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M/M小説 (原書)レビューブログ

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[タグ]長さ:3~5万語 の記事一覧

Don't Look Back
Josh Lanyon
Don't Look Back★★★ summary:
博物館で働くPeter Killianは、奇妙な男の夢から目覚めると、病院にいた。
何があったのか。誰かに殴られて脳震盪をおこし、運びこまれた筈なのだが、何があったのかPeterには理解できない。思い出せない。
記憶障害だと医者は言った。

ロサンゼルス警察のMike Griffinという男が姿を見せるが、何故か彼はPeterの記憶障害が偽装であると思っているようだった。「都合がよすぎる」とGriffinは言う。
そして博物館からは以前から少しずつ物が盗まれていたこと、それに気付いたPeterが警察に届け出たこと、Peterがその泥棒に殴られた可能性があることを告げた。盗みの現場に行きあたってしまったのだと。
だがGriffinも、周囲も、まるで悪いのはPeterであるかのように振る舞っている。
何かがおかしかった。

自分が疑われていることに気付いたPeterは、身を守ろうとするが、記憶は戻らない。
脳に問題はなく、医者によればPeterは何か思い出したくないことがあるようだった。自分で自分の記憶をブロックしているのだ。
病院に来てくれる身内もいない。泥棒の疑惑をかけられたままでは職を失う。馴染みのない自宅に戻ったPeterは、自分がこの半年、抗鬱剤を飲んでいたことを発見する──

記憶にない自分は、一体どんな人生を生きてきたのだろう。何をそんなに苦しんでいたのだろう。Griffinは何故Peterをあそこまで嫌うのか。殴られた夜、Peterが見たのは何だったのか。
何もわからない。
ただひとつだけ、Peterがわかるのは、自分が決して博物館から物を盗んでいないこと──自分が無実であるということだけだった。だがそれを証明する方法はどこにもなかった。
.....



Josh Lanyonは「記憶喪失」ものに萌えるんだ、と言っていました。「White Knight」でもやっぱり記憶喪失ものをやってましたね。
実際、うまい。Peterの視点から見た世界は最初のうち、ひどく狭くて、一方的です。人を見た時に感じる第一印象は薄っぺらだし、深みがない。
やがて彼が情報を集め、色々な角度から物を見て、自分の記憶のかけらとつなぎあわせるにつれ、世界は形を変えていく。そのパースペクティブの変化がなかなかの読みどころです。
そしてPeterは、自分が仕掛けられた大きな裏切りに気付いていく。

それは長い時間をかけた裏切りで、Peterにとって「記憶を取り戻す」のは、その長い時間に対する「気付き」のプロセスでもあります。自分のことを他人のように外側から見て、自分がどう生きてきたのか、あらためて彼は見つめ直す。フェアでなかったいくつかの出来事、かつては見えてこなかった物事の裏。過去の自分が目をふさいでいた真実。
犯罪の謎解きと同時に、そのPeterの目覚めが物語の大きな軸になっています。
そして、彼が忘れてしまった──心の奥底に封印してしまった、ひとつの恋。

結構そのへんが痛々しくて、読みながらしみじみしていました。
気がついたら病院だわ、刑事(Griffin)にはよくわからんことでやたら怒られるわ(そのうちそのへんもわかっていくんですが)、泥棒の濡れ衣は着せられてるわ、仕事は解雇されそうで、友人が紹介してくれた弁護士は「さっさと罪を認めよう」と言ってPeterの無実の主張をまるでとりあわない。
そんな中ではよくやってますよ、Peter。どちらかと言うと物静かな感じの人なんだけども、とにかく追いつめられているので必死。

謎解きもおもしろいです。すごく手がこんでいるわけではありませんが、人と人の間にある暗い歴史のことを考えさせられる、ちょっと怖い部分のあるエピソードでした。
スラとしてもちゃんと盛り上がってます。Peterはエロティックな夢を見るけれども、恋人の顔がわからない。だが少しずつ、気付いていくのです。
記憶喪失ものなんであんまり書くとおもしろみが減りますが、なかなかドラマティック。

