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Under My Skin
M. L. Rhodes
★★ summary:
Sebastian Kellerは「The smart guy」という、自分に貼られるレッテルが嫌いだった。だが人はいつでも彼をそういうふうに見る。
幾度かの手ひどい破局のあと、他人と関係を持つことに自信を失った彼は自分の経営する旅行ガイド書店でそれなりに幸福にやっていた。
ある日、隣のテナントにタトゥの店が入るまでは。

彼らが大ボリュームでかける音楽、彼らへの客で商店街の駐車場が占拠されてしまう状態、それがSebastianを苛立たせる。かつて彼を甘い言葉でだまし、すべてを彼から絞りとって消えた以前のボーイフレンドはタトゥを入れ、大型バイクに乗っていた。二度とそういうタイプの人間とはかかわるまいとしていたのに、隣にそういう「信用ならない」連中が出入りしていることが彼の怒りをかきたてる。

何よりも嫌なのは、「Rad Tattoos」というその店のオーナー、Dylan Radamacherを見るたびに自分自身の心が乱れることだった。自分がまだ凝りていないということにSebastianは心底うんざりし、距離をおこうとするが、DylanはDylanでSebastianとどうにかして和解したいと思っていた。
.....


短編~中編くらいの長さですが、おもしろかったです。
「過去に傷ついている男、その心をひらこうとする男」というテンプレですが、やっぱり普遍的なドラマだからテンプレになるわけで。そのへんの葛藤、自分自身への苛立ちや過去を振り払おうとしながら振り払えず、傷ついているがゆえの怒りを他人に向けて相手を傷つける──そんな入り組んだ気持ちがドラマティックに凝縮されている。

Sebastianは、「他人が自分に貼るレッテル」は嫌っているのに、自分自身がDylanにレッテルを貼りつけていることには気づいていない。過去ばかりをのぞきこんで、どうしても一歩を踏み出すことができない。
Dylanを過去の恋人とまとめて「こういう"タイプ"には二度と近づかない」と切って捨てようとするSebastian、「チャンスをくれ」というDylan。だが、あらゆる不幸や破綻が訪れるのをひたすら待って、すべての物事に悪い面を見ようとするSebastian。
ほんの一瞬のささいなことから、感情は修復できないほどにもつれる。

続編の「Under My Skin II」も出ていまして、最初は似たような感情の交錯のくりかえしの「後日談」風味かと思ったんですが、こっちも予想外の事件がおこっておもしろかったです。
相手を気づかって押すまいとする男、その曖昧な態度から悪いサインばかりを拾いあげてしまう男。過去はのりこえたようでいて、何もおわっていない。過去を手ばなしていないのは自分自身でもある。
感情的な悪循環の物語ではありますが、短編だからこそ読む方も繰り返される悪循環に食傷せず、一気に楽しめるタイプの話だと思います。
IIの中で、電話で「一緒に朝日を見ようか」と言うシーンは、とてもロマンティックで綺麗だった。

まあ短編でも2つ買うと7ドルこしちゃうんですけどね。それでもおすすめ。

★短編

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Allergies
T. A. Chase
Allergies★★★ summary:
デザイナーのRaymond Marvelsは、仕事場にあるパソコンの不調のため、会社にエンジニアを派遣してもらう。
部屋に入ってきたエンジニアは見たこともないほどゴージャスな男で、彼らの関係はあっというまに深まるが、どういうわけか、RayはそのLou Canisがそばに来るたびに強いアレルギー反応を示すのだった。とは言え、それは彼らの関係を妨げはしなかった。

Louは、新しい職場で出会ったRayに夢中だった。このシャイで奥手なデザイナーはこれまでの彼の「タイプ」ではなかったが、Louは、行きずりや短い情事では終わらないものが2人の間にあることを感じていた。
たとえRayが、彼が半径3メートル以内に近づくたびにくしゃみを連発しようとも、この新しい恋人を離す気はない。
だが、Louにはひとつ、出会ったばかりの恋人に言えない大きな秘密があった。そしてその秘密が、Rayのアレルギーの原因なのではないかと、Louは疑っていた。
Louの家族に会ったRayは兄弟にアレルギー反応を示し、Louは確信する。恋人のアレルギーは──Louに対するものが一番ひどいとしても──Lou個人ではなく、彼らの一族に対するものなのだ。
Louの一家は、人狼の一族であった。

