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Slash(m/m小説) レビューブログ

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St. Nacho's
Z. A. Maxfield
StNachos★★ summary:
Cooperは故郷から逃げ出してからこの3年、バイクで町から町へと渡り歩きながらほとんど路上で眠るような生活をしていた。時おりレストランの厨房などで働き、バイオリンを引いてチップを稼いだが、少しでも居心地がよくなるとそこからまた逃げ出す。
人と話したり、必要以上に関ったりする気はなかった。いや出来なかった。もはや彼の知る人の「言葉」は音楽だけだったからだ。

St.Nacho'sという海辺の店に転がりこんだ今度も、長く滞在するつもりはなかった。
その店では耳の聞こえないShawnという美しい若者が働いていた。彼にはCooperの音楽は聞こえない。
だがどうやってか、ShawnはCooperの中にある言葉を誰よりもよく理解するようだった。

過去と向き合うことができないまま、セックスだけの関りですべてを終わらせようとするCooperを、Shawnは時に乱暴なほどの情熱で殻から引きずり出す。そして静かな海辺の店で、Cooperは自分の中にある恐れ、罪、いつも背を追ってきた混沌とゆっくりと向き合いはじめるが、過去はやがて現実の形をとって…
.....


「何かから回復する」というのはスラにはよく見られるテーマで、それは肉体的な怪我や病気だったり、精神的なダメージだったりしますが、この話もそのひとつです。
Cooperを追っているのは過去の破滅的な生活と、その時に体にこびりついた泥のような記憶で、それから逃げつづけた彼はただこの先も逃げることだけを考えている。
ジュリアード音楽院でバイオリンを学び、もっとも若い第一バイオリン兼コンサートマスターとして未来を嘱望されていた彼は、アルコールやパーティに溺れ、車の事故をおこして、すべての未来を失っています。友人は彼のせいで刑務所へ行った。親は彼を家から追い出した。
それでも音楽だけは彼の最後の「言葉」として、世界と彼を結びつける。

Shawnは耳が聞こえません。唇を読むことはできるけれども、完全ではない。天使のようにきれいな顔をしている22歳の若者ですが、結構激しい面もあって、6歳上のCooperに対しても何の遠慮もありません。(セックスはTop、かつちょっとdirtyらしい…)
彼に惹かれたCooperは関係を持ってしまうが、それを深めたくはない。Cooperが求めているのはただのセックスであって、人との関りではない。だがShawnはCooperを離そうとしないし、Cooperの内側が痛みと混乱に満ちていることがわかってからも目をそらそうとせず、その視線につられるようにCooperもやっと自分のことを見つめるようになっていく。
その日々と変化がCooperの、淡々とした一人称で語られていきます。

Shawnに音楽が聞こえないことをわかっていて、ある時、Cooperは演奏している間バイオリンにさわらせてやる。振動をShawnが感じられるだろうと思って。
音楽はCooperにとって「最後に残された人としての言葉」で、しかしそれが誰かにつたわることを彼は期待していなかった。ましてやShawnには。だがShawnがどうやってか彼の「言葉」を正しく聞きとったことを感じ、その瞬間、はげしく動揺したCooperは演奏を乱してしまう。
これはとても美しく、痛みに満ちたシーンだと思う。音楽を自分の言葉としながらも、それが人につたわるとそこから逃げ出そうとするCooper。…まあ、もちろんShawnは彼が逃げることをゆるさないわけですが。

全体に筆致は淡々としています。痛々しくはありますが、必要以上にドラマティックに盛り上げる感じはない。文学的と言ってもいいような雰囲気もあるような。
会話文が少なく、Cooperの一人称も長いセンテンスが多い上に全体の話も長いので、多少長文読むのに慣れた人向けかと。(あとメール文などがぽつぽつ文中に入ってるので、斜体を反映しないStanzaで読むにも慣れがいる)
「うちは全部18禁だから」と言いきるLooseIDから出ているものにしては、びっくりするほどエロ描写少なめだ。
特にエロ以外の部分重視の人、繊細な話が好きな人におすすめ。

★バイオリニスト/耳の聞こえない恋人
★トラウマ・恐怖症

Dreaming in Color
Cameron Dane
Dreaming in Color★★☆ summary:
この2年、Colin Baxterは赤いドアのある家の夢を見ていた。
そして、その家に住む男の夢を。

