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M/M小説 (原書)レビューブログ

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[タグ]ジャンル:スポーツ の記事一覧

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Tigers and Devils
Sean Kennedy
Tigers and Devils★★★ summary:
フットボールの熱狂的なファンであり、FFFフィルムフェスティバルの総責任者のSimon Murrayは、ゲイとしてカミングアウトしてはいるが社交的な人間ではない。親友とその妻に無理矢理パーティにひっぱり出されても、居心地が悪いだけでしかなかった。
そんな時、客の何人かがフットボールについて話しているのを小耳にはさむうち、何故かSimonはフットボールスターのDeclan Tylerについて弁護する羽目になる。膝の負傷と手術によってゲームに出られないDeclanの、過去の功績までが侮辱されるのを彼は許せなかった。
「彼は傲慢なろくでなしかもしれないが、選手として素晴しいのはまちがいない」
そう言い切ったSimonの背後では、まさにDeclan Tylerその人が自分への賞賛と罵倒を同時に聞いていたのだった。

SimonとDeclanは彼らのぎこちない出会いをのりこえ、確かな関係を築きはじめる。少なくとも、当人たちはそうしようとした。
だがそれは簡単なことではなかった。Declanはオーストラリアで一番有名と言っても過言ではないフットボールプレーヤーであり、それは彼がスーパースターとしてメディアに扱われることを意味した。Declanはカミングアウトしておらず、Simonは2人の関係を隠そうと必死になる。自分のためではなく、Declanのために。
時にそれはSimonをいたたまれない気持ちにさせ、Declanを傷つける。

Simonの親友はそうした関係についてDeclanを責め、Simonは友人と大喧嘩をしてしまう。
人前でのスキンシップを避け、フットボールのパーティに出席するためにDeclanが女性のパートナーをエスコートする間、Simonは1人で待つ。そうして多くの犠牲を払いながら、それでもいつまでも彼らの気持ちを隠しとおせるものではなく…
.....



物語は、SimonとDeclanの関係の深まりと、そのたびごとに彼らが直面しなければならない様々な試練を中心にして展開していきます。
「スーパースターと一般人の恋」というテーマも、「カミングアウトしていないスポーツ選手の恋」というテーマもわりとよくあるんですが、この小説はSimonの視点から、彼らがくぐりぬけていく出来事と気持ちの揺らぎをとても丁寧に書いていて、読んでいるとどんどん彼らの人生に引きこまれます。
なんせSimonがいい。彼はシニカルで、正直で誠実、口が悪く、短気で、頑固で、そしてとても殻にこもった人間です。繊細な部分をもっているからこそ、時おり攻撃的に皮肉屋になるようにも見える。Declanはおだやかで包容力のある人間で、Simonの刺刺しいところを楽しんでいるふしもあります。
ひとつひとつの物事にSimonは傷つき、動揺し、それをDeclanがつなぎとめる。しかしDeclanの中にも迷いがある。あまりに多くをSimonに犠牲にさせること、そしてSimonがいつか自分を責めるのではないかと、彼は恐れている。

秘密、葛藤、そしてやがてはメディアからの注目、中傷。Simonの世界は、Declanとつきあうことによって何もかもがひっくりかえされてしまう。それでもSimonはDeclanと一緒にいたいが、どうしても未来を信じられない時もある。
問題は外部だけでなく彼らの間にもあって、むしろそちらから、2人は時おりどうにもならなくなって行きづまってしまいます。きっかけは些細なことだったりもするんですが、1本ずつ藁がつまれていって、小さな物事が最後の藁になる感じが苦しいほどにつたわってくる。
傷ついて、相手を守ろうとして、道を踏みちがえる。どちらもすまないと思っていても、あやまれずに問題をこじらせる。

