Slash×Slash

Slash(m/m小説) レビューブログ

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[タグ]ジャンル:クライム の記事一覧

Stealing West
Jamie Craig
SteelingWest★ summary:
Leon Stroudは強盗、そして身におぼえのない殺人で賞金首となって逃亡生活を送っていた。彼はこれまで人に向けて銃を撃ったことはなかったが、賞金稼ぎたちが彼の言い訳を聞くわけもない。
彼の犯罪のパートナーであり、性的なパートナーでもあったKennethは、馬車を襲った時に出会った子持ちの女性と恋に落ち、2人の男と情婦、その子供の4人はカリフォルニアへと逃げるために列車に乗る。

その列車の中で、Leonは賞金稼ぎのThomas Gradyと顔をあわせる。ThomasにKennethを追わせるわけにはいかない──Kennethは彼の大事な友であり、そして今や女と恋に落ちて家庭を持とうとしている。
Leonはやむなく、シエラネバダ山脈の上で列車を降り、Thomasに自分を追わせることにした。友から賞金稼ぎを引き離すために。
.....


Stealing Northe の続編、ということですが、そっちはとばしてこっちを読んでみました。(Stealing Northeは相棒のKennethが恋人と出会い、恋に落ちる話。M/M/F)
ありていに言って表紙買いだったのですが、Leonが意外に子供っぽくてかわいかったです。
相棒のKennethの幸せのために1人で危険に身をさらし、意固地になって足の痛みや疲労をこらえ、Thomasにとらえられてからも憎まれ口を叩きつづける。彼らの間にはりつめる緊張感は時に性的な高揚となって、2人のどちらをもとらえる。
賞金稼ぎとしてLeonをとらえているThomasには様々な意味でアドバンテージがあるわけですが、その力、その支配そのものがLeonを魅了する。
BDSMカテゴリですが、それほど強いプレイはないです。最後のシーンだけちょっとありますが、全体には普通の縛りというか。

さらっと読んで楽しむタイプの話。
西部劇の雰囲気、お尋ね者、賞金稼ぎ、などの言葉に反応してしまう人におすすめ。
賞金稼ぎは萌える!

ちなみに書店のページで「Saddle Up」という同テーマ(カウボーイ)の5冊セットも売っていますが、これは…あんまりおすすめしないです。Spirit Sanctuary はちょっとおもしろかったかな。

★賞金首/賞金稼ぎ
★ウェスタン

Amor en Retrogrado
A. M. Riley
Amor en Retrogrado ★★ summary:
Robert Lemosの15年ともに暮らした恋人、JD Ryanが路地で撃たれて発見される。彼の連れは死に、JDは病院に運びこまれ、保険の書類からRobertに連絡がいく。
Robertは1年前、JDと破局していた。

病院に駆けつけたRobertは、JDが彼のことを記憶していないこと、おそらくは外傷性のショックによって部分的な記憶喪失に陥り、出会う以前の彼に戻っていることを知る。どうすればいいのかわからないまま、Robertは退院したJDを自分の家へとつれて戻る。
自分たちがすでに別れていることを、どうしても彼はJDに告げられない。何より、彼はまだJDを愛していた。
この15年ずっと、愛しつづけていた。
だがJDとの関係は悲惨なものだった。彼らは常に争い、JDはRobertを傷つけ、Robertが仕事に没頭するとJDは酒を飲んだ。JDは誇り高い男だったがいつもどこかに怒りをかかえていて、そんな彼をRobertが守ろうとする、その行為すらJDを傷つけた。
愛はあった。それはまちがいなかったが、彼らの間に信頼はなかった。

記憶を失ったJDはいつになくおだやかで、Robertへの愛情を素直に見せる。もしかしたら彼らはまたやりなおせるだろうか。
そう思いながら、また痛みをくり返すことにRobertは臆病になっている。
そしてまた、JDとその連れを撃った犯人への捜査が進むにつれ、疑いはRobertへと向けられ…
.....



