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[タグ]ジャンル:ファンタジー の記事一覧

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Here Be Dragons
T.A. Chase
HereBeDragons★★★ summary:
アイルランドで爬虫類の研究をしているKael Hammersonには、暴力的な恋人から逃げ出してきた過去があった。その経験は彼の中に深いトラウマとなり、今でもフラッシュバックに苦しめられている。
Kealの上司のHugh Priceは、この物静かで知性的な部下に強い興味を持っていたが、部下と関係を持つことが利口には思えずに一歩距離をあけたままでいた。

だが海に奇妙な生き物が現れはじめ、KealとHughはともにその調査にあたることになる。
巨大な海蛇か何かと思われたそれは、船舶を襲い、毒を吐く。KealとHughは目撃証言のある海域を調査中、その生き物に襲われたが、あやういところで難をのがれた。

Kealは夢の中で奇妙な世界に入りこんでしまい、大地の女神ガイアとエルフのモルドレッド、竜殺しのセント・ジョージ(聖ゲオルギウス)によって、あの「蛇」がドラゴンであること、ガイアたちの世界から人間の世界へ魔法の生き物たちを送りこんでいる勢力があることを知らされる。かつて2つの世界を隔てた幕を、引き裂こうとする者たちがいる。
ガイアたちは人間の世界にじかに力を及ぼすことはできない。Kealたちは自分の力でドラゴンを、そして続々と現れはじめる神秘の生き物たちをとめなければならない。だがKealは「異質だから」というだけの理由で神話の生き物たちが迫害されていくことには耐えられなかった。

一方でHughとの関係は急速に深まっていく。だがささいな瞬間がKealにフラッシュバックを呼びおこす。自分がいつかそれをのりこえられる日がくるのかどうかKealにはわからなかった。それまで待ってくれとHughに言うのがフェアなことかどうかも。
またKealには、ほかにも人に言うことのできない秘密があった…
.....



T.A.Chaseの現代ファンタジー。続編(完結編…だと思う)の「Dreaming of Dragons」も先日出ました。
この一作目は、KealとHughのカップルを中心に進んでいきます。

Kealは前の恋人からひどい暴力を受け、支配され、命もあぶないような状態からやっとのことでアイルランドへ逃げてきた。他人とまだ深い関係を持つ心構えができていませんが、Hughに磁力のように引きつけられていく。
Hughはとてもいい男で、Kealの事情を知って互いの関係をゆっくりとすすめていこうとするけれども、時おりKealのフラッシュバックはHughに対して向けられてしまう。Hughが何かをしたからではなく、昔の恋人と同じ位置に立ったからとか、同じ台詞を(ちがう意図でも)口にしたからとか。
その馬鹿馬鹿しさをわかっていても、Kealは反射的にフラッシュバックをおこすのをやめられない。

Kealがフラッシュバックをのりこえるには、時間の経過だけでなく、自分に対する確信を取り戻す必要がある。
Hughはそれをわかっていて、それを手伝いたいと思う。ただ真綿にくるむように守ってやりたいが、それだけでは何も解決しない。常に一歩引き、Kealに自分で立ち上がるチャンスと、自由な空間を与える。
自分を受けとめてくれるHughに対してKealは幸せと後ろめたさ、自分自身へのコンプレックスを同時に感じながら、壊れる前の自分自身を取り戻そうともがきます。
2人ともとても優しく、魅力にあふれた人間で、読んでいるとKealを応援したくなります。傷を負い、後ろ向きになることもあるが、彼はしなやかで強い男です。

その一方、彼らはドラゴンとも戦わなければならない。Kealが好むと好まないとにかかわらず、ドラゴンはこの世界に害を為し、この凶暴で強大な生き物を放置しておくことはできないのだった。
だがどうやれば、人がドラゴンを殺せるのだろう?

