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[タグ]ジャンル:ヒストリカル の記事一覧

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Ransom
Lee Rowan
Ransom★★★ summary:
18世紀、フランスと戦争中(フランス革命戦争)のイギリス海軍が舞台。
その時代、同性愛は禁忌であるだけでなく、死に値する罪であった。海軍においては吊るし首となる。
1796年、Titanに着任した士官候補生William Marshallは、その一週間後に決闘で上官を撃ち殺す。上官が仕掛けてきた淫らないたずらに、彼は誰の味方もないまま敢然と立ち向かったのだ。Davidの長年の苦しみの元は、Willの放った一発の銃弾で倒れた。
多分その瞬間、士官候補生David Archerは、William Marshallに望みのない恋をしたのだった。

3年後、ともにCalypsoに任官してからもDavidの思いはかわらなかったが、彼らは互いにかけがえのない友人となっていた。DavidのWillへの思いは決してかなわないものだった。同性愛は罪であり、それ以上に、Willは二度と、彼を友人としてすら近づけなくなるだろう。真面目で融通のきかない、そして誇り高いこの友人を失うことは、恋を秘めることよりも耐えがたいことだった。
Willはすでに任官試験に合格して士官となり、後ろ盾がいないにもかかわらず、未来もほぼ約束されていた。Davidの任官試験も目の前にせまっていた。2人で士官となってともに働けば、いつか──それも遠くない未来に──Willが自分の艦を持った時、きっと親友のDavidを副官として伴ってくれるだろう。それが今のDavidのひそかな夢だった。

だが上陸時間の間に、彼とWill、そして彼らの艦長Smithの3人は馬車ごと誘拐されてしまう。つれていかれた先は海賊の船で、艦長と引き離されたDavidとWillは2人だけで小さな船室に閉じ込められ、海賊の首魁であるAdrianはDavidにひとつの条件を出してきた。SmithとWillの安全と引き換えに、Davidの体をさし出せという。

事情を知らないまま、憔悴していくDavidをWillは案じていた。その思いが単なる友情と言うには深すぎることに、彼はまだ気付いていなかった。
........


船やら海軍やらの用語はちょっと難しかったんですが、とてもおもしろかった。わからない単語は大体スキップしても話は何とかなるんじゃないかな?と思います。船の描写なんかも詳しいので、そのへんが好きな人にはいろいろな意味でおいしい。やはり帆船ものはこのあたりの時代が多いですね。
かつては上官の気晴らしに体をもてあそばれ、今また海賊の首魁にいいようにされ、とかなり大変なDavidですが、本人はユーモアあふれる前向きな男で、決して運命にただ流されるタイプではない。ちょっとやんちゃな感じもして可愛いんだよな。融通のきかない、やや石頭のWill(しかも聖職者の息子…)とはとてもいいコンビ。
頭で考えるWillと、感覚で判断するDavid。互いを案じたりからかったりはげましたりと、恋とか抜きにしてほんとにかけがえのない友人なんだなー、という感じがいいです。

異様な状況の下で、彼らは互いに相手を守ろうともがき、脱出の手段を探そうとする。そんな中でついに思いを通わせながらも、すぐには近づくことができない。禁忌でもあるし、さらに、自分たちの艦に戻った先のこともある。船には秘密を保つだけのプライバシーなどないし、自由時間もなく、上陸することも滅多にない。仮に思いをとげたとして、彼らの関係には未来がない。

この2人もいい感じなんですが、海賊の首魁のAdrianもちょっと気になった。貴族階級の雰囲気を漂わせる彼だが、金のために誘拐をくりかえしながら、手元にひきよせた被害者たちを蹂躙する。Davidが無反応でいようとする、その抵抗を打ち砕くために薬を盛ったりしますが、何となく彼の行動の底には切羽つまったものがある気がします。
もともとは相棒と一緒に誘拐仕事をやってたようなんだけど、その相棒はAdrianについていけなくなって去った…とかそういう一文もあって、何か色々想像が(いや妄想か)ふくらむところです。勝手に。

DavidとWillの話はつづきが出てまして(「Eye of the Storm」と「Winds of Change」)、彼らの波瀾万丈な恋と、歴史の大きなうねりを書いています。フランスとイギリスで休戦が結ばれて陸に上がるWillとか、船を降りようかどうか悩むDavidとか、フランスへ潜入する任務とか。
エロシーンは少なめですが、ある時は濃厚。とにかく人目をさけなければならないので、我慢したり飢えている感じがなかなか味わいぶかい。
心の変化の描写も繊細で、「ロマンス」というテイストの言葉がよく似合う話です。「Eye of the Storm」の最後の方にある、滝の裏でのエロはとっても美しいシーンだった…

