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M/M小説 (原書)レビューブログ

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[タグ]キーワード:敵意 の記事一覧

The Royal Street Heist
Scotty Cade
RoyalStreetHeist.jpg★★ summary:
南北戦争時代の高価な絵画が二枚、美術館から盗まれる。
そして、後には死体が転がっていた。

ニューオーリンズ警察の班長Montgomery "Beau" Bissoneは、その事件の捜査にとりかかる。
そこに現れたのが保険会社ロイズから派遣されてきたTollison Cruzだった。

捜査に口出しされるのを嫌うBeauはCruzに冷たくあたる。だがCruzが美術品業界に精通していることは間違いなく、二人は失われた絵の手がかりを追って、美術館を運営する一家の周囲を調べていくのだが…
.....



強面の腕利刑事と、保険調査員の顔をした過去のある男のお話。

刑事のBeauは、実はまっすぐでいい奴なんですが、とある刑事と恋仲になって同棲した挙句、浮気されて別れ、その傷心から立ち直ってない。しかも悪いことに、その相手と同じ現場で働かなければなりません。毎日気まずいなんてもんじゃない。
そんなわけで、どんどん冷たく、どんどん厳しく剣呑な男になっています。

そこに颯爽と現れた保険調査員。当然のようにBeauはこの男の口出しが気に入らないし、相手のCruzはBeauの見下したような態度が気に入らない。
いいですねえ。二人の男がツノ付き合わせて捜査。私の大好物です。
ことあるごとに文句を言い、ことあるごとに反感を抱いて、それでも感情的に二人は段々と近づいていくのです。嫌いな相手のことって四六時中考えてしまうからね。何かと気になるからね。
恋とよく似てるよね!っていうか恋じゃねえか、それ。

そのあたりの反発の感じはよく書かれていて、とてもおいしい。
あとBeauの、過去の恋へのあれこれがグダグダ並ぶのですが、ここも真面目で誠実なBeauの性格がにじみ出ていてよかった。彼は決してパートナーを裏切るタイプではないから、裏切った相手を許すことができない。どんなにその相手が後悔していても、その傷を忘れられない。誠実だけど、その誠実さが今は彼を不幸にしている。でももしパートナーが裏切ったのだとしても、関係の破綻は片方だけの責任なのだろうか?

BeauとCruzは反目の挙句、案の定、なんだか勢いあまってベッドインしますが、簡単にはうまくいかない。
実はCruzには、美術品窃盗の過去があった。今回あまりにも都合よく彼が美術品盗難の現場に現れたのは、偶然なのか、それとも保険調査員の顔こそが偽物なのか。

Cruzとの関係が深まるにつれ、Beauが過去の傷と向き合い、その痛みを手放していく経過がひとつ物語の大きなターニングポイントを作っています。そのあたりも楽しみながら読むと話がちょっと広がる感じ。

捜査の展開も無理がなくて、おもしろかった。
あとは少し、第三者の視点が入ってくるバランスが気になったかな。それとBeauがもう少しCruzの過去に悩んだりしてもいいんじゃないか、あいつ真面目だしさー、もっと良心の問題を問うてもいいと思うよ!とかその辺、私の好みとしてはもう一歩つっこんでほしかった。つっこんだらおいしかっただろうに!
お洒落というか薄味というか、好みで分かれるところかもしれません。でも全体にこなれていて読みやすかったし、楽しかったので、シリーズの次の話も楽しみにしてます。あとこの作家さんのほかの本もちょっと読んでみよう。

真面目で強面の刑事と美形の有能保険調査員の恋、という言葉でときめく人におすすめ。

★美術品盗難
★過去のある男

Fish and Ghosts
Rhys Ford
FishandGhostsLG.jpg★★ summary:
Hellsingerシリーズ1。

Hoxne Grangeホテル、それは叔父がTristanに残してくれた遺産だった。
何故叔父が、その財産をTristanにだけ残したのかは親戚の間でもさまざまな憶測と、非難を呼んでいた。ある者は不公平だと言い、あるものはTristanを狂人だと言う。
Tristanはそのホテルを「幽霊たちが泊まりにくるところ」と主張していた。

Wolfは超自然現象を研究し、時にでっちあげの幽霊話の正体を暴いてきた。
今回はTristanの親戚に雇われ、幽霊たちの存在を、あるいは非実在を、証明しにホテルへと向かう。

嘘つきだ、とWolfに言われたTristanは刺々しく彼らに対応する。
人がどう思うかなどどうでもいい。Tristanの望みは、幽霊たちを迎え、送り出すことだけだ。
だが、すべてはひとつの指輪から崩れていく…
.....