私はこれがはじめて読んだT.A.Chaseの本で、ドラゴンだ!とタイトルだけ見て買ったら現代ものだったので、ちょっと騙された感を持ちつつ(自分が悪いんだけど)読んでみたらすっごくおもしろかったのでした。
以来T.A.のファンですが、彼の魅力はある程度「王道」を抑えながら、その先にひろがりのある世界を描き出すところではないかと思います。豊かな情感を持つキャラクター、孤独や愛情、融和といった強烈なテーマ、わかりやすいが陳腐ではないストーリー。世界とキャラクターの中に、読む者を引きずりこむ力を持っている作家です。
その魅力が存分に味わえるシリーズです。話としては荒唐無稽なようですが、キャラクターの感情の動きがしっかりと書かれているので、現実味がないという感じはあまりなく、現代ファンタジーとしても充分に楽しめると思います。
傲慢で美しく、気まぐれで勝手なモルドレッドがまた可愛い…
KealとHugh、モルドレッドとセント・ジョージ、この2つのカプの入り組み方もなかなかエロいところがあって、味わい深い。

★竜
★トラウマ(DV)

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Dreaming of Dragons
T. A. Chase
Dreaming of Dragons★★★ summary:
エルフのMordredと聖騎士Georgeは、幻想界で長年に渡る恋人同士であった。何ものも自分たちの関係をおびやかすことはない。2人のどちらも、そう考えていた。

だがドラゴンや、魔法の生物たちが幻想界の領域を越えて人間の世界に現れはじめ、Georgeはガイアの命を無視して人間に力を貸すために立ち上がる。2つの世界のバランスを取り戻すために。
恋人が自分から離れていくことに、Mordredは気付いてはいたがどうすることもできなかった。人間たちに──主にKaelとHughに──力を貸してやりたいのはMordredも同じだ。
ただ恋人の高潔なほどの犠牲的精神は、Mordredは持ち合わせていなかった。
そしてGeorgeの正義を求めるまっすぐな心根を、Mordredは愛していたが、理解しているとは言いがたかった。

GeorgeはMordredから離れて別のものを守りはじめ、だが彼らの戦いを嘲笑うかのようにドラゴンは現われつづける。
Mordredは、ドラゴン出現の裏で糸を引く者の正体を暴くために最後の賭けに出た。
それは恋人のため、そして人間界にいる友人たちのための賭けであった。だがその賭けがGeorgeとMordredを大きく引きはなすことになる。

2人は世界を守るため、友人たちを守るためにどこまで自分たちを犠牲にしなければならないのか。
そしてMordredは恐れていたことを目のあたりにする。Georgeの高潔さは、彼の──彼らの──すべてを犠牲にするほど強いものであることを。
.....



Here Be Dragons」の続編。かつ、完結編(おそらく)。
KaelとHughの2人の人間を中心に語られた前作に対し、今作は幻想界の人たち、魅惑的で移り気な美しいエルフMordredと、はからずも遠い昔に彼と恋に落ちてしまった気高い聖Georgeを中心にして展開していきます。

前回に引きつづき、まだドラゴンや海蛇は人間界で暴れ回っています。KaelとHughはドラゴン狩りに追われ、Georgeはそれを影のように助ける。
Mordredは、ちょっと暇にしています。んでもって、暇になるとかまってほしくなるのが、この猫のように高慢なエルフの気質でもある。皆が駆けずり回っているこの非常時に無責任ですが、そのへんが可愛いところです。

もともと彼は、聖Georgeなんていう堅物と恋に落ちるつもりはなかった。1人の恋人とずっとつれ添うなんてことは、気まぐれなエルフにとって予想の外だった。
それでもお互い、とらわれるように恋に落ちてしまった、その遠い昔の出会いと回想が物語のそこかしこにはさんであって、「いやホントにそんなつもりはなかったんだけど」というMordredのつぶやきが聞こえてくるようで、おもしろい。

