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[タグ]キーワード:ハンディキャップ の記事一覧

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St. Nacho's
Z. A. Maxfield
StNachos★★ summary:
Cooperは故郷から逃げ出してからこの3年、バイクで町から町へと渡り歩きながらほとんど路上で眠るような生活をしていた。時おりレストランの厨房などで働き、バイオリンを引いてチップを稼いだが、少しでも居心地がよくなるとそこからまた逃げ出す。
人と話したり、必要以上に関ったりする気はなかった。いや出来なかった。もはや彼の知る人の「言葉」は音楽だけだったからだ。

St.Nacho'sという海辺の店に転がりこんだ今度も、長く滞在するつもりはなかった。
その店では耳の聞こえないShawnという美しい若者が働いていた。彼にはCooperの音楽は聞こえない。
だがどうやってか、ShawnはCooperの中にある言葉を誰よりもよく理解するようだった。

過去と向き合うことができないまま、セックスだけの関りですべてを終わらせようとするCooperを、Shawnは時に乱暴なほどの情熱で殻から引きずり出す。そして静かな海辺の店で、Cooperは自分の中にある恐れ、罪、いつも背を追ってきた混沌とゆっくりと向き合いはじめるが、過去はやがて現実の形をとって…
.....


「何かから回復する」というのはスラにはよく見られるテーマで、それは肉体的な怪我や病気だったり、精神的なダメージだったりしますが、この話もそのひとつです。
Cooperを追っているのは過去の破滅的な生活と、その時に体にこびりついた泥のような記憶で、それから逃げつづけた彼はただこの先も逃げることだけを考えている。
ジュリアード音楽院でバイオリンを学び、もっとも若い第一バイオリン兼コンサートマスターとして未来を嘱望されていた彼は、アルコールやパーティに溺れ、車の事故をおこして、すべての未来を失っています。友人は彼のせいで刑務所へ行った。親は彼を家から追い出した。
それでも音楽だけは彼の最後の「言葉」として、世界と彼を結びつける。

Shawnは耳が聞こえません。唇を読むことはできるけれども、完全ではない。天使のようにきれいな顔をしている22歳の若者ですが、結構激しい面もあって、6歳上のCooperに対しても何の遠慮もありません。(セックスはTop、かつちょっとdirtyらしい…)
彼に惹かれたCooperは関係を持ってしまうが、それを深めたくはない。Cooperが求めているのはただのセックスであって、人との関りではない。だがShawnはCooperを離そうとしないし、Cooperの内側が痛みと混乱に満ちていることがわかってからも目をそらそうとせず、その視線につられるようにCooperもやっと自分のことを見つめるようになっていく。
その日々と変化がCooperの、淡々とした一人称で語られていきます。

Shawnに音楽が聞こえないことをわかっていて、ある時、Cooperは演奏している間バイオリンにさわらせてやる。振動をShawnが感じられるだろうと思って。
音楽はCooperにとって「最後に残された人としての言葉」で、しかしそれが誰かにつたわることを彼は期待していなかった。ましてやShawnには。だがShawnがどうやってか彼の「言葉」を正しく聞きとったことを感じ、その瞬間、はげしく動揺したCooperは演奏を乱してしまう。
これはとても美しく、痛みに満ちたシーンだと思う。音楽を自分の言葉としながらも、それが人につたわるとそこから逃げ出そうとするCooper。…まあ、もちろんShawnは彼が逃げることをゆるさないわけですが。

全体に筆致は淡々としています。痛々しくはありますが、必要以上にドラマティックに盛り上げる感じはない。文学的と言ってもいいような雰囲気もあるような。
会話文が少なく、Cooperの一人称も長いセンテンスが多い上に全体の話も長いので、多少長文読むのに慣れた人向けかと。(あとメール文などがぽつぽつ文中に入ってるので、斜体を反映しないStanzaで読むにも慣れがいる)
「うちは全部18禁だから」と言いきるLooseIDから出ているものにしては、びっくりするほどエロ描写少なめだ。
特にエロ以外の部分重視の人、繊細な話が好きな人におすすめ。

