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M/M小説 (原書)レビューブログ

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Holding Out for a Fairy Tale
Goodreads-icon.pngA.J. Thomas

HoldingOutFor.jpg★★ summary:
サンディエゴの殺人課刑事Rayは、自分がバイだと発見してこのかた、いける男をお持ち帰りして新たな世界を広げていた。
そんな夜、いきなり従兄弟があらわれてその夜の相手を人質に取り、Rayに行方不明の娘を探し出せとたのむ。いや、脅す。

だから家族は嫌いなのだ。ギャングの一家を捨てて、ここまで警官としてやってきたのに。
いつか全員を檻の中へ叩きこんでやるために。

それでも行方不明の姪を放っておけず、彼女の大学の寮へしのびこんだRayは、そこでFBI捜査官のElliot Belkampと再会する。
ホットな関係だったはずが、何故かRayが怒らせて気まずく別れて以来の再会だった。
.....



A Casual Weekend Thingの続編。とはいっても主人公も舞台立ても違うので、独立して読める感じです。
一冊目で出てきてたRayのやんちゃで手に負えない、なんかけなげなんだか無茶なんだかわからん感じが気になって、二冊目も読んでみましたが、期待を裏切らぬ型破りでいい加減で尻軽で、世界を信じないけど相棒のことは愛していて、その相棒がどこかの男とデキちゃった今は俺はひとりで生きていくんだぜ!な男でしたね。素晴らしい。
でもRayは犯罪組織の実家を捨てて、身ひとつで刑事としてキャリアを作り上げてきた正義の男でもあり、仕事に関してはまわりがついていけないほどの完璧主義者で、一枚剥げば(いや多分数枚剥げば)とても優しい男だったりもする。
そして、いつか捨てた家族が、もしくは敵対する組織が自分を殺しにくるとわかっている。歩く武器庫のように常に武装し、常に注意を怠らない。
そんな自分を誰にも見せずに。

さて、そんなRayと前の巻でなんかいい感じになってたFBIのElliot Belkamp。こっちは絵に描いたようなスマートでイケメンの捜査官。
この二人はほとんど恋人というものを持ったことがなく、だからお互いに対する気持ちを性欲とすりかえようとしますが、あまりうまくはいっていない。RayはElliotをまたベッドに引きずり込みたいが、Elliotはそれがすごくよくない考えだとわかっているので、かわす。
彼は、あまり未来はない関係だと思っている。特に、Rayがカミングアウトできていない今は。
何も恐れないように見えるRayにとって、カミングアウトはひとつの大きな壁。あと、ベッドの中でボトムになるということも。多分それは誰かに対して無防備になれないRayの、誰にも見せられない顔なのだろうけれども。

ぶつかりながらも、二人はいろいろなルールを無視して一緒に事件の捜査を始めます。なかなかその捜査ぶりもおもしろいし、Elliotの貧しい食生活をRayが改善しにかかるところも可愛い。
再会からくっつくまで、わりとじっくり関係の再構築が描かれていて、不器用だったり淋しかったりする強がる男たちの姿にあちこちニヤニヤしてしまう。

Rayみたいなキャラが好きなら、一冊丸ごととても楽しめる一冊。型破りと真面目くん(まあRayにくらべると…)、という組み合わせも鉄板です。
Elliotが段々と、隠されたRayの素顔や表情を読めるようになっていくところがまた可愛いんだな。それでいちいちドキッとしてあわてるRayも可愛いぞ!
ケンカップルに焦らされたい時の読書におすすめ。

★刑事×FBI
★再会

Shiver
Goodreads-icon.pngJocelynn Drake、 Rinda Elliott

shiver.jpg★★☆ summary:
Lucas Valloisは「罪の街」シンシナティで今一番ホットなクラブシーンを作り出しているクラブオーナーだ。
自分の力のみをたよりに叩き上げてきた億万長者は、すべてを自分の思い通りにコントロールしないと気が済まない。
彼が心を許すのは二人の戦友と、もう一人の若いシェフだけ。だがLucasは常に彼らを「守る側」であって、「守られる側」には決して立たない。

そんな時、Lucasに身の危険が襲いかかり、やむなく親友の進言を入れてひとりのボディガードをそばに置く。
ルーマニア出身のセクシーで、強気で、Lucas相手に遠慮しないAndrei Hadeon。
これまで誰も踏みこんだことのないLucasの心の奥までのぞきこんでくるような男。
.....



