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Slash(m/m小説) レビューブログ

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[タグ]ジャンル:サスペンス の記事一覧

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Fatal Shadows & A Dangerous Thing
Josh Lanyon
AdrienEnglish1★★★ summary:
Fatal Shadows(1作目)
LAでミステリ書店を営みながら小説を書くAdrien Englishは、友人のRobertが滅多刺しにされて殺された事件の嫌疑をかけられる。Adrienはゲイ、Robertはバイセクシュアルで、学生時代からの古い友人同士だったが、彼らは恋人であったことは一度もなかった。だが他人から見れば奇妙に近しい彼らの関係、そしてこの9ヶ月RobertがAdrienの書店で働いていたこと、Robertが死ぬ前に最後に会った相手がAdrienであったこと、口論をして別れたこと、Robertが何故かレストランにAdrienを探しに戻ってきたこと──などがLAの殺人課刑事、Jakeの疑いを呼ぶ。
同時にAdrienの周辺で奇妙なことがおきはじめ、本屋への侵入事件や無言電話などからAdrienは自分がストーキングされていると感じるが、刑事たちはAdrienの思いすごしか、なお悪いことに、疑いを自分からそらそうとする陽動であると思っているようだった。
Adrienは逃げ場のない状況からの出口を探すためにやむなく事件を調べはじめるが、そこには彼とRobertの学生時代にまで根を遡る、深い、深い憎悪と狂気の物語が隠れていた。
古い、自分の知らない罪と恋のせいでAdrienは命の危険にさらされる。次は自分が殺される番だと気付きながら、誰がその凶器を握っているのかわからない。それでも彼は出口を探して闇を掘るしかない。

A Dangerous Thing(2作目)
Adrienはうまくいかない恋人(未満?)との関係にいささか苛立って、祖母の遺産である牧場へと車をとばす。子供の頃から一度も帰ったことのない、今は誰も住んでいない、誰も友人のいない場所へと骨休みと執筆を兼ねて出かけたものの、そこで彼が見たのは謎の死体と、その死体の消失、そして自分の敷地に生えるマリファナの青々とした茂みや、何故か敷地の山奥を掘り返している謎の集団だった。
トラブルが次々と襲いかかり、Adrien自身の身にも危険が及んだ時、恋人が駆けつけて彼を救おうとする。だがAdrienはただ救出されるにはあまりにも頑固で、山と積まれた問題を残してその場から逃げ出す気などさらさらなかったのだが…
,,,,,


Adrien Englishミステリシリーズ1&2が1冊に入っています。
このシリーズは人気作家Josh Lanyonの中でも一番人気のシリーズで、本当に何というか…いい小説です。謎解きがあり、人と人とのドラマや葛藤があり、どうにもならない運命の出会いや別れがある。
あえて言ってしまえば、これは「Adrien Engiishの人生」の断片のような話なのです。

Adrien Englishはとても魅力的な主人公で、この話は一人称で語られるのですが、Adrienがどういう人間なのか、会話や彼のややシニカルな独白の中から鮮やかにたちのぼってきます。32歳、父親はアメリカ人で母親はイギリス人、父とは早くに死別。16歳の時に生死にかかわる大病をわずらって以来心臓の弁に異常があり、薬を服用。敏感な時期をいつ死ぬかもわからないという状況下ですごしたためかやや人生にさめた視点をもっていて、他人に対してはさらりとした人づきあいをする方です。5年間暮らした恋人が去っていったことがいまだに深い影をおとしているようにも見えます。
だが人なつこくもあり、ユーモアに満ち、率直で、Adrienと話すと人はたいてい自分の内面を正直に見せる。そしてAdrienは非常にするどい目で、他人の内面を読む。ミステリ好きではあるが犯罪に関しては素人の彼が、そうして彼独特の視点から様々な断片をひっくり返しながら真相を掘り出し、実は自分のすぐそばによりそっていた狂気の存在に気付く──その瞬間まで、緊迫感のある展開が続きます。

