Slash×Slash

Slash(m/m小説) レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
→このブログについて

[タグ]ジャンル:サスペンス の記事一覧

Death Or Life
T.A. Chase
Death or Life★★ summary:
Noah Wiltsonは、静かに暮らすこと以外は何も望んでいなかった。だが大統領選挙に立候補する父のため、「理想の家族」を見せるためのキャンペーンにつきあわざるを得ない。
父親にそれ以上の興味や関心を持たれていないことを、Noahは知っていた。息子がゲイであることが明るみに出れば、自分の選挙に大きくかかわる。父が気にしているのはそれだけだ。
Noahは普段は父親や家族と距離をあけ、必要とされればキャンペーンにつきあい、父の邪魔にならないようにしてきた。

だからある夜部屋に戻ると、殺し屋が待ち受けていたこと、そしてその殺し屋から雇い主が父親であることを聞き、Noahは心の底から驚愕した。

殺し屋は、これが最後の仕事になることを知っていた。Noahの存在を誰かが邪魔にしているように、自分の存在も誰かの邪魔になっている。消される前に消えるしかない。
Noahを殺すか、生かすか。その選択は彼の手の中にある。もしもうこの仕事を続けないのなら、Noahを殺すことに何の意味があるだろう?

自分の身を父親から守るための書類を持って、Noahは母方の祖父の元へ身を寄せる。事情を呑みこんだ祖父はNoahのために護衛チームを雇った。
セキュリティのリーダーにはCain Packertがついた。かつて政府のために働いた経歴を持つというこの男にNoahは強く惹かれるが、同時に、Cainの中に、暗闇で出会ったあの殺し屋に似たものを感じていた。
.....



父親に殺されかかった青年と、殺し屋と、護衛の話。
誰と誰がカプなのかはとりあえず内緒。ていうか、途中までまさか三角関係??とびっくりしたのですが(T.A.らしくないので)、そんなこともなく、甘々カップルでした。やっぱりね。

そして内緒にするとあまり書けることがない…
相変わらずカプ的には幸せですが、今回は殺し屋やその出生の秘密などが絡んでいて、どことなくあやうい緊張感が常に張りつめています。
そしてまた、Noahの父親はまだNoahのことをあきらめていない。Noahの危険はまだ去っていない。

Noahはただの研究員であって、生死のやりとりや殺し屋の存在は彼の理解を越えている。突然の事態に翻弄されながらも、彼は彼らしくまっすぐに物事に対処しようとしています。
おだやかでありながら、芯が強いあたりは、いかにもT.Aのキャラらしい。恋人に秘密があることを感じとりながらも、それをこえた信頼を寄せる様子がなかなか愛らしいです。

殺し屋の独特な性格づけが、物語に陰影を与えています。どこか人生に無関心で、人を殺すことを何とも思っていないが、決して残酷な男ではない。現実的で、シニカルで、感情を抑えた男。
彼がNoahを助けたのは決して感傷からではない。だがそのことは、Noahだけでなく彼自身の人生を決定的に変えることにもなる。

あらすじの割にそれほど暗かったり、悲壮だったりということはなく、読みやすい作品だと思います。長さとしても一気に読めるし、わりと万人向けというか、サスペンス+甘々カプが好きな人ならさらにおすすめ。
作中に出てきたもう一組のカプ(Lordと口のきけない青年Mars)の物語がすごく気になります。T.Aによると彼らの話もそのうち書くそうなので、そっちも楽しみ!

