何故? 何故? 何故?
残された者たちはいつまで答えを探しつづけるのだろう。
.....



あらすじでわかるように非常に重い話です。
登場人物が悲惨な状況にあるとか行き詰まっているという話はほかにもあるけれども、この話は「去っていってしまった人の影を追う」話で、残された者たちの行き場のない悲しみと苦しみが全編を黒雲のように覆っています。

ロマンスがないかといえばそういうわけでは(勿論)なく、弟を失った真面目で厳格な男Tommyと、希望を失いながらもその弟に命を救われた(でもそのことを打ち明けられない)若者Zackの二人は、死者の残した痕跡を追いながら少しずつ絆を育んでいく。
しかし、ZackはRobが死んだ夜にまさに現場のビルにいたことを言えていないわけで、その秘密が明らかになった時に兄ちゃんはきっとZackを許せないんじゃないかなーと、ここにもまたどおんと重い時限爆弾が仕掛けられています。
あー、ほんとにキリキリする。胃が重くなる話だ…!

少しずつ見えてくるRobの姿が奇妙なほど明るくて、それが不思議と気持ちをなごやかにもしてくれるし、痛々しくもある。Tommyにしてみればいつまでもフラフラしているたよりない弟でもあったけれど、Rob自身はずっと苦しんでいた。それでもその苦しみの中で精一杯明るく生きていた気配はある。
実際、読んでいてなんだかRobの印象がひっくり返ってきて、最後にはけなげに思えてきてしまったくらい。
そしてあの運命の夜、飛び下りようとしていたZackを引き止め、人生を語り、煙草をわけあって一緒にダンスしてくれたRobは、たしかに一瞬の輝きを放っていた。その輝きに惹かれてZackはもう一度人生をやり直す決心をするのです。
なのに何故、Rob自身はそこで諦めてしまったのか。手放してしまったのか。
Zackにとって、それは解かねばならない謎なのです。とんでもなく緊張しながら、会ったこともないRobの兄の家のドアを必死で叩きにいくくらいに。

言っておくと、きっぱりと白黒つけてくれるような、すべてが明らかになって目の前に分けて並べられるような話ではないです。
むしろ人には他人のことは完全にはわからないし、誰かを完全に守ることなどできないという、そういうぼんやりとした限界が見えてしまうような話でもある。
神話のアトラスは世界の重さを双肩で支えたけれども、誰にも他人の世界の重さを肩代わりしてやることはできないのです。

謎を解くことよりも、人の死をどうやって残された人たちが整理し、あるいは背負い、悲しみ、その悲しみを消化していくのかというところに眼目のある物語です。
主役二人にもそれぞれの弱さや欠点があるし、それがむき出しにされる瞬間もあって、この兄貴に苛々させられたりもする。「正しい人」って困ったもんだ。

読む時の気持ちを選ぶ一冊で、そして読んですべてが晴れるかというとわからない。愛とロマンスはちゃんとあるけどね!
それでもよい物語だったと、読み終わった時にそう思った一冊でした。
人が人と理解しあうことには、たしかに限界がある。それでも、きっとそれだからこそ、そうして得られたつながりは大切で、思っていたよりも脆いその絆が、ときに失われたり、またつながりあったりすることが人生の陰影なのかもしれません。

重めに浸りたい時の一冊として。
こういう話もあるところが、M/Mジャンルの広さでもありカオスの一面でもあるなあ。

★秘密
★喪失

The Raven King
Goodreads-icon.pngNora Sakavic

TheRavenKing.jpg★★★ summary:
大きな犯罪組織から逃げているNeilを、Andrewは守れると言った。学校に残ってExyをプレイするかどうかはNeil次第だと。
だがAndrewは代価を要求する。天才プレーヤーKevinが逃げ出さないよう、同じチームに引き止めておくこと。

誰もが過去から逃げている。
彼らを守っているのは、社会病質者の青年Andrewだけ。
いびつな、一瞬にして壊れそうな状況の中で、少しずつNeilたちのチームはこれまでなかったまとまりを得ていく。
それは団結ではない。
きっともっと必死でもっと切羽詰まった、一秒ずつのサバイバル。

そんな中、AndrewとAaronの双子にも過去が追いついてくる。いつも一緒にいるくせに互いを憎んでいるこの双子たちにもそれぞれの物語があり、それがついに白日のもとにさらされていく。

そしてNeilの恐るべき敵も、Neilの存在に気がついていた。Neilはついに選択を迫られる。
すべてを捨てて逃げるか。手に入れるつもりもなかったなにもかもを後に残して。
それとも、足をとめて立ち向かうか。たとえ死が避けられないとしても。
.....