「ミステリ風味のスラッシュ」というよりは「ミステリでもありスラッシュでもある小説」と言った方がいいか。ミステリとして充分おもしろいですが、スラッシュとして見るなら1作目はシリーズの「導入」です。本当の展開はその先にある(その2作が1冊に入っているのは、本当にかしこいと思う)。
1作目で彼は思わぬ相手と関り、2作目ではその関係が彼の予想した以上に深まる。だがそれは色んな意味において未来のない恋で、その関係のいびつさと思いの激しさがAdrienと彼の人生を悩ませつづけます。
そんな中でもがきながらも、いつもAdrienはフェアで、毅然としている。そのことが自分を傷つける時でさえ。決して声高でもなく、弱くもありますが、こんなにたたずまいの潔い男というのはあまりいないんじゃないだろうか。
ドラマティックに語られるわけではありませんが、淡々と、皮肉とユーモアをまじえたAdrienの語り口には胸にせまるような繊細さがあって、はじまってしまった関係の先にあるものをAdrienが見すえたり、目をそらしたりしている様を読むのが時おりつらい。そして彼の語り口から浮き上がってくるのは彼の人生だけではなく、望みのない恋人の、複雑で痛みに満ちた人生でもある。

駄洒落とか謎解きとかあって英語としては私の手に余るところもあるんですが、難解なわけではないので、長文読み慣れてる人なら本筋は普通に楽しめると思う。
現在はシリーズ4作目まで出ています。これがまた胸がしめつけられるような話だったりするのですが、そっちのレビューはまたいずれ。
Lanyonはミステリとはちょっと毛色のちがう暴力的なクライムサスペンスも書いていて、そっちも本当におもしろい(強い男同士のカプが好きな人にはたまらん!)。「m/m小説の書き方」というハウツー本も書いています。今度読んでみようかな。キャラクターの際立ち方が本当に強くていいのです。
彼の作品に「ホームズ&モリアーティシリーズ」ってのがあるのは心底気になる…

いろんな意味でおすすめのシリーズですが、エロ以外の部分重視の人には特におすすめ。非常に自我の強い2人の向き合う話でもあるので、「男同士の恋愛」(ガチムチって意味じゃないぞ)を求める人にも。

★ミステリ・サスペンス

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The Dark Horse
Josh Lanyon
The Dark Horse★★★ summary:
ハリウッドの俳優Sean Fairchildは1年にもわたってストーキング行為を受けていたが、ストーカーPaul Hammondは車の事故で死んだ。少なくともそれが、護衛を担当していた刑事Daniel MoranがSeanに繰り返し信じさせようとしていることだった。
Danと一緒に暮らすようになり、Seanは危機は去ったという恋人の言葉を信じようとするが、またもや彼にポストカードが届きはじめる。Hammondが彼に送ってきたものとそっくりなカード。「miss me?」「soon…」見なれた独特の文字と短いメッセージ。

Hammondは死んだ、とDanは言いつづけ、Seanはそれを信じられなくなっていく。
Hammondが死んだのなら、何故警察は彼の死体を見つけることができないのか? 彼が死んだのなら、誰が一体ポストカードを送ってきているのか?
そしてある日、SeanはついにHammondを見た──少なくとも見たつもりだった。だがそれはSeanの恐怖がつくりあげた幻影なのか? 
Danは彼を守ろうとしている。だが誰から? Hammondからか、それとも少しずつ正常な認識を失っていくSean自身から…?

不安、不信。さまざまな感情が彼とDanの間を蝕んでいく。彼はDanに依存しすぎているのだろうか。友人が言うように、Danに操られはじめているのだろうか。
.....



「Adrien Englishシリーズ」のJosh Lanyonのクライムサスペンス。

Seanはかつて、ゲイである自分とそれに失望する家族や周囲との軋轢にたえかね、自分自身を責めた結果、自殺をこころみたことがあり、そのため自分の心の安定に対して不安をもっている。
そしてその不安を誰かに見せること、見すかされることを恐れています。自分自身の欠陥を人に見せること、人の判断に自分をゆだねることを恐れ、恋人のDanが自分を守ろうとすることに対してもほっとすると同時に、怒りを感じる。自分のテリトリーを侵害されているような怒り、それを許す自分への怒り。
Danの態度に対して不信をもちながら、まず彼は「自分自身が信頼にあたいするのかどうか」をつねに問いつづけなければならない。それは痛みに満ちた問いであり、その不確かな世界でSeanの気持ちは揺らぎ、彼はDanを、自分を恐れるようになる。