男の顔はいつも見えない。だが男の中にある痛みや悲嘆はColinに鮮やかにつたわって、いつも彼はそれを癒やしたいと思うのだった。夢の中で男とくり返し体を重ねながら、彼はいつか現実にその家を、そして家の主人を見つけたいと願っていた。それはそれほどリアルな夢だった。

友人の結婚式のためにフィジーを訪れたColinは、ボートの上から小さな島に建つ家を見て呆然とする。
あの家だった。幾度となく夢で訪れた家。
だがその家に赤い扉はなく、家に住む男はColinの夢など見たこともないと言う。

己のあやまち、そして死んだ恋人の記憶から逃げるようにフィジーへ渡ってきたMarek Donovanの望みは、ただそっとしておいてもらうことだけだった。そのために人里離れた島に家を買ったのだ。それから2年、彼は望み通り孤独に暮らしてきた。
だがいきなり現れたColinの姿、そして彼がこの家と赤い扉の夢を見ていたという話を聞いて、Marekは凍りつく。
Colin Baxter。忘れる筈もない、彼の高校の同級生。過去から現れた男。
これは何かの罠か、復讐なのだろうか。Colinは、Marekが何をしたのか知っているのだろうか。Colinの体に残る傷、その痛みをもたらして彼の人生を変えたのがMarekであったことを。彼は知っていて、現れたのではないだろうか。
.....



夢の話です。
「あなたの夢を見ていたんだ」というのはよくある恋物語ですが、「家の夢を見ていた」というのは、スラというよりホラーっぽいパターンですね。
これも超自然現象が(ほんのちょっと)からんできて、見方を変えるとちょっと怖い。いや、話はハッピーエンドで情感のあふれるいい話ですが。あの家はこの先もずっとこうやって自分の好きな住人を呼びよせていくのかなーとか、余計なことを考えると涼しくなれます。

Marekは幾度もあやまちを冒してきた男で、Colinに対しても強い罪悪感をもっている。彼らは互いに惹かれていくけれども、惹かれれば惹かれるだけ、Marekは過去にあったことを言い出すことができません。
Colinは自分を許さないだろう、そう思いながら、それが怖くて口をとざし、Colinを抱きしめる。彼の痛みが物語の焦点になっています。

大人になってからの再会の話もおもしろいんですけども、学生時代の追憶がパワフル。そんなにその部分のボリュームはないんですが、少年の罪悪感や情動、羨望、焦りや虚勢で混沌とした心や、それに追いたてられるように最悪の選択をしてしまう、その一瞬の怖さがよく出ていると思います。
そして今でもMarekはそのあやまちに背を追いかけられている。向き合わないから抜け出せないんですが、1人で向き合うことができないMarekの気持ちもよくわかる。

Colinも頑固でかわいいですが、Marekの複雑で痛みをかかえたキャラクターがいい。はじめは冷たくColinをあしらおうとするけれども、結局それができない。強い男のようでいて、あちこちにやわらかな部分をかかえている、それが見えてきます。
この話は、Colinが夢によって「家」を見つけ出し、Marekを悲嘆や孤独から引きずり出すまでの話ですが、決してColinや偶然の力だけではなく、Marekが自分の決断で闇から抜け出そうとする、その部分が美しい。

あとJordan(Colinのルームメイトの女性)が、なかなか魅力的。
「ゲイに理解のあるお節介な女性」ってはよくあるサブキャラですが、あまりにも無個性だったりいたたまれないような振舞いをしたりするケースが少なくない。あれはキツくて苦手です。
その点、Jordanは個性的で、彼女自身も色々な問題をのりこえてきた(Colinのおかげで)様子が、うまいこと見え隠れしています。びっくりするほど口が悪いが。

Cameron Daneにしては色々地味な話だけど(エロも結構あるけど、わりとそこも地味)、それだけにいつもより万人向けかも。おとぎ話のようなフィジーの美しい自然、超自然的な夢、10日間のバカンスなどの「非現実」的な部分と、痛みや苦しみのある「現実」の世界をうまくつないで織りあげた、佳作だと思います。

運命とか、あやまち、贖罪など、そういうキーワードが好きな人におすすめ。

★過去のあやまち
★夢

White Flag
Thom Lane
White Flag★★☆ summary:
Charlieはひとつところにとどまらない生活を送っていた。自由に、どこへでも行き、どこをも去る。
その暮らしを活かして旅の紀行文を書きながら、行った場所、そこで出会った人々を愛し、去った。
何のためであれ、留まることはない。それが彼の人生だった。彼はその自由な生活を愛していた。