★殺し屋

Mexican Heat
Laura Baumbach & Josh Lanyon
Mexican Heat★★★ summary:
サンフランシスコ警察のGabriel Sandaliniは、情報屋とコンタクトを取るためにバーに出かけたが、情報屋は現れず、正体のわからない男と行きずりの関係を持ってしまう。
名前も知らないくせに誰よりも彼を理解し、彼の中にあるものを見抜く男。
だが、二度と会うつもりはなかった。Gabrielは誰かに弱味を見せたり、関係を深めることなくここまで生きてきたのだ。彼の生活では、他人に必要以上に近づくことは命の危険を意味した。

Gabrielが麻薬組織の中に潜入捜査を開始して、もう2年になる。この2年で中核へ近づいてきた。
あと少しで大きな組織を摘発できる筈だった。

Gabrielの潜りこんだ組織が、メキシコの組織と組んで新たな麻薬取引をはじめる。取引の話し合いのために現れた、相手の組織の連中に見知った顔を見つけ、Gabrielは凍りつく。
あの男。
バーでの一夜の男は、メキシコの麻薬組織のボスの片腕だった。

優雅で、強く、確信を内に秘めた男、Miguel Ortega。Gabrielは彼をできる限り無視しようとする。ここで揺らぐわけにはいかない。
だが2人は上から命じられ、麻薬の取引ラインを確立するために一緒にメキシコへ旅立つ。そこで2人きりになったOrtegaは、Gabrielに思わぬことを言った。Gabrielのボスが、Gabrielを邪魔に思っている。できるだけ早いうちに、隙を見つけて逃げろと。
だが逃げられない。潜入捜査はやりとげなければならない。それが自分の命の危険を意味しても、Ortegaを刑務所に叩きこむことを意味しても。

そしてまた、Ortegaにも大きな秘密があった──
.....



Josh LanyonとLaura Baumbachの合作。というか、インタビューとか読むとLauraの書いていた話にLanyonがメールで指導を行ったようです。
Amazonでもペーパーバックが出版されていて(そっちが先らしい)、去年、電子書籍としても再発売されました。

熱い、本格クライムサスペンスです。好きな話なので何回も読み返しています。描写が力強くて気持ちがいい。
Gabrielは怒りと孤独に満ちた、荒々しい男で、潜入捜査をしている刑事としての自分以外に「自分」を何も持たない。家族も、友人も。
Ortegaはスペイン人。こっちも熱いな。ちょっと笑っちゃうほどキザなところがありますが、映画の主人公のような「いい男」です。彼はGabrielに惹かれ、その中にある空虚に惹かれる。だがのばした手を、Gabrielはいつも払いのける。どれほど惹かれていても、彼はその手をつかむわけにはいかない。

とにかく2人の間にある緊張感がただごとではありません。前半の、互いの秘密を間に置いた時の緊張感、後半での互いの人間関係がまるで変わってしまった後からの緊張感。傷ついたGabrielはその闇から這いあがろうとし、Ortegaは手を貸そうとするが、Gabrielの孤独とプライドは彼に対しても牙を剥かせる。
大きな運命のうねりの中で、それぞれ強烈な個性を持つ2人の男が、何かを作りあげていく。その過程は荒々しく、痛みに満ちています。

映画のようで、一気に読める話です。いくつか後半に「もうちょっとここに描写があればなあ」と思うところもありますが(特にGabrielの最後の変化の描写がほしかった)、いい話だからこその文句と言えるでしょう。
てゆーか私はもうちょっとラブラブなシーンが読みたかった。エロってわけじゃなく。もうそれは好みですな。でもOrtegaにいいように甘やかされるGabrielとか、すごくいいと思うのだ!

こういうジャンルが好きなら絶対おすすめ。かなりびっくりするような展開があり、ハラハラしたい人にも。
キャラが肉体的に苦しむ部分がありますので、そういうの苦手な人は注意。

★クライムノベル
★潜入捜査

The Hell You Say
Josh Lanyon
The Hell You Say★★★ summary:
Adrien Englishが経営する書店のアルバイトは、悪魔教のような集団から嫌がらせの電話を受けつづけていた。彼は怯えていて、その理由を言おうとしない。Adrienは大学生同士のいじめのようなものだと思い、彼にボーナスをやって一時的に町を去らせた。
町では奇妙な儀式による殺人死体が発見されはじめ、Adrienの隠れた恋人Jakeは、その捜査にあたっていた。