わりと受け攻め分かれてる感じ(あくまで傾向)なので、BLっぽい雰囲気もあり、そういうの好きな人にもおすすめ。

※リンクはLinden Bay Lomanceに貼ってありますが、My Book Storeからも買えます。MBSではちがうフォーマットのファイルを落としなおすことができるので、MBSの方がおすすめ。Lindenのファイルはちょっと作りが甘いので、使ってるリーダーの種類によってはきちんと読めないかもしれない…


★歴史もの
★サスペンス

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Object of His Desire
Ava March
ObjectOfHisDesire★★ summary:
1821年8月、イギリスのダーハム。
22歳のHenry Shawは、10歳以上年上のSomervilleの侯爵、Arsen Greyに恋をしていた。ロンドンで出会い、彼を所領へ招いたこの男は傲慢で、美しく、倦怠感を身にまとってなお優雅な男だった。
だがその恋は不可能なものだった。Arsenは領地を継ぐための跡継ぎが必要だし、いずれ妻を迎える。何より彼は、己の屋敷で連日ひらかれている淫蕩なパーティに訪れる魅惑的な高級娼婦にその目を向け、男に興味を見せなかった。

彼の屋敷にはさまざまな貴族たちが招かれ、口に出すこともはばかるような様々な欲望を満たしていく。Shawもそれらの女性たちに誘惑されつづけるが、パーティが続く一週間の間、彼は女たちにとりあおうとはしない。できなかった。彼が望むのはArsenだけで、それは決して手に入れられないものであった。

退廃のパーティ、女たち、ArsenのShawに対する無関心、無意味な嫉妬、苛立ち、無表情の下に覆った己の欲望──すべてのものに疲れきって、ShawはArsenのもとを離れようと決心する。
だがその時、Arsenが彼を寝室へといざなった。

ただ一度、この一度きり。気持ちと体を満たして、それで終わりにしようとShawは決める。Arsenのそばにはいたい。だが彼の秘められた愛人になって、ただ道具のように彼に使われていくことはできない。それをすれば、自分が自分でなくなってしまう。Shawにはそれがよくわかっていた。
.....



19世紀のイギリス、退廃の館とその主の話です。
中編なのであまり複雑な話ではありませんが、人の心の動きがよく書かれています。Shawは田舎の出で、大柄で、他の貴族たちのように洗練された美はないが、その館に集う人間の中でただ一人、Arsenに対する揺るぎのない忠誠心を持っている。
Arsenはそれを知っていて、Shawをくりかえしためします。

Arsenは富と身分をもち、美しい男ですが、傲慢で、その傲慢さとShawのまっすぐな心根が、一夜の情交を通じてぶつかりあう。Arsenの傲慢さは、本当に大事なものを失いかねないほどに強いものでもあり、Shawはその向こうにあるものを見なければならない。そしてShawもまた、プライドの低い男ではない。身分や名前ではなく、彼は自分自身でありつづけることによって背をのばして立つ、誠実で潔い男です。
Arsenに性の道具として使われるくらいなら、どれほど愛していてもArsenの元を離れた方がましだと思っているし、それを実行しようとする。
一方のArsenはShawの中にある誠実さを求め、自分が他の愛人たちから得られなかったものをすべてShawが与えてくれることを知っている。金では買えない、手に入らないものをShawがArsenに感じさせてくれることを知っている。
それぞれの心の動きと、求めるものがきちんと描き出されているので、読んでいて物語が心に入ってきます。

傲慢な年上の貴族、純朴でまっすぐな田舎出の青年──。
青年は貴族に恋をし、望みがないと思っているが、じつは青年にめろめろなのは貴族の方だった、というテンプレ鉄板。でも楽しいぞ!
そういう話が好きな人だったら絶対におすすめ。良質に楽しめる一編です。

★短編
★ヒストリカル(貴族)

Walking on the Moon
M. Jules Aedin
RightChoice★★ summary:
1969年、それはニール・アームストロングがアポロ11号で月面に着陸した年。

Clive AldridgeとPhillip Osborneはかつて教え子と教授であり、今は同僚の教授同士、そして隠れた恋人同士であった。この6年間、ずっと関係を秘めてきた彼らは、翌日に同じ家に移り住むことになっていた。家をシェアする友人として、そして秘めた恋人として。

雪の降る夜中、CliveはPhillipの声に起こされる。
Phillipは木々の奥にある、彼にとっての祈りの場所へとCliveをつれていく。強制収容所で失った友、そして恋人を悼むその場所で、Phillipが取り出したものは一対の指輪であった。

まだ同性同士の関係が許されなかった時代。
いつかその指輪を本当に属する指へとはめることができる日がくるのかどうか、2人のどちらも知らなかった。
.....



