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Orientation
Rick R. Reed
Orientation★ summary:
1983年、22歳のRobertは44歳のKeithに出会い、倍の年の差があるにもかかわらず2人は深く恋に落ちる。
だがその年のうちにKeithは当時まだあまり知られていなかったAIDSを発症し、ひどく苦しんだ末、Robertの目の前で息を引きとった。クリスマスの日。

その24年後、2007年。RobertはKeithの遺産と資産管理の仕事をしながら、静かに生きていた。
彼の傍らにはいつも若い恋人がいて彼の孤独をまぎらわせたが、誰ひとりとして彼の心にとどくことはない。
そして2007年のクリスマスの日、今の恋人であるEthanは彼の目をかいくぐってどこかへ出かけ、戻らない。「クリスマス」がどれほどRobertに大切なものなのかわかっている筈の彼のそのふるまいにRobertは苛立ち、Ethanに対していくつもの疑いを抱くが、それを正面きって切り出すことはできなかった。Robertはいつでも孤独を恐れていた。

ひとりのクリスマスに耐えきれず、暗い夜の中を散歩に出たRobertは、湖畔で今にも水にとびこもうとしている娘に出会う。彼女はJess。24歳。クリスマス生まれ。…Keithが死んだ、まさにその年のクリスマス。
彼らはどこか近いものを感じあいながら、奇妙な形で近づいていく。そしてJessは夢を見はじめる。ずっと昔、まだRobertが若く、Keithと出会った店での夢を。
この出会いは運命なのだろうか?

一方、Rodertの若い恋人Ethanは、自分ではどうにもならない麻薬の深みにはまっていた。それは彼の体を、そして精神を蝕みはじめる。抜け出す道を探してもがきながら、EthanはRobertが彼を生命保険の受取人にしていることを知り…
.....


2008年のEPPIEのGLBTカテゴリ受賞作です。
しかしこれ、「スラッシュ」ではないですね。RobertとJessの、2人の男女の不思議な絆を中心にして話がすすんでいきます。Robertはゲイで、Jessもゲイ(レズビアンと言うほうが日本語のなじみはいいですね)なので、GBLTカテゴリなんだと思うけど。恋愛要素はなし。
ただ、最初の1983年のシーン、死んでいくKeithのためにRobertがクリスマスの飾りつけをし、プレゼントをひとりでひらき、豪華な料理を作るシーンはとても美しくて、胸がつまります。スラ的にはここだけで読む意味があるかもしれない。

Robertは24年もたって、今でもKeithの死とその喪失をのりこえることができず、人生に意味をもつことができていないように見えます。彼は親切で、心やさしく、人の世話を見るのが好きだが、同時に弱い男でもある。
Ethanはかつてはそこも含めて、Robertとそれなりに幸せな絆を結んでいた筈だった。だが麻薬が彼のすべてを奪っていく。そして恋人の変化に気づき、うすうすその正体を疑いながら、Robertは真実と向き合うことができず、Ethanの無数の言い訳にすがるように、目の前でおこっていることから目をそらしつづける。
それは先のない関係で、いずれは破滅が待っている。それも、ただの「別れ」以上の取り返しのつかない破滅が。

そのEthanの転落の軌跡が非常に怖いです。彼が常用している麻薬は「Meth」つまりメタンフェタミンで、非常に強烈な依存性を持つものとして知られています。どんどんと服用量がふえ、いずれは死に至る。
ほんの短い間にEthanは転落し、自分が肉体的にも精神的にも壊れはじめていることを感じながら、もがく。ただしもがく方向がかなり間違っていますが。
Ethanのシーンや、彼が取引しているドラッグディーラーのシーンの心理描写が非常に詳細で、読みごたえがあります。ほんとにEthanの「壊れてる」感が怖い。
彼が転落したのは彼自身のせいですが、結局Robertは彼を愛したことはなかったし(Ethanがそれを求めていたわけではないとは言え)、Robertの中にはいつでもKeithがいた。つねに彼は言葉に出さずとも、すべての恋人とKeithを引きくらべていた。そのことがEthanの足元をあやまらせた一因なのはたしかで、不健全な絆は不健全な人間を生みやすいのかもしれない。