なんたって一人前の男ですから、男にたよりきったり守られたりすることに対して当然の反発があるわけで、Lanyonはそういう男の葛藤を書くのがとってもうまいです。どんなに繊細でも基本的に男らしい。
Seanの葛藤を見ているDanの方はちょっと苛々してて、「たよってくれよ!」って思ってるのも何となくつたわってくるんですが(あくまで彼はSeanの意志を尊重しようとしますが)、他人と距離をおくことに慣れているSeanには、Danと近づきすぎていること自体が落ちつかない。近づきすぎていると思う、でもそばにいるのは心地よい、そのへんのぐらぐらしている感じがなかなかに可愛い。
口論や怒りの発露。そういうものの中で、それでもSeanはDanと確実なものを築きあげようともがく。しかしそのやりかたがわからない、みたいなもどかしさがあります。

それでもやがて、彼は自分の本当の望みに気付く。その時にはもう遅すぎたかもしれないけれど。
心情が丁寧に書かれていて、Seanに共感したり苛々したりしつつ、惹きこまれて一気に読んでしまった。Lanyonはやっぱりいいなあ。そしてこの人の書く警官はどうしていつも、こうも格好いいのだ…!

中編なので、わりとさらっと読めるかと。でも読みごたえはあります。「包容攻め×繊細な受け」好きには特におすすめ。

★クライムサスペンス
★トラウマ持ち

Orientation
Rick R. Reed
Orientation★ summary:
1983年、22歳のRobertは44歳のKeithに出会い、倍の年の差があるにもかかわらず2人は深く恋に落ちる。
だがその年のうちにKeithは当時まだあまり知られていなかったAIDSを発症し、ひどく苦しんだ末、Robertの目の前で息を引きとった。クリスマスの日。

その24年後、2007年。RobertはKeithの遺産と資産管理の仕事をしながら、静かに生きていた。
彼の傍らにはいつも若い恋人がいて彼の孤独をまぎらわせたが、誰ひとりとして彼の心にとどくことはない。
そして2007年のクリスマスの日、今の恋人であるEthanは彼の目をかいくぐってどこかへ出かけ、戻らない。「クリスマス」がどれほどRobertに大切なものなのかわかっている筈の彼のそのふるまいにRobertは苛立ち、Ethanに対していくつもの疑いを抱くが、それを正面きって切り出すことはできなかった。Robertはいつでも孤独を恐れていた。

ひとりのクリスマスに耐えきれず、暗い夜の中を散歩に出たRobertは、湖畔で今にも水にとびこもうとしている娘に出会う。彼女はJess。24歳。クリスマス生まれ。…Keithが死んだ、まさにその年のクリスマス。
彼らはどこか近いものを感じあいながら、奇妙な形で近づいていく。そしてJessは夢を見はじめる。ずっと昔、まだRobertが若く、Keithと出会った店での夢を。
この出会いは運命なのだろうか?

一方、Rodertの若い恋人Ethanは、自分ではどうにもならない麻薬の深みにはまっていた。それは彼の体を、そして精神を蝕みはじめる。抜け出す道を探してもがきながら、EthanはRobertが彼を生命保険の受取人にしていることを知り…
.....


2008年のEPPIEのGLBTカテゴリ受賞作です。
しかしこれ、「スラッシュ」ではないですね。RobertとJessの、2人の男女の不思議な絆を中心にして話がすすんでいきます。Robertはゲイで、Jessもゲイ(レズビアンと言うほうが日本語のなじみはいいですね)なので、GBLTカテゴリなんだと思うけど。恋愛要素はなし。
ただ、最初の1983年のシーン、死んでいくKeithのためにRobertがクリスマスの飾りつけをし、プレゼントをひとりでひらき、豪華な料理を作るシーンはとても美しくて、胸がつまります。スラ的にはここだけで読む意味があるかもしれない。

Robertは24年もたって、今でもKeithの死とその喪失をのりこえることができず、人生に意味をもつことができていないように見えます。彼は親切で、心やさしく、人の世話を見るのが好きだが、同時に弱い男でもある。
Ethanはかつてはそこも含めて、Robertとそれなりに幸せな絆を結んでいた筈だった。だが麻薬が彼のすべてを奪っていく。そして恋人の変化に気づき、うすうすその正体を疑いながら、Robertは真実と向き合うことができず、Ethanの無数の言い訳にすがるように、目の前でおこっていることから目をそらしつづける。
それは先のない関係で、いずれは破滅が待っている。それも、ただの「別れ」以上の取り返しのつかない破滅が。