読んでいて、こうまで気持ちをこめて主人公を応援した小説は久しぶりです。
Simonは決してよくできた人間でもなく、傲慢だったり、意地悪だったりもするんだけど、そこも含めてとても愛すべきキャラクターだと思う。周囲の友達が文句を言いながらもSimonをサポートする気持ちがよくわかる。
そしてSimonを愛でるDeclanの気持ちがとてもよくわかります。とは言え、Declanの包容力と忍耐には頭がさがる。ハリネズミを手の平でころがしてるようなもんです、ほんと。

嵐のような日々の中で、それでもDeclanといる時のSimonは幸せで、彼は少しずつかわっていく。本当に少しずつですが。どうにかして心をひらこうとする時もあるけれど、まだまだ孤独な人間でもある。
果たして彼らは嵐のような日々をのりこえて、共に未来を築いていくことができるのか。

私はフットボールは全然わからないんですが(あとオーストラリアの地理も)、そこのところは踏まえなくても楽しめます。
メロドラマ的ではなく、どちらかと言うとシニカルな感じに書かれている話なので、じめじめした恋愛ものはちょっと、という人でもおすすめ。Simonのえげつないユーモアのセンスはとってもおもしろい。「そこでそんなこと言わなくても!」と思いながら何度も笑わされました。

これはSean Kennedyの最初の長編なんだそうです。
で、かなり長い。相当な長さがあると思いますが、おもしろいです。
エロシーンはほとんど直截的な表現はないのですが(キスシーンはとってもエロティックですが!)、それでこれだけの長編を一気に読ませる力量はすばらしい。今後が注目の作家です。

★スーパースター/一般人

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Fair Winds
Chrissy Munder
FairWind★★☆ summary:
Rudy Haasは船とレースを何より愛していた。
だが、何とかやりくりしてレースの参加費分担を払い、ヒッチハイクで湖にたどりついてみると、仲間のクルーは彼が船に乗るのを拒否した。
Rudyは信じられなかった。5年もともにレースをしてきた仲間が、Rudyがゲイだというだけの理由で、彼をこれほど嫌うとは。

帰りの金もなく、船で寝るつもりだったので夜眠る場所もない。
だが何より、レースに出られないことがつらかった。
どうにかして船に乗るため、Rudyはクルーの募集を探してバーをのぞき、コルクボードに留めてあった紙を見て驚く。Devlin's Due。その船の名を、彼は知っていた。腕のいい連中だ。

Devlin's DueのクルーをたばねるIke Ujarkaは、口数が少なく謎めいた男だった。
Rudyは一目でIkeに惹かれる。それも強烈に。

だがとにかく今の彼は、ヨットマンとしてクルーたちからの信頼を、そしてIkeからの信頼を得なければならない。船を、新たな居場所を得るために。
.....



レースヨットの話。と言っても、まだレースに入る前までの話ですが。
Rudyがいかに海を愛しているかがつたわってくるので(舞台はでかい湖だけど)、彼が船を下ろされた時のショックや、次の船を探すための切羽つまった気持ちがよくわかります。
彼の人生は船のためにある。その居場所をいきなり奪われた、失望はでかい。
でもレースは待ってくれないので、新しい船を探さなければならない。そして彼はDevlin's Dueの連中に出会うのです。

Rudyがころがりこんだ新しい船「Devlin's Due」のクルーは、実に「チーム」感があふれていて、読んでいて楽しい。何だか家族みたいです。互いにののしりあったかと思うと一瞬で結束する。
そしてリーダーのIke。(「アイク」じゃないかと思うんだけど、どうしても「イケ」と脳内でローマ字読みにしてしまう…)
大柄で物静かで、独特の雰囲気をたたえた彼が、至るところで格好いい。彼のセリフは数えるほどしかない気がしますが、それでも格好いい。