「スラッシュ」ではないけれども、そういう人間ドラマを中心にした心理サスペンスが好きな人におすすめ。
性描写はほぼなし。超自然的現象が入るので書店のカテゴリに「Paranormal」が入ってますが、別に超能力で何かがおこるとかではないです。

★サスペンス
★死別した恋人

A Strong Hand
Catt Ford
A Strong Hand★★★ summary:
SMシーンの高名な写真家であるDamianは、予定していたモデルが来られなかったある日、思いついたイメージをためしてみるためにアシスタントのNickを使う。そして、Nickが完全に彼のイメージを再現していることを発見した。

Nickは学費のために仕事を必要としていた。全裸でSMシーンの写真を撮ることにもそれほどの抵抗を感じなかった。Damianはすぐれた写真家で、モデルを大事に扱っているのを見ていたし、カタログの写真はモデルの顔が判別できないよう暗い影にされていることも知っていた。
彼が知らなかったことは、自分がDamianのイメージの中で折り曲げられ、器具に拘束されることにどれほどの興奮を覚えるか──どれほど、Damianの支配の下で昂揚するか、ということだった。
彼は欲情し、驚く。Nickはゲイではなかったし、SMに対するわずかな知識も、興味もなかった。だがDamianの下で彼は服従の喜びを覚えていく。

DamianとNickは、互いの間にあるものを探りはじめ、DamianはNickを自分のSubとして様々なことを教えはじめる。
一度Nickが自分の中の性癖に気付いた以上、無自覚にその世界に入っていくことは危険をともなう。「セーフワード」の存在すら知らないNickを無知なまま放置しておくことはできなかったし、DamianはNickを支配する誘惑には勝てなかった。
だがNickの持つ好奇心が満たされた時、Nickが彼を去るだろうことも、Damianにはわかっていた。彼らは10の年の差があり、Nickを動かしているのはあくまで未知の世界への誘惑でしかない。
そう思いながらも、いつのまにか、DamianはNickに対する気持ちを無視できなくなっていく。支配と愛情の境い目で、彼は苦しみ、主人としての自信も失い‥‥
.....



わりとSMってサディズム/マゾヒズム的な観点からとらえられがちですが、スラにおける(というか欧米における、か?)SMというのは「Slave/Master」の関係性を重視するものが主で、嗜虐的な(だけの)ものは少ないように思います。
BDSM系の名作と言えば「Remastering Jerna」なんかもすごく好きなんですが、このへんを読むと「主人にもスキルが必要」ということがよくわかります。奴隷の欲望と限界を正確に読み、己を律するだけの強さがない人間は、Dom(Dominant=支配者)になる資格がない。
奴隷と主人とは言っても彼らの間には深い信頼が必要で、互いを信頼するからこそ彼らは深くシーンの中へ入っていく。奴隷の服従と屈服を得た主人には、その信頼に応える義務があります。
信頼を基礎として、彼らは互いの限界をさぐりながら、行為を深めていく。痛みや拘束具は、己を通常では感じられない世界へ解放していくための道具であって、目的ではない。

この「A Storong Hand」は、そのへんを見事に凝縮した話で、プレイの物理的な詳細だけでなく、そこにある精神的なつながりやハーモニーを書いています。
初心者で、ゲイでさえないNickを新たな世界へ導こうとしながら、DamianもまたDomとしての資質を問われる。彼は経験の深いマスターですが、Nickとの間にあるものはそれまでの彼の経験だけでは対処できないものです。
NickはDamianの支配を望んではいるが、一方で見知らぬ行為に怯え、途中でセーフワードを口走ってしまうこともある。
この場合、セーフワードを発した奴隷(ってのも何かちがうんだけど、Subをどう訳せばいいものやら…)ではなく、そこまで追いこんでしまった主人に問題がある。それが、即座に行為をやめて反省するDamianの様子からもよくわかります。
話の中でも何度か言及されますが、彼らはDomとSubの関係ではあるが、本質的にその関係を支配し、すべての力を持っているのはSubの方なのです。