LouはどうやってRayに自分の秘密を言うべきかわからない。かつて人間の恋人に正体をあかして殺されそうになった姉は「本当に好きなら、まだ黙っていた方がいい」とアドバイスするし、兄は「関係が深くなればなるだけ傷も深くなる。もし駄目になっても立ち直れるよう早いうちに告白してしまった方がいい」と言う。
Rayは人間としてのLouを好きになってくれた。だが、狼としてのLouは?

いつかは言わなければならない。だが、いつ?

その一方で、見知らぬ人狼がLouの一家のテリトリー内へ断りなく入って…
.....



人狼の恋人にアレルギーになってしまった、という、全体に幸せな話。
スラには人狼ものはかなり多いですが、ここの一族は大変「狼」っぽいのがいいです。Louには8人の兄弟がいて、末っ子の彼以外は全員双子です。姉の生んだ子供すら双子。
彼らは仲がよく、荒々しく、陽気で、つねに「群れ」の中での序列を競っている。一瞬で結束し、外から見ると驚くほど喧嘩し、そして全員、「犬」に関するジョークに目がない。
Rayに対してもLouの中の狼は独占欲を見せ、命令し、支配したがる。Rayはそれを受け入れるけれども、決して弱々しく言いなりになるタイプの恋人でもない。

Rayはシャイですが、地に足がついていて、おだやかでユーモアにあふれた男です。T.A.の受けはいつもそういうところが可愛いと思う。
ちょっとあたふたしたり、及び腰だったりするんだけども、一度恋に落ちてしまえば、その中でとても幸せそうにのびのびしているのが愛らしい。
Louの秘密、Rayのアレルギー、となかなかに前途多難な恋人たちですが、それを感じさせない幸せっぷりです。

この話はT.A.が彼のブログで更新していたもので、ちょっとだけ加筆や修正があるけれども、基本的には同じものです。ブログでは毎週火・水曜日に(通常は)話の更新がされているので、興味がある人はどうぞ。今は西部劇風の連載をしています。

「Allergies」は人狼の話ですが、この後にブログでこれとつながる吸血鬼の話を書いていまして、そのうちまとめられて出版される予定になっています。それぞれ完結した別々の話だけれども、あわせて読むとまた楽しい。
誰かが「人外」を狩りはじめている。それは誰か? 人狼と吸血鬼、そしてその他の一族も、力をあわせ、新たな敵に対して戦わなければならない。その先に何があるのか、というのも楽しみなところ。

ラブラブなのが好きな人には絶対おすすめ。
あと大家族の感じが好きな人、双子萌えでもいける。

★人外(人狼)
★甘エロ

Here Be Dragons
T.A. Chase
HereBeDragons★★★ summary:
アイルランドで爬虫類の研究をしているKael Hammersonには、暴力的な恋人から逃げ出してきた過去があった。その経験は彼の中に深いトラウマとなり、今でもフラッシュバックに苦しめられている。
Kealの上司のHugh Priceは、この物静かで知性的な部下に強い興味を持っていたが、部下と関係を持つことが利口には思えずに一歩距離をあけたままでいた。

だが海に奇妙な生き物が現れはじめ、KealとHughはともにその調査にあたることになる。
巨大な海蛇か何かと思われたそれは、船舶を襲い、毒を吐く。KealとHughは目撃証言のある海域を調査中、その生き物に襲われたが、あやういところで難をのがれた。

Kealは夢の中で奇妙な世界に入りこんでしまい、大地の女神ガイアとエルフのモルドレッド、竜殺しのセント・ジョージ(聖ゲオルギウス)によって、あの「蛇」がドラゴンであること、ガイアたちの世界から人間の世界へ魔法の生き物たちを送りこんでいる勢力があることを知らされる。かつて2つの世界を隔てた幕を、引き裂こうとする者たちがいる。
ガイアたちは人間の世界にじかに力を及ぼすことはできない。Kealたちは自分の力でドラゴンを、そして続々と現れはじめる神秘の生き物たちをとめなければならない。だがKealは「異質だから」というだけの理由で神話の生き物たちが迫害されていくことには耐えられなかった。