Adrienが書店のイベントに招いた人気作家は、とあるカルト集団について次回作を書くべく調査している──とイベント中に宣言し、失踪した。
そしてAdrienの書店の入口にも、悪魔教の模様のようなものがペンキで書かれる。
何かがおこっていた。Adrienは大学教授に会って悪魔教についての話を聞きはじめる。

その一方、Jakeとの関係は一見うまくいっているようだったが、そこにはいつも緊張感が横たわっていた。Jakeはホモセクシュアルである自分を嫌っていて、自分の性癖が明るみに出ることを恐れている。それは、Adrienが永遠に隠れていなければならないことを意味していた。
彼はJakeの日常の一部にはなれない。そしてJakeはAdrienを求める一方で、それ以上に「普通の」人生を求めていた。
.....



Adrien English ミステリシリーズ。2冊目ですが、3作目(1冊目に2話入ってるので)。
悪魔カルトによる殺人や、人の失踪で騒がしい町で、Adrienはいつものように事件に首をつっこんでしまいます。

JakeとAdrienの関係は複雑で、2人の複雑なキャラクターがそれをさらに入り組んだものにしています。Adrienはとても知的で、繊細で、Jakeの置かれた立場をわかっていますが、それが彼らの関係の痛みを減らしてくれるわけではない。
Jakeは強靭で苛烈なところを持つ男ですが、その一方でAdrienに対しては優しい。2人きりの時は。
ほかに何もいらないかのようにJakeがAdrienを求める一瞬からは、Jakeもまた、人生の中でもがいていることがわかります。

互いに互いの空虚を満たす、とても素敵なカプなんだけれども、破綻は足元まで迫っている。Adrienはそのことを知っているけれども、Jakeの方がそれを受けとめきれていないかのようです。
どちらも求め、どちらも苦しんでいる。互いに言葉に出して内面をさらけ出すことは少ないけれども、そのテンションがいつも互いの間にある。読んでいるとその複雑で切ない人生模様に引きこまれます。

一方でAdrienは事件を掘りつづけ、死体に行きあたったり、脅されたりと相変わらず忙しい。さらに身内の再婚やら、相手の家族とのつきあいなど、本当に忙しい。
あまり社交的なタイプではありませんが、彼の見せる繊細さと皮肉屋の一面を、人々は大抵好きになります。Adrienの中には拭えない影があって、彼は時おり扱いにくいけれども、大抵は優しくてフェアで、誰に対してもいい友人に見える。
だからこそ幸せに暮らしてほしいんですが。
騒がしい「日常」の中で、AdrienとJakeとの関係はもつれ、Adrienに好意を持つ男が現れ、だがその男がカルトに関っているかもしれない?と、物事は彼の周囲で混沌としていく。Adrienの人生そのものも、混沌としつつあります。他人といることが好きなわけではないが、外でにぎやかにすごした後、1人で書店の2階の住まいに帰るのは気がすすまない。で、事件を掘ってみるものの、それはさらなるトラブルやJakeとの対立を呼んでしまう。

読んでいると、何だかちょっとAdrienが可哀そうになる。彼はとても魅力的なんだけど、時おりあまりに孤独に見えます。
Adrienが求めているものが何なのか、それはやはりJakeと一緒の人生だろうと思いますが、それは決してAdrienの手が届くところにはない。そのことが、彼を余計に孤独にしている。

ミステリとしてもおもしろいと思うんですが、やはり読みどころはJakeの強烈なキャラクターと、それがAdrienの人生にもたらす津波のような力でしょう。
作者のLanyonは芯の強い強靭なキャラを書くのがとてもうまいけれども、その中でもJakeは群を抜いて強烈で、私は彼が好きですが、それでも読んでいて本気で怒りを禁じえないところもあったりします。あああ、殴ってやりてえ!
それくらい、物語として強いキャラです。彼はAdrienを傷つけるけれども、きっと彼自身も傷ついているのです。

決して甘い話ではありませんが、Adrienの人生の複雑さが凝縮された、濃密な一冊。
一度、腰を据えて読んでみるに値する物語だと思います。おすすめ!