幽霊ホテルのオーナーと、超自然現象の研究者(っていうか、イカサマ暴いて回ってる感じ?)のお話。シリーズものの1冊目。
舞台は昔のお屋敷、今はホテル。オーナーのTristanはそこを「幽霊が、最後の三日間だけ泊まるところ」と主張している。その3日が過ぎると、皆、どこかへ行く。
あの世かどうか、そこまではTristanにはわからない。
「幽霊も魚も三日たつと古くなるから」と言っているのがかわいい。

そんなホテルに「幽霊がいるかどうか観測します」とWolfたちが乗りこんでくる。彼らは、Tristanが「正気じゃない」と証明して財産を取り上げたい親戚に雇われているので、実質、敵だな。
Wolfは「客観的に検証する」と言い、いろいろな機器での観測を開始しますが、彼自身はきわめて偏見の塊という感じがします。Tristanを嘘つき呼ばわりしてるし、まったく信じようともしていない。
研究者とか名乗るわりに、そこのところがかなり引っかかったのですが、あとからわかるWolfの家庭事情からして無理もないのかなあ。わりと屈折しているぞ、Wolf。そしてその屈折ぶりを複雑な形でTristanに向けているのだと思う。

あちこちどうも話に「つっこみどころ」があって、最初はマイナス面にとらえていたんですけど、途中から「これはそういう話だ」と思って読んだら楽しかったです。しっとりした幽霊ホテルの話じゃなくて、ドタバタ系ゴーストバスターズなんだな!もうみんなドジというか考えなし。Tristanくらいでしょう、致命的なミスをしてないの。
そこで「貴様ら専門家だろ!」とマイナス点つけてると評価低くなりますが、この話はきっとギャグっぽいテンションで読むのが正しいんじゃないかなと…まあ、文章からそういう雰囲気がいまいち感じられなかったので自信はないんですが、ドタバタ系に分類すると楽しい。そのわりにキャラがちょっと重いので、そのあたりの調和は続編に期待かな。

うっかりと、連続殺人鬼の幽霊を呼び覚ましてしまった皆は、大ピンチ!
一方、その間にもしっかりと恋に落ちていくTristanとWolf。「そんな場合じゃねえだろ」ってシーンもありますが、そこはテンション軽く楽しむべし。この二人の組み合わせはめっちゃかわいい。なんかどっちもどこかしらピュアなところがあって、一緒にいると生き生きしているのがいい。一人でいるより二人でいる方が似合うカプです。
後半に出てくるWolfのママが強烈で、幽霊退治のあたりはもうしっちゃかめっちゃかで愉快。もー色々つっこみたい!

幽霊ホテルとか、ドタバタ系ゴーストバスターズとか、そういう軽いパラノーマルが読みたい人に。
続編も出てます。読むぞー。
でも表紙ほどTristanはオタクっぽくないと思うよ!

★幽霊ホテル
★ゴーストバスターズ

Where Death Meets the Devil
Goodreads-icon.pngL.J. Hayward

WhereDeathMeetstheDevil.jpg★★☆ summary:
Jack Reardon、SAS出身で今はオーストラリアの情報機関Meta-Stateの情報局員は、今、混乱していた。
潜入捜査の末にやっと犯罪組織のボスの信頼を得たと思ったら、砂漠の中のコンクリの部屋で椅子に縛られて、裏切者だと弾劾されている。
そして彼を処刑しに現われたのは伝説の殺し屋、Ethan Blade。
運命は尽きたのか。

だが気付けば彼はEthanに救い出されて二人で砂漠を逃げ出していた。
この男は死の使いなのか、救いの手なのか。無謀で良心というものを持たず、なににも執着しないEthanがJackにはまるで理解できない。

一年後。
やっと普段の人生を取り戻しつつあるJackだったが、そんな時、彼の働く情報局に客がやってくる。
客の名を聞いた瞬間、Jackは悟った。人生は決して元には戻らないのだと。
Ethan Bladeがふたたび目の前に現われた今は。
.....