★バイオリニスト/耳の聞こえない恋人
★トラウマ・恐怖症

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Physical Therapy
Z. A. Maxfield
Physical Therapy★★★ summary:
Jordan Jensenはリハビリを終了して、新たな出発をするために St. Nacho'sの町へと引っ越した。無二の友人Cooperが恋人と暮らす町へ。
だが St. Nacho'sへ来たのは、そこに友人がいるからだけではない。Cooperが、3年の放浪の末ついに足をとめ、彼の中の痛みを癒やした場所。その町に興味があった。

JordanとCooperは、かつてともに酒とパーティに溺れて未来を失い、酔ったJordanが運転していた車が子供を轢き殺して、彼らはどちらも想像だにしていなかった人生の深みへと転落した。
Jordanは刑務所へ行き、同乗していたCooperはどん底の人生のうちに路上生活者となり、やがてSt. Nacho'sへとたどりついた。
そしてそこで、Cooperは自分の人生を手に入れたのだ。
友人が St. Nacho'sで何を見たのか。Jordanはそれが知りたかった。

町のスポーツジムに職を得たJordanは、最初の日にKen Ashtonに会う。Kenには、Jordanを憎む理由はあれど、好く理由はなかった。Kenの野球人生は酒酔い運転のドライバーの事故に巻き込まれて破滅し、その事故で友人を失い、彼自身、昏睡から覚めた今も自由に歩くことすらままならない。
だがKenは、Jordanのマッサージに癒やされる。Jordanにふれられていると、事故からはじめて、自分が生きていると感じる。

KenはJordanに惹かれ、Jordanはそれを恐れる。彼もまたKenに強く惹かれていたが、2人が関ることがいい考えだとは思えなかった。刑罰としては償ったとは言え、今でもJordanにあの罪がのしかかる。
誰が許しても、誰が忘れても、Jordanだけは許すわけにも忘れるわけにもいかなかった。あの子供。あの一瞬、世界が砕けちったあの瞬間を。
.....



St. Nacho's 2。
前作の「St.Nacho's」ではCooperが主人公で、彼が絶望の中でバイオリンを背負ってSt. Nacho'sにたどりつき、恋人Shawnの力を借りて人生と向き合うまでが語られました。
その中でも出てきていた、Cooperの友人であり、恋人であった男、そして共犯者とも呼ぶべき存在のJordanが今回の主人公です。

前作では、Jordanの内面が今ひとつ見えてこないところがあって、それが後半部分をちょっと弱めていたと思うのですが、今回のこの「Physical Therapy」でJordanはとても魅力的な顔を見せます。シャイで優しい。だからこそ苦しい。
痛み、絶望、罪悪感。「St. Nacho's」でCooperに責任を転嫁しようとしていたJordanはもういない。彼は再度のリハビリを経て、自分自身を立て直すすべを覚えた。それは、他人を癒やすこと。だからマッサージを覚え、St. Nacho'sへとやってくる。

一方のKenは、自分の人生が事故によって奪われた苦しみと怒りをかかえています。世界は彼の周囲でとざされてしまったかのようです。だが、彼はJordanのぬくもりを感じ、Jordanの中にある優しさ、彼からつたわってくる光へとすがりつく。
Jordanは彼を癒やしてあげたいと思うけれども、KenがJordanに向ける思いをどうしていいのかはわからない。彼は他人に与えることはできても、他人から何かを受けとることはできない。まだJordanの中には、罪や闇がこびりついたままなのです。
癒やしが必要なのは、KenだけではなくJordanの方でもある。それが、繊細な語り口からゆっくりと見えてきます。やがてKenもそれに気付く。
そこまでの、ひとつひとつ言葉や仕種を積み重ねていくような、独特の描写が味わい深い。

Jordanが他人を癒やすことで自分を立て直そうとしたように、KenもJordanを癒やすことで自分自身をも癒やしているのだと思います。彼らはどちらも苦しみ、1人では出口へたどりつけない。
でもSt. Nacho'sは癒やしの場所。奇跡のおこる場所です。
奇跡にたどりつくまでが大変だけども…