わがままを言ってばかりではなく、MordredはMordredで仕事はしてますが、忙しいGeorgeに「お前は暇でいいな」と言われてカチンとしたりする。そりゃGeorgeほど熱心じゃないけどさ、そんな言い方あるかよ、てな感じでやさぐれたりします。
いや本当、可愛いです、このエルフ。あんまりこれを1人にしちゃいかんよ、Georgeも。
実際に悪い虫が近づいてきたりするわけですが、Mordredの方が虫よりたちが悪いかも。

私は、前作を読んだ段階ではそんなにこのカプには興味が沸かなかったのですが(何か出来すぎな感じのカプだし)、いざこの2人に焦点を移して語られてみると、感情のやりとりや重ねてきた年月が鮮やかにせまってきてとても楽しめました。
一方で、Kealの問題もちゃんと書かれていて、Kaelが前作で描かれたトラウマから完全に立ち直っている様子も見てとれます。よかったなあ。なかなかにいさましくて、Keal好きならそこだけで一読の価値あり。相変わらずHughとラブラブです。

2人の人間と、エルフと騎士は、ドラゴンの出現をとめられるか。そのメインのストーリーもしっかり書かれていて、隙なく楽しめる話に仕上がっています。
そして最後に、彼らは何かを犠牲にしなければならない。命、記憶、恋。犠牲を払うのは誰なのか。
ある意味ベタな展開ですが、それが正面きって書かれていて、文句なしに最後の最後まで盛り上がります。「王道」はやはりこうでなきゃ。

前作を楽しんだ人なら絶対におすすめ。
2冊あわせて上質の「物語」でもあるので、ドラマとファンタジーと愛らしいカップリングを同時に楽しみたい人に。

★堅物騎士×移り気エルフ
★自己犠牲

Gaven
J. C. Owens
gaven★☆ summary:
Gavenは敗北に打ちのめされていた。
Masarianの軍勢の前に彼らの民は破れ、友であるMichaelも死んだ。

自分自身も殺されることを予想していた彼は、突然現われたMasarianの将軍によってとらえられ、彼の「父親」であるという人間の前につれていかれる。
その「父親」はMasarianの権力者であった──
Gavenが敵だと信じて疑わなかったMasarianは、彼自身の生まれ故郷だったのだ。

人生の変化を拒み、彼らの元から逃げ出したGavenは、Michaelを埋葬するために故郷へと走る。

だが彼の力では及ばないほどの荒々しい力が、Gavenを追ってきていた。彼をとらえたあの男、年をとらず、人の血を呑む戦士──Vlar。
.....



BLにあって商業スラにないもの、というのは色々ありますが、「無理矢理」カテゴリってのが基本的にない。ネット上では見かけるので、嗜好というよりモラル的なもんなのだろうかと思ったりしてます。
でもファンタジーだとたまにそんな話があったりして、「ファンタジーだからちょっとガイドラインがゆるくなるんだろうな」とも思ったりもしてます。

で、この話が「敵につかまって、父親と名乗る男によって別の男に身柄を与えられる」みたいなあらすじだったんで、こりゃまずまちがいなく無理矢理系かと思ったら、かなりちがいました。ううむ。そんなところに文化差を感じたり。

基本的に、Gavenの成長ストーリーです。ファンタジー部分がしっかりしていて、描写も丁寧なのでファンタジー好きなら読んでいて楽しい。
Gavenが何度も逃げ出そうとしてもがくところや、自分の非力さに打ちのめされる心の動きもよく書かれていて、世界に自然に入りこめます。
Gavenの価値観は根底からくつがえされ、彼は傷つき、追いつめられる。自分を疑い、世界を信じることができない。選択は目の前に2つあって、そのどちらを選ぶこともできない。
そういう気持ち、そしてGaven自身の変化が、脱走や身にふりかかる苦難を通して描き出される。