★ミステリ
★対立

Somebody Killed His Editor
Josh Lanyon
Somebody Killed His Editor★★ summary:
Holmes & Moriarityシリーズ1

40歳のミステリライター、Christopher Holmesは作家人生の岐路に立たされていた。彼が長らく書いてきたシリーズの売り上げが落ち、エージェントから「もっと時代に即した、売れるものを書かないと」と強く言われる。
エロティックなものや吸血鬼やらが出てくるもの。一体どうやって?

エージェントのすすめで、彼はとある作家の集会にしぶしぶ参加する。そこに来る出版社の人間に新しいシリーズのアイデアを買ってもらわなければ、作家としての彼のキャリアは行き詰まったも同然だった。
問題は、彼にはまるで新しいシリーズのアイデアがなかったこと、さらに切迫した問題は、集会のあるロッジにたどりつく前に女の死体に行きあたったことだった。

橋が落ちて、誰もそのロッジから──嵐がやむまで──出ていけない。まるで推理小説の舞台のようなその状況で、Holmesは思わぬ男と顔をあわせる。
J.X. Moriarity。元警官のベストセラー作家。
10年前、週末をともにした相手。ただ1人、彼を「Kit」と呼ぶ男。
そしてJ.X.は、Christopherを殺人の容疑者として部屋に軟禁すると言う…
.....



Moriarityと言えばモリアーティ教授かと思いきや、あっちの綴りは「Moriarty」らしい。でも当然、あの2人を念頭にしたキャラですね。性格はかけらも似てない(似せてない)と思うけど。
古典のミステリのスタイルを踏まえつつ、それを使って現代のスラにしてみた、というユーモアミステリです。

外界から閉ざされたロッジ、嵐、正体不明の殺人者、2つ目の死体、主人公にかけられる嫌疑──と、古典的なミステリの要素がたっぷりつめられています。作者のLanyonは非常にテクニカルな作家なので、色々とほかにも計算されているにちがいないと思いますが、私はミステリの原書を読んだことがほとんどないのでどこまで何を踏襲しているかわからないのがちょっと残念。
あと時事ネタとか、実在する人の名前とかが散見されますね。「セーラームーンのフィギュアか」とか、そういうツッコミしかわからない自分がちょっと切ない。わかる人なら10倍は楽しめるでしょう。
でもそれはそれとして(得意技でスルーしつつ)、おもしろく読んだ一冊です。

主人公のChrisはかなり悲惨な状況です。ずーっと書いてきたシリーズが打ち切りになるかもしれない。古典的なミステリというのはもう求められていないのかもしれない。
マーケティング、すべてをひっくるめた「パッケージ」の問題なの、とエージェントは言う。小説そのものはもはや問題ではないのだと。
それで嫌々、作家の集会に出てくるわけですが、落ちていく橋を命からがら走りきり、死体を見つけ、うっかりJ.X.とよりを戻したと思えば「気の迷いだった」と言われる。挙句に新シリーズの話なんかそりゃもう、砂上の楼閣です。ていうかこの人がでたらめに話す新シリーズネタが、実際無茶苦茶なんですが。

踏んだり蹴ったりの状況下、Chrisは持ち前のユーモアで周囲をさらに苛々させていく。それも、主にJ.X.を。Chrisは繊細だけど相当に図太い。
J.X.はどうもChrisを守りたいと思っている様子ですが、10年前の逢瀬の時の出来事を許してもいないし、でもChrisに惹きつけられる自分を否定もできない。
J.X.のChrisに対する人あたりにも、相当にきついものがあります。

