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Slash(m/m小説) レビューブログ

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Walking on the Moon
M. Jules Aedin
RightChoice★★ summary:
1969年、それはニール・アームストロングがアポロ11号で月面に着陸した年。

Clive AldridgeとPhillip Osborneはかつて教え子と教授であり、今は同僚の教授同士、そして隠れた恋人同士であった。この6年間、ずっと関係を秘めてきた彼らは、翌日に同じ家に移り住むことになっていた。家をシェアする友人として、そして秘めた恋人として。

雪の降る夜中、CliveはPhillipの声に起こされる。
Phillipは木々の奥にある、彼にとっての祈りの場所へとCliveをつれていく。強制収容所で失った友、そして恋人を悼むその場所で、Phillipが取り出したものは一対の指輪であった。

まだ同性同士の関係が許されなかった時代。
いつかその指輪を本当に属する指へとはめることができる日がくるのかどうか、2人のどちらも知らなかった。
.....



アンソロ「To Have and to Hold」から。

短編ながら、長い時間の経過を書いた、味わい深い掌編です。
読みおわった後の余韻が深い。語り口にも静けさがあっていいと思います。

強制収容所、月面着陸、ニュルンベルク裁判と、歴史の物事と絡めて書かれていることもあり、2人を包んでいる時間の流れが実感できるというか、重みを感じます。
それだけにラストが本当に美しい。

この2人の出会い編はまた別にあるようなのですが、それを感じさせずに読みとおすことができるのも素晴しい点です。
同じアンソロの「Man of Honor」は、おもしろかったんですが後半ちょっと追いていかれてる?といぶかしく思ってたら、本編が別にありました。独立したものを、それだけで完結させて書くのって難しいですね。(でもおもしろかったから、本編読んでみたいのですが)
この「Walking on the Moon 」はその点、本編の存在を感じさせません。勿論そのうち読んでみたいですが。

しかし「14日目」の配信なんだけど、いいんだろうか。今日はまだ7日目で、しかも本日分は別に届いたから、多分まちがえて配信したんだと思うけども…
まあいいか。

ややヒストリカルなもの、時の重みを感じさせるカプが好きな人におすすめ。いい作品です。

★短編
★歴史もの

Cover Me
L.B. Gregg
※出版社の問題で一時的にリンクを外してます。
Cover_Me.jpg★★★ summary:
Michael “Finn” Finneganは、寄宿学校の英語の教師である。
だが、彼が個人的に指導している生徒の兄、Max Douglasは彼の教え方が「ゆるい」と言い、それ以上の個人授業を断る。
その宣告は最悪のタイミングだった。FinnがMaxと寝た、ほんの数分後。
2人はそれきり、になる筈だった。

警備会社で働いているMaxは、とある生徒の警護のためにFinnの勤める学校へとやってくる。
彼の厳格で妥協のない物言いと、学内のことをとりしきるFinnの考えは常に対立した。
2人は、どちらも生徒を守ろうとしていた。だがFinnは教師として生徒の生活や自由も含めて守ろうとし、Maxはただ危害から守ることだけを考えている。
どちらも自分の仕事に誇りを持ち、どちらも頑固だった。

Maxは常にFinnを怒らせ、昂らせ、気持ちをかき乱す。
押し流されるように彼らはまた体を重ねるが、その関係が体以上のものにならないだろうこともFinnはわかっていた。Maxは彼をだらしがないと言い、Finnが何をしても眉をひそめるような男だ。
それなのに、Finnは自分の気持ちが、このむかつく頑固な元海軍の男に向かって落ちていくのをとめられず…
.....



