Slash×Slash

Slash(m/m小説) レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
→このブログについて

[タグ]JoshLanyon の記事一覧

Fatal Shadows & A Dangerous Thing
Josh Lanyon
AdrienEnglish1★★★ summary:
Fatal Shadows(1作目)
LAでミステリ書店を営みながら小説を書くAdrien Englishは、友人のRobertが滅多刺しにされて殺された事件の嫌疑をかけられる。Adrienはゲイ、Robertはバイセクシュアルで、学生時代からの古い友人同士だったが、彼らは恋人であったことは一度もなかった。だが他人から見れば奇妙に近しい彼らの関係、そしてこの9ヶ月RobertがAdrienの書店で働いていたこと、Robertが死ぬ前に最後に会った相手がAdrienであったこと、口論をして別れたこと、Robertが何故かレストランにAdrienを探しに戻ってきたこと──などがLAの殺人課刑事、Jakeの疑いを呼ぶ。
同時にAdrienの周辺で奇妙なことがおきはじめ、本屋への侵入事件や無言電話などからAdrienは自分がストーキングされていると感じるが、刑事たちはAdrienの思いすごしか、なお悪いことに、疑いを自分からそらそうとする陽動であると思っているようだった。
Adrienは逃げ場のない状況からの出口を探すためにやむなく事件を調べはじめるが、そこには彼とRobertの学生時代にまで根を遡る、深い、深い憎悪と狂気の物語が隠れていた。
古い、自分の知らない罪と恋のせいでAdrienは命の危険にさらされる。次は自分が殺される番だと気付きながら、誰がその凶器を握っているのかわからない。それでも彼は出口を探して闇を掘るしかない。

A Dangerous Thing(2作目)
Adrienはうまくいかない恋人(未満?)との関係にいささか苛立って、祖母の遺産である牧場へと車をとばす。子供の頃から一度も帰ったことのない、今は誰も住んでいない、誰も友人のいない場所へと骨休みと執筆を兼ねて出かけたものの、そこで彼が見たのは謎の死体と、その死体の消失、そして自分の敷地に生えるマリファナの青々とした茂みや、何故か敷地の山奥を掘り返している謎の集団だった。
トラブルが次々と襲いかかり、Adrien自身の身にも危険が及んだ時、恋人が駆けつけて彼を救おうとする。だがAdrienはただ救出されるにはあまりにも頑固で、山と積まれた問題を残してその場から逃げ出す気などさらさらなかったのだが…
,,,,,


Adrien Englishミステリシリーズ1&2が1冊に入っています。
このシリーズは人気作家Josh Lanyonの中でも一番人気のシリーズで、本当に何というか…いい小説です。謎解きがあり、人と人とのドラマや葛藤があり、どうにもならない運命の出会いや別れがある。
あえて言ってしまえば、これは「Adrien Engiishの人生」の断片のような話なのです。

Adrien Englishはとても魅力的な主人公で、この話は一人称で語られるのですが、Adrienがどういう人間なのか、会話や彼のややシニカルな独白の中から鮮やかにたちのぼってきます。32歳、父親はアメリカ人で母親はイギリス人、父とは早くに死別。16歳の時に生死にかかわる大病をわずらって以来心臓の弁に異常があり、薬を服用。敏感な時期をいつ死ぬかもわからないという状況下ですごしたためかやや人生にさめた視点をもっていて、他人に対してはさらりとした人づきあいをする方です。5年間暮らした恋人が去っていったことがいまだに深い影をおとしているようにも見えます。
だが人なつこくもあり、ユーモアに満ち、率直で、Adrienと話すと人はたいてい自分の内面を正直に見せる。そしてAdrienは非常にするどい目で、他人の内面を読む。ミステリ好きではあるが犯罪に関しては素人の彼が、そうして彼独特の視点から様々な断片をひっくり返しながら真相を掘り出し、実は自分のすぐそばによりそっていた狂気の存在に気付く──その瞬間まで、緊迫感のある展開が続きます。