この2人の関係がなかなかいい。J.X.は5つ年下で、かつてはChrisを憧れの目で見ていた新人の後輩だったのに、久々に会ってみたらえらい皮肉屋で悠然としたベストセラー作家になっていて、Chrisは正直落ち着きません。そりゃそうです。それにしてもJ.X.は魅力的。
作家と元警官、というのは同作者のAdrien Englishシリーズにも似た流れですが(あっちは作家志望の本屋と警官ですが)、あれほどヒリヒリした、さわると怪我しそうな切迫感はありません。J.X.はゲイである自分を否定してないしね。
それだけに、反発しあいつつも、ひとつ転がれば2人で幸せになれそうな感じがあって、読んでいるとじれったくも楽しい。

J.X.はずっとChrisが好きだったんだろうなー、それで怒っているんだろうな、というのがあちこちに滲み出ているのに、当のChrisが鈍いのもかわいい。セックスなら別に平気だけど、それ以上のところに話が及びそうになるといつも慌ててはぐらかそうとするし。
そういうつもりはないのについつい事件をつっついてみるChrisを、J.X.は本気で心配し、苛立っている。でもそんなJ.X.をChrisは助けたり、最後のしっぺ返しをしてのけたりする。いい組み合わせの2人です。

ミステリ部分も、やはり古典ミステリへの敬愛をこめてだと思いますが、基本パターンにのっとっているのでわかりやすい。
わりと軽めに楽しめる一冊。
古典ミステリやユーモアミステリが好きなら勿論、「10年ぶり」とかに萌える人にもストライクだと思います。

作中に「Elementary, my dear..」という決め台詞がありますが、これはホームズの「Elementary, my dear Watson」(初歩だよ、ワトソン君)からのものです。
ほかにもそういうのいっぱい隠れてるんだろうなー。
しかしdearとか入ってたのね、ホームズの台詞。萌える。

★ミステリ(古典系)
★再会

Don't Look Back
Josh Lanyon
Don't Look Back★★★ summary:
博物館で働くPeter Killianは、奇妙な男の夢から目覚めると、病院にいた。
何があったのか。誰かに殴られて脳震盪をおこし、運びこまれた筈なのだが、何があったのかPeterには理解できない。思い出せない。
記憶障害だと医者は言った。

ロサンゼルス警察のMike Griffinという男が姿を見せるが、何故か彼はPeterの記憶障害が偽装であると思っているようだった。「都合がよすぎる」とGriffinは言う。
そして博物館からは以前から少しずつ物が盗まれていたこと、それに気付いたPeterが警察に届け出たこと、Peterがその泥棒に殴られた可能性があることを告げた。盗みの現場に行きあたってしまったのだと。
だがGriffinも、周囲も、まるで悪いのはPeterであるかのように振る舞っている。
何かがおかしかった。

自分が疑われていることに気付いたPeterは、身を守ろうとするが、記憶は戻らない。
脳に問題はなく、医者によればPeterは何か思い出したくないことがあるようだった。自分で自分の記憶をブロックしているのだ。
病院に来てくれる身内もいない。泥棒の疑惑をかけられたままでは職を失う。馴染みのない自宅に戻ったPeterは、自分がこの半年、抗鬱剤を飲んでいたことを発見する──

記憶にない自分は、一体どんな人生を生きてきたのだろう。何をそんなに苦しんでいたのだろう。Griffinは何故Peterをあそこまで嫌うのか。殴られた夜、Peterが見たのは何だったのか。
何もわからない。
ただひとつだけ、Peterがわかるのは、自分が決して博物館から物を盗んでいないこと──自分が無実であるということだけだった。だがそれを証明する方法はどこにもなかった。
.....