Lanyonの書くカプはいつも、2人の間にあるテンションが強くていい。優しかったり甘かったりばかりではなく、時に傷つけあうほどの緊張感なんだけれども、それもすべて、相手にまっすぐ心を向けているからこそ。その強い視線に引きこまれます。

謎解き、記憶喪失、ちょっと入り組んだ話が好きな人におすすめ。話の構成は素直なので読みやすいです。

★記憶喪失
★濡れ衣

His Convenient Husband
J. L. Langley
HisConvinientHusband★★★ summary:
Micah Jiminezは7歳で孤児となった時、貪欲な親族たちによってすべてを奪われ、あやうく施設へ行くところだった。
だが叔父が働く牧場に引き取られ、そこの経営者の一家に育てられて、まるで家族のように受け入れられた。
Michahはあの時の痛みと喪失、自分が得た幸運と恩を忘れたことはなかった。

二度とあんな思いをくり返すつもりはない。そして、愛する者たちの誰にも、あんな痛みをくぐらせたりはしない。

だが今や、牧場は危機に瀕していた。オーナーは年老いて病となり、その医療費は牧場の維持費を食いつぶしている。Michahはあらゆる手を使って金をかき集めたが、オーナーの死も、牧場の破綻も、時間の問題だった。

そんな時、彼はオーナーの遺言を発見してしまう。

遺言の内容に追いつめられたMichahは、ダラスでビジネスマンとして働いているTuckerに助けを求めた。
Tucker。オーナーの孫であり、Michahとは兄弟同然のように牧場でともに育った。
Michahはその頃からずっとTuckerに恋をしていた。そして18の誕生日、Tuckerとともについに一夜をすごしたが、TuckerはそのままMichahに背を向けてダラスへ去っていったのだ。
彼に救いを求めるのはMichahにとって最後の、プライドと痛みを呑みこんだ、ギリギリの決断だった。

やつれたMichahの来訪に驚き、遺言を見たTuckerは、ひとつの結論に達する。
その奇妙な遺言によれば、彼らが牧場を人手に渡さず相続する方法がまだ残されていた。Tuckerが結婚することだ。
そしてTucherは、Michahと結婚することに決める。牧場のためならMichahがノーと言わないことを、彼は知っていた。
.....



J.L.Langleyの新刊。「Innamorati」シリーズの1、ということで、シリーズものらしい。「Innamorati」というのはイタリア語で「恋に落ちた人たち」という意味らしいです。
そのシリーズ名にふさわしい、葛藤と渇望、さらにちょっとコミカルな部分も加えた一編になっています。

TucherはMichahが牧場に来た時からずっと、この年下の少年を守ろうとしてきた。彼が何を失ってきたか知っているから、Michahをすべてのものから守りたかった。たとえ彼自身からでも。
そして4年ぶりに現れたMichahを守るため、Tucherは結婚という手段に打って出る。
だが結婚は形だけのもので、すべてが終われば、また離れるしかない。そのつもりだった。

Micharが18歳の時なら年上のTucherが「つけこんでいる」ような気がして離れていこうとしたのもわかるんですが、22歳になったんだからもういいじゃん、くっついちゃえよ、とはちょっと思います。
でもTucherがMicharにあまりにもめろめろで、タガが外れそうな自分を怖がっているのも伝わってくるので、その気持ちもわかる。
2人は形式上の「結婚」をして牧場に戻り、伯父(相続を争っている)が納得して引き下がるまで頑張ろうとする。一緒のベッドで(相手にふれないようにしつつ)眠り、伯父の目の前であてつけのキスをして、寝室でちょっとエロい声を上げてみせたり。
たまに本気でキスしたくなったり、しちゃったりしますが、我慢我慢。MicharはTucherがいずれいなくなってしまうことを知っているし、Tucherは最後にはMicharから離れなければならないと思っている。
…もういい加減、幸せになろうよ。何故そこで耐えるかなー。