一方でHughとの関係は急速に深まっていく。だがささいな瞬間がKealにフラッシュバックを呼びおこす。自分がいつかそれをのりこえられる日がくるのかどうかKealにはわからなかった。それまで待ってくれとHughに言うのがフェアなことかどうかも。
またKealには、ほかにも人に言うことのできない秘密があった…
.....



T.A.Chaseの現代ファンタジー。続編(完結編…だと思う)の「Dreaming of Dragons」も先日出ました。
この一作目は、KealとHughのカップルを中心に進んでいきます。

Kealは前の恋人からひどい暴力を受け、支配され、命もあぶないような状態からやっとのことでアイルランドへ逃げてきた。他人とまだ深い関係を持つ心構えができていませんが、Hughに磁力のように引きつけられていく。
Hughはとてもいい男で、Kealの事情を知って互いの関係をゆっくりとすすめていこうとするけれども、時おりKealのフラッシュバックはHughに対して向けられてしまう。Hughが何かをしたからではなく、昔の恋人と同じ位置に立ったからとか、同じ台詞を(ちがう意図でも)口にしたからとか。
その馬鹿馬鹿しさをわかっていても、Kealは反射的にフラッシュバックをおこすのをやめられない。

Kealがフラッシュバックをのりこえるには、時間の経過だけでなく、自分に対する確信を取り戻す必要がある。
Hughはそれをわかっていて、それを手伝いたいと思う。ただ真綿にくるむように守ってやりたいが、それだけでは何も解決しない。常に一歩引き、Kealに自分で立ち上がるチャンスと、自由な空間を与える。
自分を受けとめてくれるHughに対してKealは幸せと後ろめたさ、自分自身へのコンプレックスを同時に感じながら、壊れる前の自分自身を取り戻そうともがきます。
2人ともとても優しく、魅力にあふれた人間で、読んでいるとKealを応援したくなります。傷を負い、後ろ向きになることもあるが、彼はしなやかで強い男です。

その一方、彼らはドラゴンとも戦わなければならない。Kealが好むと好まないとにかかわらず、ドラゴンはこの世界に害を為し、この凶暴で強大な生き物を放置しておくことはできないのだった。
だがどうやれば、人がドラゴンを殺せるのだろう?

私はこれがはじめて読んだT.A.Chaseの本で、ドラゴンだ!とタイトルだけ見て買ったら現代ものだったので、ちょっと騙された感を持ちつつ(自分が悪いんだけど)読んでみたらすっごくおもしろかったのでした。
以来T.A.のファンですが、彼の魅力はある程度「王道」を抑えながら、その先にひろがりのある世界を描き出すところではないかと思います。豊かな情感を持つキャラクター、孤独や愛情、融和といった強烈なテーマ、わかりやすいが陳腐ではないストーリー。世界とキャラクターの中に、読む者を引きずりこむ力を持っている作家です。
その魅力が存分に味わえるシリーズです。話としては荒唐無稽なようですが、キャラクターの感情の動きがしっかりと書かれているので、現実味がないという感じはあまりなく、現代ファンタジーとしても充分に楽しめると思います。
傲慢で美しく、気まぐれで勝手なモルドレッドがまた可愛い…
KealとHugh、モルドレッドとセント・ジョージ、この2つのカプの入り組み方もなかなかエロいところがあって、味わい深い。

★竜
★トラウマ(DV)

Grey's Awakening
Cameron Dane
Grey's Awakening★★ summary:
たたみかけるように幸せな報告が続き、投資会社の経営者Greyson Coleはうんざりしていた。彼が周囲の幸福をことさら嫌っているというわけではない。だがもう充分だった。
ついに従業員から結婚の報告がまた届き、Greyは何年もやったことのない、いや一度もやったことのない行動に踏み切る。
2週間の休暇を取り、山にある小さな別荘へと出かけたのだ。持ってはいるが、一度も行ったことのなかった場所へ。世間から逃げ出すように。