前作の主役、Cooperと恋人Shawnが元気そうにしているのも嬉しい。Shawnは相変わらずかわいいなあ~。耳がきこえないんですけれども、そのためかどうか、ダイレクトに真実を見抜き、真実を恐れない勇ましさがあります。周囲の会話をCooperが何気なくShawnに手話でつたえている様子も、2人の調和が感じられて美しいです。
あそこには希望があって、それを求めてJordanはSt. Nacho'sに来たのだろうと思う。

こうしてJordanの内面をのぞいてから前作を読み返すと、CooperとJordanの2人の友人同士がたどってきた人生や痛みが鮮やかに見えてきて、数倍楽しめます。
私はシリーズ前作は★2つをつけたのですが、2冊セットで考えると、迷わず★3つをつけますね。
しかしこれを読んでから前作を読み返しましたが、以前に手こずったこの作家の文章が、結構あっさり読めるようになっていました。
あれから50冊くらい読んだからなー。さすがにちょっとは進歩してるか。やっぱり萌えは強い。

繊細で美しい、静かな癒やしと調和の物語です。
ストーリー重視、エロ以外の部分重視の人におすすめ。「St. Nacho's」と2冊セットでね!

★贖罪
★リハビリ

Brier's Bargain
Carol Lynne
Brier's Bargain★★☆ summary:
Brier Blackstoneは数年前まで、生涯のほとんどを病院ですごしてきた。
まだ幼児の頃、父親の虐待で頭に傷を負ったため彼は知能の発達が標準よりも遅れ、感情のコントロールが難しい。虐待から保護するために、政府は彼を家族と離した。
ほんの十年前まで、双子の弟すら彼の存在自体を知らなかった。

その弟の尽力によって、Brierは病院から出て人並みの生活を営むことが出来るようになり、ボディガードの会社の事務として働くまでに回復した。
そして、その会社で想像もしてなかった素晴らしい相手と出会った。
Jackie Benoit──会社のボディガードスタッフの一人。
Brierの恋人。

そのJackieが中東の任務でひどく負傷し、片足を失って帰ってきた。

Jackieはこの無垢でひたむきな恋人を愛していた。彼が乗りこえてこなければならなかった過去も知っている。かつて病院を脱走し、感情のままに罪を犯したこと、収監された病院で性的虐待を受けていたこと。
それをのりこえ、ハンディキャップを持ちながらフルタイムで働き、様々なことにチャレンジし始めたBrierの姿は、Jackieが自分の傷と向き合うための力でもあった。

だがまだBrierの心は脆い。
そんな時、性的虐待の加害者が捕まったとFBIから連絡があり、JackieはBrierにどう話したものか悩む。FBIはBrierの調書を取りたいと言うが、ふたたびあの体験を思い出させるのは気が進まない。

しかしBrierの覚悟は決まっていた。Jackieや、双子の弟が思う以上に。そしてきっと、彼らが望む以上に。
.....



Brierは軽い知能障害があるけれども、きちんとまっすぐに物事を考える人です。彼なりの筋道を立て、人のことを思いやりながら生きている。36歳。
Jackieは彼の初恋。
そのJackieが中東へ仕事へ行ってしまっている間、淋しさのあまり感情的にめちゃめちゃになって双子の弟を心配させたりしてしまいます。

でもJackieが負傷して帰ってきてから、Jackieの世話をし、そばで暮らしながらBrierの気持ちも落ち着いていく。
そんな彼のひたむきな様子と、彼にめろめろのJackieの様子がかわいらしい。また実際、Brierの弱いながらも凛としたたたずまいが綺麗で、Jackieの気持ちがまっすぐ彼に向かっているのもつたわってくる。
JackieがBrierの面倒を一方的に見ているわけでも、子供のように扱っているわけでもなく、彼らは互いに支えあう対等な恋人同士なのです。そこがいい。