アンソロ「To Have and to Hold」から。

短編ながら、長い時間の経過を書いた、味わい深い掌編です。
読みおわった後の余韻が深い。語り口にも静けさがあっていいと思います。

強制収容所、月面着陸、ニュルンベルク裁判と、歴史の物事と絡めて書かれていることもあり、2人を包んでいる時間の流れが実感できるというか、重みを感じます。
それだけにラストが本当に美しい。

この2人の出会い編はまた別にあるようなのですが、それを感じさせずに読みとおすことができるのも素晴しい点です。
同じアンソロの「Man of Honor」は、おもしろかったんですが後半ちょっと追いていかれてる?といぶかしく思ってたら、本編が別にありました。独立したものを、それだけで完結させて書くのって難しいですね。(でもおもしろかったから、本編読んでみたいのですが)
この「Walking on the Moon 」はその点、本編の存在を感じさせません。勿論そのうち読んでみたいですが。

しかし「14日目」の配信なんだけど、いいんだろうか。今日はまだ7日目で、しかも本日分は別に届いたから、多分まちがえて配信したんだと思うけども…
まあいいか。

ややヒストリカルなもの、時の重みを感じさせるカプが好きな人におすすめ。いい作品です。

★短編
★歴史もの

Bound by Deception
Ava March
Bound by Deception★★☆ summary:
1822年、ロンドン。
弱小貴族の青年、Oliver Marsdenには誰にも言えない秘密があった。
子供の頃に侯爵の次男であるVincent Prescot と出会い、固い友情を築きながら、彼はずっとこの友人に恋をしていた。
誇り高く、有能で、貴族らしいたたずまいのVincentは彼にとってかけがえのない友であると同時に、決してかなわない恋の相手だった。

だがある日、OliverはVincentがロンドンの娼館で男を買っていることを知ってしまう。
ギャンブルで勝った金を持ち、Oliverは娼館の女主人に特別な願いをたのみこんだ。
Vincentが次に訪れる時、自分を男娼としてVincentの部屋に入れてほしいと。

ついにその日、顔がわからないほどに暗く灯りを絞った部屋でVincentを待ちながら、Oliverは部屋にそろえられた道具を見て驚く。Vincentが男を買っているというのも充分以上の驚きだったが、その部屋にあるものは彼の友人に対する想像をこえていた。
鎖、手枷、鞭。それはOliverの知らない世界であったが、Vincentがそれを求めるならすべてをさし出す覚悟が、Oliverにはあった。

一度、ただこの一夜。Vincentの手が、唇がこの体にふれるなら。
ほかのことはどうでもよかった。一生に一度、ほしいものを手にできるのなら。
.....



思いが高じて、だますようにして友人に抱かれようとする男と、娼館で男を買いながらも自分が男を好きであることを否定している男の話です。

Ava Marchは「Object of His Desire」がおもしろかったのですが、これも同じ、ヒストリカルなスラッシュです。
相変わらず心理描写が繊細で、同時にとてもキャラクターが魅力的です。どちらも彼らなりの欠点をかかえ、彼らなりの長所があり、だがとても誠実な男たちです。

Vincentは、Oliverの求めるすべてを持っている。名誉、力、金、己に対する強い誇り。
Oliverもまた、Vincentにはないものを持っています。VincentはOliverに話を聞いてもらうのが好きで、Oliverが何気なく言う一言に、自分を理解されて受けとめられていると感じる。彼にとっては得難い友人です。
だが、あの娼館で一夜の行為を共にした相手、心に残って消えない男娼が、まさかこの友人だったとは思っていない。

そしてまたVincentはその誇り、完璧な息子であろうとする自意識の中で、自分の性癖を自分に対しても否定している。たしかに娼館で男を買っているが、自分は彼らの求めるものを与えているにすぎないのだと。
2人が向きあった時、Vincentは自らの弱さをそのままOliverにぶつけ、自分の醜い言葉にたじろぎます。それが本当の自分の姿だったのかと。暴かれるのは、一夜のことだけではないのです。