「ミステリ風味のスラッシュ」というよりは「ミステリでもありスラッシュでもある小説」と言った方がいいか。ミステリとして充分おもしろいですが、スラッシュとして見るなら1作目はシリーズの「導入」です。本当の展開はその先にある(その2作が1冊に入っているのは、本当にかしこいと思う)。
1作目で彼は思わぬ相手と関り、2作目ではその関係が彼の予想した以上に深まる。だがそれは色んな意味において未来のない恋で、その関係のいびつさと思いの激しさがAdrienと彼の人生を悩ませつづけます。
そんな中でもがきながらも、いつもAdrienはフェアで、毅然としている。そのことが自分を傷つける時でさえ。決して声高でもなく、弱くもありますが、こんなにたたずまいの潔い男というのはあまりいないんじゃないだろうか。
ドラマティックに語られるわけではありませんが、淡々と、皮肉とユーモアをまじえたAdrienの語り口には胸にせまるような繊細さがあって、はじまってしまった関係の先にあるものをAdrienが見すえたり、目をそらしたりしている様を読むのが時おりつらい。そして彼の語り口から浮き上がってくるのは彼の人生だけではなく、望みのない恋人の、複雑で痛みに満ちた人生でもある。

駄洒落とか謎解きとかあって英語としては私の手に余るところもあるんですが、難解なわけではないので、長文読み慣れてる人なら本筋は普通に楽しめると思う。
現在はシリーズ4作目まで出ています。これがまた胸がしめつけられるような話だったりするのですが、そっちのレビューはまたいずれ。
Lanyonはミステリとはちょっと毛色のちがう暴力的なクライムサスペンスも書いていて、そっちも本当におもしろい(強い男同士のカプが好きな人にはたまらん!)。「m/m小説の書き方」というハウツー本も書いています。今度読んでみようかな。キャラクターの際立ち方が本当に強くていいのです。
彼の作品に「ホームズ&モリアーティシリーズ」ってのがあるのは心底気になる…

いろんな意味でおすすめのシリーズですが、エロ以外の部分重視の人には特におすすめ。非常に自我の強い2人の向き合う話でもあるので、「男同士の恋愛」(ガチムチって意味じゃないぞ)を求める人にも。

★ミステリ・サスペンス

The Dark Horse
Josh Lanyon
The Dark Horse★★★ summary:
ハリウッドの俳優Sean Fairchildは1年にもわたってストーキング行為を受けていたが、ストーカーPaul Hammondは車の事故で死んだ。少なくともそれが、護衛を担当していた刑事Daniel MoranがSeanに繰り返し信じさせようとしていることだった。
Danと一緒に暮らすようになり、Seanは危機は去ったという恋人の言葉を信じようとするが、またもや彼にポストカードが届きはじめる。Hammondが彼に送ってきたものとそっくりなカード。「miss me?」「soon…」見なれた独特の文字と短いメッセージ。

Hammondは死んだ、とDanは言いつづけ、Seanはそれを信じられなくなっていく。
Hammondが死んだのなら、何故警察は彼の死体を見つけることができないのか? 彼が死んだのなら、誰が一体ポストカードを送ってきているのか?
そしてある日、SeanはついにHammondを見た──少なくとも見たつもりだった。だがそれはSeanの恐怖がつくりあげた幻影なのか? 
Danは彼を守ろうとしている。だが誰から? Hammondからか、それとも少しずつ正常な認識を失っていくSean自身から…?

不安、不信。さまざまな感情が彼とDanの間を蝕んでいく。彼はDanに依存しすぎているのだろうか。友人が言うように、Danに操られはじめているのだろうか。
.....



「Adrien Englishシリーズ」のJosh Lanyonのクライムサスペンス。

Seanはかつて、ゲイである自分とそれに失望する家族や周囲との軋轢にたえかね、自分自身を責めた結果、自殺をこころみたことがあり、そのため自分の心の安定に対して不安をもっている。
そしてその不安を誰かに見せること、見すかされることを恐れています。自分自身の欠陥を人に見せること、人の判断に自分をゆだねることを恐れ、恋人のDanが自分を守ろうとすることに対してもほっとすると同時に、怒りを感じる。自分のテリトリーを侵害されているような怒り、それを許す自分への怒り。
Danの態度に対して不信をもちながら、まず彼は「自分自身が信頼にあたいするのかどうか」をつねに問いつづけなければならない。それは痛みに満ちた問いであり、その不確かな世界でSeanの気持ちは揺らぎ、彼はDanを、自分を恐れるようになる。