情報局員と殺し屋とラクダの話。

二重の展開で進んでいく話で、一年前のJackの(そしてEthanとの)逃亡劇と、現在のJackとEthanとの再会からはじまる情報戦とが交互に語られます。
ちょっとクセのある展開だけれども、かつて二人の間に何があったのか、何故またEthanがわざわざ身柄を拘束される危険を冒して現われたのかが少しずつ明らかになっていくところは盛り上がります。

それにしても設定が憎い。目的を果たすためならJackを売り渡し、それでいて眉ひとつ動かさずにJackを救う殺し屋のEthan。この男にいつ裏切られるかと思いながら、その手に救われるしかないJack。
人を殺して生きてきたEthanのことがJackは理解できないし、理解したくもないし、彼に救われる自分自身のことが嫌で仕方ない。しかし砂漠でたよれるのはEthanだけ。あとEthanが飼っている(というか友達らしい)ラクダ。
熱砂の砂漠を、二人は逃げながら、同時に敵を狩っていく。彼らがそれぞれ立つ世界は、ひとつは「悪」でひとつは「正義」といわれる側にあるけれども、していることはもしかしたら同じようなことなのかもしれない。
でもJackはそのことにも気付きたくない。否定するJackに対して、Ethanは至ってのどかなものです。彼は他人に理解されなくともどうでもいい、ただ仕事を果たすだけ。

謎は主にふたつ。
1年前、砂漠で二人に何があったのか、彼らの関係はどうなったのか。これは回想で少しずつ語られていく。
そしてもう一つの大きな謎は、Ethanは何故今になってまたJackの前に現われたのか。Jackは「次に現われたらつかまえる」と言っているし、事実、Ethanが現われた瞬間に情報局の建物を封鎖してEthanを拘束させています。
そっちの謎は少しずつ、過去と現在の両方を使って紐解かれていく。

過去と現在を重ねた語り方はなかなか効果的ですが、もう少しスイッチの回数が少なくてもよかったかなという気はする。ちょっと後半が長いというか、過去と現在の切り替えがチカチカするんですよね。回数じゃなくて、何か現在と過去をつなぐような強いエピソードや物があればもっと統一感が出せたのかもなあ。
とはいえ、この野心的な語り口と、骨太のテーマは評価高いです。周囲のキャラも、類型をうまく使ってわかりやすいながらもきちんと書きこんである。
謎めいたEthanに振り回されてばかりのJack。しかしそんなJackにEthanが振り回される瞬間もあるわけで、普段本音を見せないだけに無防備な一瞬のEthanはなかなかぐっとくる。動物が好きで車が大好き。どこか子供のような部分がEthanの中にはあって、彼がその無防備さを見せられるのはJackだけ。Jackが誠実で、頭は堅いが決して人を裏切ったりする男ではないとわかっているから。
味方とは言いきれないまま、おかしな絆が二人をつないでいる。むしろEthanのほうがJackを無条件に信頼しているかのように見えるのがおもしろい。その無邪気さが、この殺し屋の深い孤独をうつしているようにも思える。

しかしこれ、シリーズ物のようなんだけど、次の話はどうするんだろうっていうくらいこの一話でいろいろ書ききっていて、次の話を勝手に心配しつつ楽しみです。この作者さんのことだからきっとひねった話を投げてきてくれるに違いないけども。
展開にもキャラにも文句なし、もうちょい無駄なくまとめてくれると素晴らしかったなというところだけが残念。
その分は、次作への期待値としておきたい。

いわゆる冒険小説、スパイもの、殺し屋ものが好きなら是非おすすめの一冊。ずっしり骨太に楽しめます。

★殺し屋
★砂漠の逃亡劇

How to Howl at the Moon
Goodreads-icon.pngEli Easton

howtohowlatthemoon.jpg★★★ summary:
Mad Creek。カリフォルニア州の、ひっそりと引きこもった山の中の小さな町。
その町には秘密があった。
そこは犬たちが暮らす町だったのだ。人の姿になれる犬が。

そうとも知らず、一文無しのTim Westonは人生を立て直すために町の小さなキャビンにやってくる。
新種のバラを育てられなければ、売れるだけの野菜を育てられなければ、半年後にはホームレスになるしかない。
金もなく友達もなく、信じられる相手もいない。Timは必死だった。

Timの態度を不審に思った町の保安官Lance Beaufortは、こっそりマリファナを育てようとしているのではないかとこの若者に目を光らせる。Lanceの家系は代々のボーダーコリーで、群れを守る義務感は強烈だ。
その義務感が暴走して、ある夜彼は思いきった行動に出る。犬の姿でTimに近づいたのだ。何をたくらんでいるのか探り出してやろうと。これはのぞきではない、潜入捜査だと自分に言い聞かせながら…
.....