その意地だけでなく、2人の間にはまだまだ大きな溝がある。
何をおいてもMicharを守ろうとするTucherと、子供みたいに盲目的に守られるのは我慢ならないMichar。彼らは対立し、挑みあいます。なんせMicharはラテン系が入ってるので、気性も激しい。

重い部分もありますが、全体に可愛らしくて、互いが互いにめろめろなのに、距離を置こうとしてもがいているのが笑えます。
わりとあっさりと中編くらいの長さ。J. L. Langleyの割にエロは控え目。短いからか。
Tucherなんか嫌いだ!大好きだけど嫌いだ!と頑張るMichahが本当に可愛いので、「意地っぱり受け」とか、うっかりそれをつついてしまう「ちょっと傲慢な年上攻め(受け溺愛)」が好きなら鉄板のおすすめです。

ちなみにタイトルの「His Convenient Husband」の「Convenient」は「お手頃」とか「都合のよい」という意味ですが、「marriage of convenience」で「政略結婚」という成句になります。成程。

★偽装結婚
★遺言

Dark Heart
Thom Lane
Dark Heart★★☆ summary:
Amaranthの国の旅人ギルドは、繰り返し何者かに襲撃されていた。
ある夜、魔道士Lucanが嵐を逃れてギルドの屋敷を訪れ、屋敷の奴隷であるTamは彼に仕えることになる。

魔道士は誰もが恐れる存在であったが、その中でもLucanは特に恐しく見えた。闇よりも暗く、強烈な力と意志を持つ存在に。
Tamはベッドの中と外の両方で彼に奴隷として仕えながら、Lucanの冷厳さに惹かれていく。
だが奴隷は未来のことを考えない。過去のことを考えない。彼らにはその一瞬ずつの人生をやりすごして、その時々に目の前にいる者たちにつくしていくだけだ。今をこえた望みなど、身にすぎたことだった。

Lucanはギルドにたのまれて襲撃事件を調べはじめ、Tamは彼につき従って手伝う。
LucanはTamをしきりに呼びつけ、つれ回し、ベッドに入ればTamを抱くが、それ以上の個人的な興味を見せる様子はない。ただ道具のように彼を使うだけだ。
奴隷と主人、その関係の中にTamは自分の思いをとどめておくしかない。そしてLucanが去っていけば、また次の主人に仕えるしかない。
それが、盗賊としてとらえられ、奴隷の烙印を押された時にさだめられたTamの運命だった。
.....



書店的には「BDSM」のカテゴリに分類されてますけど、そういうわけではありません。主人/奴隷で支配と服従の関係ではありますが、それは人間関係であって、この話の性的嗜好はわりとノーマルです。
ただ、「奴隷」というもののありよう、その心の向きの特殊さが実によく書かれています。それがおもしろい。

この世界での奴隷はどうも、1度奴隷になったら解放されたりしないらしい。
Tamは、決してひよわでもなく、むしろはねっかえりで反骨精神にあふれた少年なのですが、こと主人に対する服従となるとそこには鉄の規律があって、つねに主人やギルドを自分の上に置いています。たとえ直接の命令に反して、罰せられる時でさえも。
彼の迷いのない忠誠を一身に受けながら、魔道士LucanはTamを時に冷たくあしらったり、生意気な物言いや反論を鞭で罰したりする。
奴隷をしつけるのは主人の権利でもあり、義務でもあって、それは自分の体面のためだけではなく奴隷のためでもあります。奴隷はきちんとしつけられてふるまう限り、奴隷としての人生をまっとうできますが、その規範を踏み越えた奴隷にはさらに厳しい人生が待っているからです。

Tamが、新しい奴隷が馬車を引いている姿を見るシーンがあります。Tamはその奴隷の中にまだ反発があるのを感じ、やがて彼も落ちるだろうと思う。「ある日、必ずその時がやってくる。鞭が怖いから主人に従うのではなく、ただ従うために従う、そういうふうになっている自分を知る」のだと。
そのことを悲しんだり、痛みをもって振り返っているわけではない。単純にそういうものなのだ。それが自分におきたことであり、他の多くの奴隷におこったことであると、Tamは知っている。
いつかその新しい奴隷も、Tamのように根っからの奴隷となる。そうなればもう戻ることはできない。