だが自分の小屋の扉をあけた瞬間目にとびこんだものは、見知らぬ男の半裸であった。

Sirus WilderはGreyの小屋から川をへだてた向かいの小屋に暮らしていた。少なくとも、トラック運転手の仕事がない時には。
だが配水管のトラブルから小屋の水が出なくなり、困った彼は、Greyの双子の妹から小屋を使っていいと言われる。
彼はありがたくその申し出を受けた。長年顔を見せなかった小屋の主が、まさかいきなりやってくるとは、誰も知らなかった。

互いに対する第一印象は最悪であった。
Greyは自分の妹がSirusをわざと送りこんだのではないかと疑い、警戒する。Sirusは人をすげなくあしらうGreyの態度にムッとする。
だがそれでも、Greyはあくまで理性的な人間であって、水がなく困っているSirusを放り出すことはできなかったし、SirusにとってGreyの小屋を使えるのは助かる。
2人は互いに妥協して小屋を共有することにした。2週間たてば、Sirusは小屋の配管工事を終えて戻り、Greyは休暇を終えて仕事に戻る。

2週間。
周囲の浮かれ騒ぎにうんざりして孤独に引きこもりたいGrey、手ひどく終わった過去の関係から立ち直っていないSirus。どちらも誰かと感情的にかかわるつもりはない。
2週間で、2人の間に何もおこる筈はなかった。
......



はからずも、同じ小屋を共有することになってしまった男2人の物語。
ありていに言って、全編エロです。エロの中にストーリーがあるというか。これはこれで潔くて、好きですが。

読みどころは、Greyの強烈なキャラクターと、2人の間を行きかう磁場のような強い力、それによって揺さぶられる2人の男。どちらも恋になど落ちたくはない。だが相手の存在を無視することができず、2週間で終わるただのセックスの関係ということで自分を納得させながら、相手に溺れていく。
Greyはいつも、自分と他人の間に一線を引いて、その線の内側に踏みこんできた者は恋人だろうが誰だろうが、容赦なく切り捨ててきた。他人のことを知りたくも、他人に自分の内側をのぞかれたくもない。
彼は孤独で、そしてそのこと自体に気付いていない。それほどに孤独です。
だがSirusの存在は火のように彼を惹きつける。すべてが手遅れになるほど。

Sirusは、Greyがひどく固い殻をまとっていることに気付きます。そしてそれを、Grey本人がどうすることもできないでいることも。
その殻の内側へ手をのばしたいと願い、だがGreyが肉体以上のものを求めていないことも感じ、Sirusは行きづまる。
Sirus自身もまた、二度と、未来のない一方的な関係にはまりこむつもりはなかった。
だがGreyの存在はあまりにも強烈に、彼を情動の渦に引きずりこむ。

体からはじまる恋なのか、恋をしたから欲しいのか。その境い目が曖昧になるような、激しく、情熱的な話です。
エロエロですが、エロ表現がかなり露骨で、ある意味「男性向」のような笑っちゃうほどの表現もまざってますので、そのへんが苦手な人は避けた方が無難。それもまたCameron Daneの味だとは思いますが、正直数回笑ってしまいました。
それにしてもGreyはかわいい。ちょっとSirusが踏みこんできただけで硬直したり、「きたきた、こいつもか」みたいに過剰反応したり、Sirusは何だか野生の獣をなだめているみたいです。
脆い内面を冷たい殻で覆おうとしている男、地に足がついた包容力のある男。なかなか鉄板カプだと思います。
そういうとりあわせが好きな人、暑苦しいほど激しいものが読みたい人におすすめ。もちろん、読むならやっぱりエロだ!という人にも。

★エロエロ
★鉄面皮/情熱男

Leftovers
Treva Harte
Leftovers★★ summary:
感謝祭は家族のものだ。
Emersonにとって、その日は家族に等しい古い友人たちと集まる、年に一度だけの日だった。