これはおもしろい展開の小説で、「JDが撃たれた→Robertの家へ→事件の捜査進行」という現在の時間軸の間に、フラッシュバックのようにRobertとJDとの関係が挿入されていきます。それによって、彼らの痛みに満ちた日々が浮き彫りになっていく。その構成が非常に巧みです。
JDはもともとゲイではない(というか、気付いていない)。だが彼はRobertに出会って恋に落ち、しかし混乱し、己のセクシュアリティを否定しようとしてできず、怒りに満ちる。その怒りが、後々まで彼に影響を及ぼしていたように見えます。

陽気で美しい恋人を得て、Robertは生涯ではじめて「幸福」というものを味わう。
だがJDは時にシニカルに彼らのことを「セックスにすぎない関係」と言ってのけ、彼らが結婚してからも、「その関係に意味があるのか」と問う。彼はどこか暗いところへ目を向けているようなところがあって、やがてその怒りや、Robertの独占欲が彼を喰いはじめる。そしてJDは酒に逃げ、Robertは仕事に逃げる。
その日々が、エピソードの挿入によって次第に明らかになっていきます。
2人の関係がRobert視点から描かれるため、はじめのうちJDは勝手なふるまいのわがままな恋人に見えますが、段々と、Robert側にも問題があることがわかってくる。
彼らはどちらも弱く、どちらも相手を信頼していない。愛はあるけれども、傷つけあう武器のようにそれを振り回してもいる。
その過去の様子と、今の(記憶を失った)JDのやけに素直な様子との対比が悲しい。
果たして彼らは、思いもかけない形で新しい絆を作れるか。それともただ、かつての失敗をくり返すのか。


小説としてはいくらか弱いところもあって、捜査する側のエピソードがちょっとわかりにくかったり(ていうかあれ必要か?)、いらんところでキャラ視点の移動があったりします。私は視点固定じゃない(同じ章の中で視点があちこち移動する)小説って嫌いじゃないですが、この作者は「固定」のように見せておいて、たまにふらっと視点を動かすので語り口として不安定なのです。
ただ、それを補ってあまりあるほど、2人の感情のほとばしりは見事だと思います。Robertの視点から見ているにもかかわらず、JDの中にある痛みはあきらかで、ねじれていくしかない関係のどうしようもなさが切ない。特に中盤から非常に読みごたえがあります。
スペイン語があちこちに散見されまして(わからなくても読める、つか読んだ)、巻末にスペイン語スラング辞典があるのがちょと楽しい。
タイトルの「Amor en Retrogrado」は機械翻訳だと「後退するiの愛」とか出てくるので(英語だとLove in I Retrogradeとか)、「巻き戻された愛」とかそんな感じ…で、いいのかなあ。

★記憶喪失
★破局した恋人との再会

Mexican Heat
Laura Baumbach & Josh Lanyon
Mexican Heat★★★ summary:
サンフランシスコ警察のGabriel Sandaliniは、情報屋とコンタクトを取るためにバーに出かけたが、情報屋は現れず、正体のわからない男と行きずりの関係を持ってしまう。
名前も知らないくせに誰よりも彼を理解し、彼の中にあるものを見抜く男。
だが、二度と会うつもりはなかった。Gabrielは誰かに弱味を見せたり、関係を深めることなくここまで生きてきたのだ。彼の生活では、他人に必要以上に近づくことは命の危険を意味した。

Gabrielが麻薬組織の中に潜入捜査を開始して、もう2年になる。この2年で中核へ近づいてきた。
あと少しで大きな組織を摘発できる筈だった。

Gabrielの潜りこんだ組織が、メキシコの組織と組んで新たな麻薬取引をはじめる。取引の話し合いのために現れた、相手の組織の連中に見知った顔を見つけ、Gabrielは凍りつく。
あの男。
バーでの一夜の男は、メキシコの麻薬組織のボスの片腕だった。

優雅で、強く、確信を内に秘めた男、Miguel Ortega。Gabrielは彼をできる限り無視しようとする。ここで揺らぐわけにはいかない。
だが2人は上から命じられ、麻薬の取引ラインを確立するために一緒にメキシコへ旅立つ。そこで2人きりになったOrtegaは、Gabrielに思わぬことを言った。Gabrielのボスが、Gabrielを邪魔に思っている。できるだけ早いうちに、隙を見つけて逃げろと。
だが逃げられない。潜入捜査はやりとげなければならない。それが自分の命の危険を意味しても、Ortegaを刑務所に叩きこむことを意味しても。

そしてまた、Ortegaにも大きな秘密があった──
.....