Howl at the moonシリーズの一冊目。
Eli Eastonさんはもともとユーモアのある書き口で注目されてましたが、このシリーズで人気作家としての地位を固めた感がありますね。決してユーモアがいきすぎず、キャラが可愛くてそれぞれに大真面目で、読んでいて気持ちよく安心して手に取れる作家さんです。

シフターものはM/Mジャンルでとても大きな勢力で、メインは狼ながらも昨今はそこにオメガバース設定が入ってきたり、さらに狼以外の動物シフターネタももはや定番となった感があります。
その中で、このシリーズは犬のシフターがテーマ。それも飼い犬だった犬たち。ここは珍しい。
飼い主と強い絆を結んだ犬のほんの一部は、飼い主が死ぬと強い悲嘆の中でどうしてか人間に変身する力を得る。その能力を得た犬たちの子孫は、生まれながらにして変身の力を持っている(Lanceの家系は代々そう)。
なので、自分の世代で人に変身できるようになった犬たちは、必ず愛する人間との別れを経験している。そこには愛と悲しみと二度と取り戻せない郷愁があふれていて、犬好きならもうそこだけでぐっとくる。自分の体の仕組みすら変えてしまうほどの愛と献身。犬ってそうだよね!とぐっと拳を握りたくなるような設定です。

人間の姿になった犬たちですが、犬としての本能や種類の違いが色濃く残っていて、ボーダーコリーの保安官Lanceの群れに対する忠誠心(ボーダーコリーは牧羊犬ですんで群れをまとめたり守ったりする性格)、なつきやすく忍耐づよいブルドッグのGus、そして警戒心が強く自分へのハードルが高いジャーマンシェパードのRomanなど、それぞれの犬の性格をよく描き出しているところもクスッとさせられます。
ていうかとにかく本当に可愛いな!

物語の中心は、町の秘密を知らないTimと、こいつはあやしいとTimに目をつけた保安官のLance。
生真面目きわまりないLanceは、上がり症ですぐドギマギするTimの態度に不信感を抱いてあの手この手で近づこうとするわけですが、Timも人付き合いは不器用だがLanceも空気読めないことにかけては引けを取らない。
全然駄目だ、この二人。
でもそこに謎の犬「Chance」が現われてTimの心をさらいます。孤独で、人間相手にあまりいい思いをしてこなかったTimははじめて誰かと一緒にすごす未来というものを夢見る。野菜を育てながらずっと一緒にいられたら。その誰かが犬であっても…というか犬なら傷つけたり裏切ったりしてこないはず。

不器用だけれどもそれぞれに一生懸命な二人(と一匹?)。ぎくしゃくと、まるで相手の足を踏んづけずにはいられないダンスのように足運びを間違えながら、二人の関係は進んでいきます。
そこにマリファナ騒動とか、Lanceのママの干渉とか(ママ…本当に、何してくれるんじゃ…)いろんな町の問題がやってきて、笑えるエピソードも絡めながら物語は軽やかに進んでいきます。
犬のひたむきさ、そのぶれることのない愛情と忠誠心にとにかくぐっとくる。こんな町があったら絶対住みたいぞ。
気持ちが元気になれる一冊。猫も大好きですけど、犬いいよねほんと…

全体にBLに近い雰囲気もあるので、M/M初心者とか入口入りかけとかの人にもおすすめです。犬好きならとにかく読みたいシリーズ。

★犬シフター
★不器用カップル

Murder and Mayhem
Goodreads-icon.pngRhys Ford

MurderAndMayhem.jpg★★☆ summary:
もと美術品泥棒のRook Stevensは、物なら山ほど盗んだが、人の命を奪ったことはない。そう告発されたことも。
だが今、自分の店で死体を見つけ、そして警察の掃射から命からがら逃げ出したRookは新たな危機に直面していた。
LA市警のハンサムな刑事、Dante Montoya。
まさに仇敵。

血まみれで逃げようとする男をとらえたDanteはショックを受けていた。なんと相手はRook、かつてDanteが刑務所に叩きこもうと全力を尽くした相手だ。
嘲笑うかのように法の手を逃れつづけたその男が、今、殺人の容疑者として追われている。

ついにこの男を塀の中に放りこめるのか?
だが果たして、この良心のない、恥知らずの犯罪者は…有罪なのだろうか?
.....