Men of Smithfieldシリーズ3。

Finnは陽気で、生徒に人気があり、ちょっとお茶目なところもある男です。なにしろハロウィンの仮装にトースターのかぶりものを着ていっちゃう。
Maxは感情を表情に出さず、言葉はぶっきらぼうで、時に無神経なほど剥き出し。
Finnは自分の勢いのままにそんなMaxと寝てしまいますが、後からめりこむほど後悔する。でもまたMaxと出会い、ついつい体の関係がはじまってしまうのです。

Finnの一人称ですが、すごく可愛い。彼が生き生きとし、じつに人生を楽しんでいるのがつたわってくる。彼の視点からでも当人の溌剌とした様子、刺々しさ、頑固さ、癇癪、そんなものがわかります。
そしてMaxが、Finnのことを「理解しがたい」と思っているのもわかる。そんで、理解できないままこっそりと、Finnに対してめろめろになっているのも。

この2人のやりとりが笑える。MaxはFinnをつついて怒らせるのが好きで、激しい反応が見たさにうっかりときついことを言ってみたりする。頭に血がのぼったFinn、というのに心底ときめいてしまうらしい。
屈折してるぞ。好きな子をいじめる男の子じゃあるまいし。
FinnはMaxの術中にはまって怒りちらし、自己嫌悪や当惑の中でぐるぐるし、やばい、と思いながらMaxに惹かれていく。そんでいきなり甘やかされて、もう駄目だと思いながら逃げようともがく。Maxはどうせ遊びだろうし(←Finnの頭の中的に)、Max相手に失恋なんて耐えられない。
ここのぐるぐるが、読んでいてすごくおもしろい。

その一方で、学内では様々なことがおこりはじめる。動物の死骸、吊るされた人形、紛失した部屋の鍵。
誰かの悪意が身にせまってくるのを感じながら、Finnはそれが誰であるのか悩む。学内で自由に動き回る、それは生徒の一人なのだろうか? それほどの悪意を持つ者が生徒の中にいるのだろうか?

攻めの寡黙さにやきもきする受けと、生き生きとした受けの一挙一動にこっそり萌えてしまう攻め、という組み合わせが好きなら鉄板です。
エロの最中でも甘やかしたり苛めたりするのが、大変に可愛い。

★寡黙×溌剌
★トースター

Bound and Determined
Jane Davitt & Alexa Snow
Bound and Determined★★☆ summary:
もうじき21歳になる大学生、Sterling Bakerはたまたまパーティで見たBDSMシーンに衝撃を受け、それこそが自分の求めるものであると感じる。
彼は支配的な父親に常に反感を覚えてきた。それは、自分が支配する側になりたかったからではないだろうか。

だが初めて行ったクラブで、大学の教授Owen Sawyerの姿に行きあたって、Sterlingは自分の考えが間違っていたことに気付く。
彼が求めているのは、支配することではない。支配されることだ。
Owenのような、強い、確信に満ちたDomに支配され、コントロールされるSubに、彼はなりたいのだった。

Owenは、何のスキルも経験もない、しかもかつての教え子を自分のSubにするつもりはなかった。
長い間、彼はどんなSubにも満足できなかった。多くの者が彼の名を求めてすり寄ってきたが、誰もがあまりにわかりやすく、あまりにも平凡で、常に誰もがOwenを失望させた。

だがSterlingは不屈だった。ついにOwenから手ほどきを受けることに成功し、それが思っていたほど単純でたやすいものではないと悟りながら、彼は引かなかった。
彼の中にある強さ、しなやかさ、そして複雑な痛みはOwenを引きつける。
ふたりの関係はいつしか単なるDomとSubの域を越えていたが、どちらもそれを言い出せず、いつしか生まれた亀裂はSterlingをより破滅的な行為へと押しやり…
.....



Sterlingは、父親の支配によって精神的に傷つき、自分の中に高い壁を作っています。常に他人にチャレンジしたがり、挑戦的で、高慢。
Owenが最初に見て、拒否したのはそういう「外側」のSterlingですが、その内側には脆い、優しい、誰にも手をふれさせない部分があります。
Owenは支配とコントロールによってSterlingの思考を吹き飛ばし、壁を崩し、SterlingはOwenにだけはすべてをさらけだす。それはOwenが彼を知り、彼の限界を知り、決して傷つかないよう守ってくれると信頼しているからです。
Sterlingには、支配される必要がある。信頼する相手、自分のすべてを預けられる相手に。そしてOwenは己のすべてでそれに応える。
それはほとんど、そのまま恋のように見えます。
支配と被支配、関係としてはいびつなようでもありますが、彼らの間ではそれは健全で、純粋で、必要なことなのです。