大学時代からの友人、PaulとLiz。
PaulとEmersonはかつて恋人同士だったが、ミュージシャンとしての成功を求めるPaulとEmersonの距離は広がり、今はこうして時おり会い、その時だけ情熱的な夜をすごすような、付かず離れずの関係になっていた。

だが今年は、Paulは物事を変えようと決心していた。
他人と距離を置き、いつも冷静で感情を表に出さないEmersonをどうにか説得し、彼らが恋人同士としてやっていけることをわかってもらおうと。

EmersonはPaulを愛していた。感謝祭の一日のために彼がどれほど心血を注いだか、Paulにわかるだろうか?
もしまた恋人同士になったとして、Paulが前のように一年中ツアーに出ているようなことに耐えられるとも思えない。
それに、EmersonにはPaulにも誰にも言っていない秘密、心に抱く恐怖があった。
.....



感謝祭に集まる友人3人、そのうち2人には過去あり。
感謝祭やクリスマスは普段会わない人も一斉に集まって顔合わせをしたりするので、色々な焼けぼっくいに火がついたりして、ロマンス的には大変おいしい頃合いとなっています。

その中でもクリスマスと感謝祭が違うのは(プレゼントやらクリスマスツリーやらはおいといて)、食べ物。アメリカ人は感謝祭にすさまじい量の食べ物を作るよね!いやヨーロッパのことは知らないだけだけど。
勿論ターキー、ところによってはマッシュポテトとか。デザートはパイ。なにもかも山盛り作ります。
この話での感謝祭のホスト役、Emersonも相当な量の食べ物を用意し、入念に準備をするのですが、彼にとってこの一日がどれほど大事な日なのか、Paulと会えるこの日だけが人生で意味のある日なのだとわかってくると、その準備の様子が痛々しい。

Emersonはきわめて痛々しい人間です。冷静沈着、知的で物静か。でも彼は見た目よりはるかに不安定で、その不安定さを人に見せないようにふるまっている。そして孤独です。
そんな彼に対するPaulは生き生きとして、成功したミュージシャンとしてあちこちとびまわりながら人生を楽しんでいる感じがある。でも彼も、Emersonがそばにいないことにはもう耐えられなくなっている。
彼らはかつて一緒にすごし、一緒に曲を作った。その曲がPaulをスターダムに押し上げた。でもPaulが去ってからずっと、何年もEmersonは曲を書いていない。
今年こそ。すべてを変えようとPaulは決心するのですが、Emersonの中には彼も知らないものがある。

Emersonの、ちょっと神経質なほどの繊細さを読む話です。彼は誰かの助けを必要としているのだけれど、Paulや誰かが助けようと手をのばすと後ろに下がってしまうようなところがあります。
PaulはもうそんなEmersonを手放すまいとしていてがんばるが、そのがんばりがPaul自身をまた限界までおいつめてしまう。

失われた絆を、とにかくもう一度やり直そうとする、新しい生き方を探すためのひとつひとつのステップが書かれています。どちらの気持ちもひたすら相手へ向かっている、その様子が切羽詰まっていて、読んでいると静かに引きこまれる感じ。
話としてはそう長くもなく、地味な感もありますが、そのあたりの心理の揺れが濃い。Emersonって、多分第三者から見ると能面みたいな人だけど、内心の感情はすごく豊か。そしてPaulはそれを読み取るのが誰より上手です。
そういう組み合わせに萌える人、繊細でプライドの高い受けが好きな人におすすめ。

★再会
★恐怖症

A Red-Tainted Silence
Carolyn Gray
A Red-Tainted Silence★★★ summary:
Brandon AshwoodはNicholas Kilmainに出会った瞬間のことを忘れられなかった。
青い瞳、黒髪、舞台の上で他を圧するたたずまい、そしてその歌声──
Nicholasと一緒なら、夢見た音楽を作れる。どこまでもいける。そう思った17の時。

だが、彼らにはその時予想もしなかった困難な道が待っていた。
出会い、再会、恋、そして失望と、やっとつかんだ成功。
その裏でBrandonはNicolasを守るためなら何でもした。彼から離れることすら。

10年以上に及ぶ彼の苦しみは、Nicholasの誘拐と拷問という無残な形ではね返る。それでもついにNicholasを取り戻したBrandonは、これですべてが終わったと思っていた。
Nicholasを傷つけ、周囲の人間を傷つけつづけた日々は終わるだろうと。もう一度、彼らはやり直せる。

しかしそれはまだ、すべてのはじまりにすぎなかった。
.....