Unbreakable Bondsシリーズの1巻。
このシリーズは一冊ずつカプが変わっていく一話完結のシリーズです。その中心は30代後半の三人の男たち。

三人は戦場でともに戦い、強い絆を結んだ。そして今、一人は大成功したビジネスマン、一人は医者、一人はボディガード会社の経営者となって、それでも常に相手の背中を守り、相手のことを一番に思っている。
この三人の固い男の友情が読んでいてとても楽しいシリーズなんですよ!
三人ともがいやになるくらいの「アルファメイル」、いわゆる俺様タイプなんだけども、彼らの間には生死を一緒にくぐってきた人間たち特有の馴れ馴れしくないが熱烈な気持ちの通じ合いがある。
もうこいつらでカプになっちゃえばいいんじゃないのってくらい。…翌日には殺し合ってそうだけど。その夜には一緒に飲んだくれて笑ってそうだな。

さて、そんな固くつながりあった三人(プラスして若いシェフがいるんだけど、この子は三人に徹底的に過保護に守られているのでちょっとポジションが違う)の中の一人が恋に落ちると何が起きるかというと、まず「友情の中に入りこめない」という事態が起きますね。
特に今回LucasのボディガードになったAndreiは、友達の中の一人の部下でもあって、結構微妙な立場にある。なのでお互い「手を出すわけにはいかない」と念仏のように唱えているんだけれども、恋の力には抗えずに関係を結んでしまう。
でもじつに不器用な男どもなので、気持ちのことなんか何も言わずに「ただの体の関係」で「シリアスなものじゃない」的な言いわけをしたり、思った以上に近づいてなんだか焦れ焦れするような会話を交わしたり、またすれ違ったりするんです。
そこのところの「遠さ」と、裏腹のエロの熱烈さに勢いがあって読みやすい。あとお互いの不器用さがなかなか半端ない。体はつながるけど全然精神的な進展がないぞ!

とにかくメインの三人の友情が固すぎておもしろいので、カップリング的な萌えはちゃんとありますが、メインディッシュ(友情)にくらべるとちょっと見劣りするかなという印象はある。でも熱血のAndreiと彼に揺さぶられて動揺するLucasという組み合わせは、強い男同士のカプが好きなら鉄板で楽しい。
腕っぷし勝負になったとしても勝ってやる、という気概が両方から感じられるのがいいのです。まあAndreiがゆずってあげそうだけども。

シンシナティが舞台の話はわりと珍しく、街の輝くようなナイトライフの中、欲や犯罪者がうごめく街の闇をテリトリーとして守っていく三人の姿がまた萌えます。Lucasは自分の力の及ぶ限り街を作り直そうとしていて、その反動で命を狙われているのです。
犯罪、ギャング、地下組織。彼らと戦うLucasたちの手も決してきれいなばかりじゃないだろうという感じがひしひしとして、いい雰囲気。

三人セットのちょいワルな男たちを味わえる楽しいシリーズです。先の巻では逆転のパワーゲームとか古い戦友同士の恋心とかいろいろ読めるよ!

★戦友
★夜の街

The Little Library
Goodreads-icon.pngKim Fielding

TheLittleLibrary.jpg★★☆ summary:
Elliott Thompsonは一度は将来を嘱望された歴史学者だったが、男に利用されて職を失い、名声も失ってカリフォルニアの町でひっそりと通信大学の講師をしながら暮らしていた。
彼の気晴らしは、毎日のジョギングと、書店サイトで買いこむ大量の本だけ。
気がつけば家の中はゴミ屋敷、とはいかなくとも、本に占拠されつつあった。

兄にうるさく言われて、Elliottはほとんど気まぐれから家の前に小さな「図書館」を作る。実際にはそれはただの本棚のようなものだ。
最近話題の、家の図書館。誰でも本を借りていいし、読み終わったら返却するか、かわりに自分が人にすすめたい本を置いてもいい。

それは小さな一歩。
その一歩から、Elliottは近隣の住人のSimonに出会う。膝を負傷して退職した元警官とのその出会いが、Elliottの世界を少しずつ、そして大きく変えはじめた。
.....