Owenはとても強い、卓越したDomです。
彼はSterlingの中にあるものを引きずり出し、Sterlingの欲するものをあたえ、そうすることに喜びを感じる。
どんなSubも──かつて別れたただ1人を除いて──彼を満足させることはなかった。だがSterlingの不屈さ、それと対をなす心の底からの服従、Owenを喜ばせようとする姿はOwenを揺さぶっていく。

プレイそのものも色っぽくてよいですが、DomとSubという特殊な立場を踏まえた上での感情の変化が非常に微細に書かれていて、読みごたえがある。
BDSMの話ってプレイの物理的な描写以外は単調になりがちな傾向があるんだけども、これはプレイの中で起こる葛藤や、2人の互いに対する理解が、そのまま彼らの人間関係に投影され、互いへの感情を深めていく。とても繊細に書かれた話だと思います。
生き生きしたSterlingも、彼を支配して愛でるOwenの強さも、とても魅力的です。

BDSMを中心とした人間関係、そして「初心者のSub」と「それを導くDom」の物語と言うと「A Strong Hand」に近い構成ですが、あれがプレイそのものよりは主人公同士の感情的な絆を中心に据えていたのに対して、この「Bound and Determined」はプレイの比重がとても大きい。
ので、がっつりとBDSMが読んでみたい、という人向け。
BDSMって日本のSMとはちょっとちがう(ものが多い)ので、「SMって何がいいのかわかんない」という人でもためしに読んでみるといいんじゃないかなーと思います。苦痛や拘束は「手段」であって、その先にあるものにたどりつくには、何よりも信頼が必要で、その信頼の存在が、この話のテーマにもなっています。

苦痛や、公開プレイも(一部)含んでいます。(強烈なものではないので、すごく苦手な人以外は大丈夫かと)
公開プレイってあまり好きじゃないんですが、この話の中での位置づけはよかったですね。何故人はBDSMを求めるのか、何故クラブ内で公開プレイをするのか、という「何故」のあたりがきちんとしたフォーカスで描き出された話です。

★支配
★焦らし

Sins of the Father
D.W. Marchwell
Sins of the Father★★☆ summary:
Charlie Kirbyには過去があった。
彼の父親は人を殺し、刑務所で死んだのだ。

42歳になった彼は高校の教師をしながら、父親が入っていた刑務所でボランティアとして、囚人に高卒資格を取るための勉強を教えていた。
そんな彼に、Caleb Farmerという老いた囚人が手助けを求める。手紙を書きたいと。40年会っていない息子へ。

Calebは40年近く昔に妻を殺し、それからずっと刑務所で生きてきた。長い罪の時間を経て、彼は自分がどれほど愚かでどれほど周囲を傷つけたか悟り、それを謝りたいと思っていた。
彼の息子は事件の時にまだ6歳で、母が殴打されて死ぬ音をクローゼットの中で聞いていなければならなかった。Calebは彼に向けて手紙を書きたいが、文字の書き方を知らない。
そこで、自分の代わりに手紙を書いてほしいとCharlieにたのむ。

CharlieはCalebに文字を教え始めた。2人で一緒に手紙を書きながら、Charlieはその「息子」の行方を探す。
その探索は思わぬ形で彼の人生にはねかえり‥‥
.....



あえて、あらすじではいくつかの大きな要素を省いてあります。
これは導入がすごくうまい本で、まずは学生時代の若いCharlieからはじまる。父親の罪を背負うように生きてきて、他人との間に壁を作ろうとしているCharlie。
でも彼は変わります。
そのへんについても書きたいんだけど、書いてしまうと読む楽しみが半減する気がするので、割愛。すごくテクニカルな導入部だと思う。

本編の大部分は現代で、Charlieは42歳になっています。刑務所で出会った囚人のたのみを聞こうとして動き出す彼ですが、囚人と息子との間を結ぼうとする彼の行為は、ただの親切心ではなく、もっと切迫したところから出ている。
かつてCharlieは、服役している父親に毎週会いに行ったけれども、父親は彼に一度も会おうとしないまま死んだ。決して修復されることのなかった自分の家族の絆を、Charlieはこの囚人と息子のケースに重ねているようです。