Rudyは彼らにクルーとしての適性をテストされる短い日の中で、色々なことを体験します。容赦のないしごき、Ikeへの恋、船の上でのキス、湖上の嵐、事故…
そのすべてがRudyを強く揺さぶる。前の船を下ろされたからというだけでなく、彼の人生はその日々で大きく変わっていくのです。
スラではあるけれども、カプがどうとかと言うよりむしろ、Rudyの成長話という趣が強いですね。それがテンポよく、色々な人生のドラマを散りばめられながら語られます。筋は複雑ではないんですが、うまくできた話で、かなり手練な作者かと思う。

クルーとして迎えられることができるのか、不安ながらも、全力を尽くすRudyの懸命さがなかなかいじらしくて、応援しつつ読んでいました。
IkeとRudyだけでなく(このカプもなかなか味わい深いんですが。…Rudyはちょっと苦労しそうな気がする)、Devlin's Dueのクルーの話の続きが読みたいなあ。
微妙に書き残されたこともあるし。話はきっちり完結してますが、設定がもうちょっと深めに設定されている気配があって、作者側も続きを書くことを前提にしているのかもしれない。
楽しみです。
みんなでレースに出て、Rudyの前の船をけちょんけちょんにしてくれたらすごく嬉しいんだけどな!

スポーツもの、海もの、船ものが好きな人。「仲間」感があるものが好きな人におすすめ。

★ヨットレース

Match Maker
Alan Chin
Match Maker★★☆ summary:
4年前、Daniel Bottegaは、プロテニス選手Jared Stoderlingのコーチとして名誉と勝利に向かって戦っていた。
だが彼らはともにゲイであること、そして恋人同士であることを知られ、大会から締め出されてしまう。
二人は今でもパートナーだったが、その傷はJaredに深く刻まれ、いまだに立ち直ることができずに酒に溺れていた。

テニスクラブのコーチとして暮らしているDanielの元に、Connor Linという18歳の若者がコーチを頼みに来る。彼には才能があったが、Danielはかつての「ゲイ」としての烙印を持ったままプロテニス界に戻るのは気が進まなかった。
もし彼がコーチするConnorが、彼との関わりからゲイの疑惑を受ければ、それだけで様々な不利益を受けるだろう。
テニスで審判を敵に回せば、試合はそこで崩壊する。不利なラインコールはプレーヤーの精神を削り、追い込んでしまう。4年前、彼らがJaredを追い込み、追いつめて、テニス界から消してしまったように。

だが、DanielはConnorとともに、ふたたびプロテニスの世界に戻る。JaredもまたConnorのダブルスのパートナーとしてテニスに復帰した。
彼らの道は険しく、勝利の栄光と、その裏腹に、彼らに向かって投げかけられる憎しみに満ちていた。

そして、憎しみは一発の弾丸となってDanielの未来を粉々に砕く。
.....



これはとてもいい話で、テニスが好きだと倍面白い。テニスが分からなくてもスポーツ好きなら萌えますが、4大メジャー大会とATPツアーについてくらいは何となく知っておいた方がわかりやすいと思う。「ローランギャロス」はメジャーのひとつ全仏オープンのコートで、赤土(クレー)コートである、とか。
私はわりとテニス好きなので萌え萌えして読みました。現役のプレーヤーのことは名前を変えて書いていますが、「この人のモデルは○○っぽい」とか、結構想像できます。

かつて「ゲイであること」で未来を奪われたカップル、DanielとJared。彼らは新しいプレーヤーConnorに導かれるようにしてプロテニスの世界に戻る。
そこで巻き起こるさまざまな苦しみや、それを乗り越えるための彼らの戦いが書かれています。結構、半端なくシビアです。
彼ら3人だけでなく、周囲にいる人々の感情や愛憎が入りまじって、大きな運命のうねりのようなものに全員が翻弄されている感じ。