フランスの田舎町で運河下りの旅をしている途中、彼はMatthieuに出会う。2人は船の中で一夜のデートをし、それからMatthieuは彼を家族のワイナリーへ招いた。
そこは何代も続くワイナリーで、Matthieuは新しい、自分らしいワインづくりをはじめていた。
彼には夢があり、人生の未来があり、その場所に心から深く根をおろし、故郷を愛している。決して故郷を去らないタイプの青年だった。

彼との関係に未来はない。Charlieは立ちどまれない。Matthieuは立ち去れない。それは、どちらもわかっていた。

だがどちらも深く、互いへと落ちていく。
どちらかが自分の人生をあきらめなければならないのだろうか。それとも、両方がこの恋をあきらめるしかないのだろうか?

white flag──白旗をあげるのはどちらなのか。すべてが手遅れになる前に。
.....


LooseIDの五周年企画、Red, White, and Blueの一冊です。
運河や、ワイナリーの自然の描写がいいですね。自分の運河で釣った魚、庭でとれたオリーブを、勿論自家製のオリーブオイルとともに自家製のパンにはさんで食べる…うーん、絵に描いたような素敵な風景。ワイナリーいいなあ!
もうここに住んじゃえよ、Charlie、という気持ちにもなります。いいところだよ。

その生活にふれ、家族のあたたかさにふれて心を揺らがせながら、Charlieは「ここを去るんだ」ということを、自分に、そしてMatthieuの家族に言いつづける。
自分は去る。どんなに去りがたくても。それが彼の人生です。
かつてひとつところにとどまろうとしたこともあった。が、うまくいかなかった、その苦い経験があるらしい。
Matthieuも、Charlieの決断を受けいれているように見える──何故なら彼はまた、どんなに望んでもそこを去っていくことはできないから。互いの人生のことをよくわかっています。
別れのリミットが近づいた時、彼らが絶望的な気持ちで言葉もなく互いを求める様子は、日中の運河のおだやかな光とは裏腹に、暗くて切ない。そのテンションの描写が強くて引きこまれます。

とどまる者と、通りすぎていく者。互いを得るために、彼らは何かを犠牲にしなければならない。
彼らのたどりつく答え、それが彼らなりの「white flag」なのです。

そんなに長い話ではありませんが、テーマが明確で、背景が美しく、読んでいると気分がなごみます。Matthieuはかわいくてゴージャスだし、食べ物がとてもおいしそう。
良質で、後味のいい、幸せな中編。感情表現も繊細で美しく、全体にとても手触りのいい話です。
ワイン好きならきっと十倍楽しい! というかMatthieuの作ったワイン飮みたいな。

★ワイナリー
★旅人

Boys of Summer
Cooper Davis
Boys of summer★★☆ summary:
Hunterは、親友Maxと恋に落ちた自分を知っていた。
だがMaxはゲイで、彼はストレート──少なくともMaxと恋に落ちるまで、自分がストレートだと思って、生きてきた。

もしMaxとつきあうのならば、友人や、周囲の人間に彼らの関係を隠しおおせるものではない。今のように親友としてすべてを覆い隠すことはできない。
Maxはそんな、暗い秘密のような扱いを受けるいわれはない。それはHunterにもわかっていた。

彼らはフロリダの海岸へと2人でバカンスに出かける。互いの気持ちをたしかめ、それをはっきりと認めるために。
Maxは長い間、その時を待っていた。Hunterに恋をした彼は、ほかの誰とも寝たことがない。そしてHunterの覚悟がはっきりと固まるまで、彼と寝るつもりもなかった。

友人たちから数千マイル離れたフロリダの海岸で、2人は互いと向き合う。
それが一瞬の夏の出来事で終わらないことを、彼らのどちらも知り、どちらも望みながら、その瞬間を深く恐れてもいた。
.....