なんたって一人前の男ですから、男にたよりきったり守られたりすることに対して当然の反発があるわけで、Lanyonはそういう男の葛藤を書くのがとってもうまいです。どんなに繊細でも基本的に男らしい。
Seanの葛藤を見ているDanの方はちょっと苛々してて、「たよってくれよ!」って思ってるのも何となくつたわってくるんですが(あくまで彼はSeanの意志を尊重しようとしますが)、他人と距離をおくことに慣れているSeanには、Danと近づきすぎていること自体が落ちつかない。近づきすぎていると思う、でもそばにいるのは心地よい、そのへんのぐらぐらしている感じがなかなかに可愛い。
口論や怒りの発露。そういうものの中で、それでもSeanはDanと確実なものを築きあげようともがく。しかしそのやりかたがわからない、みたいなもどかしさがあります。

それでもやがて、彼は自分の本当の望みに気付く。その時にはもう遅すぎたかもしれないけれど。
心情が丁寧に書かれていて、Seanに共感したり苛々したりしつつ、惹きこまれて一気に読んでしまった。Lanyonはやっぱりいいなあ。そしてこの人の書く警官はどうしていつも、こうも格好いいのだ…!

中編なので、わりとさらっと読めるかと。でも読みごたえはあります。「包容攻め×繊細な受け」好きには特におすすめ。

★クライムサスペンス
★トラウマ持ち

The Ghost Wore Yellow Socks
Josh Lanyon
The Ghost Wore Yellow Socks★★ summary:
傷心をかかえてサンフランシスコの旅行から帰ってきたPerry Fosterが自分の部屋で見たのは、空のバスタブに入っている死体だった。穴のあいた靴、黄色い靴下。見知らぬ顔。
愕然として、Perryは部屋の外へとびだす。
彼の住むAlton Estateは古い建物で、今は各部屋ごとに住人がいる。Perryと同じ3階には、元海軍のSEALに所属していたNick Renoが住んでいた。
Nickは不承不承ながらも部屋をチェックしてくれる。だが死体はどこにもなかった。

Alton Estateに住む誰もが、そして警官たちも、死体はPerryの思いこみだと判断する。
だがNickだけは少しちがった。彼はPerryの部屋をチェックした時、床に落ちていた古ぼけた靴の片方を、何気なく窓際に置いたのだ。警官が来た時にはその靴は消え、かわりにPerryの靴が置いてあった。
Nickは死体は見ていない。それを信じればいいのかはわからない。だが、この部屋で何かがおこっている。それはたしかだ。

Perryは自分の見たものが幽霊だったとも、幻だったとも思っていなかった。誰かが彼の部屋に死体を隠したのだ。だがPerryが部屋の外に出てからNickが見にいくまでに、一体どうやって廊下を通ることなく死体を運び出したのだろう。Perryは事件を自分で調べようとする。
警告、新たな死体、建物にまつわる古い物語、遠い昔に恋人を奪おうとして死んだ男の伝説。住人たちは皆挙動不審になり、重苦しい空気の中で、彼らが秘めてきた隠された顔があらわにされていく。逃亡者、覗き屋、昔の持ち主の子孫…

その中で、殺人者の顔を持つのは誰なのか。
.....



Perryはゲイであることが原因で親元を離れ、画家を目指している23歳の童顔の青年です。喘息がちで、失恋したばかりで、今月の家賃まで旅費に使いこんでしまった上、とぼとぼと家に戻ってきたら死体が待っていた、と、もう踏んだり蹴ったり。
Nickはそんな彼に巻きこまれることを避けようとします。だがPerryは彼が思っていたような「ドラマクイーンタイプ」ではなく、じつのところは快活で賢く、粘り強い。最初こそじめじめ落ちこんでいますが、すぐに気をとりなおして、根っこにあるポジティブな気性を見せ、自分で建物の謎を調べはじめる。

Nickは軍をやめて仕事を探している最中で、LAの友人のところで職をもらえればバーモントを離れるつもりなので、なるべくPerryに近づきたくはないのですが、少しずつPerryの新たな一面を発見しながら段々と惹かれていくのをとめられない。
その経過はゆっくりで、まるで似たところのない2人が互いの距離をつめていく様子が、物語のもうひとつの核となっています。ものすごくドラマティックなことがおこるわけではありませんが、Nickが「駄目だ」とか「馬鹿げてる」とか思いながらちょっとずつ傾いていくのがおもしろい。Perryに対する庇護欲がどこからわいてくるのかわからなくて、自分でとまどっている。そしてNickが思っているほどPerryは子供でもなかった。
彼らは互いに惹かれるが、たとえ今はうまくいっても、Nickはバーモントへ行ってしまう。続くわけのない関係です。
だからといって踏みとどまれるものでもない。Perryもまた後からくる喪失をわかっていて、一歩踏みこむ。「ただのセックスでいい」と言うPerryに、Nickはたじろぐ。「お前に、そんな言い方は似合わない」