All for the Game2。
逃げ回り、警戒心が強く、人を信用しないNeilが少しずつ変わっていくシリーズ二冊目です。
彼とAndrewの関係もこの二巻で大きく変わる。

Andrewは、Neilが大量の偽パスポートを持っていることも逃亡中であることも知っているけれども、周囲にそれを話す気配はない。
彼にとって大事なのはKevinの身の安全のことだけに思える。
とは言っても、サイコパス気味で薬を飲んでいるAndrewに保護欲があるようには見えず、Neilに対してもなんだか「珍しいいきもの」「便利かもしれないいきもの」を見ているような感じです。

そのAndrewが大きな傷をかかえていること、そして彼なりの無慈悲で効率的な形でそばにいる人間を守っていることが、この二巻で見えてきます。
痛みをどこかに強くとじこめてしまったAndrewは、決して弱音は吐かない。ただ自分と世界を切り離しているだけ。
彼を覆った鋼の殻の向こう側をのぞけるのは、あるいはのぞこうという度胸を持つのは、同じくらい大きな痛みを背負って前に進みつづけているNeilだけなのです。
だからこそAndrewはNeilを嫌いながら興味を持ち、Neilの薄皮をはぐようにその中をのぞきこもうとする。
でも忘れてはならない。深淵をのぞきこむ時、向こうだってこっちがのぞけるということを。

二人のわずかな、一瞬だけかさぶたの内側を見せ合うような交流は、ピュアでもあるし痛々しくもある。

いろんな血なまぐさい設定はありながら、スポーツで青春で全寮ものの王道をきちんと踏んでいるシリーズだと思う。
青少年のわかりあえなさと、わかりあえないからこその互いの引力(二人だけでなく、チーム全体としても)が時に繊細に、時に荒々しく描き出されています。

一巻で少しゆったり目だった展開が、キャラ紹介完了で二巻になって走り出した感じ。ほかのチームの面々もはっきりとした個性や役割を見せて、このでこぼこで落ちこぼれのチームがまとまりはじめます。
Neilは気がついていないけれども、彼らをまとめていっているのはNeilの存在なのです。人のことに興味がないといいながら人のことを放っておけず、逃げるべきだとわかっていてもExyを愛するあまり(そしてチームにも愛着を持ちはじめて)自分の命の残りが減っていくのにそこを去ることができない。彼には自分でも気がついていない強さと統率力があって、それが見えてくるのもこの2巻からです。読んでいてとても応援したい。
それにしても人からちょっと優しいことをされるたびに、思考停止でフリーズしてしまうNeilがかわいいやら不憫やら。

2を読むなら3も買っておいたほうがいいですよこれは。
そこそこ青春展開だった2巻の後半から一気に怒濤の血まみれ展開がはじまって3巻になだれこみます。
YAだけれどもむしろ「YAはあまり」という人に読んでほしいシリーズ。有無を言わせぬ少年漫画っぽさもあって楽しいです。

★青春
★自己犠牲

How to Howl at the Moon
Goodreads-icon.pngEli Easton

howtohowlatthemoon.jpg★★★ summary:
Mad Creek。カリフォルニア州の、ひっそりと引きこもった山の中の小さな町。
その町には秘密があった。
そこは犬たちが暮らす町だったのだ。人の姿になれる犬が。

そうとも知らず、一文無しのTim Westonは人生を立て直すために町の小さなキャビンにやってくる。
新種のバラを育てられなければ、売れるだけの野菜を育てられなければ、半年後にはホームレスになるしかない。
金もなく友達もなく、信じられる相手もいない。Timは必死だった。

Timの態度を不審に思った町の保安官Lance Beaufortは、こっそりマリファナを育てようとしているのではないかとこの若者に目を光らせる。Lanceの家系は代々のボーダーコリーで、群れを守る義務感は強烈だ。
その義務感が暴走して、ある夜彼は思いきった行動に出る。犬の姿でTimに近づいたのだ。何をたくらんでいるのか探り出してやろうと。これはのぞきではない、潜入捜査だと自分に言い聞かせながら…
.....