どちらかと言うと、スラ部分よりはそういう「ファンタジー」の部分を楽しむ話だと思います。私はファンタジーが好きなので、かなりよかった。
人外が出てくるんですが、そんなに人外っぽくもなく、そこはちょっと惜しいかなあ。前半がすごく丁寧に書かれてる分、逆にあっさりと終わったのも勿体ない。人外がいるならもうちょっとエロエロしてもいいだろう!「儀式」だってあるんだしさ。…とかまあ、それはこっちの勝手なイメージですが。
でもエロが1つもなくても成り立つような、ちゃんとしたファンタジーです。
Gavenは苦しみ、孤独の末に、最後に自分の帰る場所を発見する。

ファンタジージャンルが好きな人におすすめ。

★敵
★ファンタジー

Many Roads Home
Ann Somerville
Many Roads Home★★ summary:
Sardelsa大公の息子Yveniは、父親の死後、義理の兄の罠を逃れて命からがら故国を離れる。
あと2年たって19歳になれば、彼は法定年齢に達し、その時こそ国に戻って自分の継承権を主張し、簒奪者である義兄と対決することができる筈だった。
それまで身を隠し、力をたくわえるしかない。

姿をやつし、身分を偽り、密輸業者とともに船に乗ったYveniは、船の難破で連れを失って一人ぼっちになってしまう。
たよれる者がいる国まではまだ遠い。どうにか商隊とともに旅に出るが、道中でさらわれ、奴隷として売られる羽目に陥った。

Paoleは子供の頃に奴隷業者にさらわれ、売られてからずっと奴隷として生きてきた。いい主人も、悪い主人もいた。
だが最後の主人は思いやりがあり、Paoleに人の治療をする能力が生まれつきそなわっていることを知ると、彼に教育を施した。そして自分の死とともに、Paoleを解放した。
自由になり、村から村へと治療の旅を続けながら、だがPaoleは自分の内側に埋められない孤独を感じていた。
長い冬を1人の小屋でこす前に、彼は市場で奴隷を買う。1人でも、苛烈な運命から救い出せればいいと思ってのことだったが、その相手が本当の奴隷ではなくSardelsaの世継であると知り、Paoleは怒りにかられる。

YveniとPaole。2人の運命は奇妙な形で絡み合い、その中で、Yveniは国に戻って使命を果たそうともがくのだったが…
.....



作者のAnn Somervilleはサイトで素晴しいエンパスのシリーズを書いていて、彼女が商業デビューしたことが、私が商業スラッシュを買って読むようになったきっかけでした。
相当な筆力のある作家で、芯の通った設定とストーリー、キャラの間にあるテンションや、時に相手を傷つけずにはいられないほどの価値観のせめぎあいが読みどころです。
なかなか商業では彼女独自の持ち味を発揮できずにいるように見えましたが、「Many Roads Home」では2人の登場人物の生き方を、ファンタジー世界を舞台に鮮やかに描き出しています。(電話とかあるんで、ファンタジーと言ってもまたちょっと毛色がちがう感じですが)

Yveniは姉や妹を故国に残して、遠い国で奴隷として売られる。Paoleは奴隷を助けて、ついでに旅のつれになってくれればいいと思って大枚はたきますが、Yveniは彼にとって憎い国の人間だった。そして、奴隷ですらなかった。
なかなか本当のことを言わないYveniをPaoloは信頼できず、YveniはPaoleからどうにか逃れようとする。
2人のいきちがいと、激しい対立、やがてわかりあうまでに至る日々が丁寧に書かれています。

国を逃げた時にはまだ弱々しい、我侭で高慢な部分もあるYveniは、色々な苦難の中で自分の知らなかった世界を知り、成長していきます。
Paoleは彼を厭いながら、その中にあるしなやかな強さに惹かれていくけれども、いずれYveniが国へ戻り、自分の手の届かない存在になってしまうだろうこともわかっている。
故国からさらわれ、奴隷として異国に育ち、Paoleには戻る場所がない。そんな彼にしてみれば、Yveniの中にある理念や理想が、ひどくまぶしく見えるのです。