個人的に気が散る点が多少あって、Connor Linの一家というのがアメリカにいる中国人一家なのですが、日本人に対する憎しみやうらみつらみがところどころに出てきます。作者当人が特に政治的に偏っているとは感じませんが(名前からして中華系だとは思うが)、そのへんがスラとしては集中できないのはたしかだったり。
チャイナっぽいと言えば、非常にチャイナっぽい一族ではあった。恐喝まがいに取引を自分に有利にしようとするところとか、時期的なものもあってこっちも遠い目になってしまいました。わがままを言ってしまえば、もうちょっと純粋に楽しみたいかなーという気持ちもあります。

しかし、そのへんを置いても、非常に緻密に彼らの戦いの様子が描かれていて、スポーツスラとして秀逸です。テニスの駆け引きと言うものをよくわかっている人なのだと思う。コーチングも具体的でおもしろい。
「ちょっと順調に勝ちすぎ」とかは感じないこともないですが、そこはスポ根ものみたいなものだと思えば納得。
何より、Danielのパートナー、Jaredのキャラが格好いい。「戦う男」である彼は、かつて戦う舞台を奪われて酒に溺れた。そこからまた戦う世界に戻り、別人のように生き生きと戦いますが、また巨大な敵に打ちのめされてしまいます。彼が、新たな傷の中で迷い、時にDanielにつらいことを言いながら、戦いつづけようとする姿は美しい。
絶望や、後悔の中から、人がどうやって希望を取り戻すのか。この話には、テニスという部分をこえて人が「戦う」姿があると思います。

かなりつらいシーンも含まれます。エロは描写少なしで、ほぼ直接描写なし。雰囲気あるから楽しいですが。
スポーツスラと、「ゲイの権利」を中心にした戦いをよく絡めた良作。深刻だけど勢いのある話を読みたい人におすすめ。
個人的なイメージだと、プレイスタイルはJaredはフェデラー、Connorはデルポトロっぽいと思う。

★テニス
★ゲイへのヘイト・クライム

Training Season
Leta Blake
training season★★☆ summary:
Matty Marcusはすべてを犠牲にして──自分のすべてを、そして家族のすべてを──オリンピックの夢にかけてきた。
だがその夢はかなわず、負傷によってフィギュアスケート選手としてのキャリアすら終わりかねないところにいた。

支援者の好意により、Mattyはモンタナの牧場で冬をすごすことになる。だがMatty当人は不満で一杯だった。何故、なにもないモンタナなどに彼が行かねばならないのか。

だが行ってみると意外と居心地がいい。そして、隣の牧場主Rob Lovelyはまさに理想のカウボーイという様子だった。

そう時間のたたないうちに、二人はベッドを共にするようになる。その中でRobはMattyを導き、感情をコントロールしてそこから力を得るすべを教えてくれる。
二人の関係は完璧なものに見えたが、Mattyはたとえ恋のためでもスケートをあきらめることなどできず…
.....



フィギュアスケートもの。
Mattyのキャラに好き嫌いが分かれるかな、と思います。こう、非常に自分中心でひけらかし系で、リップ塗ったらグロス塗らなきゃ!と騒ぐタイプ(文字通り)。
私も最初ちょっと腰が引けたのですが、この作者は筆が巧みで、そのMattyの態度が己の自身の中を隠す鎧であることや、Mattyの奥底に弱さが隠れていることをRobとの関係の中から暴き出していきます。
そうなると、かわいいやつじゃないか。やっぱり服とか化粧に小うるさいのはどうかと思うけど、でもまあ美を競う競技だしな、フィギュア。

Mattyの家族は疲れ切っている。フィギュアはとても金のかかるスポーツで、夢だけでは続けていけないのです。Mattyの親はすべての金や引退後のたくわえを切り崩し、弟たちの大学へ行く金も使い果たしている。
その夢を背負いながら、Mattyは挫折できない。彼はわがままに、一人よがりに夢を追っているように見えますが、実は芯のところで家族の期待を背負って、それに心を折られまいとあんなに生意気な態度で世界へ挑んでいるのではないかと思うのです。ほんとに生意気だけど!
そのあたりを読んでいくとフィギュア好きはなんかそれだけで泣けるぞ!!ほんと!