Josh Lanyonは「記憶喪失」ものに萌えるんだ、と言っていました。「White Knight」でもやっぱり記憶喪失ものをやってましたね。
実際、うまい。Peterの視点から見た世界は最初のうち、ひどく狭くて、一方的です。人を見た時に感じる第一印象は薄っぺらだし、深みがない。
やがて彼が情報を集め、色々な角度から物を見て、自分の記憶のかけらとつなぎあわせるにつれ、世界は形を変えていく。そのパースペクティブの変化がなかなかの読みどころです。
そしてPeterは、自分が仕掛けられた大きな裏切りに気付いていく。

それは長い時間をかけた裏切りで、Peterにとって「記憶を取り戻す」のは、その長い時間に対する「気付き」のプロセスでもあります。自分のことを他人のように外側から見て、自分がどう生きてきたのか、あらためて彼は見つめ直す。フェアでなかったいくつかの出来事、かつては見えてこなかった物事の裏。過去の自分が目をふさいでいた真実。
犯罪の謎解きと同時に、そのPeterの目覚めが物語の大きな軸になっています。
そして、彼が忘れてしまった──心の奥底に封印してしまった、ひとつの恋。

結構そのへんが痛々しくて、読みながらしみじみしていました。
気がついたら病院だわ、刑事(Griffin)にはよくわからんことでやたら怒られるわ(そのうちそのへんもわかっていくんですが)、泥棒の濡れ衣は着せられてるわ、仕事は解雇されそうで、友人が紹介してくれた弁護士は「さっさと罪を認めよう」と言ってPeterの無実の主張をまるでとりあわない。
そんな中ではよくやってますよ、Peter。どちらかと言うと物静かな感じの人なんだけども、とにかく追いつめられているので必死。

謎解きもおもしろいです。すごく手がこんでいるわけではありませんが、人と人の間にある暗い歴史のことを考えさせられる、ちょっと怖い部分のあるエピソードでした。
スラとしてもちゃんと盛り上がってます。Peterはエロティックな夢を見るけれども、恋人の顔がわからない。だが少しずつ、気付いていくのです。
記憶喪失ものなんであんまり書くとおもしろみが減りますが、なかなかドラマティック。

Lanyonの書くカプはいつも、2人の間にあるテンションが強くていい。優しかったり甘かったりばかりではなく、時に傷つけあうほどの緊張感なんだけれども、それもすべて、相手にまっすぐ心を向けているからこそ。その強い視線に引きこまれます。

謎解き、記憶喪失、ちょっと入り組んだ話が好きな人におすすめ。話の構成は素直なので読みやすいです。

★記憶喪失
★濡れ衣

Saving Noah
Carol Lynne and Cash Cole
Saving Noah★★ summary:
カンザス州の小さな町Schicksalにある叔母の家をDexter Krispinが訪れたのは、つきまとってくる元恋人から離れて、博士論文を仕上げるためだった。

Noah Stoffelは、その町の小さな牧場でずっと家族だけで暮らしてきた。父の死後、1度は大学へ進学したが、結局戻ってきて今は病気の母親の面倒を見ながら、町の色々な雑用を片付けてどうにか食べている。
Noahは自分がゲイであることを隠してきた。保守的で頑固な母親は決して彼を認めないだろう。それでなくとも父が死んでからの母親は気難しく、食事もろくに取らず、医者にかかることも拒否して、1日中ベッドで寝ている。
彼女の世話をし、牧場の動物に餌を食わせ、町に出て小さな仕事を片付ける。その繰り返しがNoahの日常、Noahの毎日だった。
Dexterに出会うまで。

DexterとNoahは互いに惹かれる。Dexterがいずれ彼の生まれ育った都会に戻ることをNoahは知っていたが、だからといって自分の気持ちをとめることもできなかった。
そして物静かなNoahにDexterは強い興味を持ち、彼を殻からひっぱり出そうとする。

だが、何かがおかしかった。Noahとともにすごす時間は楽しい。それなのに何かが理屈にあわない。
Dexterは周囲の人々の奇妙な反応に気付いていく。
Noahの墓場への恐怖、拒否、母親への極端な傾倒。その奥にあるものが明るみに出るまでに、それほど時間はかからず…
.....