高まっていく緊張の中で彼らの友情はどうなるのか。VincentはOliverの行為を知るのか、そして自分自身を受け入れることができるのか。

BDSMプレイはそれほどキツいものはないですが、きちんと雰囲気や気持ちの流れが描かれていて、とてもいいシーン。彼らが「対」であることが、シーンからつたわってくる。
全体を通して端正な、誠実な物語だと思う。どこかクラシカルな文章が物語の舞台や雰囲気とよくあっていて、貴族やヒストリカルなものが好きな人だけでなく、おすすめの一作です。短編というわけではありませんが、それほど長くもないので、気軽に手を出せる1本かと。

続編の「Bound to Him」も出ていまして、同じように誠実で、静かな色気と緊張感のある話です。
これはこのままシリーズ化するかな? するといいなあ。

★ヒストリカル
★BDSM

Bound to Him
Ava March
Bound to Him★★★ summary:
Lord Vincent PrescotとLord Oliver Marsdenの関係がはじまってから、6ヶ月がたとうとしていた。
Vincentは、自分のすべての望みに応えてくれる恋人に満足し、父親から買い取った領地の開拓にも成功し、忙しくすごしている。

だが、Oliverは時おり憂鬱になっていた。
たしかに彼は、Vincentと体を重ねることができるならほかに何もいらないと思った。「心はいらない」とも友人に言った。
それでも6ヶ月の関係の中で、Vincentがまるで変わらないことにOliverは大きな痛みを感じてもいた。彼らの間は前と変わらない──いや前よりも悪い。もはや友人同士としてOliverと社交パーティで顔を合わせることすら、Vincentは避けようとした。

行為がおわれば、VincentはOliverの部屋を去る。一度として、ともに朝まですごしたことすらない。
自分がVincentの「汚れた秘密」になってしまったかのような重い失望感を、Oliverは拭うことができなかった。

そんなある日、Vincentは、父親からの呼出を受ける。
長男にすべての目を向け、次男のVincentがいかに努力しようと一顧だにくれなかった父親の、今になって息子の存在をたのみにする言葉に、Vincentは揺さぶられる。
だが父の要求に応えることは、Oliverとの関係を完全にあきらめなければならないことを意味した。貴族の令嬢との結婚。

迷い、Oliverに助言を求めようとするVincentは、だが相談を切り出す前に恋人から別れを告げられる。彼にとってはあまりにも唐突に、そしてあまりにも絶対的に。
.....



Bound by Deception」の続編。
相変わらず、誠実で繊細な2人の話です。

Vincentは世間の目を気にし、そしてまだ完全に自分たちの関係を受けとめることができていない。そして、そのことがどれほどOliverを傷つけているのか、見えていません。
Oliverは待つことに疲れはじめ、Vincentは何が友人を苛立たせているのかわからない。
ひとつひとつの苛立ちは些細なことだが、すべては深い絶望から出ている。Vincentは決してOliverを、そして彼の愛情をあるがままに受け入れようとしないのではないかと。

それでもOliverは愛する相手のためにできる限りのことをしようとするけれども、体のいい道具になってしまったようで、心にささくれるものをどうにもできない。そしてそれは、Vincentのせいばかりではありません。Oliver自身の環境の悪さ、わずかな収入にたより、自分でしっかりと身をたてることのできない状況もまた、彼を傷つけている。

Ava Marchの小説でうまいところは、必ず話の中でキャラクターたちが自分自身と向き合い、変わっていくところです。恋が、そして互いの存在が互いを変えていく。
時に痛みをもつ言葉を相手にぶつけあって、そしてその痛みが彼らに真実と向き合う勇気を与える。自分の中にある、目をそむけていた真実。
その「変化」を導くのが大変にうまい作家だと思う。一瞬で何かが変わるわけではないが、痛みが染みこんでいくように何かが見えてくる、その静かな目覚めが丁寧な筆致で浮かびあがってきます。

今回もまた、VincentとOliverは大きな決断を強いられる。Vincentはずっと関心を得たいと思っていた父からのたのみを断りきれず、同時にOliverの存在を心から追い出すこともできない。彼は何かを選ばねばなりません。そのことは、自分の奥深くに眠らせていたものの大きさを彼に気付かせる。Oliverに対する思い。
Oliverもまた、Vincentとまっすぐに向き合うために、自分自身を変えていかなければならない。ただ待つだけではなく、自分をもっと誇りに思えるように。