Murder and Mayhemシリーズ1巻。
かつて盗みを働いて食っていた男と、彼を刑務所に放りこむべく全力を尽くして負けた刑事。
その二人の血みどろの(主に血まみれなのはRook)再会から、彼らの関係が転がり出します。

刑事のDanteと元犯罪者のRookにとっては五年ぶりの再会。
DanteにとってRookは憎んでも憎みきれない相手です。必死の捜査が報われなかっただけでなく、Danteの相棒は法でRookを裁けないことに絶望してついに偽の証拠をでっち上げることまでした。
結果、Danteは自分の面子を失い、彼を刑事として一人前にしてくれた相棒も失った。

いいですよね、猫と鼠の(刑事と犯罪者の)話って!!
しかもかつての因縁あり。Danteは心の底からRookを憎む一方、RookはDanteに対するひそかな気持ちも持っていたりとか。どれだけこじれるのかと読みながらわくわくします。期待にたがわず、まずRookにタックルして引っ立てていくDanteから話は始まる。

Rook自身は犯罪で人生を作ってきたことを恥じてはいない。自分が何歳なのかも正確に知らず、父親もわからない彼は、ついに自力で店を持つところまで這い上がってきた。
彼にとってそれは当然のサバイバルなのです。
Danteに惹かれてはいるけれども、いやだからこそか、Rookは本能的にDanteを挑発せずにはいられない。「警察っていうのは無能なものだからね。それともそれは俺を追っていた刑事さんたちだけかな?」みたいに。
DanteはそんなRookについ過剰に反応しますが、同時に自分に偏見があるのではないかとも悩む。過去の軋轢から、Rookのことを公正な目で見られていないのではないかと。彼を有罪にしたいあまり、正しく事件を判断できていないのではないかと。
真面目で、正義を信じる男なのです。

そして、誰にも言えない。
Rookを檻の中に放りこみたいのと同じくらい、ベッドの中へ放りこみたいと強烈に願っているのだとは。

Danteはヒスパニックで、同居している叔父がドラァグクイーンでいい人なんですね。頭に血が上りやすい直情型のDanteをある意味で補っている感じ。
昔、ゲイだとカミングアウトして親から家を追い出されたDanteに、叔父さんが手を差し伸べてくれた。
ここには温かい家族の絆があって、Danteが頑固ながらもまっすぐでいいやつなんだなというのがじつによくわかる。

事件は大きなダイヤモンドを中心にめまぐるしく動いていき、Rookの過去の仲間にずるずると芋づる式につながっていく。
自分がここまで作り上げてきた人生を、店を守ろうとするRookに、愛憎入り混じる気持ちを抱きながらもDanteも巻きこまれていきます。

ちょっと展開が騒がしすぎるかなという感じもあるんですが(ここは読む時の気分との相性も大きいかな)、設定が大好きだしキャラも可愛い。
Rookだって彼なりにまっすぐな心を持っていて、手の届く範囲では優しい子なんですよ。ただ生きのびるために、犯罪のラインや世の中の常識というものにあまり重きを置いてこなかっただけで。でも自分は犯罪の世界からきちんと足を洗ったし、そうしたい仲間には道を開いてあげたりもしている。
今回、その中の誰かが彼を裏切っているかもしれないのですが。
そんなRookに対してDanteが抱くようになる保護欲と、法を守ろうとする精神がぐるぐると戦う葛藤もみどころです。

シリアスではあるけれどもにぎやかで軽いテンションのシリーズ。楽しい読書がしたい時におすすめ。

★犯罪者×刑事
★逃亡劇

The Next Competitor
Goodreads-icon.pngKeira Andrews

TheNextCompetitor.jpg★★☆ summary:
フィギュアスケートの男子シングル金メダルを獲るためにAlex Gradyはひたすらにスケートに捧げた生活を送っていた。
四回転サルコウはすでに跳べる。だがオリンピックまでにはルッツも跳べるようにならなければ。

集中した、ほとんど取り憑かれたような日々の中、友情などに割いている時間はない。
同じ練習場にいるほかのスケーターから嫌われたり、お高くとまっていると思われてもかまわない。勝利こそすべてだ。
四年に一度のチャンスを逃すわけにはいかないのだ。

だがいつしかAlexの目は、Matt Savelliに引き寄せられていく。おだやかで人当たりのいいペアの男性スケーター。
二人は水と油のように対立しあった。
事実、誰とでもうまくいくMattを唯一嫌い、そして唯一嫌われているのがAlexであった。それともそこには隠れた感情があるのだろうか。
.....