なんかもう、可愛い話です。
別に可愛いエピソード満載とかそういうわけではないんだけども、Elliottの引きこもり具合が読んでいてじつにわかる。共感できる的な意味でわかる。
たとえ人生に挫折してなくても、ストレス溜まった時にAmazonでぽちぽち本をたのみまくる生活に耽溺してしまったらもうそこから出ていくのは面倒くさくてしょうがないよね!わかるわかる!って最初の章読みながら完全にうなずいてました。ましてや人生に挫折してそうなったならもう一生その穴ぐらから出ていける気がしない。

そんな非社交的な生活を送っているElliottは、本の処分方法を求めて、いわゆる私設図書館的な本箱を庭に置きます。
これ実際にここ数年アメリカではやりの運動で、本の貸し出しというよりは交換に近い形で本のやりとりをするんですね。とても楽しそうだと思う。紙の本ならではの自由さだなあ、これは。
もちろん庭に十数冊の本を出したところでElliottの家の中や本棚が片付くわけもないのですが(一冊もらわれていかれたら一冊どこかからやってくるシステムだし)とりあえず何かやっとけば兄貴にしばらく口出しされないですむだろという、逃避行為の一環です。
とはいえ、善意の図書館というアイデアにはElliottも心惹かれている。誰が借りるかもわからないのに、誰も借りていかないかもしれないのに、自分の蔵書の中からバランスよく本を選ぼうと考えこむElliottの姿からは、本への愛情と彼自身の誠実さが読みとれる。

真面目なだけに、かつて男に裏切られたことの傷はElliottの中に深く残っている。
憎しみや恨みというより、自分への失望感が大きい。なんであんなふうにころりと引っかかってしまったのか、自分はそれだけの人間でしかなかったのか。
そういう不確かさが、自分を信じきれなくなってしまった苦しさが、今でもElliottの中にひっそりと目立たない棘のように刺さって抜けていないのです。見えにくいけれども、たしかにそれはそこにある。そして多分、自分でも知らないうちにその小さな傷はちょっと膿んでいる。

そんな彼が出会ったのは、元警官で、膝を撃たれてリハビリ中のSimon。
二人は時おりの近所でのすれ違いから、そしてElliottの小さな図書館から、出会って、少しずつおずおずと距離をつめていきます。
Elliottの自己評価の低さをSimonはそのまま包みこんでくれるし、ゲイとしての恋愛経験のないSimonの経験不足をElliottは笑わず、一歩ずつ一緒に進んでいってあげる。杖をついて歩くSimonに歩調を合わせるのと同じように。
何気なかった日々の光景が、小さな図書館ができたこと、そしてSimonがその光景の中にいることで変わっていく。毎日が少しずつ特別に感じられはじめる。
このあたりの日常によりそった描写が自然でじっくりと読ませます。

図書館の本が借りられていくことでElliottは世間とのつながりを感じ、実際に借りていく人たちの顔を見たり言葉を交わすことで自分の本が、そこにこめた思いがとどいているような気持ちになれる。
己への信頼も他人への信頼も一度失ってしまったElliottにとって、兄やその妻のような「よく知っていて支えようとしてくれる人」よりも、本をただ借りていくゆきずりの人の笑顔のような小さなつながりこそが必要なものだったのかもしれません。世の中には悪魔やいじわるな小鬼ばっかりじゃないんだよ、という実感。
そしてそこには彼を愛してくれる誰かもいるし、出会いもあるのです。

中盤すぎあたり少し話のペースが平板だった気がするんですが、全体としてFieldingさんらしい、丁寧でよくまとまったいい話でした。おっとりしたユーモアも楽しめる。
Simonがなんだかほのぼの系のキャラで、元警官という実感があんまりわかないんだけど(仕事中に膝を撃たれてはいるんだけど)可愛いからいいや。
ほのぼのとデートを楽しむ大人二人の男を、こっちもほのぼのとしながら読ませてもらった、そんな心あたたまる話でした。