Nickは迷い、惑い、Damianはいくつもの間違った手段を取ってしまう。
失敗と葛藤をのりこえ、彼らは互いを信頼することを覚え、相手のリミットを覚え、単なるプレイをこえる人間関係をつくりあげていく。そして、さらに深い感情も。

SMの話というより、信頼と人間関係の葛藤の話です。エロは山盛りですが、特にハードなプレイもなし。痛くもないし、受けもそんなにいじめられたりはしないので、SM読まない人でもおすすめ。
あと、写真を撮るシーンで紡ぎ出されるイメージがとても艶っぽくて美しい。
ラストはちょっとあっさりしすぎた感もありますが、そこまでがとてもおもしろかったし、特殊要素ではあるけれども、人間関係の絡みがよかったので★みっつ。

★BDSM

Amor en Retrogrado
A. M. Riley
Amor en Retrogrado ★★ summary:
Robert Lemosの15年ともに暮らした恋人、JD Ryanが路地で撃たれて発見される。彼の連れは死に、JDは病院に運びこまれ、保険の書類からRobertに連絡がいく。
Robertは1年前、JDと破局していた。

病院に駆けつけたRobertは、JDが彼のことを記憶していないこと、おそらくは外傷性のショックによって部分的な記憶喪失に陥り、出会う以前の彼に戻っていることを知る。どうすればいいのかわからないまま、Robertは退院したJDを自分の家へとつれて戻る。
自分たちがすでに別れていることを、どうしても彼はJDに告げられない。何より、彼はまだJDを愛していた。
この15年ずっと、愛しつづけていた。
だがJDとの関係は悲惨なものだった。彼らは常に争い、JDはRobertを傷つけ、Robertが仕事に没頭するとJDは酒を飲んだ。JDは誇り高い男だったがいつもどこかに怒りをかかえていて、そんな彼をRobertが守ろうとする、その行為すらJDを傷つけた。
愛はあった。それはまちがいなかったが、彼らの間に信頼はなかった。

記憶を失ったJDはいつになくおだやかで、Robertへの愛情を素直に見せる。もしかしたら彼らはまたやりなおせるだろうか。
そう思いながら、また痛みをくり返すことにRobertは臆病になっている。
そしてまた、JDとその連れを撃った犯人への捜査が進むにつれ、疑いはRobertへと向けられ…
.....



これはおもしろい展開の小説で、「JDが撃たれた→Robertの家へ→事件の捜査進行」という現在の時間軸の間に、フラッシュバックのようにRobertとJDとの関係が挿入されていきます。それによって、彼らの痛みに満ちた日々が浮き彫りになっていく。その構成が非常に巧みです。
JDはもともとゲイではない(というか、気付いていない)。だが彼はRobertに出会って恋に落ち、しかし混乱し、己のセクシュアリティを否定しようとしてできず、怒りに満ちる。その怒りが、後々まで彼に影響を及ぼしていたように見えます。

陽気で美しい恋人を得て、Robertは生涯ではじめて「幸福」というものを味わう。
だがJDは時にシニカルに彼らのことを「セックスにすぎない関係」と言ってのけ、彼らが結婚してからも、「その関係に意味があるのか」と問う。彼はどこか暗いところへ目を向けているようなところがあって、やがてその怒りや、Robertの独占欲が彼を喰いはじめる。そしてJDは酒に逃げ、Robertは仕事に逃げる。
その日々が、エピソードの挿入によって次第に明らかになっていきます。
2人の関係がRobert視点から描かれるため、はじめのうちJDは勝手なふるまいのわがままな恋人に見えますが、段々と、Robert側にも問題があることがわかってくる。
彼らはどちらも弱く、どちらも相手を信頼していない。愛はあるけれども、傷つけあう武器のようにそれを振り回してもいる。
その過去の様子と、今の(記憶を失った)JDのやけに素直な様子との対比が悲しい。
果たして彼らは、思いもかけない形で新しい絆を作れるか。それともただ、かつての失敗をくり返すのか。