Robがまた、いい奴。いい奴!彼もまたあきらめてきた夢がある。挫折がある。でもすべてを受け入れる、まさにモンタナの自然のような包容力の深さがあります。
それと同時に彼はセックスに関しては強い支配欲があり、Mattyを甘やかしながらどんどんとセックスの中で新たな主従関係を築いていく。
BDSMシーンはなかなか濃い。普通のマスター/サブともちょっと違いますが、支配の中でMattyを支え、弱さを暴きたてて、解放していく様子はドラマティックです。
プレイも一部マニアックでな。窒息プレイとか、トイレプレイ(軽めです)とかあって、びっくりしたよ正直。

そんなわけで、全体におもしろかったし、Mattyが傷だらけになりながら夢を追っていく様子は痛々しくて本当につらかった。いくつか私の趣味からそれた部分もあるんですが、それがちゃんとこの物語を構成する要素として成り立っているのもわかるので、マイナスがプラスを相殺しない感じの、希有なお話です。
フィギュア好きな人は特に、実にあちこち痛いので、心が元気な時に読むように。オリンピックのシーンとか本当に涙が出たよ。
Mattyの夢はどうなるのか。Robもまた、一度は手放した夢を取り戻せるのか。

ちょっと変わったBDSM好き、生意気な受けがひとつずつ落ちていくような話が好きな人にオススメ。

★フィギュアスケート
★包容×小生意気

The Foxhole Court
Goodreads-icon.pngNora Sakavic

TheFoxhallCourt.jpg★★★ summary:
All for the Game1巻。
ヤクザもの×天涯孤独×スポ根×メンヘラ。言ってしまえばそういうシリーズ。
そして青春。

Neil Jostenには秘密があった。今の誰にも正体を知られるわけにはいかず、過去の誰にも居場所を知られてはならない。
だがExyというスポーツは、いくら母親に折檻されようがやめられなかった。逃げつづける彼の、それだけが生きる意味だった。
8年間、大量のパスポートを使い、髪の色と瞳の色を変えながら彼は生きのびたが、母親は旅の途中で死んだ。車ごと彼女を燃やして見送ったのはNeilひとり。

大学のチームにスカウトされ、彼はそれが最悪の判断だと知りながらパレルモの州立大学のチームに加わる。そこはまるで「寄せ集め」としか言いようのないプレーヤーの巣窟で、Neilも早速ドラッグを盛られてその洗礼を受ける。
いつか過去に追いつかれたらここも逃げなければならない。
今の自分を捨てて。次はどこへ?
それともここで、戦うに足るものを見つけられるのだろうか。
.....



全三巻のスポ根もの。て言ってしまうと語弊があるけど、根本的にはこれ青春小説だと思うんです。孤独な主人公がついに仲間を発見し、お互いを変えて、友情を軸にチームの勝利と栄光への道を模索する。

しかしこの主人公のNeilは組織から逃げつづけている男。見つかれば悲惨な死が待っているとわかっているし、いつか見つかると思って諦めているふしもある。
チームメイトもじつにカラフル。
同じチームにいるKevinはこのスポーツExyの生みの親を母に持ち「Exyの息子」と言われるエリートプレーヤーである一方、ヤクザ組織との関係も深く、かつていた常勝チーム内での自分の位置を示す「2」のタトゥを左頬に入れられている。
そのKevinを奇妙なほどに守っているのがAndrew、少年院上がりの凶暴な少年。普段は裁判所命令で感情を抑える薬を飲んでいて、いつも退屈したような顔をしていますが、一瞬で凶暴になる絵に描いたようなメンヘラ。そして優秀なゴールキーパーだが何のやる気もない。
彼はNeilが何かを隠していると勘で察知し、Kevinを守るためにNeilからその秘密を引きずり出そうとするのです。