自分がこの場所を去る前に、Nickは死体の一件を解決したいと思う。何だかわからないものの中にPerryを残していくのは気がすすまない。
2人は一緒にこの事件に取り組むことになります。その先にある謎を、彼らは無事解くことができるのか?
そして謎を解いた先には、別れが待っている。


Josh Lanyonはおもしろいのがわかっているので、わざといくらか読み残してあって、その一冊。やはりおもしろいです。
こう、Lanyonの特徴でもある強烈に凝縮された感じはあまりないのですが、その分読みやすいとも思う。ミステリとしての核ははっきりとしているし、NickがぶすっとしながらPerryの面倒をついつい見てしまう様子がほほえましく、Perryは若々しくてかわいい。「こんなガキにかかわりたくない」と思いながらくらっとするNickがいい味を出してます。
甘くはない、さりとて苦くもない、映画のような陰影のくっきりした話です。話自体がおもしろく、雰囲気も楽しめますので、小説全体を楽しみたい人に特におすすめ。

★ミステリ(消えた死体)

Mexican Heat
Laura Baumbach & Josh Lanyon
Mexican Heat★★★ summary:
サンフランシスコ警察のGabriel Sandaliniは、情報屋とコンタクトを取るためにバーに出かけたが、情報屋は現れず、正体のわからない男と行きずりの関係を持ってしまう。
名前も知らないくせに誰よりも彼を理解し、彼の中にあるものを見抜く男。
だが、二度と会うつもりはなかった。Gabrielは誰かに弱味を見せたり、関係を深めることなくここまで生きてきたのだ。彼の生活では、他人に必要以上に近づくことは命の危険を意味した。

Gabrielが麻薬組織の中に潜入捜査を開始して、もう2年になる。この2年で中核へ近づいてきた。
あと少しで大きな組織を摘発できる筈だった。

Gabrielの潜りこんだ組織が、メキシコの組織と組んで新たな麻薬取引をはじめる。取引の話し合いのために現れた、相手の組織の連中に見知った顔を見つけ、Gabrielは凍りつく。
あの男。
バーでの一夜の男は、メキシコの麻薬組織のボスの片腕だった。

優雅で、強く、確信を内に秘めた男、Miguel Ortega。Gabrielは彼をできる限り無視しようとする。ここで揺らぐわけにはいかない。
だが2人は上から命じられ、麻薬の取引ラインを確立するために一緒にメキシコへ旅立つ。そこで2人きりになったOrtegaは、Gabrielに思わぬことを言った。Gabrielのボスが、Gabrielを邪魔に思っている。できるだけ早いうちに、隙を見つけて逃げろと。
だが逃げられない。潜入捜査はやりとげなければならない。それが自分の命の危険を意味しても、Ortegaを刑務所に叩きこむことを意味しても。

そしてまた、Ortegaにも大きな秘密があった──
.....



Josh LanyonとLaura Baumbachの合作。というか、インタビューとか読むとLauraの書いていた話にLanyonがメールで指導を行ったようです。
Amazonでもペーパーバックが出版されていて(そっちが先らしい)、去年、電子書籍としても再発売されました。

熱い、本格クライムサスペンスです。好きな話なので何回も読み返しています。描写が力強くて気持ちがいい。
Gabrielは怒りと孤独に満ちた、荒々しい男で、潜入捜査をしている刑事としての自分以外に「自分」を何も持たない。家族も、友人も。
Ortegaはスペイン人。こっちも熱いな。ちょっと笑っちゃうほどキザなところがありますが、映画の主人公のような「いい男」です。彼はGabrielに惹かれ、その中にある空虚に惹かれる。だがのばした手を、Gabrielはいつも払いのける。どれほど惹かれていても、彼はその手をつかむわけにはいかない。