そのEthanの転落の軌跡が非常に怖いです。彼が常用している麻薬は「Meth」つまりメタンフェタミンで、非常に強烈な依存性を持つものとして知られています。どんどんと服用量がふえ、いずれは死に至る。
ほんの短い間にEthanは転落し、自分が肉体的にも精神的にも壊れはじめていることを感じながら、もがく。ただしもがく方向がかなり間違っていますが。
Ethanのシーンや、彼が取引しているドラッグディーラーのシーンの心理描写が非常に詳細で、読みごたえがあります。ほんとにEthanの「壊れてる」感が怖い。
彼が転落したのは彼自身のせいですが、結局Robertは彼を愛したことはなかったし(Ethanがそれを求めていたわけではないとは言え)、Robertの中にはいつでもKeithがいた。つねに彼は言葉に出さずとも、すべての恋人とKeithを引きくらべていた。そのことがEthanの足元をあやまらせた一因なのはたしかで、不健全な絆は不健全な人間を生みやすいのかもしれない。

「スラッシュ」ではないけれども、そういう人間ドラマを中心にした心理サスペンスが好きな人におすすめ。
性描写はほぼなし。超自然的現象が入るので書店のカテゴリに「Paranormal」が入ってますが、別に超能力で何かがおこるとかではないです。

★サスペンス
★死別した恋人

Amor en Retrogrado
A. M. Riley
Amor en Retrogrado ★★ summary:
Robert Lemosの15年ともに暮らした恋人、JD Ryanが路地で撃たれて発見される。彼の連れは死に、JDは病院に運びこまれ、保険の書類からRobertに連絡がいく。
Robertは1年前、JDと破局していた。

病院に駆けつけたRobertは、JDが彼のことを記憶していないこと、おそらくは外傷性のショックによって部分的な記憶喪失に陥り、出会う以前の彼に戻っていることを知る。どうすればいいのかわからないまま、Robertは退院したJDを自分の家へとつれて戻る。
自分たちがすでに別れていることを、どうしても彼はJDに告げられない。何より、彼はまだJDを愛していた。
この15年ずっと、愛しつづけていた。
だがJDとの関係は悲惨なものだった。彼らは常に争い、JDはRobertを傷つけ、Robertが仕事に没頭するとJDは酒を飲んだ。JDは誇り高い男だったがいつもどこかに怒りをかかえていて、そんな彼をRobertが守ろうとする、その行為すらJDを傷つけた。
愛はあった。それはまちがいなかったが、彼らの間に信頼はなかった。

記憶を失ったJDはいつになくおだやかで、Robertへの愛情を素直に見せる。もしかしたら彼らはまたやりなおせるだろうか。
そう思いながら、また痛みをくり返すことにRobertは臆病になっている。
そしてまた、JDとその連れを撃った犯人への捜査が進むにつれ、疑いはRobertへと向けられ…
.....



これはおもしろい展開の小説で、「JDが撃たれた→Robertの家へ→事件の捜査進行」という現在の時間軸の間に、フラッシュバックのようにRobertとJDとの関係が挿入されていきます。それによって、彼らの痛みに満ちた日々が浮き彫りになっていく。その構成が非常に巧みです。
JDはもともとゲイではない(というか、気付いていない)。だが彼はRobertに出会って恋に落ち、しかし混乱し、己のセクシュアリティを否定しようとしてできず、怒りに満ちる。その怒りが、後々まで彼に影響を及ぼしていたように見えます。