この作者の作品はディテールが細かいこと、設定が非常に骨太であることが特徴で、ファンタジーとかSFとか、非常にうまい。
今回もPaoleの(Yveniと出会う前の)村から村への旅と、その中で感じる孤独や、Yveniの逃亡の日々が細部に渡って書かれています。
スラとしての2人の関係というよりは、他の登場人物も含めたそれぞれの生き様と選択、それが交錯するさまがメイン。

そういう、ファンタジー世界のディテールを読むのが好きな人におすすめ。
作者のサイトではかなりの量のフリーストーリーが読めますので、こちらもおすすめです。とりあえず「Darshian Tales」を読むのがいいかな、と。

★ファンタジー

The Vanguard
T.A. Chase
Vanguard★★ summary:
Launiocの王子Rathianは「Vanguard」の隊長でもあった。
Vanguardの兵士は国と王子のためだけでなく、互いのために苛烈に戦う。その起源は国の歴史を古く遡り、かつて悪魔にさらわれた王子とそれを取り戻した将軍との伝説にはじまる。
彼らは互いの献身と愛情によって国へ帰りつき、闇から愛する者を守るために、Vanguardを作ったのだった。

そして今、Vanguardは敵国Viliousと長い戦いの時代を迎えていた。
兵士は次々と過酷な戦場に送られ、あやしげな魔術の前に倒れた。部下を失うたびにRathianは苦しんでいたが、彼はリーダーであって弱さを誰かに見せるわけにはいかない。
痛みを分かちあう相手が、Rathianにはいなかった。

Stakelは敵国Villiousの戦士であり、女王の慰み物でもあった。彼はVanguardによって捕虜とされ、Rathian王子の前に引き据えられる。
Rathianは敵である筈のこの男に、何故か敵意を感じなかった。Stakelは女王に何の忠誠心もなく、ただ生きのびるために苛烈な日々を耐えてきていた。彼の中に、Rathianは純粋な生命のかがやきを見る。
そしてSkatelは、敵の王子であるRathianの中に、真実を見ていた。
.....



Vanguardは単純に言うと「ホモの軍隊」で、男同士の関係が公然と奨励されております。

古代ローマにあった「神聖隊」がモデルではないかと思う。男同士のカップルだけが入ることを認められたという隊です。
ギリシア・ローマの頃のホモってのは大体がお稚児さんものというか「庇護者」と「美青年」の組み合わせになりますが、これで軍を組むと、庇護者はいいところを見せようとしてはりきるし、美青年も庇護者の名に恥じまいと、死に物狂いで戦う。
大変に強い軍隊で、当時とても恐れられたという話です。…ネタじゃなくて史実だから世界は広いです。

そんなわけで、結構トンデモっちゃあトンデモな感じもあるのですが、大変に楽しいです。前提が割とはじけていて、全体にもところかまわずエロエロだったりしますが、やはりTAは筋立てがうまいのでおもしろい。
Vanguardの隊員たちに熱烈に慕われつつも、1人ですべてを背負わざるを得ない孤高の王子Rathian。彼はStakelを信頼することを覚え、はじめて他人に弱さを見せられるようになる。
そしてStakelは──故郷をさらわれて拷問に近い訓練を生きのびてから──誰も信頼したことのなかった彼は、心の深いところにRathianのための場所を作る。
両方とも強くていい男です。

2人の関係も甘くて強烈ですが、一方、Vanguard設立の時の昔語りなんかがすごくいい。
闇にさらわれた王子、そして変わりはてた帰還と、そのために払われた犠牲。あれだけで1本話になりそうな、とてもいいエピソードです。
その時の悲劇が原因でVanguardは作られ、そして時はめぐり、Rathianの時代に至ってすべてが決する。歴史に一区切りがつく、そのスケールがなかなかでかい。

エロエロでラブラブなファンタジーが好きな人に是非おすすめ!