Howl at the moonシリーズの一冊目。
Eli Eastonさんはもともとユーモアのある書き口で注目されてましたが、このシリーズで人気作家としての地位を固めた感がありますね。決してユーモアがいきすぎず、キャラが可愛くてそれぞれに大真面目で、読んでいて気持ちよく安心して手に取れる作家さんです。

シフターものはM/Mジャンルでとても大きな勢力で、メインは狼ながらも昨今はそこにオメガバース設定が入ってきたり、さらに狼以外の動物シフターネタももはや定番となった感があります。
その中で、このシリーズは犬のシフターがテーマ。それも飼い犬だった犬たち。ここは珍しい。
飼い主と強い絆を結んだ犬のほんの一部は、飼い主が死ぬと強い悲嘆の中でどうしてか人間に変身する力を得る。その能力を得た犬たちの子孫は、生まれながらにして変身の力を持っている(Lanceの家系は代々そう)。
なので、自分の世代で人に変身できるようになった犬たちは、必ず愛する人間との別れを経験している。そこには愛と悲しみと二度と取り戻せない郷愁があふれていて、犬好きならもうそこだけでぐっとくる。自分の体の仕組みすら変えてしまうほどの愛と献身。犬ってそうだよね!とぐっと拳を握りたくなるような設定です。

人間の姿になった犬たちですが、犬としての本能や種類の違いが色濃く残っていて、ボーダーコリーの保安官Lanceの群れに対する忠誠心(ボーダーコリーは牧羊犬ですんで群れをまとめたり守ったりする性格)、なつきやすく忍耐づよいブルドッグのGus、そして警戒心が強く自分へのハードルが高いジャーマンシェパードのRomanなど、それぞれの犬の性格をよく描き出しているところもクスッとさせられます。
ていうかとにかく本当に可愛いな!

物語の中心は、町の秘密を知らないTimと、こいつはあやしいとTimに目をつけた保安官のLance。
生真面目きわまりないLanceは、上がり症ですぐドギマギするTimの態度に不信感を抱いてあの手この手で近づこうとするわけですが、Timも人付き合いは不器用だがLanceも空気読めないことにかけては引けを取らない。
全然駄目だ、この二人。
でもそこに謎の犬「Chance」が現われてTimの心をさらいます。孤独で、人間相手にあまりいい思いをしてこなかったTimははじめて誰かと一緒にすごす未来というものを夢見る。野菜を育てながらずっと一緒にいられたら。その誰かが犬であっても…というか犬なら傷つけたり裏切ったりしてこないはず。

不器用だけれどもそれぞれに一生懸命な二人(と一匹?)。ぎくしゃくと、まるで相手の足を踏んづけずにはいられないダンスのように足運びを間違えながら、二人の関係は進んでいきます。
そこにマリファナ騒動とか、Lanceのママの干渉とか(ママ…本当に、何してくれるんじゃ…)いろんな町の問題がやってきて、笑えるエピソードも絡めながら物語は軽やかに進んでいきます。
犬のひたむきさ、そのぶれることのない愛情と忠誠心にとにかくぐっとくる。こんな町があったら絶対住みたいぞ。
気持ちが元気になれる一冊。猫も大好きですけど、犬いいよねほんと…

全体にBLに近い雰囲気もあるので、M/M初心者とか入口入りかけとかの人にもおすすめです。犬好きならとにかく読みたいシリーズ。

★犬シフター
★不器用カップル

The Magpie Lord
Goodreads-icon.pngK.J. Charles

TheMagpieLord.jpg★★★ summary:
Lucien Vaudreyには上海から戻ってくるつもりなどなかった。
だが父と兄の死によって、新たなLord Craneとして伯爵位を継いだ彼は、やむなく永遠に足を踏み入れたくなかった地に戻ってくる。イギリスへ。
そこで謎の自殺願望にとらえられ、追いつめられた彼は超常的な力の救いを求める。

術師であるStephen Dayは、Craneの家系に憎しみを抱いていた。暴君であったCraneの父の権力によってStephenの家族は破滅させられたのだ。
だが魔術を欲のために濫用している者がいるなら放置しておくわけにはいかない。
やむなくCraneの依頼を受けた彼は、Craneが自分の想像とまるで違う男であることに驚く。家族によって上海に追放され、そこで何も持たずに生きのびてきた男は、体にカササギのタトゥを入れ、傲慢ではあったが残酷ではなく、貴族の血を持ちながらそれを恵みとは思っていない。そしてStephenにはっきりと興味を示していた。

そのCraneを誰かが殺そうとしている。とても強力な力を持つ術師が。
罠と魔術の入り組む中を、二人は生きのびられるのか。その力をあわせて…
.....