2人は互いをとらえる感情の中でもがき、相手の存在にあらためて気付く。
相手を鏡のようにして自分の姿をあらためて見つめ、相手の目にうつる自分に真実を見る。それが恋というものかもしれません。

BDSMプレイがありますが、そう強くもないものなので、特に読む人は選ばないかと。
ヒストリカルなもの、秘められた関係が好きな人におすすめ。

★貴族
★すれちがい

Convincing Arthur
Ava March
ConvincingArthur★★★ summary:
1821年、イギリス、ヨークシャー。
Leopold Thorntonは、ヨークシャーの屋敷でArthur Barringtonの到着を待っていた。ついに。10年待ってついにこの機会が訪れたのだ。
この週末を、Arthurは彼と共にすごすと承知した。滞在の間にどうにかしてLeopoldの気持ちをつたえ、それが真摯なものであることをわかってもらわなければならなかった。

10年続いた関係の末に不実な恋人と別れ、傷心のArthurは息抜きを求めていた。
Leopoldはその相手にぴったりであるように思えた。遠い昔の友人であったが、いつのまにかLeopoldはロンドンの虚飾の中に溺れ、Arthurとは離れた。だが噂はいつも耳にしていた。父親からの信託財産によって富裕な彼が派手なギャンブルや酒に身を浸し、男も女もかまわず不実な遊びを続け、高級売春宿でもよく知られた顔だと。
週末のちょっとした楽しみ。遊び。今のArthurに必要なのはそれだった。
日常から離れ、自分を傷つけた恋人を忘れること──ほんの一瞬だけでも。

Arthurは、その恋人とずっとより添っていけると信じていた。信じこもうとしていた。相手が彼の心を破るまで。
このまま孤独に生きていくことには耐えられない。ともに様々なことを分かちあい、ともに老いていく相手がほしかった。そばにいない時も、彼のことを思ってくれる相手。体だけでない、何かを分かちあえる相手。パートナー。
この週末、Leopoldとともにすごす時間で過去の傷を拭った後、ロンドンに戻れば、Arthurはそういう相手を探すつもりだった。

LeopoldとArthurは強く相手を求める。だがそれが一瞬の遊びであると疑わないArthurに、Leopoldは彼の心の内を見せることができるのか…
.....



Ava Marchは相変わらずイギリスの貴族ものを書いています。ありがたいことです。貴族とか身分とかロンドンの退廃とか大好きだ!
端正な文章なので、雰囲気があります。表紙に描かれてる家も素敵。

Leopoldは確信に満ちた、傲慢で美しく裕福な男だが、Arthurのことに関してはてんで駄目です。まだ少年の時に出会い、恋をして、言い出せないでいたらいきなり横からかっさらわれ、それから鬱々として10年を遊び暮らしてきた。
Arthurはその姿をただの遊び人としか考えていませんが、その10年、LeopoldはどうにかしてArthurを忘れようとしてきた。そのことを当人だけが知っている。

Arthurが恋人と別れたことを知った彼は、今しかない!と根性を入れてArthurを誘うわけですが、とにかく10年分の気持ちがあるので、それをつたえるのは生半可なことじゃありません。ただでさえ、他人に内心を見せずに10年のらりくらりと遊んできた男です。
自分の心を剥き出しにしてArthurに見せるということは、拒絶や嘲笑によってとりかえしがつかないほど傷つく恐怖と背中あわせです。それが怖い。でも手に入れられないのはもっと恐しい。
じゃあとりあえずさわっちゃえ(←短絡的)。とか、体の関係から気持ちよくなって、Arthurが逃げ出せないようにしてしまえ(←ちょっと黒い?)とか、幾分レールを外れがちなところも見受けられますが、それも愛ゆえにだな。多分。

ArthurはLeopoldが心の奥に秘めてきた思いのことを(ちらちらヒントは出てるんですが)まったくわかっていない。Leopoldのそばにいると予想より居心地がいいことに安心して、それから彼は不安になる。
Leopoldに馴染んで、この週末が終わった後、使い捨てのように背を向けられるのはつらい。この不実で多情な男に心を向けるのはまずい。
週末の気楽な遊びのつもりが、ちょっと予想とは軌道が外れつつあって、彼は怯えます。

彼らのテンションが段々に高まり、やがて破綻を生む──そのクライマックスが痛々しいと同時にとてもロマンティックで、胸にせまるものがある。

ちがう理由で相手を求め、ちがう理由でそれぞれに怯えている2人の男。
彼らのすごす週末が静謐な文章で情感こまやかに綴られています。
中編くらいの長さかな。
貴族やヒストリカルものに萌える人なら鉄板。すれちがい好きにもおすすめ。