よく働くが奥手で優しいNoahと都会からやってきた青年Dexterのほのぼのラブストーリーかと思いつつ、タイトルの「Saving Noah」の「Save」の部分もきっとほのぼのな展開だと踏んでいたら、足を大きく踏みはずしました。
ちょっと怖いです。いい話なんですが。
Carol Lynneは「Cattle Valley」というカウボーイタウン(しかもゲイの集まる町)のロングシリーズを持っている人気作家で、とてもハートウォーミング系の作家なので、これはほんとに予期していなかった。

キャラはなかなか愛らしくて、Noahは特にかわいいと思う。いじらしいというか、繊細で、両親を愛していて、毎日をどうにか暮らしていくことに少し疲れてもいる。
そんな彼にとって、Dexterとの出会いは一瞬の、滅多にない楽しみですが、それが自分が思ったより深いものであるかもしれないと気付いて、彼は怯えます。

DexterはNoahの人生に色々なことが欠けているのを見て、胸を痛めます。一晩家を離れて遊ぶこと、楽しみのために買い物をすること、それだけのことすらNoahには難しい。
Noahの中にある傷つきやすさをDexterは愛しいと思い、一晩のデートでとにかく彼を甘やかす。守ってやりたいと思う。
DexterとNoahの関係はあまり日にちもなく恋に落ちていく感じですが、感情表現が丁寧なので違和感はない。Noahって実際、なかなかに「守ってやりたい」タイプです。彼のキャラクターがよく書けているので、後半の展開にも違和感なく引きこまれます。

前半のちょっと緊張しつつもほのぼの展開が、途中でぐっとひねられ、後半でいきなり状況が一気に裏返る。色んな伏線がぱっとひとつになる、そのへんがなかなかうまい。
心理をこまごまと掘り下げるというよりは、話の展開として非常にうまく使っているので、内容のわりには重く読ませない、そのあたりもうまいと思います。

タイトル通り、Noahは本当に「救い」を必要としていますが、彼自身にはそれが見えていません。
Dexterでなければ彼を救うことができない。町の外から来た男。彼でなければ、Noahをそこから出してあげることはできないのです。まあ町の人もいい人たちなんだけどね。
余談だけど、「小さいコミュニティ」のよさと怖さも同時に出ていると思う。

守ってやりたい受けが好きな人(まあリバなんだけど)、展開にひねりのある話が読みたい人におすすめ。

★謎解き
★救済

Cover Me
L.B. Gregg
※出版社の問題で一時的にリンクを外してます。
Cover_Me.jpg★★★ summary:
Michael “Finn” Finneganは、寄宿学校の英語の教師である。
だが、彼が個人的に指導している生徒の兄、Max Douglasは彼の教え方が「ゆるい」と言い、それ以上の個人授業を断る。
その宣告は最悪のタイミングだった。FinnがMaxと寝た、ほんの数分後。
2人はそれきり、になる筈だった。

警備会社で働いているMaxは、とある生徒の警護のためにFinnの勤める学校へとやってくる。
彼の厳格で妥協のない物言いと、学内のことをとりしきるFinnの考えは常に対立した。
2人は、どちらも生徒を守ろうとしていた。だがFinnは教師として生徒の生活や自由も含めて守ろうとし、Maxはただ危害から守ることだけを考えている。
どちらも自分の仕事に誇りを持ち、どちらも頑固だった。

Maxは常にFinnを怒らせ、昂らせ、気持ちをかき乱す。
押し流されるように彼らはまた体を重ねるが、その関係が体以上のものにならないだろうこともFinnはわかっていた。Maxは彼をだらしがないと言い、Finnが何をしても眉をひそめるような男だ。
それなのに、Finnは自分の気持ちが、このむかつく頑固な元海軍の男に向かって落ちていくのをとめられず…
.....