小説としてはいくらか弱いところもあって、捜査する側のエピソードがちょっとわかりにくかったり(ていうかあれ必要か?)、いらんところでキャラ視点の移動があったりします。私は視点固定じゃない(同じ章の中で視点があちこち移動する)小説って嫌いじゃないですが、この作者は「固定」のように見せておいて、たまにふらっと視点を動かすので語り口として不安定なのです。
ただ、それを補ってあまりあるほど、2人の感情のほとばしりは見事だと思います。Robertの視点から見ているにもかかわらず、JDの中にある痛みはあきらかで、ねじれていくしかない関係のどうしようもなさが切ない。特に中盤から非常に読みごたえがあります。
スペイン語があちこちに散見されまして(わからなくても読める、つか読んだ)、巻末にスペイン語スラング辞典があるのがちょと楽しい。
タイトルの「Amor en Retrogrado」は機械翻訳だと「後退するiの愛」とか出てくるので(英語だとLove in I Retrogradeとか)、「巻き戻された愛」とかそんな感じ…で、いいのかなあ。

★記憶喪失
★破局した恋人との再会

Without Reservations
J. L. Langley
WithoutReservations★★★ summary:
ネイティブアメリカンの血を引く獣医のChayton Winstonは、実は人狼でもあった。満月になると狼に姿を変えて狩りに出かける。
ある時、彼の群れの仲間が撃たれた狼を──それも人狼を──Chayのもとに運びこんできた。白い狼を一目見た瞬間、いや見るまでもなく近づいた時から、Chayはそれが彼の「mate」であると知る。
狼には運命の相手がいる。それはただの恋ではなく、どこか大きな力で運命づけられたただ一人の相手。否応なしに惹きつけられ、一生を分かちあう相手だ。
Chayはまだ4つの時から、ずっと自分のmateを夢に見てきた。白い肌と青い目のパートナー。ついに出会ったことにChayは喜ぶが、同時に予期せぬ驚愕にもとらえられていた。彼の運命の相手は、雄狼──男だったのだ。

Keaton Reynoldsは傷から回復して目をさまし、自分がmateとともにいることを悟る。一瞬で、彼は惹かれ、とらえられるが、次の瞬間に相手がストレートの男であることを知って、その喜びは砕け散る。
昔の恋人が「自分はゲイではない」と周囲にふるまう態度に傷つけられたことのあるKeatonは、「ゲイではない」男とまたかかわりあう気はなかった。mateであれ、何であれ。

Keatonは彼らの出会いをなかったことにしようとするが、Chayは後に引かない。はじめのうちこそ驚いたが、Chayはずっと望んでいたmateを前にして後ずさりするような男ではなかった。そしてKeatonと少しずつ関係を積みかさねながら、Chayは心の底から、この美しく、強情で癇癪もちの、小柄な狼を好きになっていく。まさしくKeatonは、彼の求めるmateだった。
Chayの心を信じながら、それでもKeatonは彼らの未来を信じられない。いつか、Chayはやはり女の子の方がいいと思いはじめるのではないだろうか。それにChayの家族や友人が、彼のmateが男であると知ったらどう思うだろう? 自分の存在や、自分たちの関係はChayの未来や幸せを傷つけてしまうのではないだろうか。

そんなある日、Keatonの車のブレーキホースが切断されて、事故をおこし…
.....



J.L. Langleyの人狼もの。
ここの人狼は、興奮すると目だけ狼になります。狼の目で見つめあったりして、大変エロい。
んでもって、女性の人狼はいないそうです。だからChayは、白い狼が自分のmateだ!と気付いた時、まず「女の狼がいるんだー」と感心する。まちがってるぞお前。でもまちがってることにびっくりしてなお、Chayはひるみません。小柄なKeatonを「Little Bit(ちっこいの)」と呼び、他にもKeatonを苛立たせるいろんな渾名を勝手につけながら、彼はどんどんKeatonの生活に入りこんでくる。ためらわないし、迷わない。
Keatonは希望と自制の間で揺れ動きながら、どうにかしてChayを自分の生活から押しやろうと思うけれども、一度「これは運命だ」と決心したChayをどうにかできるわけもない。