周囲の人間はBrierを守ろうとするけれども、Brier自身は段々と自分の頭で物事を噛みしめ、自分の足で歩こうとしていて、その覚悟は時たま周囲とぶつかる。
そのBrierの気持ちの変化と、それを受け入れていかざるを得ない周囲との変化が書かれています。

読み始めて、知能障害というのはあまり好きなテーマではないので迷ったのですが、とてもおもしろかった。読んでいる間も、読後感もいい。兄に罪悪感を感じながら過保護にふるまう双子の弟もかわいい。
作者のCarol Lynneは前にも下肢の障害がある人の話を書いたりしていたので、何らかのハンディキャップ(精神的な弱さとかも含む)をかかえたテーマが好きなのかもしれない。うまくツボを押すエピソードが重なっているけれども、決してお涙ちょうだい系でもありません。
この作者のキャラは根がポジティブでたくましいので、重いテーマでも話が暗くならないのかな。性格はわりと乙女っぽかったり繊細だったりするんだけど、それでもどこか前向きで、世界を信じている感じがします。

Brierが過去をのりこえ、自分の新しい一歩を世界に刻んだことが、最後の騒動からもよくわかる。
世界は彼にとって優しい場所ではないけれども、彼はまだその世界を信じ、人間の善意を信じている。Jackieが、Brierの視点を通して見える世界が美しいと思うのも無理はない。

この「Bodyguards in Love」は作者の新しいシリーズで(まだ全部読んでないんだけど、代表作のCattle Valleyシリーズが終わったのかな?)、このボディガード会社を舞台に進んでいくと思う。
見るからにゲイばっかりの会社ですが、まあそれもよし。先が楽しみです。

ある意味かなり極めた「包容攻め×けなげ受け」なので、そういうシチュ萌えの人に特におすすめ。エロも多めで、全体に楽しく読めます。

★障害
★保護欲

Border Roads
Sarah Black
Border Roads★★ summary:
イラクから、アメリカ国境へ──
彼らの道はどこまでも険しく、苦難に満ちていた。

イラクでともに戦った分隊の仲間が、故郷近くのアメリカとメキシコ国境付近に集まっていた。
密輸、ドラッグ、密入国。国境には様々な風が吹く。

Chrisは仲間の元を目指しながら、途中の町で買った若い娼婦をともなった。
彼女がいればよく眠れる気がした。そして彼女も、Chrisのそば以外にいる場所がなかった。この世界のどこにも。

国境警備の仕事をしながら、ClaytonはLukeのことを思っていた。Luke。イラクで恋に落ちた、彼の戦友。
だがその恋がLukeをあやうく殺しかけた。不注意になった彼はテロリストの爆弾に吹きとばされ、顎のほとんどを失い、声を失ったのだ。

まだLukeが自分のことを求めてくれるか不安に思いながら、Claytonは彼の元へと出発する。
イラクから帰ってきてからの日々は、彼にとってもう一つの地獄のようであった。もしLukeが彼を拒否したら、Claytonは自分が生きていけるかどうかわからない。
.....



かなり重い話です。
帰還兵たちのそれぞれの暮らし、それぞれの葛藤がえぐられるように書かれている。
エイズにかかった少女娼婦、爆弾の傷を負った兵士、ドラッグの密輸に手を染める弟に銃を向ける兄、国境をこえて密入国した自閉症の子供、「物語」を求めてやってきながら目にした風景に衝撃を受ける記者。
様々な苦痛がその中にある。

いくつか物語があるのですが、ChrisとMelody、ClaytonとLukeが主な中心かな。
Melodyは女の子なので、男女絡みもあり、正直あまり嬉しくないサプライズでしたが(男女が混ざる時は警告がほしいよ)、いい話です。
帰還兵と娼婦。切ないような、どこかピュアな気持ちの交錯がそこにある。