フィギュアスケートものです。
わりと練習風景なんかもよく描かれていて、フィギュア好きな人でもそこを織り込んで楽しめるのではないかと思います。

この本のセカンドエディションが出たのが2016年。で、オリジナルは2010年かな、に出ていまして、カナダで練習している若き日本の人気スケーターなんかも登場していたりしますが、作者いわく「あの時は羽生もカナダで練習していなかったからね…偶然なの…」て前書きに書いています。にしてもこの2018年にも色々ありましたよフィギュア、て再読していて思いました。うむ。すごいなこの変化。
なので、まだこの話の中では「四回転ジャンプ一種類じゃ…二種類ないと…」てやってます。そこはそれとして。

厳しい女コーチに鍛えられながらAlexは必死に頂点を目指す。
そんな中、一緒に練習している人々との仲間意識なんか育てるひまはない。そしてその中のMattとは、とにかくそりがあわない。優等生タイプで「みんな仲良く」なMattを見るたびになにか腹が立つし、Mattも妙にAlexにつっかかってくる。

Alexは決して冷たい男ではない…いやまあ冷たいところはあるか、でも若い頃から競技スポーツの中で上を目指して必死にやってきた者の、それはひたむきな献身の姿です。周囲から常に評価の目で値踏みされてきた若者の、ある種の防御反応でもあるかもしれない。
でも彼は、子犬みたいに慕ってくる日本のスケーターの男の子を無碍にはできずについ相手をしてしまうし、競技で失敗して泣いているスケーターがいればそこにレポーターが入らないように態度悪く追い返す。普段の顔はつんけんしていても根っこまでそういう子じゃないんだよ、といういい感じのツンデレ候補。

そんな彼とMattも、さすがにトレーニングの中で少しは打ちとけるようになっていきます。というかAlexは相手のことを知ってしまうとあんまり冷たい顔はできない子なんだろうな。だからあまり人に近づかないのだけれども、Mattは生来のナチュラルな押しの強さでその距離をつめる。
そんな時、Mattが競技中にパートナーの女性をリンクに落下させてしまいます。

自己嫌悪で落ち込んで八つ当たり気味のMattを、Alexはこっそり人気のいないリンクに引っぱり出して一緒に滑る。これは可愛いシーンです。
しかしほかのスケーターたちとの交流はAlexの練習の足をひっぱり、コーチはまた孤立を命じるのです。
このコーチはじつに苛烈な女性コーチですが、ラトビアのスケーターを家に下宿させて教えているとか、なかなかよいエピソードも持っていて、スケート界の紆余曲折をくぐってきたような風格を漂わせている。
スポーツもののコーチの存在感て本当に大事だ。

スケートはシーズンになると各国をめぐって試合に参加していきますが、その中で色々なことがおきる。体調を崩したり、航空会社が荷物をなくしたり。
そういう周囲のディテールもきちんと書きこまれていて、競技者としてのAlexの側面と人間的な弱さとを同時に描き出している。
好みとしてはもう少しAlexとMattが対立している時間が長くてもいいよね!とか思いますが(対立カプ好きなのでな)、二人の距離の縮まり方は自然な感じで可愛いし、氷の女王っぽいAlexがデレていくのを愛でる展開もよいものでした。

競技か、恋か。
それは選ばなければならないものなのか?
その上、Alexの言葉を選ばない物言いは時にトラブルを呼びよせてしまう。今はネットの炎上もおっかないからなー、大変だなー、と読みながらしみじみします。マスコミは本当にもう少し選手を大事にしてやらなきゃ駄目だよ。
勝利とはすべてを賭けるほどのものなのか。そうだとしても、4年に1度のオリンピックで金メダルをとれるのはたった一人です。
競技スポーツ好きの人なら、コーチのセリフ "Victory depends on four and a half minutes on ice. Life cannot."(勝利は氷の上の4分半だけで決まる。人生はそうではない)がぐっと胸に来るのではないかと思います。