ゲイとストレートのカプの話ってのはそんなに珍しくないですが、ゲイ側(Keaton)がとにかく逃げよう逃げようとしているのがおもしろい。逃げると言ってもただの及び腰ではなく、「女じゃなくってすいませんね、こっちに気を使ってくれなくても全然結構ですよ」みたいな、ちょっと攻撃的な逃げ方です。
J.L. Langleyの受け(タイプ)はみんなそうなんですけど、Keatonも小柄で敏捷で、ユーモアと反骨精神に満ち、愛らしい癇癪もちでもあります。この受けを、包容で強引な攻め(タイプ。たまにリバやるので)が溺愛するという、まさに鉄板カプ。しかもすごい可愛い。
Keatonはとても強い狼で、Chayが属する群れの中でもおそらく最強の狼ですが、戦いや主導権争いを好まない。16歳の時に家族や仲間にゲイであることをカミングアウトし、拒絶された彼は家をとびだして自力で学費を稼ぎ、自分だけの力で生きてきた。その彼がはじめて自分を預けられるほど信頼した相手が、Chayです。逃げよう逃げようとしながら、Keatonは頑固で誠実なChayにふれるにつれ、彼に傾いていく。

2人が飼っている子犬(ChayからKeatonへのプレゼントです)がまた可愛い。いいムードになったところでChayの爪先をかじり、Chayが狼に変身すれば「遊んで!」とばかりにChayの耳をかじる。どうにかしてくれ!と狼のまなざしでKeatonにうったえるChayが笑えます。狼なのに。
Chayの友人や母親など、障害は多けれど、彼らは互いとともに新しい生活を作りはじめる。
その一方、誰かがKeatonを狙っていることが段々とあきらかになります。はたして彼らはすべてのトラブルを無事のりこえられるのか?

ほんとーに愛らしい、笑えるカプです。
いくらか残った問題が気になるのですが、何故ChayがKeatonの狼としての強さを嗅ぎとることができないのかとか、銀の弾丸が最後に効かなかったのはどうしてかとか、あれは裏設定があるのかないのか。
まあでもそれはさておいて、とても楽しめる一冊。気になる友人のRemiの話は、続編が出てるので読んでみるつもりです。

★人狼もの
★運命の相手(mate)

With Caution
J. L. Langley
WithCaution★★ summary:
兄弟としての誓い。恋人としての約束。どちらも守るのは命懸けとなる。

Remington Lassiterは命を落とすところを人狼の血によって救われ、その結果人狼となってしまう。新しい生活に慣れるのに必死の彼に、弟から助けを求める電話がかかってくる。
年の離れた弟は、Remiにとって唯一の「家族」のようなものだった。子供を束縛し母やRemiを殴る父親と、その父親から離れられず言いなりになる母に、彼は愛情を感じられない。
だが弟を守るためなら、Remiは父の言うことすべてに従った。まだ14歳の弟がどうにか無事に大人になるまで、Remiは何でも耐える覚悟だった。

探偵事務所を営むJake Romeroは、Remiを助けようと決心する。
Remiは気付いていないが、彼を人狼に変えたのはJakeの血であった。その時にもう、彼はRemiは彼のmate(運命の相手)だと知っていた。だがそのことをRemiには言えない。Remiは人狼になったばかりで、しかもストレートで、友人のChayが男の恋人を持った時に口をきわめて罵った「ホモ嫌い」である。そして今や、弟と父親についてのトラブルもかかえている。
やむなく自分の欲望を押しこめ、JakeはRemiを守ろうとする。
Remiの父親の過去を調べはじめた彼は、やがて暗いRemiの過去と、そこにある殺人事件に行きあたる。

その一方で、RemiはどんどんとJakeに惹かれていく自分を抑えきれなくなってきていた。また、人狼としてのRemiにも奇妙な現象がおこりはじめ…
.....