Josh LanyonとLaura Baumbachの合作。というか、インタビューとか読むとLauraの書いていた話にLanyonがメールで指導を行ったようです。
Amazonでもペーパーバックが出版されていて(そっちが先らしい)、去年、電子書籍としても再発売されました。

熱い、本格クライムサスペンスです。好きな話なので何回も読み返しています。描写が力強くて気持ちがいい。
Gabrielは怒りと孤独に満ちた、荒々しい男で、潜入捜査をしている刑事としての自分以外に「自分」を何も持たない。家族も、友人も。
Ortegaはスペイン人。こっちも熱いな。ちょっと笑っちゃうほどキザなところがありますが、映画の主人公のような「いい男」です。彼はGabrielに惹かれ、その中にある空虚に惹かれる。だがのばした手を、Gabrielはいつも払いのける。どれほど惹かれていても、彼はその手をつかむわけにはいかない。

とにかく2人の間にある緊張感がただごとではありません。前半の、互いの秘密を間に置いた時の緊張感、後半での互いの人間関係がまるで変わってしまった後からの緊張感。傷ついたGabrielはその闇から這いあがろうとし、Ortegaは手を貸そうとするが、Gabrielの孤独とプライドは彼に対しても牙を剥かせる。
大きな運命のうねりの中で、それぞれ強烈な個性を持つ2人の男が、何かを作りあげていく。その過程は荒々しく、痛みに満ちています。

映画のようで、一気に読める話です。いくつか後半に「もうちょっとここに描写があればなあ」と思うところもありますが(特にGabrielの最後の変化の描写がほしかった)、いい話だからこその文句と言えるでしょう。
てゆーか私はもうちょっとラブラブなシーンが読みたかった。エロってわけじゃなく。もうそれは好みですな。でもOrtegaにいいように甘やかされるGabrielとか、すごくいいと思うのだ!

こういうジャンルが好きなら絶対おすすめ。かなりびっくりするような展開があり、ハラハラしたい人にも。
キャラが肉体的に苦しむ部分がありますので、そういうの苦手な人は注意。

★クライムノベル
★潜入捜査

Somebody Killed His Editor
Josh Lanyon
Somebody Killed His Editor★★ summary:
Holmes & Moriarityシリーズ1

40歳のミステリライター、Christopher Holmesは作家人生の岐路に立たされていた。彼が長らく書いてきたシリーズの売り上げが落ち、エージェントから「もっと時代に即した、売れるものを書かないと」と強く言われる。
エロティックなものや吸血鬼やらが出てくるもの。一体どうやって?

エージェントのすすめで、彼はとある作家の集会にしぶしぶ参加する。そこに来る出版社の人間に新しいシリーズのアイデアを買ってもらわなければ、作家としての彼のキャリアは行き詰まったも同然だった。
問題は、彼にはまるで新しいシリーズのアイデアがなかったこと、さらに切迫した問題は、集会のあるロッジにたどりつく前に女の死体に行きあたったことだった。

橋が落ちて、誰もそのロッジから──嵐がやむまで──出ていけない。まるで推理小説の舞台のようなその状況で、Holmesは思わぬ男と顔をあわせる。
J.X. Moriarity。元警官のベストセラー作家。
10年前、週末をともにした相手。ただ1人、彼を「Kit」と呼ぶ男。
そしてJ.X.は、Christopherを殺人の容疑者として部屋に軟禁すると言う…
.....