ゲイとストレート(だと信じていた)の若者の話。
2人は惹かれあい、恋に落ちますが、まだ決定的な体の関係には至っていません。

Maxがちょっと古風というか、純情で、どうしてもHunterとの関係を「特別」なものにしたい。彼は隨分前にクローゼットから出て(=カミングアウト)、もう戻るつもりはない。だからもしMaxとHunterが関係を持つのならば、それは友人たちにすべてを明らかにするという覚悟の上でなければならない。
でもHunterは、Maxの存在、彼と最後の一線をこえることが自分の人生を変えてしまう、そのことに怯えています。Maxがいなくては生きていけないと思う。だけれども、この先に待つだろう人生の変化も怖い。

そのあたりの気持ちの揺れがHunterの視点から書かれた、非常にきめのこまかい物語です。
一夏の、濃密な思い出を作りながら、彼らはどちらも踏みこんだことのない場所へと踏みこみ、互いを変えていく。

夏の出来事を書きながら、同時に彼らの過去が描かれていきます。
Maxへの気持ちや自分がゲイである可能性を否定しようとするHunter、それでも離れられないまま2人は行き違い、ほとんど絶望的に求めあう。嵐のような感情と、痛みに近い葛藤。
カジュアルによそおったはじめてのデート、お互い同士を友人だと見せかけながらの夕食、ファーストキス──そしてそのキスひとつで、彼らは離れられなくなる。そんなふうに何よりも互いを必要としながら、最後の一歩を踏み出せない。
生々しく、痛々しい気持ちの揺れの重なりあいが丁寧で、なかなかに読ませます。

描写が繊細で、エロシーンにも独特の切羽つまった色っぽさがある。表現が詳細なわけではないんですが、生々しいというか、感情と体が剥き出しになった感じがあります。
中編くらいの長さで、全編を通してあやうい緊張感が張りつめている。
若者だからか「青春」っぽい繊細さもあって、「はじめて」シチュが好きな人や、迷いやためらいがある話が好きな人におすすめ。

続編「Taking You Home」が出てます。

★友情→恋
★はじめて

Julian's Second Chance
Claire Thompson
※出版社の問題で一時的にリンクを外してます。
Claire Thompson★★ summary:
大学生のAlexはスリランカへの卒業旅行の途中で、イギリス人の旅行者Julianに出会う。
彼らは一目で気が合った。Alexは強くJulianに惹かれ、自分たちの間に何かがあると感じていたが、Julianが彼と同じようなゲイであるのかどうかがわからなかった。

その旅から6年がたち、Alexは今でもJulianのことを忘れられなかった。
だが今のAlexには恋人がいる。年上で強引だが、Alexは彼を愛していた。
愛していると思っていた。目の前に彼の裏切りが示されるまでは。
いや裏切りを目にしても、彼にはまだ心が定まらなかった。許すべきか、許していいのか。許さなければ、彼はまた1人になってしまうのか。

Julianは6年前のことを悔やんでいた。できることならAlexにあやまりたい。
だが広いニューヨークでどうやって1人の男を探し出せばいいのか、彼にはわからないまま、ニューヨークでの仕事の話が舞い込んできて‥‥
.....



以前に「Masks of Emotion」というタイトルで発行された物の再発行らしいですね。
たまにそういうことがあります。新タイトルの中に見覚えのある題があって、確認したら表紙すげかえて新刊として出てたりとか、出版社変わったとか。

これは若い2人がスリランカ旅行の最中で仲よくなって、でもその旅は苦い形で2人を分けてしまう。それから6年たって‥‥という話なのですが、再会そのものよりも主に「再会するまで」の彼らの人生の話です。そこがちょっと変わってますね。

Alexは年上の男と特に不自由ない関係を持って、楽しんでいるけれども、自分だけが関係の一方的な割を食わされていること、2人の関係がフェアなものではないことに気付き始めている。
でも決定的な最後通牒をつきつけるのには迷いがある。一緒にいるとまだ楽しいし、やはりそばにいると彼を求めていると思う。
あんまり男の子らしくない気もしますが、気持ちの揺れ方はなかなかにリアルです。相手が下手に出てくると、ついつい優位を楽しんでかえってドツボにハマったりね。

Julianはその6年の間に自分がゲイであることを、やっと認められるようになっている。
長年の葛藤や重荷から解放され、自分が全く未知だった世界に入っていくが、やはり恋人の求めるものと彼の求めるものは一致しない。
セックス以上の何か、人生を預けられるほどの何か。
彼もまた、それをずっと探しています。そして探すたびに、心によみがえってくるのは6年前のAlexの姿なのです。

そういう、6年間の二人の様子がエピソードをちりばめるように書かれていて、同時に6年前の物事が追憶としてよみがえってくる。
追憶に追憶がかぶさって、少し構成がたてこんでるかなあと思うところもあるのですが(特に前半)、大体の出来事を呑みこんでからの後半部は、Alexと前の恋人のぐらぐらした関係とか、結構楽しめます。
あんまり長くはない話で、その中に6年分の「時間の流れ」をきちんと描き出している点に好感が持てる。そういう時間の厚みがあると、やはり再会がドラマティックになるね!