そのあたりの特殊さがリアルに書かれていて、おもしろいです。
彼らの力関係を踏まえた上で、LucanとTamとの間に生じる感情や軋轢、決して口には出されない思いなど、なかなか巧みに書かれています。
ファンタジーらしさも満載で、LucanがTamをつれて地獄の門をくぐるシーンなど見所も多い。それにしてもLucanはTamを悪魔との取引にさし出しちゃったりするんだ。鬼ですな。
それでもLucanが好きなTamがかわいいやら、かわいそうやら。

ファンタジーや主従ものが好きな人、「傲慢攻め×けなげ受け」の組み合わせにぐっとくる人におすすめ。
シリーズ続編の「Healing Heart」では、彼らのバカップルぶりも楽しめます。

★主従(奴隷)
★ネクロマンサー

Saving Noah
Carol Lynne and Cash Cole
Saving Noah★★ summary:
カンザス州の小さな町Schicksalにある叔母の家をDexter Krispinが訪れたのは、つきまとってくる元恋人から離れて、博士論文を仕上げるためだった。

Noah Stoffelは、その町の小さな牧場でずっと家族だけで暮らしてきた。父の死後、1度は大学へ進学したが、結局戻ってきて今は病気の母親の面倒を見ながら、町の色々な雑用を片付けてどうにか食べている。
Noahは自分がゲイであることを隠してきた。保守的で頑固な母親は決して彼を認めないだろう。それでなくとも父が死んでからの母親は気難しく、食事もろくに取らず、医者にかかることも拒否して、1日中ベッドで寝ている。
彼女の世話をし、牧場の動物に餌を食わせ、町に出て小さな仕事を片付ける。その繰り返しがNoahの日常、Noahの毎日だった。
Dexterに出会うまで。

DexterとNoahは互いに惹かれる。Dexterがいずれ彼の生まれ育った都会に戻ることをNoahは知っていたが、だからといって自分の気持ちをとめることもできなかった。
そして物静かなNoahにDexterは強い興味を持ち、彼を殻からひっぱり出そうとする。

だが、何かがおかしかった。Noahとともにすごす時間は楽しい。それなのに何かが理屈にあわない。
Dexterは周囲の人々の奇妙な反応に気付いていく。
Noahの墓場への恐怖、拒否、母親への極端な傾倒。その奥にあるものが明るみに出るまでに、それほど時間はかからず…
.....



よく働くが奥手で優しいNoahと都会からやってきた青年Dexterのほのぼのラブストーリーかと思いつつ、タイトルの「Saving Noah」の「Save」の部分もきっとほのぼのな展開だと踏んでいたら、足を大きく踏みはずしました。
ちょっと怖いです。いい話なんですが。
Carol Lynneは「Cattle Valley」というカウボーイタウン(しかもゲイの集まる町)のロングシリーズを持っている人気作家で、とてもハートウォーミング系の作家なので、これはほんとに予期していなかった。

キャラはなかなか愛らしくて、Noahは特にかわいいと思う。いじらしいというか、繊細で、両親を愛していて、毎日をどうにか暮らしていくことに少し疲れてもいる。
そんな彼にとって、Dexterとの出会いは一瞬の、滅多にない楽しみですが、それが自分が思ったより深いものであるかもしれないと気付いて、彼は怯えます。

DexterはNoahの人生に色々なことが欠けているのを見て、胸を痛めます。一晩家を離れて遊ぶこと、楽しみのために買い物をすること、それだけのことすらNoahには難しい。
Noahの中にある傷つきやすさをDexterは愛しいと思い、一晩のデートでとにかく彼を甘やかす。守ってやりたいと思う。
DexterとNoahの関係はあまり日にちもなく恋に落ちていく感じですが、感情表現が丁寧なので違和感はない。Noahって実際、なかなかに「守ってやりたい」タイプです。彼のキャラクターがよく書けているので、後半の展開にも違和感なく引きこまれます。