Moriarityと言えばモリアーティ教授かと思いきや、あっちの綴りは「Moriarty」らしい。でも当然、あの2人を念頭にしたキャラですね。性格はかけらも似てない(似せてない)と思うけど。
古典のミステリのスタイルを踏まえつつ、それを使って現代のスラにしてみた、というユーモアミステリです。

外界から閉ざされたロッジ、嵐、正体不明の殺人者、2つ目の死体、主人公にかけられる嫌疑──と、古典的なミステリの要素がたっぷりつめられています。作者のLanyonは非常にテクニカルな作家なので、色々とほかにも計算されているにちがいないと思いますが、私はミステリの原書を読んだことがほとんどないのでどこまで何を踏襲しているかわからないのがちょっと残念。
あと時事ネタとか、実在する人の名前とかが散見されますね。「セーラームーンのフィギュアか」とか、そういうツッコミしかわからない自分がちょっと切ない。わかる人なら10倍は楽しめるでしょう。
でもそれはそれとして(得意技でスルーしつつ)、おもしろく読んだ一冊です。

主人公のChrisはかなり悲惨な状況です。ずーっと書いてきたシリーズが打ち切りになるかもしれない。古典的なミステリというのはもう求められていないのかもしれない。
マーケティング、すべてをひっくるめた「パッケージ」の問題なの、とエージェントは言う。小説そのものはもはや問題ではないのだと。
それで嫌々、作家の集会に出てくるわけですが、落ちていく橋を命からがら走りきり、死体を見つけ、うっかりJ.X.とよりを戻したと思えば「気の迷いだった」と言われる。挙句に新シリーズの話なんかそりゃもう、砂上の楼閣です。ていうかこの人がでたらめに話す新シリーズネタが、実際無茶苦茶なんですが。

踏んだり蹴ったりの状況下、Chrisは持ち前のユーモアで周囲をさらに苛々させていく。それも、主にJ.X.を。Chrisは繊細だけど相当に図太い。
J.X.はどうもChrisを守りたいと思っている様子ですが、10年前の逢瀬の時の出来事を許してもいないし、でもChrisに惹きつけられる自分を否定もできない。
J.X.のChrisに対する人あたりにも、相当にきついものがあります。

この2人の関係がなかなかいい。J.X.は5つ年下で、かつてはChrisを憧れの目で見ていた新人の後輩だったのに、久々に会ってみたらえらい皮肉屋で悠然としたベストセラー作家になっていて、Chrisは正直落ち着きません。そりゃそうです。それにしてもJ.X.は魅力的。
作家と元警官、というのは同作者のAdrien Englishシリーズにも似た流れですが(あっちは作家志望の本屋と警官ですが)、あれほどヒリヒリした、さわると怪我しそうな切迫感はありません。J.X.はゲイである自分を否定してないしね。
それだけに、反発しあいつつも、ひとつ転がれば2人で幸せになれそうな感じがあって、読んでいるとじれったくも楽しい。

J.X.はずっとChrisが好きだったんだろうなー、それで怒っているんだろうな、というのがあちこちに滲み出ているのに、当のChrisが鈍いのもかわいい。セックスなら別に平気だけど、それ以上のところに話が及びそうになるといつも慌ててはぐらかそうとするし。
そういうつもりはないのについつい事件をつっついてみるChrisを、J.X.は本気で心配し、苛立っている。でもそんなJ.X.をChrisは助けたり、最後のしっぺ返しをしてのけたりする。いい組み合わせの2人です。

ミステリ部分も、やはり古典ミステリへの敬愛をこめてだと思いますが、基本パターンにのっとっているのでわかりやすい。
わりと軽めに楽しめる一冊。
古典ミステリやユーモアミステリが好きなら勿論、「10年ぶり」とかに萌える人にもストライクだと思います。

作中に「Elementary, my dear..」という決め台詞がありますが、これはホームズの「Elementary, my dear Watson」(初歩だよ、ワトソン君)からのものです。
ほかにもそういうのいっぱい隠れてるんだろうなー。
しかしdearとか入ってたのね、ホームズの台詞。萌える。

★ミステリ(古典系)
★再会

Don't Look Back
Josh Lanyon
Don't Look Back★★★ summary:
博物館で働くPeter Killianは、奇妙な男の夢から目覚めると、病院にいた。
何があったのか。誰かに殴られて脳震盪をおこし、運びこまれた筈なのだが、何があったのかPeterには理解できない。思い出せない。
記憶障害だと医者は言った。