31歳のBrandonが病院でNicholasの看病をしながら、17の時にNicholasをはじめて見た時の回想をするシーンからはじまります。
彼は、自分がくぐりぬけてきたもの、何故愛していながらNicholasを傷つけたのか語るために、回想録をパソコンで書き始めるのです。

現在と回想の過去が折り重なる形で進むので、最初は「過去のもつれをといて、めでたしめでたし」という話かと思いましたが、もっとずっと複雑でした。Brandonの中には彼自身も押し殺している(と言っても時おりそれが表層に出ているような描写もあるのですが)暗い記憶があって、それは彼を離さず、さりとて彼自身が語る回想の中にもなく、その空白がぽっかりと物語の中に口を開けている。
やがてNicholasも気付く。Brandonがその闇に呑み込まれそうなこと、それに自分で気付いていないことにも。
Brandonが誘拐されたNicholasを救い出したように、今度はNicholasがその闇を探して、Brandonをそこから救い出さなければならない。でもNicholasにはBrandonを苦しめている物が何なのか、そもそも何を探せばいいのかがわからない。

いくつもの現実が折り重なった構成がなかなか見事で、読んでいて驚きました。
最初は彼らの置かれた状況が全然見えてこないのですが、Brandonのつづる過去と同時に、彼らのいる現在が見えてくる。
同時に、10年以上に渡ってBrandonを苦しめつづけていた悪意が、ふたたび彼に襲いかかります。誰がその牙の持ち主なのかわからないまま、2人はもがき、現在の苦しみに過去の苦しみが折り重なるようにつづられていく。
しかしその「過去」もあくまでBrandonによって語られる過去で、そこにちょっとしたトリックというか錯誤があります。あれはうまい。

BrandonもNicholasも繊細な青年で、夢を追いかけながら互いを見つけ、スターダムにまで駆け上がった。
物静かでシャイなBrandonに対してNicholasは活力にあふれ、人々の称賛や注目を必要とする、根っからのスター気質。わがままなところもありますが、飴を欲しがる子供のような純粋さは彼の魅力でもある。
2人は強く惹かれあっているけれども、Brandonは段々とNicholasの影にひきこもるようになり、Nicholasはそれに気付かない。2人の距離は離れていきます。
そんな過去が、Brandonの回想録には痛々しく記されている。その様子が読む側に少しずつ見えてくるもどかしさは、登場人物のもどかしさとシンクロしているようで、ここにも叙述のうまさが光ります。

たまにNicholasには腹が立つけれども、でもいい子なんだよなー。Brandonを自己否定や自己嫌悪から引きずり出せるのは彼の愛の力だけ!というのはよくわかる。あそこはほんとに2人でひとつだ。
2人ともかなりささいなことに悩んだり、怒ったりして、しばしば足元をあやまる。自分の視点にとらわれて、どれほど間違っていてもそこから抜け出せなくなったりする。
そんな愚かさとか、悪循環の怖さなんかもあったりして、とても「人間らしい」2人の様子がくっきりと描き出されている話です。

いくつか設定に甘いところもなくはないし、私の好みとしてはちょっとキャラ泣きすぎ!と思ったりもしましたが、そんな細部はさしおいて、骨太なテーマに貫かれた非常にいい作品だと思います。久々に横っ面を張られたような気分。
21万語とかなり長いですが、最後まで緊張感が持続していて、その分の読みごたえはあります。(一般に長編=Novelで4万語から5万語以上)