Without Reservations」の続編です。Without..に出ていたChayの友人のRemiと、群れの仲間のJakeの話。
前作のネタバレ含むので、ご注意。


Remiは前作でKeatonを「おかま野郎」と罵倒したほどのhomophobia(恐怖症というより、homohaterって感じですが…)です。なので、Jakeが彼のmateであることは皆で「しばらくRemiには伏せておこうか」ということになっている。
しかしそれを知らないまま、RemiはJakeに惹かれて、あれだけ拒否反応を示したにしちゃJakeに近づくことに対してあまり葛藤がない。
Remiが何故そうなのか、何故あれほどKeatonをののしったのか、何故前作であれほど「嫌なやつ」でありながらChayの長年の友人だったのか、そういうことがこの作品できちんと語られていきます。
彼が何から自分を、そして年の離れた弟を守らなければならなかったのか。守るために多くを捨て、自分を覆い隠し、攻撃的な態度を身にまとった、そんなRemiの人生が次第に浮き上がってくる。

自分自身を犠牲にして弟を守ってきたRemiは、Jakeと出会ってはじめて弟と同じほど──あるいは弟以上に大切な存在を見つける。そのことが彼に戦う勇気を与えますが、過去の恐怖をのりこえることは簡単ではない。
それでも手遅れになる前に、彼は弟を父親の手から救い出そうとする。

この弟(Sterling)がかわいいんですよ。まあよくしゃべるよくしゃべる。明るくてこまっしゃくれてて、勘がよく、たじろがない。
Remiが彼をかわいがるのもよくわかります。SterlingにとってもRemiは父親がわりのようなもので、RemiがJakeやその友人と会っていることを知ったSterlingは(兄に友人ができたことを喜びつつ)、彼らを見定めにかかります。14歳ながらも、Remiのことを守ろうとするんですね。
だがその彼もまた、この戦いの中で無傷ではいられない。

一方で、Remiは狼として「オメガ」であり、Jakeは彼の「アルファ」であるということがわかる。それは彼らの属する群れを2つに割る結果となり、彼らは元の群れを離れて自分たちの群れを持たねばならない。
なかなか大変です。はたしてRemiはSterlingを守りきれるのか、そしてJakeはRemiを守りきれるのか。

補足すると、人狼もののスラにはよく「アルファ」「ベータ」、そしてたまに「オメガ」が出てきます。
動物学上、群れのリーダーをアルファ、そしてそのアルファをサポートする副官的存在がベータ、さらに群れで最弱の個体をオメガと言う。オメガはどうしてもみそっかすにされたりいじめられたりするのですが、群れという全体を構成する上で必要な存在らしい。
スラの場合、大抵オメガは珍重されます。オメガは弱いが、オメガを手に入れるということは名誉であり、オメガを自分のものにするということは自分が群れのアルファになるということを意味する。
で、何か元ネタがあるんじゃないかと思うけど、「オメガは戦いには向かないが、特殊能力がある」という設定がとても多いです。いわゆる超能力レベルのものから、群れをまとめるための何らかのシンパシー的能力まで色々ありますが。また一般に人狼のオメガは「オメガとして生まれる」存在で、オメガでなかった者がオメガになったりすることはない。
このへんの「お約束」はどこからはじまったんだろうなあ。


Remiの印象が前作とあまりにちがってくるのでとまどいましたが、次第にそれも納得いくし(もうちょっと変化の過程がほしい気もしましたが)ドラマティックでおもしろい話でした。
SterlingとRhysの話がまた後に引いてますけど、これはそのうち書くそうです。本当に愛らしいぞSterling。彼らの短編がJ.L.Langleyのサイトにのっていますので、本編読了後にどうぞ(下部の「free story」のところから)。
何かゴージャスで手に負えない男になりそうだなあ、Sterling…