とにかく2人の間にある緊張感がただごとではありません。前半の、互いの秘密を間に置いた時の緊張感、後半での互いの人間関係がまるで変わってしまった後からの緊張感。傷ついたGabrielはその闇から這いあがろうとし、Ortegaは手を貸そうとするが、Gabrielの孤独とプライドは彼に対しても牙を剥かせる。
大きな運命のうねりの中で、それぞれ強烈な個性を持つ2人の男が、何かを作りあげていく。その過程は荒々しく、痛みに満ちています。

映画のようで、一気に読める話です。いくつか後半に「もうちょっとここに描写があればなあ」と思うところもありますが(特にGabrielの最後の変化の描写がほしかった)、いい話だからこその文句と言えるでしょう。
てゆーか私はもうちょっとラブラブなシーンが読みたかった。エロってわけじゃなく。もうそれは好みですな。でもOrtegaにいいように甘やかされるGabrielとか、すごくいいと思うのだ!

こういうジャンルが好きなら絶対おすすめ。かなりびっくりするような展開があり、ハラハラしたい人にも。
キャラが肉体的に苦しむ部分がありますので、そういうの苦手な人は注意。

★クライムノベル
★潜入捜査

The Hell You Say
Josh Lanyon
The Hell You Say★★★ summary:
Adrien Englishが経営する書店のアルバイトは、悪魔教のような集団から嫌がらせの電話を受けつづけていた。彼は怯えていて、その理由を言おうとしない。Adrienは大学生同士のいじめのようなものだと思い、彼にボーナスをやって一時的に町を去らせた。
町では奇妙な儀式による殺人死体が発見されはじめ、Adrienの隠れた恋人Jakeは、その捜査にあたっていた。

Adrienが書店のイベントに招いた人気作家は、とあるカルト集団について次回作を書くべく調査している──とイベント中に宣言し、失踪した。
そしてAdrienの書店の入口にも、悪魔教の模様のようなものがペンキで書かれる。
何かがおこっていた。Adrienは大学教授に会って悪魔教についての話を聞きはじめる。

その一方、Jakeとの関係は一見うまくいっているようだったが、そこにはいつも緊張感が横たわっていた。Jakeはホモセクシュアルである自分を嫌っていて、自分の性癖が明るみに出ることを恐れている。それは、Adrienが永遠に隠れていなければならないことを意味していた。
彼はJakeの日常の一部にはなれない。そしてJakeはAdrienを求める一方で、それ以上に「普通の」人生を求めていた。
.....



Adrien English ミステリシリーズ。2冊目ですが、3作目(1冊目に2話入ってるので)。
悪魔カルトによる殺人や、人の失踪で騒がしい町で、Adrienはいつものように事件に首をつっこんでしまいます。

JakeとAdrienの関係は複雑で、2人の複雑なキャラクターがそれをさらに入り組んだものにしています。Adrienはとても知的で、繊細で、Jakeの置かれた立場をわかっていますが、それが彼らの関係の痛みを減らしてくれるわけではない。
Jakeは強靭で苛烈なところを持つ男ですが、その一方でAdrienに対しては優しい。2人きりの時は。
ほかに何もいらないかのようにJakeがAdrienを求める一瞬からは、Jakeもまた、人生の中でもがいていることがわかります。

互いに互いの空虚を満たす、とても素敵なカプなんだけれども、破綻は足元まで迫っている。Adrienはそのことを知っているけれども、Jakeの方がそれを受けとめきれていないかのようです。
どちらも求め、どちらも苦しんでいる。互いに言葉に出して内面をさらけ出すことは少ないけれども、そのテンションがいつも互いの間にある。読んでいるとその複雑で切ない人生模様に引きこまれます。

一方でAdrienは事件を掘りつづけ、死体に行きあたったり、脅されたりと相変わらず忙しい。さらに身内の再婚やら、相手の家族とのつきあいなど、本当に忙しい。
あまり社交的なタイプではありませんが、彼の見せる繊細さと皮肉屋の一面を、人々は大抵好きになります。Adrienの中には拭えない影があって、彼は時おり扱いにくいけれども、大抵は優しくてフェアで、誰に対してもいい友人に見える。
だからこそ幸せに暮らしてほしいんですが。
騒がしい「日常」の中で、AdrienとJakeとの関係はもつれ、Adrienに好意を持つ男が現れ、だがその男がカルトに関っているかもしれない?と、物事は彼の周囲で混沌としていく。Adrienの人生そのものも、混沌としつつあります。他人といることが好きなわけではないが、外でにぎやかにすごした後、1人で書店の2階の住まいに帰るのは気がすすまない。で、事件を掘ってみるものの、それはさらなるトラブルやJakeとの対立を呼んでしまう。