ほかにも様々にアクの強い少年少女が寮で暮らしながら、ゴタゴタとExyのシーズンを戦っていく。スポーツ以外のことでも、彼らはそのシーズンをのりきっていかなければならない。いやいや、じつに騒がしいシーズン。大学スポーツも命がけだ。

Exyというのは作者が考え出した架空のスポーツで、ラクロスとアイスホッケーを合わせた感じの非常にフィジカルコンタクトが激しいスポーツだとのこと。
Neilはアタッカーで、大体は二人一組で攻め上がっていく。
まあNeilはアタッカー向きだよね。負けず嫌いでどこか自己破壊的なほどに衝動的なところもあり、一巻では敵にするべきでない相手に喧嘩を売ってしまう。その結果、チームメイトが命を落とします。
そこから話はまた新たなフェイズに入っていくのだけれども。逃げなきゃ逃げなきゃと言いながら、そのNeilの中には運命に対する怒りがあって、そのはけ口として自分に許しているのがExyだけなんだろうな。
Andrewがキーパーっていうのはもうプレイ中に「動きたくねえんだろ」感がすごく強い。でもまあ、彼もちゃんと理由があってキーパーなのです。それはまだ先の話。

YAなので全体にエロはなく、一巻はもう最後まで「誰とカプになるんだ!?」の問いがぶらさがったまま。その辺とか、Neilが心を少しでも開いていけるかな…というのは二巻以降に持ち越しで、まず一巻は導入部。
GRのレビューで「二次っぽい」という評価を見て膝を打ったんだけど、なんていうか学園パロっぽいキャラの濃さと設定の尖り方があります。漫画っぽいというか。私はそれはすごく好きなので、是非読む側がのっかっていって積極的に楽しみたい三冊。三冊通すとかなりえげつない(痛い)シーンもあるのでそこはご注意。
主人公の名前が同じせいもあるだろうけど、読みながらドン・ウィンズロウの「ストリート・キッズ」シリーズを思い出した。あれも人をたよることを知らない主人公の話だった。そういう青少年の痛々しさ、ギザギザハート的な繊細さが隠しきれないNeilの成長を読めてよかった。

一巻はKindle無料だし、三冊セットもあるので、読む時は一気読みオススメです。
三巻通して、追いつ追われつのサスペンス感と、Neilの成長ぶりと、大学スポーツリーグでの栄光と挫折の階段を楽しめるシリーズ。ぐっとくるロマンスも(最後には)ちゃんとあるよ!

★スポ根
★組織からの逃亡

The Next Competitor
Goodreads-icon.pngKeira Andrews

TheNextCompetitor.jpg★★☆ summary:
フィギュアスケートの男子シングル金メダルを獲るためにAlex Gradyはひたすらにスケートに捧げた生活を送っていた。
四回転サルコウはすでに跳べる。だがオリンピックまでにはルッツも跳べるようにならなければ。

集中した、ほとんど取り憑かれたような日々の中、友情などに割いている時間はない。
同じ練習場にいるほかのスケーターから嫌われたり、お高くとまっていると思われてもかまわない。勝利こそすべてだ。
四年に一度のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

だがいつしかAlexの目は、Matt Savelliに引き寄せられていく。おだやかで人当たりのいいペアの男性スケーター。
二人は水と油のように対立しあった。
事実、誰とでもうまくいくMattを唯一嫌い、そして唯一嫌われているのがAlexであった。それともそこには隠れた感情があるのだろうか。
.....