Men of Smithfieldシリーズ3。

Finnは陽気で、生徒に人気があり、ちょっとお茶目なところもある男です。なにしろハロウィンの仮装にトースターのかぶりものを着ていっちゃう。
Maxは感情を表情に出さず、言葉はぶっきらぼうで、時に無神経なほど剥き出し。
Finnは自分の勢いのままにそんなMaxと寝てしまいますが、後からめりこむほど後悔する。でもまたMaxと出会い、ついつい体の関係がはじまってしまうのです。

Finnの一人称ですが、すごく可愛い。彼が生き生きとし、じつに人生を楽しんでいるのがつたわってくる。彼の視点からでも当人の溌剌とした様子、刺々しさ、頑固さ、癇癪、そんなものがわかります。
そしてMaxが、Finnのことを「理解しがたい」と思っているのもわかる。そんで、理解できないままこっそりと、Finnに対してめろめろになっているのも。

この2人のやりとりが笑える。MaxはFinnをつついて怒らせるのが好きで、激しい反応が見たさにうっかりときついことを言ってみたりする。頭に血がのぼったFinn、というのに心底ときめいてしまうらしい。
屈折してるぞ。好きな子をいじめる男の子じゃあるまいし。
FinnはMaxの術中にはまって怒りちらし、自己嫌悪や当惑の中でぐるぐるし、やばい、と思いながらMaxに惹かれていく。そんでいきなり甘やかされて、もう駄目だと思いながら逃げようともがく。Maxはどうせ遊びだろうし(←Finnの頭の中的に)、Max相手に失恋なんて耐えられない。
ここのぐるぐるが、読んでいてすごくおもしろい。

その一方で、学内では様々なことがおこりはじめる。動物の死骸、吊るされた人形、紛失した部屋の鍵。
誰かの悪意が身にせまってくるのを感じながら、Finnはそれが誰であるのか悩む。学内で自由に動き回る、それは生徒の一人なのだろうか? それほどの悪意を持つ者が生徒の中にいるのだろうか?

攻めの寡黙さにやきもきする受けと、生き生きとした受けの一挙一動にこっそり萌えてしまう攻め、という組み合わせが好きなら鉄板です。
エロの最中でも甘やかしたり苛めたりするのが、大変に可愛い。

★寡黙×溌剌
★トースター

★Three-Star rating system★


[カテゴリ]View ALL
レビュー (312)
★★★ (88)
★★ (190)
★ (34)
モノクローム・ロマンス (10)
電子ブックリーダー (23)
iPodTouch・Stanza (19)
nook (4)
雑談 (84)
英語 (29)
文法 (4)
読書日記 (11)
…このブログについて (9)
…書店情報 (2)
[タグリスト]

08 | 2017/09 [GO]| 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

カテゴリ一覧 最近の記事一覧 プロフィール リンク一覧 メールを送る
[カテゴリ]


モノクロームロマンス(M/M翻訳)


■公式サイト■

・2017年
・後半 王子二巻
・12月 アドリアンXmas

・ほかにも出るかも
・王子とか何か売れてくれ〜(色々軽くピンチ)
・来年はもふもふやるよ!

*発行済*
・フェア・ゲーム
・フェア・プレイ
・ドント・ルック・バック
・恋のしっぽをつかまえて
・狼を狩る法則
・狼の遠き目覚め
・狼の見る夢は
・天使の影(アドリアン・イングリッシュ1)
・死者の囁き(アドリアン2)
・悪魔の聖餐(アドリアン3)
・海賊王の死(アドリアン4)
・瞑き流れ(アドリアン5)
・幽霊狩り(ヘルハイ1)
・不在の痕(ヘルハイ2)
・還流
・夜が明けるなら(ヘルハイ3)

*他訳者さん*
・わが愛しのホームズ
・ロング・ゲイン
・恋人までのA to Z
・マイ・ディア・マスター