読んでいると、何だかちょっとAdrienが可哀そうになる。彼はとても魅力的なんだけど、時おりあまりに孤独に見えます。
Adrienが求めているものが何なのか、それはやはりJakeと一緒の人生だろうと思いますが、それは決してAdrienの手が届くところにはない。そのことが、彼を余計に孤独にしている。

ミステリとしてもおもしろいと思うんですが、やはり読みどころはJakeの強烈なキャラクターと、それがAdrienの人生にもたらす津波のような力でしょう。
作者のLanyonは芯の強い強靭なキャラを書くのがとてもうまいけれども、その中でもJakeは群を抜いて強烈で、私は彼が好きですが、それでも読んでいて本気で怒りを禁じえないところもあったりします。あああ、殴ってやりてえ!
それくらい、物語として強いキャラです。彼はAdrienを傷つけるけれども、きっと彼自身も傷ついているのです。

決して甘い話ではありませんが、Adrienの人生の複雑さが凝縮された、濃密な一冊。
一度、腰を据えて読んでみるに値する物語だと思います。おすすめ!

★ミステリ
★対立

Somebody Killed His Editor
Josh Lanyon
Somebody Killed His Editor★★ summary:
Holmes & Moriarityシリーズ1

40歳のミステリライター、Christopher Holmesは作家人生の岐路に立たされていた。彼が長らく書いてきたシリーズの売り上げが落ち、エージェントから「もっと時代に即した、売れるものを書かないと」と強く言われる。
エロティックなものや吸血鬼やらが出てくるもの。一体どうやって?

エージェントのすすめで、彼はとある作家の集会にしぶしぶ参加する。そこに来る出版社の人間に新しいシリーズのアイデアを買ってもらわなければ、作家としての彼のキャリアは行き詰まったも同然だった。
問題は、彼にはまるで新しいシリーズのアイデアがなかったこと、さらに切迫した問題は、集会のあるロッジにたどりつく前に女の死体に行きあたったことだった。

橋が落ちて、誰もそのロッジから──嵐がやむまで──出ていけない。まるで推理小説の舞台のようなその状況で、Holmesは思わぬ男と顔をあわせる。
J.X. Moriarity。元警官のベストセラー作家。
10年前、週末をともにした相手。ただ1人、彼を「Kit」と呼ぶ男。
そしてJ.X.は、Christopherを殺人の容疑者として部屋に軟禁すると言う…
.....



Moriarityと言えばモリアーティ教授かと思いきや、あっちの綴りは「Moriarty」らしい。でも当然、あの2人を念頭にしたキャラですね。性格はかけらも似てない(似せてない)と思うけど。
古典のミステリのスタイルを踏まえつつ、それを使って現代のスラにしてみた、というユーモアミステリです。

外界から閉ざされたロッジ、嵐、正体不明の殺人者、2つ目の死体、主人公にかけられる嫌疑──と、古典的なミステリの要素がたっぷりつめられています。作者のLanyonは非常にテクニカルな作家なので、色々とほかにも計算されているにちがいないと思いますが、私はミステリの原書を読んだことがほとんどないのでどこまで何を踏襲しているかわからないのがちょっと残念。
あと時事ネタとか、実在する人の名前とかが散見されますね。「セーラームーンのフィギュアか」とか、そういうツッコミしかわからない自分がちょっと切ない。わかる人なら10倍は楽しめるでしょう。
でもそれはそれとして(得意技でスルーしつつ)、おもしろく読んだ一冊です。

主人公のChrisはかなり悲惨な状況です。ずーっと書いてきたシリーズが打ち切りになるかもしれない。古典的なミステリというのはもう求められていないのかもしれない。
マーケティング、すべてをひっくるめた「パッケージ」の問題なの、とエージェントは言う。小説そのものはもはや問題ではないのだと。
それで嫌々、作家の集会に出てくるわけですが、落ちていく橋を命からがら走りきり、死体を見つけ、うっかりJ.X.とよりを戻したと思えば「気の迷いだった」と言われる。挙句に新シリーズの話なんかそりゃもう、砂上の楼閣です。ていうかこの人がでたらめに話す新シリーズネタが、実際無茶苦茶なんですが。