フィギュアスケートものです。
わりと練習風景なんかもよく描かれていて、フィギュア好きな人でもそこを織り込んで楽しめるのではないかと思います。

この本のセカンドエディションが出たのが2016年。で、オリジナルは2010年かな、に出ていまして、カナダで練習している若き日本の人気スケーターなんかも登場していたりしますが、作者いわく「あの時は羽生もカナダで練習していなかったからね…偶然なの…」て前書きに書いています。にしてもこの2018年にも色々ありましたよフィギュア、て再読していて思いました。うむ。すごいなこの変化。
なので、まだこの話の中では「四回転ジャンプ一種類じゃ…二種類ないと…」てやってます。そこはそれとして。

厳しい女コーチに鍛えられながらAlexは必死に頂点を目指す。
そんな中、一緒に練習している人々との仲間意識なんか育てるひまはない。そしてその中のMattとは、とにかくそりがあわない。優等生タイプで「みんな仲良く」なMattを見るたびになにか腹が立つし、Mattも妙にAlexにつっかかってくる。

Alexは決して冷たい男ではない…いやまあ冷たいところはあるか、でも若い頃から競技スポーツの中で上を目指して必死にやってきた者の、それはひたむきな献身の姿です。周囲から常に評価の目で値踏みされてきた若者の、ある種の防御反応でもあるかもしれない。
でも彼は、子犬みたいに慕ってくる日本のスケーターの男の子を無碍にはできずについ相手をしてしまうし、競技で失敗して泣いているスケーターがいればそこにレポーターが入らないように態度悪く追い返す。普段の顔はつんけんしていても根っこまでそういう子じゃないんだよ、といういい感じのツンデレ候補。

そんな彼とMattも、さすがにトレーニングの中で少しは打ちとけるようになっていきます。というかAlexは相手のことを知ってしまうとあんまり冷たい顔はできない子なんだろうな。だからあまり人に近づかないのだけれども、Mattは生来のナチュラルな押しの強さでその距離をつめる。
そんな時、Mattが競技中にパートナーの女性をリンクに落下させてしまいます。

自己嫌悪で落ち込んで八つ当たり気味のMattを、Alexはこっそり人気のいないリンクに引っぱり出して一緒に滑る。これは可愛いシーンです。
しかしほかのスケーターたちとの交流はAlexの練習の足をひっぱり、コーチはまた孤立を命じるのです。
このコーチはじつに苛烈な女性コーチですが、ラトビアのスケーターを家に下宿させて教えているとか、なかなかよいエピソードも持っていて、スケート界の紆余曲折をくぐってきたような風格を漂わせている。
スポーツもののコーチの存在感て本当に大事だ。

スケートはシーズンになると各国をめぐって試合に参加していきますが、その中で色々なことがおきる。体調を崩したり、航空会社が荷物をなくしたり。
そういう周囲のディテールもきちんと書きこまれていて、競技者としてのAlexの側面と人間的な弱さとを同時に描き出している。
好みとしてはもう少しAlexとMattが対立している時間が長くてもいいよね!とか思いますが(対立カプ好きなのでな)、二人の距離の縮まり方は自然な感じで可愛いし、氷の女王っぽいAlexがデレていくのを愛でる展開もよいものでした。

競技か、恋か。
それは選ばなければならないものなのか?
その上、Alexの言葉を選ばない物言いは時にトラブルを呼びよせてしまう。今はネットの炎上もおっかないからなー、大変だなー、と読みながらしみじみします。マスコミは本当にもう少し選手を大事にしてやらなきゃ駄目だよ。
勝利とはすべてを賭けるほどのものなのか。そうだとしても、4年に1度のオリンピックで金メダルをとれるのはたった一人です。
競技スポーツ好きの人なら、コーチのセリフ "Victory depends on four and a half minutes on ice. Life cannot."(勝利は氷の上の4分半だけで決まる。人生はそうではない)がぐっと胸に来るのではないかと思います。

フィギュア好きな人、競技スポーツ好きな人におすすめ。全体に甘くて読みやすいロマンスです。

★オリンピック
★喧嘩からはじまる恋

The Raven King
Goodreads-icon.pngNora Sakavic

TheRavenKing.jpg★★★ summary:
大きな犯罪組織から逃げているNeilを、Andrewは守れると言った。学校に残ってExyをプレイするかどうかはNeil次第だと。
だがAndrewは代価を要求する。天才プレーヤーKevinが逃げ出さないよう、同じチームに引き止めておくこと。