レビューしたいと思っていて、ここまでのびてしまったMagpieのシリーズ、やっとレビューだ!A Charm of Magpiesシリーズ1。
最初の版が出たのは五年くらい前になりますが(表紙も変わってる…)当時とても話題をさらったシリーズで、K.J. Charlesさんもすっかり押しも押されぬ人気作家になりました。ヒストリカルやオカルトジャンルを広げてくれた作家さんだと言ってもいいでしょう。
その原点はやはりMagpieシリーズ三部作。

Magpie、つまりカササギは、イギリスでは数え歌に使われていて(作中にも出てくる)たいへんなじみの深い鳥なんだそうです。
主人公のひとり、Lord Craneの紋章はカササギ。そして上海にいる間に、Crane自身もカササギのタトゥを(五羽!)体に入れている。このタトゥがやんちゃ。

このCrane、一冊目の最初こそ呪いにやられてへろへろしてますが、お貴族様のくせにじつに食えない、傲慢かつしたたかで鋼のような強さを持った男です。魔術がとびかう中、彼自身にはなんら魔術の素養はないいわば「無力」な人間のはずなのに、そんな弱さや恐怖はみじんも感じさせない。
それもそのはず、父に上海へ追い出され(海で死ぬかのたれ死ぬかと)、着の身着のままたどりついた上海でただ一人の下男とともに(彼がまたいい味を出している)文字通り何でもして叩き上げてきた不屈の男なのです。
ただの貴族ではない。なかなか絵に描いたようなスーパー攻め様でもある。彼は魔術を恐れない。見きわめて、自分の手にある武器や有利を使って戦うだけです。金や地位も含めて。

彼を救うために雇われたStephenは、警察とはまた違う英国のもうひとつの秩序を守る組織に属して、魔術の濫用について調査や取締りをしている。
その仕事に身を捧げるように働いている彼は、金がなく、疲れきっていて、はじめはCraneを救うことにも気がすすまない。前のLord Craneに家族を破滅させられたのだから当然ですが。
しかし正義を信じるStephenは、純然たる義務感からCraneを救うために力を尽くすし、Craneはそんな彼の頑固な誠実さに惹かれます。
そしてStephenの中には、Craneの揺るぎない力を、その傲慢さをどうしようもなく求めてしまう部分がある。Stephenにとってそれは手をのばしていい欲望ではないけれども、イギリスの法や常識など歯牙にも欠けないCraneは欲望に正直なのですよ。上海仕込みだからね。そうじゃなくてもCraneはそういう男だった気がするけどね!

この作者さんはとてもビジュアルな世界を作り上げるのがうまくて、Magpieでもしっかりその魅力は発揮されています。とんでもないお値段の服に身をばりっと包んだ貴族のCraneとよれよれで小柄なStephenという図(そして魔術の世界ではStephenが圧倒的な力をもつという逆転)、Craneの体を舞うカササギのタトゥ、ロンドンのよどみながら活気溢れるスラムと荘厳で空虚で冷たい貴族の館。Craneが語るカオスで貪欲な上海の回想。上海は実際には出てきませんが、もうひとつの舞台と言っていいくらいの存在感があり、そのミステリアスさ、オリエンタルで超常的な雰囲気がシリーズ全体に広がりを与えている。
舞台の雰囲気自体がエロティックというか、猥雑さがあって、本当になんでも起こりそうな、したたるような人間の欲と闇を感じさせてくれるのがこのシリーズのよさでしょう。その絡み合った欲と魔術の中をCraneはあくまで頭を昂然と上げてしたたかに、Stephenは自分の無力に打ちのめされながらも誠実に、一歩ずつを切りひらいていく。

かなり血しぶきがとびますので苦手な人ご注意で。
オカルト、ヒストリカル好きなら鉄板!