★エロ多め
★ファンタジー(軍隊)

Dark Heart
Thom Lane
Dark Heart★★☆ summary:
Amaranthの国の旅人ギルドは、繰り返し何者かに襲撃されていた。
ある夜、魔道士Lucanが嵐を逃れてギルドの屋敷を訪れ、屋敷の奴隷であるTamは彼に仕えることになる。

魔道士は誰もが恐れる存在であったが、その中でもLucanは特に恐しく見えた。闇よりも暗く、強烈な力と意志を持つ存在に。
Tamはベッドの中と外の両方で彼に奴隷として仕えながら、Lucanの冷厳さに惹かれていく。
だが奴隷は未来のことを考えない。過去のことを考えない。彼らにはその一瞬ずつの人生をやりすごして、その時々に目の前にいる者たちにつくしていくだけだ。今をこえた望みなど、身にすぎたことだった。

Lucanはギルドにたのまれて襲撃事件を調べはじめ、Tamは彼につき従って手伝う。
LucanはTamをしきりに呼びつけ、つれ回し、ベッドに入ればTamを抱くが、それ以上の個人的な興味を見せる様子はない。ただ道具のように彼を使うだけだ。
奴隷と主人、その関係の中にTamは自分の思いをとどめておくしかない。そしてLucanが去っていけば、また次の主人に仕えるしかない。
それが、盗賊としてとらえられ、奴隷の烙印を押された時にさだめられたTamの運命だった。
.....



書店的には「BDSM」のカテゴリに分類されてますけど、そういうわけではありません。主人/奴隷で支配と服従の関係ではありますが、それは人間関係であって、この話の性的嗜好はわりとノーマルです。
ただ、「奴隷」というもののありよう、その心の向きの特殊さが実によく書かれています。それがおもしろい。

この世界での奴隷はどうも、1度奴隷になったら解放されたりしないらしい。
Tamは、決してひよわでもなく、むしろはねっかえりで反骨精神にあふれた少年なのですが、こと主人に対する服従となるとそこには鉄の規律があって、つねに主人やギルドを自分の上に置いています。たとえ直接の命令に反して、罰せられる時でさえも。
彼の迷いのない忠誠を一身に受けながら、魔道士LucanはTamを時に冷たくあしらったり、生意気な物言いや反論を鞭で罰したりする。
奴隷をしつけるのは主人の権利でもあり、義務でもあって、それは自分の体面のためだけではなく奴隷のためでもあります。奴隷はきちんとしつけられてふるまう限り、奴隷としての人生をまっとうできますが、その規範を踏み越えた奴隷にはさらに厳しい人生が待っているからです。

Tamが、新しい奴隷が馬車を引いている姿を見るシーンがあります。Tamはその奴隷の中にまだ反発があるのを感じ、やがて彼も落ちるだろうと思う。「ある日、必ずその時がやってくる。鞭が怖いから主人に従うのではなく、ただ従うために従う、そういうふうになっている自分を知る」のだと。
そのことを悲しんだり、痛みをもって振り返っているわけではない。単純にそういうものなのだ。それが自分におきたことであり、他の多くの奴隷におこったことであると、Tamは知っている。
いつかその新しい奴隷も、Tamのように根っからの奴隷となる。そうなればもう戻ることはできない。

そのあたりの特殊さがリアルに書かれていて、おもしろいです。
彼らの力関係を踏まえた上で、LucanとTamとの間に生じる感情や軋轢、決して口には出されない思いなど、なかなか巧みに書かれています。
ファンタジーらしさも満載で、LucanがTamをつれて地獄の門をくぐるシーンなど見所も多い。それにしてもLucanはTamを悪魔との取引にさし出しちゃったりするんだ。鬼ですな。
それでもLucanが好きなTamがかわいいやら、かわいそうやら。

ファンタジーや主従ものが好きな人、「傲慢攻め×けなげ受け」の組み合わせにぐっとくる人におすすめ。
シリーズ続編の「Healing Heart」では、彼らのバカップルぶりも楽しめます。