陽気で美しい恋人を得て、Robertは生涯ではじめて「幸福」というものを味わう。
だがJDは時にシニカルに彼らのことを「セックスにすぎない関係」と言ってのけ、彼らが結婚してからも、「その関係に意味があるのか」と問う。彼はどこか暗いところへ目を向けているようなところがあって、やがてその怒りや、Robertの独占欲が彼を喰いはじめる。そしてJDは酒に逃げ、Robertは仕事に逃げる。
その日々が、エピソードの挿入によって次第に明らかになっていきます。
2人の関係がRobert視点から描かれるため、はじめのうちJDは勝手なふるまいのわがままな恋人に見えますが、段々と、Robert側にも問題があることがわかってくる。
彼らはどちらも弱く、どちらも相手を信頼していない。愛はあるけれども、傷つけあう武器のようにそれを振り回してもいる。
その過去の様子と、今の(記憶を失った)JDのやけに素直な様子との対比が悲しい。
果たして彼らは、思いもかけない形で新しい絆を作れるか。それともただ、かつての失敗をくり返すのか。


小説としてはいくらか弱いところもあって、捜査する側のエピソードがちょっとわかりにくかったり(ていうかあれ必要か?)、いらんところでキャラ視点の移動があったりします。私は視点固定じゃない(同じ章の中で視点があちこち移動する)小説って嫌いじゃないですが、この作者は「固定」のように見せておいて、たまにふらっと視点を動かすので語り口として不安定なのです。
ただ、それを補ってあまりあるほど、2人の感情のほとばしりは見事だと思います。Robertの視点から見ているにもかかわらず、JDの中にある痛みはあきらかで、ねじれていくしかない関係のどうしようもなさが切ない。特に中盤から非常に読みごたえがあります。
スペイン語があちこちに散見されまして(わからなくても読める、つか読んだ)、巻末にスペイン語スラング辞典があるのがちょと楽しい。
タイトルの「Amor en Retrogrado」は機械翻訳だと「後退するiの愛」とか出てくるので(英語だとLove in I Retrogradeとか)、「巻き戻された愛」とかそんな感じ…で、いいのかなあ。

★記憶喪失
★破局した恋人との再会

ReneCade
Cameron Dane
ReneCade★★★ summary:
Cade McKennaは過去を忘れるため、モンタナの小さな町へ副保安官として赴任してきた。彼の顔の半分は傷で覆われているが、誰もその理由は知らない。Cadeは誰にも自分のことを語らない。仕事を黙々とこなし、社交的なやりとりは好まず、孤独で厳しい男であった。
保安官の息子Ren BooneはHawkins' Ranchで働きながら、牧場の仕事を何でもこなす日々が好きだった。父親と2人だけで暮らし、明るくふるまう彼は誰にでも好かれていたが、彼は自分がゲイであることを、2人の親友を除いて周囲に押し隠していた。父親にさえも。
だがCadeの、周囲を拒否するような殻の下に強い情熱と痛みを見て、RenはCadeに磁力のように惹きつけられる。CadeもまたRenの存在に心を乱され、彼らは秘密裏に関係を持ちはじめる。
Renは望み、Cadeは抗いながらも抗いきれない。いびつなものをかかえながら、それでも彼らは心を剥き出しにするように向きあい、少しずつ、2人の関係はうまくいきはじめたように思えた。
だが彼らの関係は最悪の形で崩壊する。Renの裏切り。

はたして、2人はその裏切りの裏にあるもの、Renの中にある深い痛みを明らかにできるのか。Cadeは傷の痛みを呑みこんで、ふたたびRenを腕に迎え入れることができるのか。
それは望みのない道のようにRenには思えたが、それでもRenはCadeをあきらめられない。裏切ったのは自分で、傷つけたのは自分だが、Renはその崩壊の中で自分の本当の気持ちに気付いていた。

一方、牧場の魚の養殖池に毒が入れられ、犯人探しがはじまる。その悪意は思わぬ形でCadeへと襲いかかり…
.....



Hawkins Ranchシリーズですが、他の作品とは関係なく独立して読むことのできる話です。Hawkins兄弟はちょっとした脇役で、ここでは彼らの牧場で働く若者Renと、保安官助手のCadeの話に焦点があたっている。