ClaytonとLukeはイラクで熱烈な恋に落ちる。
爆弾による負傷という、Lukeを襲った運命も苛烈ですが、Claytonの中にある嵐のような葛藤にも、彼が魂を削るようにしてギリギリのところを生きているような、剥き出しの悲惨さがあります。
彼の心を救えるのはLukeだけで、彼が求めるのもLukeだけ。
彼らが互いを求めあう激しさと、2人の間に立ちはだかるプライドや怒り、恐れ。殺伐とした国境ぞいを背景に、2人の思いが鮮やかに浮き上がる。
ともに生きていくための道を探そうともがく彼らの様子も、重い。

一方で、国境を越えてきた自閉症の子供Juan(ホアンって読むんでしょうね)の話も切ない。母親に必要とされず、故郷を出て国境をこえるトラックに乗るがそこから落とされ、善意の女性に拾われて牧場につれていかれる。
だがそこにも自分の居場所がないと感じ、人々に迷惑をかけていると思った彼はまた歩き出してしまうのです。

ClaytonとLuke以外はカプと呼べるほどのカプはなく(疑いがあるのはいるけど)、スラ風味は薄い。ClaytonとLukeだけで充分濃くて、萌えますが。
殺伐とした世界がえぐり出されるように描写されています。でもその奥からは暗いことばかりではなく、時おりほのかな明るみがさしてくる。

苦しげなカプとか、群像劇とか、重い話が読みたい人におすすめ。
萌えもあり、心の奥が圧迫されるような何とも言えない気持ちにもなります。読後感はわりとさわやか。

★帰還兵
★負傷

Out of Light into Darkness
T.A. Chase
Out of Light into Darkness★★ summary:
その世界では、吸血鬼がすべての権力を握り、人はそのなわばりの中で彼らの「餌」として生きつづけていた。

Andorはもう何百年以上もの齢を重ねた、強大な力を持つ吸血鬼であった。
だが、いつのまにか彼の屋敷にいる「餌」の群れは何者かの手によって汚染され、その汚染は彼の視力を奪いはじめる。

ひとりだけ、汚染されていない、ビュアな血を持つ人間がいた。
Sven。Andorが幼い頃から目をかけてきた青年。
そのSvenはAndorの屋敷を脱走して姿を消していた。

Svenは、Andorの「餌」のひとりであることにもはや耐えられなかった。
彼はAndorを敬慕していたが、「餌」以上のものとして自分を見てくれないAndorに失望し、逃げ出したのだ。

Andorは、Svenの血だけでなく、Svenの存在そのものを必要としている。だが誇り高い吸血鬼が人間に弱みを見せることなどできるだろうか?
それともこのまま、Svenを拒否し、すべての光を失うのが彼の運命なのだろうか?
.....



とりあえず舞台は現代と考えていいようです。現代パラレルと言うか。
吸血鬼が支配する世界で、Andorはサンフランシスコ一帯を領地に持つ強大な吸血鬼。

Svenは、かつてAndorがまだ人間だった時に愛した女の子孫です。吸血鬼と化して、Andorは彼女との未来を諦める。
かわりに彼女は、Andorのために「群れ」となる子供たちを生んだ。彼女の血を引く一族が、現代までAndorの「餌」として飼われつづけています。だから、Andorはほかの吸血鬼のように「餌」たちを非情に扱ったりはしませんが、いささかいびつな状況です。

Svenはまっすぐだけれども少し直情的すぎるところもある若者で、Andorの素っ気ない態度に傷ついて姿を消そうとする。
やがて連れ戻されてしまうのですが、それからも反発したり逆らったりと、主人である吸血鬼を前にして気骨のあるところを見せてくれます。
彼を支配しようとしつつ、Svenの率直さにとまどい、どうするべきか迷うAndorが、段々と自分の気持ちをひらいてSvenを受け入れていくあたりが読みどころです。しかし、Andorが「人間」であったのはもう何百年も前のことで(バイキングの戦士だったと言うので、12世紀ぐらいの人かしらん…)、うまくふるまえないAndorは、時にあまりにも冷たくSvenを傷つけてしまうのです。