心理が繊細に描かれた話が好きな人に特におすすめ。苦しんだり蹂躙される主人公に萌える、という人にもおいしい一冊だったり。
それにしてもいいタイトルだ。

★トラウマ
★自己犠牲

Seb's Surrender
Carol Lynne
Seb's Surrender★★☆ summary:
Bodyguards In Loveシリーズ 2

Jared Grantは人生のほぼすべてに渡って、様々な虐待を受けてきた。
自殺を試みて入れられた病院では看護人からの性的虐待を受け、退院してからも、その男につけこまれてみじめな暮らしをしていた。
警備会社で働くBrierが、裁判の証言者として彼を探し出し、説得してそこから連れ出すまで。

そして今、Jaredは警備会社の寮に世話になっていた。周囲をボディガードの男たちに囲まれ、Jaredにとって、それは人生で初めて安全な時間であった。
だがそれも、逮捕されている筈の彼の虐待者から脅迫の手紙が届くまでだった。

ボディガードのSebastian Jamesは、Jaredのくぐり抜けてきた虐待について、自分自身の過去の経験から多少の想像がついた。
心身ともに傷ついたJaredを守ってやりたいと思うのは、共感からだろうか。
Sebは弟を失ってから、誰かに気持ちをよせたことはない。必要以上な関わりは避けてきた。だが長い年月で初めて、JaredはSebの心の奥のやわらかな部分にふれる存在だった。

SebはJaredを守ろうとするが、Jaredは深い傷をかかえていて、簡単に気持ちをひらこうとしない。
彼には学ぶことがたくさんあった。自立して生きること、誰かをたよること、酒を飲んだからといって誰もが人を殴るわけではないということ。
そしてSebもまた、Jaredに信頼してもらうためには、長年自分を覆ってきた殻をひらかねばならない。誰も知らない過去の自分を、見せなければならないのだった。
.....



前作はBrierとJackieの話でしたが、そのラストでBrierが救い出した同じ虐待の被害者Jaredと、ボディガードの会社で働くSebの話。
こういうちょっと弱い感じのキャラを書くと、Carol Lynneはうまい。
ただ深刻に書くのではなく、深刻な一面を切り取りつつ多少の軽みも加えて読みやすく仕立てているあたりが、さすがだと思います。

長年の虐待の被害者であるJaredの様子が、またよく出ている。
誰かにたよることを知らず、何かが起こっても立ち向かうのではなく、ただそれが過ぎ去っていくのを待とうとする。
意見の食い違いからSebが怒った時に、思わず頭を抱えこんでその場にうずくまるJaredの様子は、その象徴でしょう。Jaredにとっては当然の行動ですが、Sebは自分に殴られるのを恐れるかのようなJaredの行為にショックを受ける。

2人ともに、心に壁があります。
Jaredは被害者としての殻にこもっているし、Sebはかつて弟を失った時のつらさから、誰かに心をひらくのを拒んでいる。
どちらも、もしかしたら恋に落ちる準備はできていないのかもしれないけれども、彼らはわりとおだやかに、何だか相手の存在に気付くように関係を深めていきます。
実のところ、色々なトラブルがあって、そんなにのどかに構えてはいられないのですが、染みこんでいくような恋の展開はなかなか素敵だ。

うまく色々なことを盛り込んであって、読んでいる間に気持ちをそらさない、切なくも前向きな話です。ほのぼのだけじゃない色々なおっかないエピソードもこみですが、そこもいい味。

たよれる男がトラウマからひっぱり出してくれる、とかその手の話が好きな人におすすめ。このボディガード会社はほんとにでっかい家族みたいなので、「仲間」という感じが好きな人にもおすすめです。
今は金持ちの男をたぶらかしてる遊び人Ravenの話とか、そのうち読めるかな。読みたいなあ。

★虐待
★立ち直り


ここの会社の経営者たちの話は別のシリーズにも出てきますので、もしBrierの兄のBramや下の弟の話が読みたい人は、この「Reunion」ものぞいてみるといいかと。BrierとJackieがはじめてくっつく時のエピソードも楽しい。
こっちはやたらとキャラが多いので、多少人間関係の基礎知識つけてから読んだ方がおもしろいと思います。

★Three-Star rating system★


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