犬可愛いので犬好きにもおすすめできる話です。二人とも大人なので声を荒げて感情的に衝突したりしないし、一言の誤解でくいちがったりもしない、安心して読める一冊。

★私設(小型)図書館
★人間不信

Plenty of Fish
Goodreads-icon.pngJosh Lanyon

PlentyOfFish.jpg★★☆ summary:
FinnはBlairのことを愛している。BlairもFinnのことを愛しているが、それは「そういう」愛ではないのだという。

Finnにはわかっていた。Blairはもっとキラキラした、物語のようなロマンスがほしいのだ。子供のころからずっと知っていた相手への気持ちにはそんなロマンスが欠けている。
Blairがいつも求めているのは、そんなロマンスそのものへの恋。相手への恋心はいつも二の次。

それでもFinnはずっとBlairのそばにいたし、Blairは必ずFinnのところへやってきた。
海にはたくさんの魚がいる。恋の相手には事欠かないはずだ。
だがその中のたった一匹に恋をしてしまったら? その時、海の広さはただの不毛な場所になりはしないだろうか?
.....



昔から知っている二人の、かわいい、ちょっとだけドラマティックな夏の恋物語です。
友達から恋人になりたい。それは的外れな恋心なのか?

FinnはBlairをずっと大好きだけれども、仕方なく親友が次から次へとロマンスの相手を変えていくのを見ている。
恋人にはなれなくとも常に自分は親友の「特別」であると思っているから、どこかで最後には自分のところへ戻ってくるだろうと思っているところがあります。
それでもBlairが、恋人とのデートの予行演習に自分を使おうとする無神経さにはちょっとカチンとくる。
たとえ、Blairと時間を一緒にすごせるならと承知してしまうとしても。ていうか承知してしまうんだけどね!駄目でちょとかわいそうなFinnなのです。

Blairだってそこまで無神経ではないだろう…ないはずだ…と読者的にもちょっとムカッとしながら(可愛い二人なんだけどね。親友ものって大好き)読んでいくと、Blair視点も出てきて、無神経ではないけどもしかして衝動にまかせて失敗しちゃう子かな?というところが見えてきます。
彼はFinnが恋しい。それを恋だと思っているわけではなく、ただ「昔ながらのFinnが恋しい。最近ちょっと冷たくない?」というたちの悪い無邪気な郷愁から、Finnが素直に恋しい。

で、実のところBlairにだってFinnに恋してるかも!って思った時代はあるのです。
ずっと昔、少年だった頃。
衝動的にキスしてみたけどFinnに怒られた甘酸っぱい、いやどちらかというと苦い思い出があって、それからFinnのことは心の中で恋の対象外に置いてきた。少年の時のそういう傷つきやすさっていうのは馬鹿にならないもので、とうに二人の間では昔話だけどBlairの心の中にはまだあの頃の自分も住んでいる。
あの時Finnに恋したと思った少年の自分も、拒絶に傷ついた少年の自分も。

そんな、仲良しだけれどもそれぞれ心にぐるぐる回る葛藤をかかえたいい大人の二人が、Blairのデートの予行演習という名目で沈没船の沈んだダイビングスポットに向かいます。
舞台設定は万全。そりゃあもちろんそこで何か起きるだろうというもの。

ひと夏の海と太陽の美しさと、さわやかで甘酸っぱい光景が楽しめる短編。
大人同士の話なのに青春ものを読んだような気持ちになる、肩の凝らない一本です。

★ダイビング
★幼なじみ

Alpha Bodyguard
Goodreads-icon.pngErin McRae、Racheline Maltese

AlphaBodyguard.jpg★★ summary:
アルファでボディガードのRobertは、知事の息子であるオメガ、Jakeの護衛を引き受ける。
だがJakeは頑固で、過保護なアルファにあれこれ指図されるのを嫌がる。
オメガであろうとも、Jakeはアルファからの、いや誰からの命令も受ける気はなかった。彼はメイトも持たずに、大学なんか行ってしまうような無鉄砲なオメガだ。
薬を飲んで発情期を抑えてはいるが、本来、大体のオメガはメイトと結ばれたあとに大学に行くものなのだった。

Jakeはそんなふうに周囲のアルファによって人生を左右されるのはごめんだった。
えらそうにしているアルファを見ると腹が立つし、挑発もしたくなる。
そのJakeの反骨精神が、鉄の自制心を持つRobertを大きなトラブルに巻きこむのだった。
.....