★魔術
★タトゥ

The Mermaid Murders
Goodreads-icon.pngJosh Lanyon

MermaidMurders.jpg★★★ summary:
FBI美術犯罪捜査班の捜査官、Jason Westは休暇から呼び戻されて、行動分析課BAUの悪名高きプロファイラーSam Kennedyの臨時パートナーとして田舎町の少女行方不明事件の捜査にあたる。
その町では16年前の夏、次々と少女が消え、その犯人をとらえたのがKennedyなのだった。
今回の誘拐者は模倣犯か?
それとも、Kennedyはまちがった犯人を逮捕して、今でも連続殺人犯は野放しなのだろうか?

ぶっきらぼうで冷たいKennedyに苛立ちを感じながら、Jasonはやむなく捜査に協力する。彼自身の問題を抱えたまま。
かつてJasonの家族は夏のバケーションにこの町に滞在したものだった。そう、16年前の事件の夏も…

そして、ふたたび殺人が始まる。
.....



The Art of Murder1巻。
美術捜査班所属のFBI捜査官と、華麗な経歴を持ちながら大きな事件で大失敗をしてキャリアがあやうい伝説のプロファイラー。
もっともKennedy自身は自分のキャリアのピンチを気にしているふしがない。ひたすらに無愛想で失礼なくらいの男です。
かつてFBIの「ヒーロー」であった男。今は「お荷物」である男。しかし彼には事件を解決する以外の興味はなさそうに思える。
Jasonに対する興味すら、かけらもないように思える。

Kennedyは有能なプロファイラーですが敵の多い男で(そしていかにも敵を作りそうな男だ…)、FBIの中にも彼を邪魔だと思っている面子がいます。
じつはJasonの上司もそのひとりで、JasonがKennedyの失敗を報告できないものかとパートナーとして送りこんだのだった。Jason自身はそのつもりはなかったが、Kennedyはそれを察知して二人の間に距離を置いているようでもあったり。Jason自身は板挟みな気分だがどうしようもない。
16年の歳月をおいて再開(?)された連続誘拐事件の中、捜査に当たる二人のFBI捜査官の間にはそんな大きな溝がある。でも勿論、事件は待ってはくれない。
町の人間も、Kennedyをかつてのヒーローとして歓迎するべきか、かつて間違った犯人を逮捕した男として見下すべきか、決めかねている。粘っこい膠着感が物語全体に流れています。

事件捜査の過程はきっちりと一段ずつ描かれており、それを通して町の人間模様も描き出されていく、ここは作者の筆致のうまさが光りますね。
こういう閉鎖的な空間を書かせるとLanyonさんは本当にうまい。

Jason自身にも、他人のことにかかわり合っている場合ではない事情があります。肩に銃弾を受けた体験から心がまだ回復しきっていない。
その弱みを上司やKennedyに見せまいとして意地を張りながら、彼はプロフェッショナルとしてのKennedyに対して尊敬の念を抱いていく。

だがKennedyは決して軽く近づいていい男ではない。アメリカ中をとびまわりながら人間の暗い闇をのぞきこみ、分析して、犯人と同じ闇の中に降りてその心を暴き出してきた男には、ふれがたい冷たさがある。
33歳のJasonと46歳のKennedy。年齢の差もあり、経験の差もあり、世の中に対するまなざしも大きく違う。
近づかないのが利口だと、Jasonもわかっている。近づいたところでその先に何かが生まれるわけでもないことも。
だからといって、すべて理性でわりきれるくらいなら誰も恋などしない。(その気持ちが恋なのかどうかは彼自身にもあやしいが!)
はたして二人の距離は縮まるのか。肉体的に、そして精神的にも。

事件にがっちり軸足を置きながら、その中で翻弄されつつ立ち向かう男たちの、意地と強さと、人には見せない弱さの物語。
作者の本領発揮の一冊ではないかと思います。じっくりゆっくり、行きつ戻りつしながら積み重なっていく二人の関係が味わい深い。
捜査もの、大人の男のじれったい関係が好きな人におすすめ。

★連続殺人
★プロファイラー

The Foxhole Court
Goodreads-icon.pngNora Sakavic

TheFoxhallCourt.jpg★★★ summary:
All for the Game1巻。
ヤクザもの×天涯孤独×スポ根×メンヘラ。言ってしまえばそういうシリーズ。
そして青春。