再会ものが好きな人におすすめ。

★不実

Quinn's Hart
Cassandra Gold
Quinn's Hart★★☆ summary:
Quinn Delaneyはこれまで出会いに恵まれたことがなかった。6フィート7インチ(約2m)と身長が飛び抜けて高く、シャイな彼は、36歳になる今まで人とうまく接することができなかった。
彼は、酒のみの父親をなくしてから施設で育った。そこで出会った友人が、今やただひとりの彼の家族であり、親友だった。

その彼女のたのみを断りきれず、人数を合わせるために、Quinnは独身ツアーに参加する羽目になる。
ストレート、ゲイ、レズビアン、それらの独身者がごっちゃになってディズニーワールド行きの旅をするのだと言う。
Quinnは旅がひどい結果に終わるだろうと思いつつ、仕方なく参加して、初日から身の縮むような思いをしていた。

31歳の小児科医Josh Hartは、勉強ばかりであまり子供らしい子供時代をすごしたことがなく、はじめてのディズニーワールドへの旅に年がいもなく胸をときめかせていた。
一緒に行く筈だった恋人がつれなく彼を去ったが、幸い、旅行会社の女性は彼の旅をシングルツアーのキャンセルの中に押し込んでくれたのだ。
そしてその旅で、彼は大柄だが優しく、シャイで、殻にこもったQuinnと出会う。
Quinnは彼の「タイプ」ではない──だが、いつもこわばっている彼が笑顔を見せた時、Joshはその笑顔から目を離すことができなかった。

Quinnにとって、Joshはほとんど「理想の男」だった。そんなJoshが自分に興味を示していると感じながら、Quinnは自分の望みを否定しつづける。そんな筈がない。そんな幸運が彼を訪れるわけがない。
だがそれでも、一縷の望みが心の中に残る。
わずかな最後の勇気、Joshと向き合うだけの勇気を、果たしてQuinnは奮い起こせるだろうか。
.....



シャイで引っ込み思案で自分の価値に気付いていない男と、殻に隠れた彼の素顔に恋するいい男。「俺はあいつの本当の価値を知っている」みたいな。
わりとよくあるパターン(だって鉄板だしね!)ですが、その中でもかなりいい雰囲気を醸し出している一作です。

その雰囲気の良さは、繊細なキャラクターによるところが大きいと思う。
Quinnは後ろ向きで、自分を低く見て、Joshの好意もいちいち「親切だから自分をかわいそうに思ってくれたんじゃないか」とか「やっぱり俺は邪魔なんじゃないか」とか勘ぐります。
でもその後ろ向きさは、あんまり陰険なものではなくて、あくまでおだやかです。たまにいる「ドラマクイーン」タイプの悲劇の主人公ではなく、ただひたすらにシャイ。
これまで傷つけられてきた過去を抱き込んで、Quinnは静かです。

Joshは多分、これまで見た目のいい派手な、自分とつり合うような相手とつきあってきたんじゃないかと思う。途中で出てくる彼の元彼も、まさにそういうきらきらしたタイプ。
誰もが「Quinnはお前のタイプじゃない」と言い、Josh自身もそう思いますが、Quinnにゆっくりと確実に惹かれる自分を否定もしない。Quinnの中を見て、そこにある正直さや、くつろいだ時のQuinnの笑顔やジョークにくらっとする。こちらもまっすぐでいい男です。

シングルツアー(しかも毎日テーマパーク!)という、「非日常」の中での出会いと恋ですが、勢いに呑まれているというよりは、互いをちゃんと見つめて、確かなものを作り上げていく恋愛模様です。
周囲の人間たちも彩りよくて、友人同士になったほかの男たちとか、Quinnに目をつけて「俺を縛って叩いてくれないか」とか言っちゃうちょっとお馬鹿な男とか、いい味出してます。最後の方にQuinnが彼を冗談で撃退するのはいいシーンですね。最初に「縛って」と言われた時はもう凍りついて、その場から逃げ出してしまい、みっともなく逃げたことに落ち込んだりしてたのに。