ロサンゼルス警察のMike Griffinという男が姿を見せるが、何故か彼はPeterの記憶障害が偽装であると思っているようだった。「都合がよすぎる」とGriffinは言う。
そして博物館からは以前から少しずつ物が盗まれていたこと、それに気付いたPeterが警察に届け出たこと、Peterがその泥棒に殴られた可能性があることを告げた。盗みの現場に行きあたってしまったのだと。
だがGriffinも、周囲も、まるで悪いのはPeterであるかのように振る舞っている。
何かがおかしかった。

自分が疑われていることに気付いたPeterは、身を守ろうとするが、記憶は戻らない。
脳に問題はなく、医者によればPeterは何か思い出したくないことがあるようだった。自分で自分の記憶をブロックしているのだ。
病院に来てくれる身内もいない。泥棒の疑惑をかけられたままでは職を失う。馴染みのない自宅に戻ったPeterは、自分がこの半年、抗鬱剤を飲んでいたことを発見する──

記憶にない自分は、一体どんな人生を生きてきたのだろう。何をそんなに苦しんでいたのだろう。Griffinは何故Peterをあそこまで嫌うのか。殴られた夜、Peterが見たのは何だったのか。
何もわからない。
ただひとつだけ、Peterがわかるのは、自分が決して博物館から物を盗んでいないこと──自分が無実であるということだけだった。だがそれを証明する方法はどこにもなかった。
.....



Josh Lanyonは「記憶喪失」ものに萌えるんだ、と言っていました。「White Knight」でもやっぱり記憶喪失ものをやってましたね。
実際、うまい。Peterの視点から見た世界は最初のうち、ひどく狭くて、一方的です。人を見た時に感じる第一印象は薄っぺらだし、深みがない。
やがて彼が情報を集め、色々な角度から物を見て、自分の記憶のかけらとつなぎあわせるにつれ、世界は形を変えていく。そのパースペクティブの変化がなかなかの読みどころです。
そしてPeterは、自分が仕掛けられた大きな裏切りに気付いていく。

それは長い時間をかけた裏切りで、Peterにとって「記憶を取り戻す」のは、その長い時間に対する「気付き」のプロセスでもあります。自分のことを他人のように外側から見て、自分がどう生きてきたのか、あらためて彼は見つめ直す。フェアでなかったいくつかの出来事、かつては見えてこなかった物事の裏。過去の自分が目をふさいでいた真実。
犯罪の謎解きと同時に、そのPeterの目覚めが物語の大きな軸になっています。
そして、彼が忘れてしまった──心の奥底に封印してしまった、ひとつの恋。

結構そのへんが痛々しくて、読みながらしみじみしていました。
気がついたら病院だわ、刑事(Griffin)にはよくわからんことでやたら怒られるわ(そのうちそのへんもわかっていくんですが)、泥棒の濡れ衣は着せられてるわ、仕事は解雇されそうで、友人が紹介してくれた弁護士は「さっさと罪を認めよう」と言ってPeterの無実の主張をまるでとりあわない。
そんな中ではよくやってますよ、Peter。どちらかと言うと物静かな感じの人なんだけども、とにかく追いつめられているので必死。

謎解きもおもしろいです。すごく手がこんでいるわけではありませんが、人と人の間にある暗い歴史のことを考えさせられる、ちょっと怖い部分のあるエピソードでした。
スラとしてもちゃんと盛り上がってます。Peterはエロティックな夢を見るけれども、恋人の顔がわからない。だが少しずつ、気付いていくのです。
記憶喪失ものなんであんまり書くとおもしろみが減りますが、なかなかドラマティック。

Lanyonの書くカプはいつも、2人の間にあるテンションが強くていい。優しかったり甘かったりばかりではなく、時に傷つけあうほどの緊張感なんだけれども、それもすべて、相手にまっすぐ心を向けているからこそ。その強い視線に引きこまれます。