踏んだり蹴ったりの状況下、Chrisは持ち前のユーモアで周囲をさらに苛々させていく。それも、主にJ.X.を。Chrisは繊細だけど相当に図太い。
J.X.はどうもChrisを守りたいと思っている様子ですが、10年前の逢瀬の時の出来事を許してもいないし、でもChrisに惹きつけられる自分を否定もできない。
J.X.のChrisに対する人あたりにも、相当にきついものがあります。

この2人の関係がなかなかいい。J.X.は5つ年下で、かつてはChrisを憧れの目で見ていた新人の後輩だったのに、久々に会ってみたらえらい皮肉屋で悠然としたベストセラー作家になっていて、Chrisは正直落ち着きません。そりゃそうです。それにしてもJ.X.は魅力的。
作家と元警官、というのは同作者のAdrien Englishシリーズにも似た流れですが(あっちは作家志望の本屋と警官ですが)、あれほどヒリヒリした、さわると怪我しそうな切迫感はありません。J.X.はゲイである自分を否定してないしね。
それだけに、反発しあいつつも、ひとつ転がれば2人で幸せになれそうな感じがあって、読んでいるとじれったくも楽しい。

J.X.はずっとChrisが好きだったんだろうなー、それで怒っているんだろうな、というのがあちこちに滲み出ているのに、当のChrisが鈍いのもかわいい。セックスなら別に平気だけど、それ以上のところに話が及びそうになるといつも慌ててはぐらかそうとするし。
そういうつもりはないのについつい事件をつっついてみるChrisを、J.X.は本気で心配し、苛立っている。でもそんなJ.X.をChrisは助けたり、最後のしっぺ返しをしてのけたりする。いい組み合わせの2人です。

ミステリ部分も、やはり古典ミステリへの敬愛をこめてだと思いますが、基本パターンにのっとっているのでわかりやすい。
わりと軽めに楽しめる一冊。
古典ミステリやユーモアミステリが好きなら勿論、「10年ぶり」とかに萌える人にもストライクだと思います。

作中に「Elementary, my dear..」という決め台詞がありますが、これはホームズの「Elementary, my dear Watson」(初歩だよ、ワトソン君)からのものです。
ほかにもそういうのいっぱい隠れてるんだろうなー。
しかしdearとか入ってたのね、ホームズの台詞。萌える。

★ミステリ(古典系)
★再会

Don't Look Back
Josh Lanyon
Don't Look Back★★★ summary:
博物館で働くPeter Killianは、奇妙な男の夢から目覚めると、病院にいた。
何があったのか。誰かに殴られて脳震盪をおこし、運びこまれた筈なのだが、何があったのかPeterには理解できない。思い出せない。
記憶障害だと医者は言った。

ロサンゼルス警察のMike Griffinという男が姿を見せるが、何故か彼はPeterの記憶障害が偽装であると思っているようだった。「都合がよすぎる」とGriffinは言う。
そして博物館からは以前から少しずつ物が盗まれていたこと、それに気付いたPeterが警察に届け出たこと、Peterがその泥棒に殴られた可能性があることを告げた。盗みの現場に行きあたってしまったのだと。
だがGriffinも、周囲も、まるで悪いのはPeterであるかのように振る舞っている。
何かがおかしかった。

自分が疑われていることに気付いたPeterは、身を守ろうとするが、記憶は戻らない。
脳に問題はなく、医者によればPeterは何か思い出したくないことがあるようだった。自分で自分の記憶をブロックしているのだ。
病院に来てくれる身内もいない。泥棒の疑惑をかけられたままでは職を失う。馴染みのない自宅に戻ったPeterは、自分がこの半年、抗鬱剤を飲んでいたことを発見する──

記憶にない自分は、一体どんな人生を生きてきたのだろう。何をそんなに苦しんでいたのだろう。Griffinは何故Peterをあそこまで嫌うのか。殴られた夜、Peterが見たのは何だったのか。
何もわからない。
ただひとつだけ、Peterがわかるのは、自分が決して博物館から物を盗んでいないこと──自分が無実であるということだけだった。だがそれを証明する方法はどこにもなかった。
.....