ボリュームが結構あるんですが、スピード感もあり、バランスのとてもいい話です。
前作の「Without Reservations」を楽しんだ人なら絶対におすすめ。

★人狼もの
★運命の相手

The Ghost Wore Yellow Socks
Josh Lanyon
The Ghost Wore Yellow Socks★★ summary:
傷心をかかえてサンフランシスコの旅行から帰ってきたPerry Fosterが自分の部屋で見たのは、空のバスタブに入っている死体だった。穴のあいた靴、黄色い靴下。見知らぬ顔。
愕然として、Perryは部屋の外へとびだす。
彼の住むAlton Estateは古い建物で、今は各部屋ごとに住人がいる。Perryと同じ3階には、元海軍のSEALに所属していたNick Renoが住んでいた。
Nickは不承不承ながらも部屋をチェックしてくれる。だが死体はどこにもなかった。

Alton Estateに住む誰もが、そして警官たちも、死体はPerryの思いこみだと判断する。
だがNickだけは少しちがった。彼はPerryの部屋をチェックした時、床に落ちていた古ぼけた靴の片方を、何気なく窓際に置いたのだ。警官が来た時にはその靴は消え、かわりにPerryの靴が置いてあった。
Nickは死体は見ていない。それを信じればいいのかはわからない。だが、この部屋で何かがおこっている。それはたしかだ。

Perryは自分の見たものが幽霊だったとも、幻だったとも思っていなかった。誰かが彼の部屋に死体を隠したのだ。だがPerryが部屋の外に出てからNickが見にいくまでに、一体どうやって廊下を通ることなく死体を運び出したのだろう。Perryは事件を自分で調べようとする。
警告、新たな死体、建物にまつわる古い物語、遠い昔に恋人を奪おうとして死んだ男の伝説。住人たちは皆挙動不審になり、重苦しい空気の中で、彼らが秘めてきた隠された顔があらわにされていく。逃亡者、覗き屋、昔の持ち主の子孫…

その中で、殺人者の顔を持つのは誰なのか。
.....



Perryはゲイであることが原因で親元を離れ、画家を目指している23歳の童顔の青年です。喘息がちで、失恋したばかりで、今月の家賃まで旅費に使いこんでしまった上、とぼとぼと家に戻ってきたら死体が待っていた、と、もう踏んだり蹴ったり。
Nickはそんな彼に巻きこまれることを避けようとします。だがPerryは彼が思っていたような「ドラマクイーンタイプ」ではなく、じつのところは快活で賢く、粘り強い。最初こそじめじめ落ちこんでいますが、すぐに気をとりなおして、根っこにあるポジティブな気性を見せ、自分で建物の謎を調べはじめる。

Nickは軍をやめて仕事を探している最中で、LAの友人のところで職をもらえればバーモントを離れるつもりなので、なるべくPerryに近づきたくはないのですが、少しずつPerryの新たな一面を発見しながら段々と惹かれていくのをとめられない。
その経過はゆっくりで、まるで似たところのない2人が互いの距離をつめていく様子が、物語のもうひとつの核となっています。ものすごくドラマティックなことがおこるわけではありませんが、Nickが「駄目だ」とか「馬鹿げてる」とか思いながらちょっとずつ傾いていくのがおもしろい。Perryに対する庇護欲がどこからわいてくるのかわからなくて、自分でとまどっている。そしてNickが思っているほどPerryは子供でもなかった。
彼らは互いに惹かれるが、たとえ今はうまくいっても、Nickはバーモントへ行ってしまう。続くわけのない関係です。
だからといって踏みとどまれるものでもない。Perryもまた後からくる喪失をわかっていて、一歩踏みこむ。「ただのセックスでいい」と言うPerryに、Nickはたじろぐ。「お前に、そんな言い方は似合わない」

自分がこの場所を去る前に、Nickは死体の一件を解決したいと思う。何だかわからないものの中にPerryを残していくのは気がすすまない。
2人は一緒にこの事件に取り組むことになります。その先にある謎を、彼らは無事解くことができるのか?
そして謎を解いた先には、別れが待っている。