前半のちょっと緊張しつつもほのぼの展開が、途中でぐっとひねられ、後半でいきなり状況が一気に裏返る。色んな伏線がぱっとひとつになる、そのへんがなかなかうまい。
心理をこまごまと掘り下げるというよりは、話の展開として非常にうまく使っているので、内容のわりには重く読ませない、そのあたりもうまいと思います。

タイトル通り、Noahは本当に「救い」を必要としていますが、彼自身にはそれが見えていません。
Dexterでなければ彼を救うことができない。町の外から来た男。彼でなければ、Noahをそこから出してあげることはできないのです。まあ町の人もいい人たちなんだけどね。
余談だけど、「小さいコミュニティ」のよさと怖さも同時に出ていると思う。

守ってやりたい受けが好きな人(まあリバなんだけど)、展開にひねりのある話が読みたい人におすすめ。

★謎解き
★救済

Gobsmacked
LB Gregg
※出版社の問題で一時的にリンクを外してます。
Gobsmacked★★★ summary:
Mark Meehanは、同居している恋人Jamieが大家の男と寝ている現場を見てしまう。
怒りにかられ、恋人を聖書で殴り倒した彼は、次々とショッキングな事実を発見する。Jamieがあちこちで浮気をしていたらしいこと、自分以外の人間はみなそのことを知っているらしいこと、いつのまにか自分の貯金を残らず使いこまれていたこと。

頭にきて恋人──元恋人──の荷物を家から放り出した彼は、古くからの友人Tony Gervaseの家へ酒を飮みにころがりこんだ。
警官のTonyは3つ年上で、Markはずっと昔から彼が好きだった。だがTonyにその気がない様子を見てとって、友情の先を望むのはやめたのだった。

JamieはMarkから手を引こうとはせず、荷物を返せと暴れ回る。突如として暴力的な面を見せはじめた元恋人をMarkは恐れるが、同時に自分の金を取り戻そうとして動きはじめた。Jamieは何に金をつかったのか。金を取り戻す方法はあるのか。
そんなつもりはないまま、彼は動くたびに次の騒動をおこし、Tonyを巻きこんでしまう。
Tonyは怒りながらも、Markを守ろうとする。だが過保護で命令的な彼にMarkは惹かれながら反発し、その反発がTonyをさらに怒らせて…
.....



Men of Smithfieldシリーズの1作目です。今3冊出てますが、どれもおもしろい。

ある朝いきなり不幸に直面したMarkが次々とさらなる災難に襲われ、目の前が真っ暗になりつつ頑張る話。

普段のMarkは、おだやかな人柄で知られているらしい。この話の中では恋人を殴り、彼の持ち物を雪の中に捨て、大家を脅し、人のパソコンのパスワードを変えと、おだやかなところなんかかけらもない気がしますが。
友人で警官のTonyは強く、保護欲があり、Markに対して過保護なほどの関心を示している。少しの間、2人は疎遠にしていましたが、とても仲のいい友人同士です。その「友人」というカテゴリからかつてMarkは踏み出そうとして、Tonyは一歩引いた。
だが、今回の一件が彼らの関係を変えていく。

守ろうとする年上のTonyと、あっちこっちで騒ぎをおこしてTonyを苛立たせるMarkの組み合わせが、すごく可愛い。
Tonyはいかなる時でも冷静で、自制を失わない強い男ですが、Markだけは彼を後戻りがきかないほどに苛立たせる。愛しさと怒りが入り混じってぶちっと切れてしまう様子が、読んでいて楽しい。
それほどどうしようもなく執着されていることに、Mark本人が気付いてないあたりも可愛いです。