★主従(奴隷)
★ネクロマンサー

Paul's Dream
Rowan McBride
Paul's Dream★★ summary:
Paul Grahamの人生はくっきりとして、シンプルであった。弁護士として働きながら、さらなるキャリアを目指す。
誰とも深い関係を結んだことがなかったが、興味もなく、彼は自分の今の人生に満足していた。

淫魔のKianは魔道士にとらえられ、下僕となっていたが、ある時その牢獄を1人の人間が訪れる。
人間はあっさりとKianの鎖を解き、彼を解放して、消えた。
自由になったKianはその男を探し、人間界へと入りこむ。あの男はとてつもなく強力なDream walkerだ。なのに自分が夢の中を歩いているということすらわかっていないようだった。

Paulは、いきなり目の前に現れた美しい男にとまどう。Kianを救った覚えなど、彼にはない。
一方のKianは、Paulが彼になびこうとしないことに仰天する。人間はインキュバスの力には抗えない。だがPaulは、Kianの魅力にまるで気付きもしない様子だった。
──KianがPaulにふれるまでは。

Kianの情熱はPaulの心の壁を押し崩し、情熱に火をつける。
Paulは人生の新たな面を味わっていた。喜び、欲望、そして幸福。そして彼の炎は、Kianにもそれまで知らなかった充足を与える。
だが、Paulの奥に秘められた謎も、忘れられた夢も、彼らを放っておいてはくれなかった。
.....



現代ファンタジーというか、舞台は現代で、夢と魔法をテーマにした話。
その中でもちょっと変わっていて、夢をどう解くかがポイントです。
あとはインキュバスと人間の甘エロな関係が、じつに濃くて楽しい。

Paulは覚えていないけれども、彼は眠っている間、人の夢の中で色々な謎を解きながら生きている。他人の謎を解き、その問題を解決するのが彼の人生です。
たとえば、そんな夢のひとつで、Kianを解放したように。

Kianはただ、自分を解放してくれた人間に一時の快楽を与えようとしてPaulに近づくけれども、予期せず恋に落ちていく。
インキュバスは恋をしない。する筈がない。そういう生き物ではない。
ならこの気持ちは何だろう?と、彼は彼なりに考えこむ。
一瞬の快楽を求めながらとんでもないほど長い時間を生きてきたくせに、意外と純情なインキュバスです。

うわべは冷ややかで、何にも心を動かすことのないPaulの壁をKianの情熱が溶かして、ラブラブになっていく様子がかわいい。その絆はPaulの人生に光を当て、その光でPaulははじめて自分のことを見ます。欠けた記憶。欠けた夢。そしてなおもPaulの中にある、凍りついた壁。
Paulの中には大きく欠けた部分があって、それを見つけ出していくのが物語のひとつの核となっています。Paulは人の謎を解くけれども、Paul自身の謎はこれまで手付かずだった。

全体にドラマティックで、魔力の存在とストーリーがうまく絡み合っています。
Kianは恋に落ちて幸せだけれども、一方でPaulの存在は彼の弱みとなる。Paulにも、恋はそれまで知らなかった苦しみや痛みを味わわせます。Kianの姿を見失うたびに、彼は苦しむ。
恋は幸福なことばかりではない。それでも2人でいることには深い喜びがあって、そのためなら弱さも痛みもその価値がある。
Paulの心の謎を解くことは、彼を殺しかねないけれども、Kianのために彼はそれを乗り越えなければならないのです。

シリーズ化するみたいな感じですね。
エロありドラマあり魔法ありで、キャラも一風ユニークですがしっかりと強い輪郭を持って書かれています。ニューヨークの守護者、天才魔道士Asherの話が読みたいな。
ちょっと変わった話が読みたいとか、人間にめろめろのインキュバスに萌え!という人におすすめ。

★謎解き
★現代ファンタジー

★Three-Star rating system★


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