Joshが一方的にQuinnを殻から救い出すのではなく、2人は出会いの中でゆっくりと、互いの存在を認め、自分の価値に気付いていく。
Quinnもまた、Joshのよき理解者であり、時に彼を守る。そのバランスがとてもよく、読んでいて味わいの楽しい一冊です。

シャイな大男に萌える人は鉄板。「殻にこもった繊細な男」のシチュが好きな人におすすめ。
タイトルの「Quinn's Hart」の「Hart」はJoshの名字であると同時に、「Heart」や「Hurt」とかけてるのかなあ…と。わかりませんが。
しかしこのツアー、うっかりすると無法地帯になりそう。

★人見知り
★独身者ツアー

Survival Instinct
Roxy Harte
Survival Instinct★★ summary:
Brian Van Zantは一度に多くの物を失って、自分の道を見失っていた。
彼の愛する夫は浮気をしていた──それも、Brianの双子の兄弟と。
彼らを許すことが出来ず、彼らからきた電話を取ることができなかったBrianは、そのすぐ後に2人が車の事故で死んだことを知らされる。

どうすればいいのかわからないまま、投げやりに家を出た彼の車は、雪の中で立ち往生してしまう。

モンタナでパークレンジャー、Tobias Red HawkがBrianを助け出し、つきっきりで低体温症から救った。
2人は互いに惹かれあうが、Hawkは自分がゲイであることを周囲に隠している。これまでは、人に明かすほどの決心がつかなかった。そこまで価値のある相手にめぐりあったことがなかった。
もしかしたら、Brianはそんな相手になるかもしれない。Hawkにはそんな予感があった。

Brianはその町をすぐに立ち去ろうとするが、車の修理をするまでのつもりで滞在をのばす。
小さな町の、少しおせっかいな人々の中で、彼は段々と自己憐憫から立ち直り、元の活発な気性を取り戻していく。
だが、山には奇妙なことが起きていた。時おり、山腹に奇妙な光が見えるのだ。
誰かがヘリをとばして山を訪れている。
そこに何があるのだろう? 彼らの目的は何だろう?
.....



やけっぱちで旅に出て死にかかったBrianと、ネイティブインディアンの血を引く頑固なパークレンジャー・Hawkの話。
BrianはHawkに出会ったことでもう一度生きる道を見出し、Hawkは自分の人生のあるべき形を見つける。
宝探しやアクションなんかもあったりして、なかなかドラマティックな感じの仕上がりです。

兄弟と夫に浮気された上に事故で死なれたBrianの投げやりな姿がなかなかリアルで、もうどこにも居場所がなく、その閉塞感から逃げ出そうとして彼は雪の中で死にかかる。可哀想だけど、何だかあまりにもふてくされているので、どことなくいい気味でもあります。
そんな彼にどうしてHawkが惹かれるのか、最初はピンと来ないところもありますが、立ち直ったBrianは頭脳も明晰で、積極的で、生来の明るさがあって、とても魅力的なキャラです。彼が生き生きとしていく様子はなかなか愛らしい。
相当にたくましく立ち直っていきますが。

Brianが最初に「(ラストネームなしで)Just Brian」と自分のことを言ったものだから、Hawkがずっと「Just Brian」と呼んでいた様子がかわいらしくて好きです。あれずっとやってればいいのに。
名前を捨て、新しい自分として出直す、そのメタファーでもあるのかなあと思います。

山をうろつき回る謎の存在が話のひとつの核になっていて、HawkもBrianも、相手が狙う物を、そして自分自身の命を守るために戦わなければならない。
戦い抜くこと、生きのびること。
そんな戦いのさ中、Brianはかつて自分を裏切った双子の兄弟、Brandonの存在を傍らに感じます。自分を励まし、守っている。
それはBrianがBrandonの裏切りを受け入れ、その傷を癒していくためのステップなのかもしれません。

過去の傷や人間関係がちりばめられて、テンポよく進んでいく一作です。キャラも一面的ではなく陰影があって、よく書けていると思う。
アクションまじりの話が好きな人におすすめ。
ちょっとルーズなところはなくもないけど、家族の再会とか、恋愛以外の部分のストーリーもよく仕立てられた一本だと思います。ライトなBDSM風味あり。

★アクション

★Three-Star rating system★


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・2017年
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