Neil Jostenには秘密があった。今の誰にも正体を知られるわけにはいかず、過去の誰にも居場所を知られてはならない。
だがExyというスポーツは、いくら母親に折檻されようがやめられなかった。逃げつづける彼の、それだけが生きる意味だった。
8年間、大量のパスポートを使い、髪の色と瞳の色を変えながら彼は生きのびたが、母親は旅の途中で死んだ。車ごと彼女を燃やして見送ったのはNeilひとり。

大学のチームにスカウトされ、彼はそれが最悪の判断だと知りながらパレルモの州立大学のチームに加わる。そこはまるで「寄せ集め」としか言いようのないプレーヤーの巣窟で、Neilも早速ドラッグを盛られてその洗礼を受ける。
いつか過去に追いつかれたらここも逃げなければならない。
今の自分を捨てて。次はどこへ?
それともここで、戦うに足るものを見つけられるのだろうか。
.....



全三巻のスポ根もの。て言ってしまうと語弊があるけど、根本的にはこれ青春小説だと思うんです。孤独な主人公がついに仲間を発見し、お互いを変えて、友情を軸にチームの勝利と栄光への道を模索する。

しかしこの主人公のNeilは組織から逃げつづけている男。見つかれば悲惨な死が待っているとわかっているし、いつか見つかると思って諦めているふしもある。
チームメイトもじつにカラフル。
同じチームにいるKevinはこのスポーツExyの生みの親を母に持ち「Exyの息子」と言われるエリートプレーヤーである一方、ヤクザ組織との関係も深く、かつていた常勝チーム内での自分の位置を示す「2」のタトゥを左頬に入れられている。
そのKevinを奇妙なほどに守っているのがAndrew、少年院上がりの凶暴な少年。普段は裁判所命令で感情を抑える薬を飲んでいて、いつも退屈したような顔をしていますが、一瞬で凶暴になる絵に描いたようなメンヘラ。そして優秀なゴールキーパーだが何のやる気もない。
彼はNeilが何かを隠していると勘で察知し、Kevinを守るためにNeilからその秘密を引きずり出そうとするのです。

ほかにも様々にアクの強い少年少女が寮で暮らしながら、ゴタゴタとExyのシーズンを戦っていく。スポーツ以外のことでも、彼らはそのシーズンをのりきっていかなければならない。いやいや、じつに騒がしいシーズン。大学スポーツも命がけだ。

Exyというのは作者が考え出した架空のスポーツで、ラクロスとアイスホッケーを合わせた感じの非常にフィジカルコンタクトが激しいスポーツだとのこと。
Neilはアタッカーで、大体は二人一組で攻め上がっていく。
まあNeilはアタッカー向きだよね。負けず嫌いでどこか自己破壊的なほどに衝動的なところもあり、一巻では敵にするべきでない相手に喧嘩を売ってしまう。その結果、チームメイトが命を落とします。
そこから話はまた新たなフェイズに入っていくのだけれども。逃げなきゃ逃げなきゃと言いながら、そのNeilの中には運命に対する怒りがあって、そのはけ口として自分に許しているのがExyだけなんだろうな。
Andrewがキーパーっていうのはもうプレイ中に「動きたくねえんだろ」感がすごく強い。でもまあ、彼もちゃんと理由があってキーパーなのです。それはまだ先の話。

YAなので全体にエロはなく、一巻はもう最後まで「誰とカプになるんだ!?」の問いがぶらさがったまま。その辺とか、Neilが心を少しでも開いていけるかな…というのは二巻以降に持ち越しで、まず一巻は導入部。
GRのレビューで「二次っぽい」という評価を見て膝を打ったんだけど、なんていうか学園パロっぽいキャラの濃さと設定の尖り方があります。漫画っぽいというか。私はそれはすごく好きなので、是非読む側がのっかっていって積極的に楽しみたい三冊。三冊通すとかなりえげつない(痛い)シーンもあるのでそこはご注意。
主人公の名前が同じせいもあるだろうけど、読みながらドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」シリーズを思い出した。あれも人をたよることを知らない主人公の話だった。そういう青少年の痛々しさ、ギザギザハート的な繊細さが隠しきれないNeilの成長を読めてよかった。

一巻はKindle無料だし、三冊セットもあるので、読む時は一気読みオススメです。
三巻通して、追いつ追われつのサスペンス感と、Neilの成長ぶりと、大学スポーツリーグでの栄光と挫折の階段を楽しめるシリーズ。ぐっとくるロマンスも(最後には)ちゃんとあるよ!

★スポ根
★組織からの逃亡

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