このシリーズは基本的に「活発で可愛い受け」と「冷静で強い攻め」の組み合わせでできています。
しかしMarkはただのドジっ子ではなく、ただの考えなしでもなく、考えた挙句に自信満々にドツボにはまっているというか、はまり方がなかなかに絶妙。Tonyが彼を守りたくなるのもよくわかります。
ちゃんとした一人前の男でもあるんですが、妙にあぶなっかしい。その行動力がやばい。
後ろめたい事情を誤魔化そうとするMarkに、電話の向こうで黙っていたTonyが「今、何か馬鹿なことをしているだろう。わかってるんだ」と言い出すシーンがあって、思わず笑ってしまいました。これは目を離すのが心配だろうなあ、Tony。

キャラも生き生きしていて、話全体にもスピード感があります。終わり方はあっさり気味だが、後味がいい。
適度なドラマと軽さがまざった中で、人の動き方に説得力があるんですよね。そういう作家は貴重だと思う。カプもツボだし(鉄板の過保護攻めと無自覚受け!)、個人的に今後の「買い」リストに文句なく入る作家です。

受けを守ろうとする強い攻めとか、受けが心配なあまりにうっかり怒鳴って受けを怒らせちゃう攻めが好きな人におすすめ。
楽しい読書がしたいなー、という時にも是非おすすめです。

★過保護攻め×強気受け
★昔なじみ

Happy Ending
LB Gregg
※出版社の問題で一時的にリンクを外してます。
LB_Happy_Ending.jpg★★ summary:
双子の妹が残した子供を育てるSeth Westonは、ストレスをマッサージでやわらげるのがいつもの習慣だった。
姪を可愛く思いながらも、Sethは6歳児をどう扱ったらいいのかわからない。
妹は癌で死に、彼女を看取っている間にSethの恋人は彼を去った。彼は1人だった。

そんなある日、いつものマッサージ師の臨時の代わりとして現れたのが、David Cookeだった。Sethよりずっと若く、妙なイヤリングをつけ、刺青のある青年。おだやかに見える彼の物腰の下には、頑固で、苛立たしいほどの強気な顔が隠れていた。

Davidは、Sethのタイプとはあらゆる意味でかけ離れていた。それまでのSethの好みは常に同年代の大人で、服装に金をかけ、彼と同じような暮らしをしている男──たとえば、彼を置いて去った前の恋人のような。
だがDavidはSethの自制を打ち砕き、欲望と、名付けようのない荒々しい感情を呼びおこす。
そしてそれを感じているのはSethだけではないようだった。

強烈に惹かれあう彼らの周囲で、様々な物事が巻きおこる。
彼らを脅迫するかのような写真、町に帰ってきてSethと復縁を望む元恋人、いきなり姿を現した、姪の血縁上の父親。
そしてDavidの語らない、過去の秘密。
.....



Men of Smithfieldシリーズ2冊目。
どこかミステリアスで活発な若い男にいきなりよろめいてしまったSethと、生命感にあふれたDavidの話。

このDavidがとても魅力的なキャラで、マッサージ師かと思えばウェイターもやってたり、児童書を書いていたりと、色んなところが謎。
Sethはマッサージ師をやってるDavidを見て「一時的な仕事だろう」と思いますが、Davidがそうした仕事や生き方に誇りを持っていることを見て、自分の中にある差別感に気付き、たじろぎます。
ごく自然に、自分やそれに似た人間たちを世界の中心であるかのごとく考えている。それまで何度もレストランで見かけた筈のDavidのことを覚えてもいない。
DavidはそうしたSethの価値観を揺るがして、彼の壁の内側へ入りこみ、Sethの感情をかき乱していきます。

強く、保守的な年上の男と、若々しく、穏やかに見えて時おり破滅的なほどに強い感情を爆発させる男。DavidはSethを挑発し、挑戦し、Sethのペースをひっかき回す、その様子が読んでいて楽しいです。
SethはDavidのおかげで、子供に対する接し方を覚え、人生に楽しみを取り戻す。当人はあまり気付いていませんが、その様子が幸せそうでいい。