謎解き、記憶喪失、ちょっと入り組んだ話が好きな人におすすめ。話の構成は素直なので読みやすいです。

★記憶喪失
★濡れ衣

Shades of Gray
Brooke McKinley
Shades of Gray★★★ summary:
FBI捜査官のMiller Suttonは、有能で、非情であった。犯罪者を追いつめ、利用し、すべての物事を白黒はっきりつけながら生きてきた。
だが麻薬組織の幹部のひとり、Dannyと向き合った時、Millerのクリーンな世界は崩壊を始める。

FBIの罠にかけられたDannyは、ボスを裏切って裁判で証言するという取引を呑む。
それがどれほど危険なことか、彼は知っていた。裏切り者は楽には死ねない。地の果てまでも、追われるだろう。
FBI捜査官のMillerは身の安全を保障し、証人保護プログラムを組むと言ったが、Dannyはそれを信じていなかった。
だがそれが彼の運命なのかもしれない。泥水を飲むようにして生きてきた。麻薬のディーラーに拾われ、友人を組織に引きずりこんで死なせ、刑務所に入り、そして裏切り者としての死を迎える。
彼にふさわしい最後かもしれなかった。

MillerとDanny。FBI捜査官と情報提供役の犯罪者。
光の当たる場所ですべてに白黒をつけて生きてきた男と、暗い世界で多くの泥にまみれてきた男。
お互いが理解できるはずもない2人だった。だが彼らは互いに惹かれ、Millerははじめて白と黒だけでは解決しない世界の存在をつきつけられる。

生きのびるために。愛するものを守るために。時には暗い選択をし、重荷を背負わなければならないこともある。
その選択を、はたしてMillerはできるだろうか。そしてそんな自分に耐えられるだろうか。
.....



正義を盾に犯罪者を道具のように扱う捜査官と、泥の中で生きのびてきたしたたかな犯罪者。
しかもいずれ証人保護プログラムがはじまれば、彼らは二度と会うことも、連絡を取ることもできない。
こういうシチュは萌える!

MillerとDannyの価値観、2人の変化や融合が丁寧に書かれていて、緊張感のある話になっています。
Dannyがいいですね。減らず口を叩き、癇癪をおこしながらも、彼の中にはひどくやわらかい部分がある。これまで自分が気持ちをよせた2人の相手──古い友人と元妻──の人生を台無しにしてしまったのを見て、もう誰とも深く関わるまいとする。
ボスに対しても、恐れや憎しみもあるが、その一方で時おりに示される信頼や優しさに、心の深くで忠誠をおぼえてもいる。
弱さと強さが複雑に絡み合った様子がリアルで、とても強烈なキャラです。

Millerは、Dannyの中にある繊細な痛みに惹かれますが、その一方で自分が「FBI捜査官」であるということにしがみつこうとして、Dannyを傷つけることもある。
彼にとっては、白黒のつく世界がすべて。
だがDannyは彼を惹きつけ、彼の世界を揺さぶる。これほどまでに誰かを求めたことはない。これまでの白黒のついた美しい世界がすべて色あせて見えるほどに。

過去の追憶と現在の展開がうまい具合に混ざり合っていて、Dannyの中にある深い傷が徐々にあらわれる構成が巧みです。Dannyの人生が明らかになっていくにつれ、Millerとの対比がより際立つ。
彼らはまるで違う世界を生きてきた。まさに白と黒。
そしてDannyは、自分の生きる混沌の世界にMillerを引きずり込みたくはない。たとえMillerがそれをよしとしたとしても、状況はあまりにも絶望的で、彼らに道はない。
そんな中でのDannyの葛藤と荒々しさ、Millerへの愛しさ、そして暗い人生を生きのびてきた男のしたたかさが文章の中に凝縮しています。


Danny wanted to howl and rage like a wounded animal, demand that they find a way to make it work. But there was no point in that. Danny had learned early that sometimes there was nothing to do but suffer through.