フィギュア好きな人、競技スポーツ好きな人におすすめ。全体に甘くて読みやすいロマンスです。

★オリンピック
★喧嘩からはじまる恋

The Raven King
Goodreads-icon.pngNora Sakavic

TheRavenKing.jpg★★★ summary:
大きな犯罪組織から逃げているNeilを、Andrewは守れると言った。学校に残ってExyをプレイするかどうかはNeil次第だと。
だがAndrewは代価を要求する。天才プレーヤーKevinが逃げ出さないよう、同じチームに引き止めておくこと。

誰もが過去から逃げている。
彼らを守っているのは、社会病質者の青年Andrewだけ。
いびつな、一瞬にして壊れそうな状況の中で、少しずつNeilたちのチームはこれまでなかったまとまりを得ていく。
それは団結ではない。
きっともっと必死でもっと切羽詰まった、一秒ずつのサバイバル。

そんな中、AndrewとAaronの双子にも過去が追いついてくる。いつも一緒にいるくせに互いを憎んでいるこの双子たちにもそれぞれの物語があり、それがついに白日のもとにさらされていく。

そしてNeilの恐るべき敵も、Neilの存在に気がついていた。Neilはついに選択を迫られる。
すべてを捨てて逃げるか。手に入れるつもりもなかったなにもかもを後に残して。
それとも、足をとめて立ち向かうか。たとえ死が避けられないとしても。
.....



All for the Game2。
逃げ回り、警戒心が強く、人を信用しないNeilが少しずつ変わっていくシリーズ二冊目です。
彼とAndrewの関係もこの二巻で大きく変わる。

Andrewは、Neilが大量の偽パスポートを持っていることも逃亡中であることも知っているけれども、周囲にそれを話す気配はない。
彼にとって大事なのはKevinの身の安全のことだけに思える。
とは言っても、サイコパス気味で薬を飲んでいるAndrewに保護欲があるようには見えず、Neilに対してもなんだか「珍しいいきもの」「便利かもしれないいきもの」を見ているような感じです。

そのAndrewが大きな傷をかかえていること、そして彼なりの無慈悲で効率的な形でそばにいる人間を守っていることが、この二巻で見えてきます。
痛みをどこかに強くとじこめてしまったAndrewは、決して弱音は吐かない。ただ自分と世界を切り離しているだけ。
彼を覆った鋼の殻の向こう側をのぞけるのは、あるいはのぞこうという度胸を持つのは、同じくらい大きな痛みを背負って前に進みつづけているNeilだけなのです。
だからこそAndrewはNeilを嫌いながら興味を持ち、Neilの薄皮をはぐようにその中をのぞきこもうとする。
でも忘れてはならない。深淵をのぞきこむ時、向こうだってこっちがのぞけるということを。

二人のわずかな、一瞬だけかさぶたの内側を見せ合うような交流は、ピュアでもあるし痛々しくもある。

いろんな血なまぐさい設定はありながら、スポーツで青春で全寮ものの王道をきちんと踏んでいるシリーズだと思う。
青少年のわかりあえなさと、わかりあえないからこその互いの引力(二人だけでなく、チーム全体としても)が時に繊細に、時に荒々しく描き出されています。

一巻で少しゆったり目だった展開が、キャラ紹介完了で二巻になって走り出した感じ。ほかのチームの面々もはっきりとした個性や役割を見せて、このでこぼこで落ちこぼれのチームがまとまりはじめます。
Neilは気がついていないけれども、彼らをまとめていっているのはNeilの存在なのです。人のことに興味がないといいながら人のことを放っておけず、逃げるべきだとわかっていてもExyを愛するあまり(そしてチームにも愛着を持ちはじめて)自分の命の残りが減っていくのにそこを去ることができない。彼には自分でも気がついていない強さと統率力があって、それが見えてくるのもこの2巻からです。読んでいてとても応援したい。
それにしても人からちょっと優しいことをされるたびに、思考停止でフリーズしてしまうNeilがかわいいやら不憫やら。

2を読むなら3も買っておいたほうがいいですよこれは。
そこそこ青春展開だった2巻の後半から一気に怒濤の血まみれ展開がはじまって3巻になだれこみます。
YAだけれどもむしろ「YAはあまり」という人に読んでほしいシリーズ。有無を言わせぬ少年漫画っぽさもあって楽しいです。

★青春
★自己犠牲

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