Josh Lanyonはおもしろいのがわかっているので、わざといくらか読み残してあって、その一冊。やはりおもしろいです。
こう、Lanyonの特徴でもある強烈に凝縮された感じはあまりないのですが、その分読みやすいとも思う。ミステリとしての核ははっきりとしているし、NickがぶすっとしながらPerryの面倒をついつい見てしまう様子がほほえましく、Perryは若々しくてかわいい。「こんなガキにかかわりたくない」と思いながらくらっとするNickがいい味を出してます。
甘くはない、さりとて苦くもない、映画のような陰影のくっきりした話です。話自体がおもしろく、雰囲気も楽しめますので、小説全体を楽しみたい人に特におすすめ。

★ミステリ(消えた死体)

Sutcliffe Cove
Ariel Tachna & Madeleine Urban
SutcliffeCove★☆ summary:
Gerald Saundersは色々なことをして仕事以外の時間をつぶしてきたが、今度彼が興味を持ったのは乗馬であった。乗馬のレッスンをしているという牧場Sutcliffe Coveを訪れた彼は、牧場のオーナーBrett Sutcliffeに出会い、初心者レッスンを受けはじめる。

Brett Sutcliffeは、この魅力的な男がゲイなのかどうか知ろうとするが、GeraldはBrettのほのめかしにまったく応じない。この男はストレートだと判断し、彼は乗馬のレッスンと、友情のみに互いの関係をとどめることにした。
だから、しばらくしてGeraldがゲイだと知った時、Brettは心底驚いたが、その時彼にはもう新しい恋人がいた。それはカジュアルなつきあいで、決して深まらないタイプの関係だが、それでもBrettは二股をかけられるような性格ではなかった。

数月のうちに、Geraldはレッスンを受けにくるだけでなく、牧場の手伝いに訪れ、子供のレッスンのサポート役まで受けるようになる。かわりにBrettは無料のレッスン時間を提供し、彼らは古い友人のようになじみはじめていた。2人でいる時間がごく自然で、まるで当然のように感じられることを、2人のどちらもがこっそりと驚いていた。
そんな時、Geraldははじめて長い休暇を取り、祖父と祖母を訪れにいく。彼の長い不在は、互いに相手の存在の大きさを感じさせ…
.....



牧場で、乗馬を通じて近づく2人の男が、やがて恋に落ち、そしてそのもっと先にある深い関係へとたどりついていく話です。
全体におだやかな展開ですが、関係の進み方が繊細で説得力があります。

BrettとGeraldがつきあいはじめてから、Brettはとても幸せなのですが、どうしても気持ちに残るものがある。Geraldは何にでも気軽に「OK」と答え、反駁したりためらったりする様子がない。
乗馬のレッスンの後で、夕食を食べていけと言えば「OK」、泊まっていけと言えば「OK」、かと言って何も誘わずに帰してしまっても落胆した様子を見せない。
自分が押しすぎてしまっているのか、Geraldに選択の余地を与えていないのか、それともGeraldにとってこの関係は迷うほどのこともないカジュアルなものなのか。
一緒にいる間は忘れてしまっているけれども、離れている間、BrettはGeraldの気持ちがどこに向いているのかわからずに時おり袋小路に入ってしまいます。

Geraldは全般に呑気なんですね。ほのめかしとか、そういったものを一切読まない。自分が快適である限り、大体の物事は抵抗なく受けいれる。
Brettといる時間は彼にとって快適この上ない時間なので、大体そういう時に反駁したり迷ったり、あまりあれこれ考えたりはしません。
で、呑気なものだからBrettが何を悩んでいるのかさっぱわからない。ただ彼が何かを悩み出したのは感じていて、どうにかそれを解決してあげたいと思う。勿論、BrettはGeraldにとって誰よりも大切な相手ですが、呑気なものだからそういうことを口に出して伝えようとしない。伝えてやれよ。

この2人の、のどかな行きちがいがとても可愛らしい。読んでいてほのぼのと楽しめます。
牧場の生活や、馬房の掃除、また乗馬についても結構細かい描写があり、きっちりと生活感が感じられるあたりも気持ちのいい話です。馬かわいいなー!

★乗馬

★Three-Star rating system★


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