Danny視点で、まだ知らないはずのMillerのファーストネームが地の文に書かれていたり、Millerの婚約者の存在感があまりにも薄いことなど、気になる点もありますが、でも全体に骨太で、最後まで緊張感を失うことなく書ききられた話です。
こういう、「心理の成り立ちと変化を詳細に描写した作品」って英語の方がいい気がしますね。日本語でひとつひとつ語られたらかなりループになると思うけど、英語は言葉の輪郭がくっきりしているので、読みやすいというか入ってきやすい。

FBI捜査官と犯罪者とか、マフィアに追われる明日のない2人、とかそういうシチュに萌える人ならまず買いの1作。

★FBI×犯罪者
★密室

Crossroads
Keta Diablo
Crossroads★★ summary:
Frank McGuireは彼に仕事のすべてを教えてくれた相棒が自分の腕の中で死んでから、警察をやめて探偵の仕事をしていた。
そんなある日、その相棒の息子が行方不明であると知らされる。

Rand Brennan。両親は彼が自分の性的なアイデンティティ──ゲイであることを受けとめ切れずに混乱していることをずっと心配していた。
彼は自分自身を探そうと模索する中で、マリファナを吸い、大学から消え、どこか場末のビリヤードホールで働いていたが、今や愛する妹からの電話にさえ出ようとしなかった。

FrankはRandを探す仕事を引き受ける。同時にFBIから依頼を受けて、少女連続殺人事件の犯人を追いはじめていた。
Frankを死者が訪れ、何かを告げようとするのだが、彼らが必死に告げようとするメッセージをFrankはうまくつかみ取ることが出来ない。
死者は何を望んでいるのか。シリアルキラーはどこで次の獲物を探しているのか。
.....



死者の声を聞くサイキックの元警官(30歳)と、その死んだパートナーの息子(22歳)の話。
全体にこう、展開が早いと言うか、たまにびっくりします。

Frankは銃に撃たれて自分の腕の中で死んだパートナーの記憶にまだ苦しんでいて、相手の家族と疎遠になっています。Randが消えたと聞いた時、彼を襲ったのはその後ろめたさと、かつてRandを見た時の記憶──自分の欲望でした。
彼はRandの行方をつきとめると同時に、この青年がもう二度と馬鹿な真似をして家族を心配させないように、こってりおしおきをしてびびらせてやろうと計画します。そして案の定というか何と言うか、その計画で彼自身も深みにはまってしまうのです。

このあたり「おいおい、そんなことしていいのかよ」とつっこみたくなる感じで、特に商業スラはNon-con(合意なし)は滅多に見ないのでびっくりしましたが、まあそういう感じの流れです。
互いの体に流されちゃう、というのはいいシチュだと思うので、そのへんのびっくりをクリアすると楽しい。でもやっぱりちょっと「おいおい」と言いたくなるような強引さだ、Frank!ってかヌンチャクはそういう用途に使っていいのか。パートナーの息子にそんなことしていいのか。

Frankはかなり強引でかたくなな男で、Randに対しても厳しい態度を取る。
自分のセクシュアリティに対してもがいているRandは、そんなFrankの行為に疑問や迷いを粉砕されるのだけれども、彼らはどうしても体が先行するので、どうにもコミュニケーション不足なところがあります。
でもRandのいさましさというか、強情さやへこたれなさはFrankといい勝負。こいつもちょっと無茶。

そんな肩肘はった2人ががつんがつんとぶつかりあいながら、時おり深々と相手をのぞきこむような一瞬の訪れが、濃密でいい。

文章はわりと味気ない方ですが、何せ勢いとエロがあるので、一気に楽しく読めます。つっこみどころは多い。多いが、でもそれは作品のマイナス部分というよりは、この話のスタイルであって、つっこみ含めで楽しむものだとも思います。
シリーズ続編あり。全体に、勢いと無茶ぶりで出来ている感じで、強引で支配的な攻め×意地っ張りで反骨精神のある受けに萌える人におすすめ。
エロは軽いBDSM風味。

ちなみにここの書店は警告をでかいアイコンで表示するのですが、それが何とも凄いので、リンク先要チェックです。確かにわかりやすいけど、もうちょっとためらえ。

★無理矢理エロ

★Three-Star rating system★


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