Josh Lanyonは「記憶喪失」ものに萌えるんだ、と言っていました。「White Knight」でもやっぱり記憶喪失ものをやってましたね。
実際、うまい。Peterの視点から見た世界は最初のうち、ひどく狭くて、一方的です。人を見た時に感じる第一印象は薄っぺらだし、深みがない。
やがて彼が情報を集め、色々な角度から物を見て、自分の記憶のかけらとつなぎあわせるにつれ、世界は形を変えていく。そのパースペクティブの変化がなかなかの読みどころです。
そしてPeterは、自分が仕掛けられた大きな裏切りに気付いていく。

それは長い時間をかけた裏切りで、Peterにとって「記憶を取り戻す」のは、その長い時間に対する「気付き」のプロセスでもあります。自分のことを他人のように外側から見て、自分がどう生きてきたのか、あらためて彼は見つめ直す。フェアでなかったいくつかの出来事、かつては見えてこなかった物事の裏。過去の自分が目をふさいでいた真実。
犯罪の謎解きと同時に、そのPeterの目覚めが物語の大きな軸になっています。
そして、彼が忘れてしまった──心の奥底に封印してしまった、ひとつの恋。

結構そのへんが痛々しくて、読みながらしみじみしていました。
気がついたら病院だわ、刑事(Griffin)にはよくわからんことでやたら怒られるわ(そのうちそのへんもわかっていくんですが)、泥棒の濡れ衣は着せられてるわ、仕事は解雇されそうで、友人が紹介してくれた弁護士は「さっさと罪を認めよう」と言ってPeterの無実の主張をまるでとりあわない。
そんな中ではよくやってますよ、Peter。どちらかと言うと物静かな感じの人なんだけども、とにかく追いつめられているので必死。

謎解きもおもしろいです。すごく手がこんでいるわけではありませんが、人と人の間にある暗い歴史のことを考えさせられる、ちょっと怖い部分のあるエピソードでした。
スラとしてもちゃんと盛り上がってます。Peterはエロティックな夢を見るけれども、恋人の顔がわからない。だが少しずつ、気付いていくのです。
記憶喪失ものなんであんまり書くとおもしろみが減りますが、なかなかドラマティック。

Lanyonの書くカプはいつも、2人の間にあるテンションが強くていい。優しかったり甘かったりばかりではなく、時に傷つけあうほどの緊張感なんだけれども、それもすべて、相手にまっすぐ心を向けているからこそ。その強い視線に引きこまれます。

謎解き、記憶喪失、ちょっと入り組んだ話が好きな人におすすめ。話の構成は素直なので読みやすいです。

★記憶喪失
★濡れ衣

★Three-Star rating system★


[カテゴリ]View ALL
レビュー (314)
★★★ (90)
★★ (190)
★ (34)
モノクローム・ロマンス (10)
電子ブックリーダー (23)
iPodTouch・Stanza (19)
nook (4)
雑談 (84)
英語 (29)
文法 (4)
読書日記 (11)
…このブログについて (9)
…書店情報 (2)
[タグリスト]

09 | 2017/10 [GO]| 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

カテゴリ一覧 最近の記事一覧 プロフィール リンク一覧 メールを送る
[カテゴリ]


モノクロームロマンス(M/M翻訳)


■公式サイト■

・2017年
・後半 王子二巻
・12月 アドリアンXmas

・ほかにも出るかも
・王子とか何か売れてくれ〜(色々軽くピンチ)
・来年はもふもふやるよ!

*発行済*
・フェア・ゲーム
・フェア・プレイ
・ドント・ルック・バック
・恋のしっぽをつかまえて
・狼を狩る法則
・狼の遠き目覚め
・狼の見る夢は
・天使の影(アドリアン・イングリッシュ1)
・死者の囁き(アドリアン2)
・悪魔の聖餐(アドリアン3)
・海賊王の死(アドリアン4)
・瞑き流れ(アドリアン5)
・幽霊狩り(ヘルハイ1)
・不在の痕(ヘルハイ2)
・還流
・夜が明けるなら(ヘルハイ3)

*他訳者さん*
・わが愛しのホームズ
・ロング・ゲイン
・恋人までのA to Z
・マイ・ディア・マスター