このCadeがじつに強烈で複雑な男です。顔に傷をもち、笑わない副保安官。何事にも厳しく、何より己を律して揺らぐところがありませんが、その内側にはまだ過去からの生々しい傷が残っています。Renの裏切りは、その傷をかきむしり、中から膿みのような痛みがあふれ出してくるのをどうすることもできない。彼が誰にも立ち入らせなかった深みへと、Renはやすやすと入りこんできて、挙句にそこに痛みを残した。
Renの裏切りは本当に馬鹿げたものですが、RenにはRenの暗い部分がある。少年時代、今の町に引っ越してきた時に切り捨ててきた筈の暗い痛み。彼はそのすべてを捨て、過去の自分を捨て、今の「明るく人なつっこい」自分をこの場所で一から作りあげてきた。だがCadeに向かう感情は彼を根っこから揺さぶり、怯えさせ、判断を歪めるほど強烈なものだった。
互いに衝動につかまれ、どうしようもないほど惹かれていますが、裏切りの痛みが2人を分かちつづける。

ただひとり、信頼できる家族である父親へのカミングアウト(Renの実の父ではありませんが)、昔からの親友との腐れ縁な関係、古い過去から追いかけてくる捨てた筈の「家族」。Renの痛みはあざやかで、それとクロスするCadeの苦痛もまた鮮烈なものです。
Cadeは自分を切り捨てて、ただ「副保安官」として立派につとめを果たそうと、自分の感情や痛みをどこかへ埋めてしまおうとするが、Renの存在は彼をつらぬくような傷となる。
2人は互いを求めずにはいられない。だが求めながら、そこにある痛みに息をつまらせる。そんな関係が痛々しく書かれています。

Renはとても若々しくて、のびやかでいい若者なんですけども。自分でした裏切りとは言え、彼が打ちのめされ、必死になる姿は胸にくるものがあります。
望みのないものを、人はいつまで待ちつづけていられるか。許しとは何か。そんなものが圧巻の迫力で書かれています。RenやCadeだけでなく、人と人の感情の交錯には時おり息がつまるような気がする。
がっつりボリュームもありまして全編激しいので、とにかく激しいものが好きな人におすすめ。

ところでこの「ReneCade」というタイトル、RenとCadeの名前をつなげたものでもありますが、「Renegade」(裏切り者)とのダブルミーニングでもあります。最近になってやっと気がついた…
個人的に、Hawkins Ranchシリーズで一番好きな話です。ほんとにキャラがいいし、まるで異なる2人が傷つけあいながら惹かれあう、その対比が荒々しくも美しいのです。

★エロ多め
★裏切り

The Ghost Wore Yellow Socks
Josh Lanyon
The Ghost Wore Yellow Socks★★ summary:
傷心をかかえてサンフランシスコの旅行から帰ってきたPerry Fosterが自分の部屋で見たのは、空のバスタブに入っている死体だった。穴のあいた靴、黄色い靴下。見知らぬ顔。
愕然として、Perryは部屋の外へとびだす。
彼の住むAlton Estateは古い建物で、今は各部屋ごとに住人がいる。Perryと同じ3階には、元海軍のSEALに所属していたNick Renoが住んでいた。
Nickは不承不承ながらも部屋をチェックしてくれる。だが死体はどこにもなかった。

Alton Estateに住む誰もが、そして警官たちも、死体はPerryの思いこみだと判断する。
だがNickだけは少しちがった。彼はPerryの部屋をチェックした時、床に落ちていた古ぼけた靴の片方を、何気なく窓際に置いたのだ。警官が来た時にはその靴は消え、かわりにPerryの靴が置いてあった。
Nickは死体は見ていない。それを信じればいいのかはわからない。だが、この部屋で何かがおこっている。それはたしかだ。

Perryは自分の見たものが幽霊だったとも、幻だったとも思っていなかった。誰かが彼の部屋に死体を隠したのだ。だがPerryが部屋の外に出てからNickが見にいくまでに、一体どうやって廊下を通ることなく死体を運び出したのだろう。Perryは事件を自分で調べようとする。
警告、新たな死体、建物にまつわる古い物語、遠い昔に恋人を奪おうとして死んだ男の伝説。住人たちは皆挙動不審になり、重苦しい空気の中で、彼らが秘めてきた隠された顔があらわにされていく。逃亡者、覗き屋、昔の持ち主の子孫…

その中で、殺人者の顔を持つのは誰なのか。
.....