不器用と言えば不器用な人(吸血鬼)なんですが。
Andorは、視力を失いながらそのことを恐れ、傷ついている。でもあまりにも誇り高い彼は、Svenを心底必要としているのに、そのことを伝えられない。
脆さをかかえながら、あまりに長い間人間であることを捨ててきた彼は、自分の脆さにすら気付いていない。
彼には、Svenの助けが必要なのです。

引いたり、押したり。うろたえたり(主にSvenが)、怒ったり(主にSvenが)、傷ついたり(主に…)。
さらに、Andorを害そうとして「餌」たちを汚染させた敵の存在もある。もしその敵がこのなわばりを奪えば、Addorの「餌」たちは皆殺しにされてしまいます。
色々な要素が入り混じってテンポよく進んでいく話で、気をそらさずに最後まで読めます。

変わったバンパイア物が読みたい人、「主人と餌」みたいなねじれた関係の恋が好きな人におすすめ。

★吸血鬼×餌
★現代パラレル

Match Maker
Alan Chin
Match Maker★★☆ summary:
4年前、Daniel Bottegaは、プロテニス選手Jared Stoderlingのコーチとして名誉と勝利に向かって戦っていた。
だが彼らはともにゲイであること、そして恋人同士であることを知られ、大会から締め出されてしまう。
二人は今でもパートナーだったが、その傷はJaredに深く刻まれ、いまだに立ち直ることができずに酒に溺れていた。

テニスクラブのコーチとして暮らしているDanielの元に、Connor Linという18歳の若者がコーチを頼みに来る。彼には才能があったが、Danielはかつての「ゲイ」としての烙印を持ったままプロテニス界に戻るのは気が進まなかった。
もし彼がコーチするConnorが、彼との関わりからゲイの疑惑を受ければ、それだけで様々な不利益を受けるだろう。
テニスで審判を敵に回せば、試合はそこで崩壊する。不利なラインコールはプレーヤーの精神を削り、追い込んでしまう。4年前、彼らがJaredを追い込み、追いつめて、テニス界から消してしまったように。

だが、DanielはConnorとともに、ふたたびプロテニスの世界に戻る。JaredもまたConnorのダブルスのパートナーとしてテニスに復帰した。
彼らの道は険しく、勝利の栄光と、その裏腹に、彼らに向かって投げかけられる憎しみに満ちていた。

そして、憎しみは一発の弾丸となってDanielの未来を粉々に砕く。
.....



これはとてもいい話で、テニスが好きだと倍面白い。テニスが分からなくてもスポーツ好きなら萌えますが、4大メジャー大会とATPツアーについてくらいは何となく知っておいた方がわかりやすいと思う。「ローランギャロス」はメジャーのひとつ全仏オープンのコートで、赤土(クレー)コートである、とか。
私はわりとテニス好きなので萌え萌えして読みました。現役のプレーヤーのことは名前を変えて書いていますが、「この人のモデルは○○っぽい」とか、結構想像できます。

かつて「ゲイであること」で未来を奪われたカップル、DanielとJared。彼らは新しいプレーヤーConnorに導かれるようにしてプロテニスの世界に戻る。
そこで巻き起こるさまざまな苦しみや、それを乗り越えるための彼らの戦いが書かれています。結構、半端なくシビアです。
彼ら3人だけでなく、周囲にいる人々の感情や愛憎が入りまじって、大きな運命のうねりのようなものに全員が翻弄されている感じ。

個人的に気が散る点が多少あって、Connor Linの一家というのがアメリカにいる中国人一家なのですが、日本人に対する憎しみやうらみつらみがところどころに出てきます。作者当人が特に政治的に偏っているとは感じませんが(名前からして中華系だとは思うが)、そのへんがスラとしては集中できないのはたしかだったり。
チャイナっぽいと言えば、非常にチャイナっぽい一族ではあった。恐喝まがいに取引を自分に有利にしようとするところとか、時期的なものもあってこっちも遠い目になってしまいました。わがままを言ってしまえば、もうちょっと純粋に楽しみたいかなーという気持ちもあります。