たまにはオメガバース(妊娠あり)のレビューもね!
まああまり読まないんですが、最近のアメリカM/M界でのオメガバースの勢いというのもなかなかのものがあります。

そもそも人狼ものはアメリカでは絶大な勢力を誇ってきたわけですが、オメガバースと伝統的な人狼ものってどう違うのか?というあたりから。
オメガバースはアメリカのファンフィク界発祥(スパナチュからと聞いたことはあります)で、アメリカのロマンス界ですでに認知されていた人狼ジャンルも影響して作られたものではないかと私は勝手ににらんでいますが、基本的にふつうの人狼ものと同じ「アルファ、オメガ、ベータ」の設定を持っています。この役割自体は実際の狼社会にある狼同士の関係を踏襲しています。(※古い研究で。最近の研究では、こうした極端な社会構成を持つのは人間に飼われた狼のみであるという視点も出ています。脱線ですが)
オメガバースを独特なものにしているのは、やはりオメガの設定かなあと。発情期(ヒート)があり(これは人狼ものにもあるやつはある)、それを薬で抑えていることが多く(これもあるな…)、ヒートの時にアルファとセックスすると基本的に妊娠します。あと、狼の交尾から持ち込まれた設定として、ノットといってペニスにこぶのようなものがあり、アルファが射精するまで抜けないようになっているというのもある。
極端なカースト制度をもつ話が多く、オメガがカースト最下層。…まあこれも、もともと狼研究から持ち込まれた設定なので、人狼ものにも見受けられるな。

そして一番違ってくるのは全体の世界観。
オメガバース系は、世界全体がオメガバースなことが多くて(まあもともとそういう意味の言葉ですが)、人狼ものに多い「人間に隠れてひっそりと人狼が存在するのだ…」っていうよりもう世界全体がオメガとアルファの存在を織り込んでできている感じ。
この作品もそうですが、すでに「狼」って設定を捨ててきて、オメガとアルファがいる世界!とヒエラルキーの設定を純然と煮詰めた世界観になっていたりもします。
「オメガバース」って銘打てばそういう世界観がすでに共有されているという点では話が早いので、エロやカーストのドラマになだれこむのが全体に早い。人狼ものも「メイト」って言っちゃえばどんな展開も許されるぜみたいなところはありましたが、さらにそこがパワーアップされている。

で、本作のレビュー。
はねっかえりの坊ちゃんオメガと、彼を任務で守らねばならないボディガードのアルファという鉄板の組み合わせになってます。
アルファは、発情したオメガの匂いに反応する。Jakeは薬で匂いを抑えてますが、近くにいるボディガードの鉄面皮を崩してやりたいがためだけに薬を飲むのをやめるというチャレンジャーぶりを発揮します。やるなあ。ていうかデメリットでかくないか。
そしてRobertは、「依頼人の息子」で「知事の息子」であるJakeに手を出すわけにはいかないけれども、発情期に苦しんでいるオメガをアルファとしては放っておけないというエロくて楽しい葛藤の板挟みになるのです。

短めで読みやすく、エロ中心。そういうのが読みたい気分の時に気兼ねなく楽しめる一冊です。
女性のベータがいるところが人狼ものとちょっと違うなあと感心してしまった。M/Mの人狼は基本的に男社会だから。そのあたり、オメガバースだと違いが出てくるのかどうかは気になるのでまた読んでみよう。

★オメガバース
★強気オメガ

A Casual Weekend Thing
Goodreads-icon.pngA.J. Thomas

ACasual.jpg★★ summary:
Doug Heavy Runnerはつねに他人と線を引いてきた。
ネイティブアメリカンの居留地で育ち、だが祖父たちは牧場の成功により地元で妬まれてきた。一方、居留地の外に行けば地元では人種に対して白い目を向けられる。
遠いマイアミで警官となり、その時だけはゲイということもオープンにして暮らしていたが、犯罪者につけこまれて酷い目にあってから、地元に戻って保安官としてひっそりと生きてきた。

そんなある時、男の死体を山から引きあげる。
自殺のようだったが、その男の両腕には「Happy Birthday」と刻まれていた。
Dougは唯一の肉親である男の弟に連絡を入れる。

Christopher Hayesは肩を撃たれて命をとりとめたが、人生の転換期を感じていた。右手がうまく動かない。拳銃を撃てなければ刑事の仕事は続けていけない。
ずっと刑事として悪人を裁き、走りつづけてきた。
兄から逃げるために。
その兄が死んだという連絡を受け、彼は一人でその町へ向かう。
.....