にぎやかで、感情表現の鮮やかな話です。
色々と周囲でおこるものの、それほど複雑な話ではないですが、その分2人の感情の対比がくっきりと見えてくる。
キャラが立っていて、一気に楽しく読める話だと思います。

やんちゃ受けが好きな人、若者にひっかき回される年上の男というシチュに萌える人におすすめ。

★年の差
★子育て

Cover Me
L.B. Gregg
※出版社の問題で一時的にリンクを外してます。
Cover_Me.jpg★★★ summary:
Michael “Finn” Finneganは、寄宿学校の英語の教師である。
だが、彼が個人的に指導している生徒の兄、Max Douglasは彼の教え方が「ゆるい」と言い、それ以上の個人授業を断る。
その宣告は最悪のタイミングだった。FinnがMaxと寝た、ほんの数分後。
2人はそれきり、になる筈だった。

警備会社で働いているMaxは、とある生徒の警護のためにFinnの勤める学校へとやってくる。
彼の厳格で妥協のない物言いと、学内のことをとりしきるFinnの考えは常に対立した。
2人は、どちらも生徒を守ろうとしていた。だがFinnは教師として生徒の生活や自由も含めて守ろうとし、Maxはただ危害から守ることだけを考えている。
どちらも自分の仕事に誇りを持ち、どちらも頑固だった。

Maxは常にFinnを怒らせ、昂らせ、気持ちをかき乱す。
押し流されるように彼らはまた体を重ねるが、その関係が体以上のものにならないだろうこともFinnはわかっていた。Maxは彼をだらしがないと言い、Finnが何をしても眉をひそめるような男だ。
それなのに、Finnは自分の気持ちが、このむかつく頑固な元海軍の男に向かって落ちていくのをとめられず…
.....



Men of Smithfieldシリーズ3。

Finnは陽気で、生徒に人気があり、ちょっとお茶目なところもある男です。なにしろハロウィンの仮装にトースターのかぶりものを着ていっちゃう。
Maxは感情を表情に出さず、言葉はぶっきらぼうで、時に無神経なほど剥き出し。
Finnは自分の勢いのままにそんなMaxと寝てしまいますが、後からめりこむほど後悔する。でもまたMaxと出会い、ついつい体の関係がはじまってしまうのです。

Finnの一人称ですが、すごく可愛い。彼が生き生きとし、じつに人生を楽しんでいるのがつたわってくる。彼の視点からでも当人の溌剌とした様子、刺々しさ、頑固さ、癇癪、そんなものがわかります。
そしてMaxが、Finnのことを「理解しがたい」と思っているのもわかる。そんで、理解できないままこっそりと、Finnに対してめろめろになっているのも。

この2人のやりとりが笑える。MaxはFinnをつついて怒らせるのが好きで、激しい反応が見たさにうっかりときついことを言ってみたりする。頭に血がのぼったFinn、というのに心底ときめいてしまうらしい。
屈折してるぞ。好きな子をいじめる男の子じゃあるまいし。
FinnはMaxの術中にはまって怒りちらし、自己嫌悪や当惑の中でぐるぐるし、やばい、と思いながらMaxに惹かれていく。そんでいきなり甘やかされて、もう駄目だと思いながら逃げようともがく。Maxはどうせ遊びだろうし(←Finnの頭の中的に)、Max相手に失恋なんて耐えられない。
ここのぐるぐるが、読んでいてすごくおもしろい。

その一方で、学内では様々なことがおこりはじめる。動物の死骸、吊るされた人形、紛失した部屋の鍵。
誰かの悪意が身にせまってくるのを感じながら、Finnはそれが誰であるのか悩む。学内で自由に動き回る、それは生徒の一人なのだろうか? それほどの悪意を持つ者が生徒の中にいるのだろうか?

攻めの寡黙さにやきもきする受けと、生き生きとした受けの一挙一動にこっそり萌えてしまう攻め、という組み合わせが好きなら鉄板です。
エロの最中でも甘やかしたり苛めたりするのが、大変に可愛い。

★寡黙×溌剌
★トースター

★Three-Star rating system★


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