しかし、そのへんを置いても、非常に緻密に彼らの戦いの様子が描かれていて、スポーツスラとして秀逸です。テニスの駆け引きと言うものをよくわかっている人なのだと思う。コーチングも具体的でおもしろい。
「ちょっと順調に勝ちすぎ」とかは感じないこともないですが、そこはスポ根ものみたいなものだと思えば納得。
何より、Danielのパートナー、Jaredのキャラが格好いい。「戦う男」である彼は、かつて戦う舞台を奪われて酒に溺れた。そこからまた戦う世界に戻り、別人のように生き生きと戦いますが、また巨大な敵に打ちのめされてしまいます。彼が、新たな傷の中で迷い、時にDanielにつらいことを言いながら、戦いつづけようとする姿は美しい。
絶望や、後悔の中から、人がどうやって希望を取り戻すのか。この話には、テニスという部分をこえて人が「戦う」姿があると思います。

かなりつらいシーンも含まれます。エロは描写少なしで、ほぼ直接描写なし。雰囲気あるから楽しいですが。
スポーツスラと、「ゲイの権利」を中心にした戦いをよく絡めた良作。深刻だけど勢いのある話を読みたい人におすすめ。
個人的なイメージだと、プレイスタイルはJaredはフェデラー、Connorはデルポトロっぽいと思う。

★テニス
★ゲイへのヘイト・クライム

Not Seeing Is Believing
T.A. Chase
Not Seeing Is Believing★★ summary:
Strange Hollowは安息の地であった。

行き所のない者たちはここに集い、お互いを煩らわせることなく静かに暮らしていく。
ほかでは暮らせない者たち。
たとえばBarry。視力を失ったヴァンパイア。
大きすぎるハムスターのシフターや、変身したら耳が狼のまま戻れなくなってしまった人狼の男。
人間の世界でも異質であり、仲間たちの中でも異質な者たちの住み処、それがStrange Hollowだ。

Barryは新たなStrange Hollowの住人、Anthonyからデートの誘いを受ける。
目が見えない彼には、Anthonyが何者であるのか、何故町の人間までもが彼を避けるのかはわからない。それでもおだやかに、2人は気持ちを通わせていく。
.....



Barryはかつて、銀のスプーンで眼球をえぐりだされたヴァンパイアです。いつもはサングラスで目を隠しているものの、闇の中で傷がぼうっと光るらしい。
盲導犬のふりをしている生意気なヘルハウンドと一緒に暮らしながら、彼は久々のデートに少し浮き浮きしている。この犬がちょっとかわいいんですよ。犬扱いされるのが大嫌いな、プライドが高い地獄の番犬。

Barryをデートに誘い出したAnthonyは、かつて自分の傲慢さのつけを払い、家族から見捨てられて、最近やっとこの町へやってきた。
おだやかな男だけれども、その孤独と傷は深い。

色々と酸鼻な設定にもかかわらず、ほのぼのとした話です。デートをして、ベッドに一緒に入って、セックスして、Barryはヴァンパイアだから夜明けになるとほとんど気絶するように眠ってしまう。
「デート」がそのまま何となくほのぼのと「おつきあい」に変化していくのが可愛いです。
Anthonyは、自分の見た目に対して大きなコンプレックスを持っていますが、Barryといるうちにその問題ともおだやかに向き合えるようになっていく。

作者のT.A.Chaseは、この間も盲目のヴァンパイアの話を書いていて、マイブームなのかな?しかし2作で、かなり味わいは違っています。こっちのヴァンパイアは大変に呑気でおだやかだし、ちょっとユーモラスです。
やがてAnthonyの抱える問題を知ったBarryは、最初にデートに誘ってきた理由が「自分が目が見えないからか」とAnthonyに問います。この問いすらも、おだやか。

ほのぼのとパラノーマル物を楽しみたい人におすすめ。
設定はごっついのに、ふつーにデートを重ねて、うきうきと関係を深めてる感じがかわいいです。両方ともさりげに恋に不慣れな感じも。
短めなのであっさり楽しめます。

★盲目のヴァンパイア
★ヘルハウンド

★Three-Star rating system★


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