走りつづけてきた男の話。

Christopherは走るのが好きな男です。何が何でも走る。肩を撃たれたあとも、走りすぎて傷がひらいてしまうくらいに走る。マラソンどころか、百キロ以上のいわゆるアドベンチャーレース(荒野を走ったり砂漠を走ったりするやつ)も走る。
彼が走るのは、自分の中にかかえている何かを押しとどめておくため、そして過去から迫ってくる何かを振り払うためなのです。
なんだか落ちつきのない男なのですが、そこのところが見えてくるとおもしろくなってくる。

彼は、もう二十年くらい会っていない兄が死んだと連絡を受けて、小さな町へ向かう。山の上にある町に行く前に、泊まったふもとで色っぽい男を引っかけて一夜のお楽しみと洒落込むわけですが、その相手が山の上の保安官Doug。
お約束といえばお約束だけど、ちょいと都合よすぎでもある。わりとちょいちょいそういうところのあるお話ですが、キャラの作りにちゃんと厚みがあり、展開にスピード感があるのでその辺はさらっと流して読めると思う。

この話で一番おもしろかったのは、走ることにかけてのChristopherの執着と、そしてその兄のキャラクター。
兄はもう死んでいますが、Christopherは検死報告書を見て彼の死亡日が自分の誕生日であると知る。そう、この兄ちゃんは長年会っていない弟のために腕に「Happy Birthday」と刻んで自殺するような男なのです。
それを読んだChristopherもまばたきひとつしない。ただ走る。倒れそうになるまで走る。
彼はずっとそうやってきた。兄に傷つけられた子供の時から。兄が「逃げろ」とChristopherを追い出した時から。
兄は養父から虐待を受けていて、その虐待をそのままChristopherへと転化していた。傷つけられたものが別の誰かを傷つける負の連鎖。「逃げろ」と言ったのはChristopherを守るためだったのだろうか? その環境から、そして自分から。Christopherを逃がし、刑務所に入った兄はその連鎖から逃げられずに闇に呑み込まれたのだろうか。
語られることのない、想像するしかない闇ですが、その闇は話の中心にずっと居座っていてChristopherを引き込みそうになる。

でも彼にはDougがいます。
週末に遊びで寝てみただけの男。タイトルどおり「A Casual Weekend Thing」でしかない筈の相手。
お互い、この関係はカジュアルだし一時的なものでしかないし、と自分に言い聞かせながら二人はそれぞれの弱みを相手に見せるようになっていく。
それは深みじゃないのか?って誰が見てもハマりつつあるんだけど、二人だけは「いや、ゆきずりの関係だから」とあらかじめ守りに入っている。傷ついたことのある男ってのはこれだからたちが悪いし、楽しい。

兄の死が、この町でひっそりと起きていた犯罪をあぶり出していきます。町の子供たちが、保護と養子のシステムの中で消えている。誰の目も届かないところで、誰かが子供たちを食いものにしている。
そこにはやはり兄が抜けきれなかった「負の連鎖」の悲劇があって、それを断ち切るため、そしてChristopherを呼ぶためには死ぬしかなかった兄の決断の愚かさと悲しさが印象に残った一冊でした。
兄ちゃんのことはもう少し知りたかったな!ほんとどうしようもない奴だが!

展開をもうちょい整理してあると(あともうちょい短いと)ぐっと質があがったと思うのですが、ところどころにキラリと光るキャラ描写があって飽きさせない一冊です。
それぞれのバックグラウンドをかかえて、みんな何かから逃げているようでもある。その「われ鍋にとじ蓋」的な組み合わせぶりが味わい深い。
あとエロシーンがしっかりエロい作家さんなので(大事)、そこもしっかり楽しめます。
ちらっと出てくる本当にどうしようもねえ相棒が続編の主人公になっているので、これから読むぞっと。