誰もが過去から逃げている。
彼らを守っているのは、社会病質者の青年Andrewだけ。
いびつな、一瞬にして壊れそうな状況の中で、少しずつNeilたちのチームはこれまでなかったまとまりを得ていく。
それは団結ではない。
きっともっと必死でもっと切羽詰まった、一秒ずつのサバイバル。

そんな中、AndrewとAaronの双子にも過去が追いついてくる。いつも一緒にいるくせに互いを憎んでいるこの双子たちにもそれぞれの物語があり、それがついに白日のもとにさらされていく。

そしてNeilの恐るべき敵も、Neilの存在に気がついていた。Neilはついに選択を迫られる。
すべてを捨てて逃げるか。手に入れるつもりもなかったなにもかもを後に残して。
それとも、足をとめて立ち向かうか。たとえ死が避けられないとしても。
.....



All for the Game2。
逃げ回り、警戒心が強く、人を信用しないNeilが少しずつ変わっていくシリーズ二冊目です。
彼とAndrewの関係もこの二巻で大きく変わる。

Andrewは、Neilが大量の偽パスポートを持っていることも逃亡中であることも知っているけれども、周囲にそれを話す気配はない。
彼にとって大事なのはKevinの身の安全のことだけに思える。
とは言っても、サイコパス気味で薬を飲んでいるAndrewに保護欲があるようには見えず、Neilに対してもなんだか「珍しいいきもの」「便利かもしれないいきもの」を見ているような感じです。

そのAndrewが大きな傷をかかえていること、そして彼なりの無慈悲で効率的な形でそばにいる人間を守っていることが、この二巻で見えてきます。
痛みをどこかに強くとじこめてしまったAndrewは、決して弱音は吐かない。ただ自分と世界を切り離しているだけ。
彼を覆った鋼の殻の向こう側をのぞけるのは、あるいはのぞこうという度胸を持つのは、同じくらい大きな痛みを背負って前に進みつづけているNeilだけなのです。
だからこそAndrewはNeilを嫌いながら興味を持ち、Neilの薄皮をはぐようにその中をのぞきこもうとする。
でも忘れてはならない。深淵をのぞきこむ時、向こうだってこっちがのぞけるということを。

二人のわずかな、一瞬だけかさぶたの内側を見せ合うような交流は、ピュアでもあるし痛々しくもある。

いろんな血なまぐさい設定はありながら、スポーツで青春で全寮ものの王道をきちんと踏んでいるシリーズだと思う。
青少年のわかりあえなさと、わかりあえないからこその互いの引力(二人だけでなく、チーム全体としても)が時に繊細に、時に荒々しく描き出されています。

一巻で少しゆったり目だった展開が、キャラ紹介完了で二巻になって走り出した感じ。ほかのチームの面々もはっきりとした個性や役割を見せて、このでこぼこで落ちこぼれのチームがまとまりはじめます。
Neilは気がついていないけれども、彼らをまとめていっているのはNeilの存在なのです。人のことに興味がないといいながら人のことを放っておけず、逃げるべきだとわかっていてもExyを愛するあまり(そしてチームにも愛着を持ちはじめて)自分の命の残りが減っていくのにそこを去ることができない。彼には自分でも気がついていない強さと統率力があって、それが見えてくるのもこの2巻からです。読んでいてとても応援したい。
それにしても人からちょっと優しいことをされるたびに、思考停止でフリーズしてしまうNeilがかわいいやら不憫やら。

2を読むなら3も買っておいたほうがいいですよこれは。
そこそこ青春展開だった2巻の後半から一気に怒濤の血まみれ展開がはじまって3巻になだれこみます。
YAだけれどもむしろ「YAはあまり」という人に読んでほしいシリーズ。有無を言わせぬ少年漫画っぽさもあって楽しいです。

★青春
★自己犠牲

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