余計なことですけど、この作者の作品はタイトルはもうちょいひねりがあってもいいかも、と思う。苦手なんだろうか…

★ヒストリカル
★放蕩/真面目

Windows in Time
M. Jules Aedin
Window in Time★★☆ summary:
向かいのアパートの窓に姿を見せる男は、何者なのか…

Jonah Sellersは別れた恋人が置いていった荷物につまずいて階段を落ち、足首を折った。
姉が買い物の用を足しにきてはくれるが、気が滅入る日々の中、彼は向かいの建物の窓に、粋だが古風な格好をした男の姿を見る。
彼はまるで、Jonahに見せつけるように意味ありげな笑みをうかべて、1枚ずつ服を脱いでいた。

Jonahの姉は休暇に出かける間、Liam Brooksという看護師をJonahのために手配した。
若く、おだやかな物腰のLiamにJonahは惹かれるが、Liamの態度はどこか煮え切らない。というよりも、たどたどしい。
不思議に思いながら互いの様子をうかがっている間に、Jonahはまた向かいの窓に男の姿を見る。

男は前と同じ服を着て、同じ笑みをうかべ、同じように服を脱いでいた。Jonahの方を見ているが、Jonahを見ているわけではない。

毎週火曜日の午後3時21分。同じ日、同じ時間。くりかえされるシーン。
彼は何者なのだろう? 誰に向けて服を脱いでみせているのだろう?
.....



この話は現代と、1957年の古きよきハリウッドの時代の2つをまたいで展開します。
窓のこちら側(現代)にいるJonahとLiamの2人、そして窓の向こうに見えるBuckとOliverの2人。

最初はジャック・フィニイの「愛の手紙」みたいな(名作っす)時をこえた2人の恋の話かと思ったんですが、それぞれの時代の、2つのカプの話です。
どちらのカプがメインということもなく、両方のカプがそれぞれの話を持っているという感じ。で、彼らは「窓」を通してつながっていく。
まあJonahの側から見えるのは、服を脱ぐ男の姿だけですが。
読む側からしたら、わりと早めに「窓から見える」のが1957年の2人(というかBuck)だということは推測がつきますが、BuckとOliverの方の話が進むにつれ、何故Jonahの窓からBuckの姿が見えるのか、一体2人に何がおこったのかが気になってきます。彼らがどんな運命に向かって進んでいるのか。
なかなか、その展開具合がにくいです。

1957年。当然、ゲイの人権などなく、理解もない。
そんな時代の中、BuckとOliverは非常に危険な手段で逢瀬を重ねます。
その末に何がおこるのか──何故彼らは2人ともに消えたのか。現代のJonahとLiamは、新聞の記事やインターネットから彼らの失踪に関する情報の断片を集めながら、それをつなげていく。

やがて事件の真相があらわれ、Buckが現れつづける理由も明らかになる。
50年前の物事の決着は、JonahとLiamにゆだねられます。
最後の最後にBuckとOliverが姿を見せるシーンはとても美しくて、スーツケースを持っているOliverの様子に心がしめつけられます。ついに出発できてよかったね。本気でじんときました。あれはいいシーン…

欲を言えば、50年前の2人にくらべて現代の2人のカプのドラマが薄いのがちょっと残念かな。Liamにもうちょっと何かあるかと思ったんだけど、意外とあっさりしていたのでそこは拍子ぬけの感がなくもない。
英語の崩壊したメールを送ってきたり、奥手なのにJonahにのめってたり、幽霊屋敷に住みたがってたりと、かわいいんだけど。惜しい。

M. Jules Aedinは、派手さはありませんが地味にいい話を書くので、最近気になっている作家です。品があるというか、味わいを感じる。
何本か読んだ感じでは、「時間」の積み重ねを描写するのが好きで、熱烈な「瞬間」よりも、そこからはじまっていく人間関係や絆にこだわりがあるようです。あと時代背景とか。書き慣れた感じがあって、展開はとてもうまい。

気持ちにじわりと染みこむ、素敵な話です。女装趣味が絡んでくるので、女装好きにもいいかもしんない。って書くと何ですが、なかなかに可愛いですよ。
余韻のある話を読みたい人におすすめ。

★窓から見える男
★過去と現代

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・還流

*他訳者さん*
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・恋人までのA to Z
・マイ・ディア・マスター

 
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