★ランナー
★トラウマ

Running Blind
Goodreads-icon.pngKim Fielding, Venona Keyes

RunningBlind.jpg★★☆ summary:
人気アニメの声優Kyle Greenは熱烈なファンに支えられ、プライベートでは10年つれそった恋人と満たされた毎日を送っていた。
だが人生は一瞬で変わる。
脳梗塞で視力を失ったKyleは、ついに仕事のチャンスを手に入れた恋人と別れる。
もはや二人の間にあるのは「ロマンス」ではなくなっていたと感じていたし、恋人の新たなキャリアの邪魔をしたくはなかった。

アニメの仕事はもうできないだろう。絵と自分の声を合わせることができないのだ。
それでも小さな望みを得て、Kyleは走り始める。

そんな時、道でぶつかった男はSeth Caplan。
運命の出会いというほどドラマティックではなかった。少なくともその瞬間は。
.....

こういう話だと、パターンとしては「ハンディキャップを負った主人公を恋人が手のひら返しで捨てていく」ような導入がありますが、今回は違います。二人は子供のころからの友達で、恋人として仲良くも暮らしていたし、盲目となったことで心が醒めたわけでもない。
むしろ、彼らの間にあるものが「恋」ではなかったことが、その出来事によってはっきり見えてきたという感じ。恋人ではなく、兄弟のような存在になっていた。本当はずっとそうだったのかもしれない。

たとえそうであっても、自分に未来がなくなった(と思っている)状態で、恋人の手を離せるKyleを見ると、彼がフェアで芯の強い人だということがよくわかる。
視力を失い、恋人を別の世界に送り出し、Kyleは自分の新しい道を見つけようとするが勿論それは容易ではない。しかしそこの展開が地に足がついた筆致で描き出されているので、重くとも読んでいて苦しくはない。

共著者のひとりKim Fieldingは、そういうさじ加減がいつもうまいです。世界とうまく協調できずに(精神的あるいは肉体的に)自分の居場所をはっきりと定められないキャラの痛みや淋しさをしっかりと書きながら、声高ではない筆致がしみじみと味わい深い。

病院から家に戻ったKyleは、時々なにかが「見える」のに気付きます。
検査の結果、脳にダメージはあるが目は正常なので、その視覚情報を脳の別のところで処理するように適応してきているらしいということがわかる。要するに、動いていれば物が見える、ことがあるらしい。
そこでロッキングチェアを買って体を揺らし、新たな視野を得ようとして、さらに人生の新たな一歩として、Kyleは走り出す。
そしてそこで、Seth Caplanという男にぶつかるのです。

道でぶつかって恋が始まるなんてじつにクラシカル!(すぐに始まるわけじゃないですが)
ともあれKyleが持ち前の明るさとチャレンジスピリットを少しずつ取り戻していくさまは、読んでいて彼を励ましたい気持ちにさせられる。
ポジティブというか、繊細ながらに丈夫な人だ。ちょっと後ろ向きだったりするところにも共感が持てる。

Sethは母親の病気を看るために帰ってきて、自分も新しいテクノロジー関係の仕事を始めようとしている。
いい人で、ずっと遊び人だったけれどもそれにも疲れていて、何か人生でしっかりした基盤がほしくなっている頃です。そんな時にKyleと出会い、Kyleのランニングパートナーとなります。
二人の間には最初からおだやかなユーモアが流れており、SethがKyleとのディナーに「馬鹿みたいだけど、何を着ていこうか鏡の前ですごく悩んだ」と打ち明けて笑うところなんかも可愛いです。

人生にはつらいこともあるし、谷も坂もある。
そこで落ち込んでもいい、間違った判断をしてもいい、でもいつか走り出せば新しい何かに出会えるかもしれないという、地味に前向きな気持ちになれる話。目をみはるようなドラマがあるわけではないけれども、ゆっくり読みたい一冊。

アニメが仕事のひとつなので、日本の漫画作家さんとかもちらっと出てきて「sensei」と呼ばれているのがちょっとおもしろい。kake udonとか。
お好み焼きとか味噌汁とかちょいちょい日本の文化も出てきて、やはりアニメ文化というのは日本がイメージの中心にあるのだなとそんなところもおもしろく読みました。

「伴走者」っていう言葉は、この作品の中では実際の役割であると同時に、とても比喩的な意味を持っているのだと思う。

★アニメ声優
★伴走者

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