Perryはゲイであることが原因で親元を離れ、画家を目指している23歳の童顔の青年です。喘息がちで、失恋したばかりで、今月の家賃まで旅費に使いこんでしまった上、とぼとぼと家に戻ってきたら死体が待っていた、と、もう踏んだり蹴ったり。
Nickはそんな彼に巻きこまれることを避けようとします。だがPerryは彼が思っていたような「ドラマクイーンタイプ」ではなく、じつのところは快活で賢く、粘り強い。最初こそじめじめ落ちこんでいますが、すぐに気をとりなおして、根っこにあるポジティブな気性を見せ、自分で建物の謎を調べはじめる。

Nickは軍をやめて仕事を探している最中で、LAの友人のところで職をもらえればバーモントを離れるつもりなので、なるべくPerryに近づきたくはないのですが、少しずつPerryの新たな一面を発見しながら段々と惹かれていくのをとめられない。
その経過はゆっくりで、まるで似たところのない2人が互いの距離をつめていく様子が、物語のもうひとつの核となっています。ものすごくドラマティックなことがおこるわけではありませんが、Nickが「駄目だ」とか「馬鹿げてる」とか思いながらちょっとずつ傾いていくのがおもしろい。Perryに対する庇護欲がどこからわいてくるのかわからなくて、自分でとまどっている。そしてNickが思っているほどPerryは子供でもなかった。
彼らは互いに惹かれるが、たとえ今はうまくいっても、Nickはバーモントへ行ってしまう。続くわけのない関係です。
だからといって踏みとどまれるものでもない。Perryもまた後からくる喪失をわかっていて、一歩踏みこむ。「ただのセックスでいい」と言うPerryに、Nickはたじろぐ。「お前に、そんな言い方は似合わない」

自分がこの場所を去る前に、Nickは死体の一件を解決したいと思う。何だかわからないものの中にPerryを残していくのは気がすすまない。
2人は一緒にこの事件に取り組むことになります。その先にある謎を、彼らは無事解くことができるのか?
そして謎を解いた先には、別れが待っている。


Josh Lanyonはおもしろいのがわかっているので、わざといくらか読み残してあって、その一冊。やはりおもしろいです。
こう、Lanyonの特徴でもある強烈に凝縮された感じはあまりないのですが、その分読みやすいとも思う。ミステリとしての核ははっきりとしているし、NickがぶすっとしながらPerryの面倒をついつい見てしまう様子がほほえましく、Perryは若々しくてかわいい。「こんなガキにかかわりたくない」と思いながらくらっとするNickがいい味を出してます。
甘くはない、さりとて苦くもない、映画のような陰影のくっきりした話です。話自体がおもしろく、雰囲気も楽しめますので、小説全体を楽しみたい人に特におすすめ。

★ミステリ(消えた死体)

Chasing Smoke
K. A. Mitchell
Chasing Smoke★★★ summary:
FBI、そして国土安全保障省で働くDaniel Gardnerは、母親が家を引き払う手伝いをするため、渋々クリスマスに休暇をとって生まれ故郷へ帰る。彼は家族と折り合いが悪く、そして故郷にはもう苦い記憶しかなかった。
自分を殴った酒飲みの父親、家庭内での言い争い、苦い恋と失恋の傷。
15年前の恋。彼を誰より惹きつけ、混乱させ、傷つけた年上の少年、Trey。

Treyの父とDanielの父はベトナムでの戦友で、彼らは家族ぐるみのつきあいをしていた。DanielはTreyへの恋に落ち、Treyも時にはそれに応えるようにも見えたが、彼はいつも人前ではDanielなどいないかのようにふるまいつづけ、自分がゲイであることを否定しつづけていた。
Danielは故郷を去る時、Treyに一緒に来てくれるよう懇願した。だがTreyはその願いを一蹴するように軍隊に入り、Danielの人生からそれきり消えたのだった。

あれはもう遠い昔のことだ。その筈だった。

だが戻った実家に空き巣が入り、その捜査に訪れた刑事の顔を見て、Danielは呆然とする。Trey。
彼は刑事になっていた。そしてそれが何のためか、Danielには一瞬でわかった。DanielがFBIをこころざしたのと同じ理由だ。
遠い日の犯罪の正体を暴くため。そしてTreyの父親の無実を証明し、妻殺しの罪を晴らすため。

再び動き出した過去の事件が、彼らを結びつける。
だがそれが解決した時、2人を待つものは今度こそ最後の別れなのかもしれない。
.....



Treyは、かつてのDanielにとって家族よりも必要な、大切な相手だった。Danielは自分を投げ出すようにしてTreyを求め、TreyはDanielに惹かれながらも、その先にあるものが恐しくて彼をつきはなす──
お互い複雑な家庭をかかえた少年同士の、切羽つまった、抑えきれない情動は、結局破綻します。
Danielは今でもその傷をどこかにかかえている。彼は今の恋人にも誠実に対そうとするが、人生や自分自身を彼らと分かちあうことができない。かつてTreyにしたように、自分をひらいてみせることができない。

TreyはTreyで、ゲイであることを恐れ、Danielを恐れ、同時に父親の犯罪によって彼の少年時代は滅茶苦茶になっています。
15年たって、彼は自分にとってDanielがどんなに大切な存在だったかわかっているが、距離を近づけようとしても、Danielがどこかに逃げ道を残していることを感じる。
体だけならいくらでも近づけるのに、Danielは過去の傷にしがみついて、Treyを許そうとしていない。
それでも2人は惹かれあう。

頑固で一途で繊細なDanielと、迷いと怒りに満ちた過去を持つ執念の男Trey。この2人の、緊張感に満ちた、時にもう未来などないかのような関係が読みどころです。
どちらも相手を恋しいと思う。人生の中で、これほど何かをほしいと思ったことはない。だがどちらの男も、相手の人生の中に自分の姿をはめこむことができない。
この事件が解決すれば。そしてDanielの休暇がおわれば。母親の家を売ったら、Danielがこの町に戻ることは2度とない、それはどちらもわかっている。

一方、謎解きの部分もしっかりしています。そして謎解きでも2人は対立する。
空き巣が「何か」を探していたと感じるDanielは、家の荷物の中からベトナム戦争中のポラロイド写真を見つけ、それが何かを意味すると感じる。だがTreyは簡単にはとびつかない。彼は父親が有罪にされた事件について、15年間ずっとかかえこみ、ずっとその重さを感じてきた。袋小路にいることに慣れてきた。その彼にとって、Danielはあまりに簡単に出口を指さしているように思える。

この話は、2人の男が自分なりの「出口」を探すまで、の物語でもあります。Danielにとっては過去の怒り、その過去がつくってきた自分自身の殻。Treyにとっては、父親の事件にとらわれつづけてきた自分からの。
タイトルの「Chasing Smoke」の「Smoke」は、まるで煙のようにとらえどころのない15年前の事件、そしてさらに昔のベトナム戦争でおこった「何か」と同時に、過去の自分自身を表しているようにも思えます。
そして「Smoke」は過去からたちのぼるばかりのものではない。事件を調べ出した2人を、現実の炎が追ってくる。煙の裏に隠れた殺人者を、2人がつきとめるまで。

読みおわって気付いたのですが、K.A.Mitchellを読んだのは2冊目でした。
Collision Course」を読んだことがあって、これずっとレビュー書こうかどうか迷ってるんですよね。すごくおもしろかったんですが、1つどでかく腑に落ちないところがあって、それがまた、自分の英語力でニュアンスを読みおとしたせいじゃないかという疑いが抜けず。
んで何度か読み返している作品です。どっちも多少ボリュームがありますが、エロ満載で(この人はエロのテンションを高めるのがうまいと思う)、ベタ惚れなんだけど甘々ではない、読みごたえのある話です。ほかのも読んでみよう。

話も人間関係もがっつりと読みたい、という人向け。
相当に自我の強いキャラ同士ですが、大体において受け攻めの分担ははっきりしてる感じなので(100%ではない)、やっぱりカプは固定が落ちつくよね!という人にも。

★エロ多め
★再会

★Three-Star rating system★


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・狼の見る夢は
・天使の影(アドリアン・イングリッシュ1)
・死者の囁き(アドリアン2)
・悪魔の聖餐(アドリアン3)
・海賊王の死(アドリアン4)
・瞑き流れ(アドリアン5)
・幽霊狩り(ヘルハイ1)
・不在の痕(ヘルハイ2)
・還流

*他訳者さん*
・わが愛しのホームズ
・ロング・ゲイン
・恋人までのA to Z
・マイ・ディア・マスター

 
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