Charlieはとても繊細で考え深く、ちょっと考えすぎるほどの人で、彼の慎重な視線のひとつひとつが過去の物事や人の心の動きを浮かび上がらせていく。そんなに神経質にならなくても!とつっこみたい時もありますが、その気配りが彼の魅力であるのもわかる。
また書き方がなかなかうまくて、盛り上がるまでは心理の動きが事細かに描写されている一方、物事の火花が散る時には、動作や表情、セリフを中心に淡々とつづられる。そこに至るまでの彼の気持ちを知っているので、読む方は、息をつめるようにしてその瞬間の彼の痛みやたじろぎを想像してしまう。
色々なことがよく計算して書かれた話だと思います。

やがて、彼の人生にはJamesという男が入ってくる。彼とCharlieの関わりはドラマティックで深く、2人ともに複雑な過去と現在に搦め捕られて、自由に動けない。その様子がもどかしくて読みごたえがあります。
ともに生きていきたいのであれば、彼らはそれぞれに過去の影から抜け出さなくてはならない。
この小説は痛ましい過去を重荷として描くだけではなく、過去や痛みのピースが「現在」を作っているのだという肯定の部分も大きい。振り返るだけでなく、前に進むための物語です。

色々な過去が絡み合う導入から中盤までは圧巻で、少し中だるみするかなーという感じがありますが、後半には静かな緊張感が戻ってきます。登場人物の誰も声高ではないのに、そこからにじみ出してくる痛々しさはクリアにつたわってくる。
Jamesの視点からのシーンがもうちょっとあればいいかなーとか、ラストでもうちょっと「手紙」についてJamesがどう思ったか知りたいなあとかありますが、過去の罪に対する人の心の動きが丁寧に描き出された物語だと思います。
すべてが丸くおさまったわけではない、そのあたりのさじ加減が憎い。読み終わった後、気持ちが動いて後を引く本です。
しかし3つ差のカプなんだけど、「younger man」とやたら年の差を強調するのは何なのだ。作者の萌えか。

人は、過去と和解しなければ前に進むことが出来ない。
罪とか過去とか、そういうテーマが好きな人に。スラ成分もちゃんと入っている、味わい深い話です。

★父親の罪
★手紙

Regularly Scheduled Life
K. A. Mitchell
Regularly Scheduled Life★★ summary:
SeanとKyleは、6年の間、友人から冷やかされるほど甘く幸せな関係を続けていた。
だが、10月のある晴れた火曜日の朝の出来事が、彼らのすべてを崩してしまう。

理科の教師であるSeanは、校内にひびく銃声を聞いたのだ。
駆けつけた彼は発砲者を取り押さえたが、足を打たれて傷を負った。

傷はいずれ治る。だがSeanの中には治せない物が残った。救えなかった生徒。彼がもしもっと早く走っていたら、あの生徒は死なずにすんだのではないだろうか?

Kyleはその事件をラジオで聴いてから、Seanが無事であるとわかるまで、生きた心地がしなかった。
無事ならいい。
ほかのことは2人ですべて乗り越えていける。その筈だった。

何もかも、元には戻れない。Seanの罪悪感は彼をさいなみ、自分の中に生まれた虚無を埋めるように、彼はさまざまな活動を始める。公的な場所に顔を出し、演説をし、エージェントを雇い、マスコミのインタビューに応じた。
突然、自分たちが人々の目にさらされはじめたことに当惑しながら、Kyleはできる限りSeanをサポートしようとした。だが、それは正しい恋人同士の形だろうか? 1人の心に巣くった罪悪感に振り回され、ほかのことはすべて後回しになってしまう。
Seanの「一番」はもうKyleではない。
そのことに傷つくのは、あまりにも自分勝手なことだろうか?
.....



これは読んでいてとにかく気持ちのおさまりが悪い話で、何だかうまく言えませんが「気持ちの悪い」話でした。ほめてるんだが。

学校での銃乱射事件と、その時犠牲になった生徒に衝撃を受けたSeanは、とにかく「世の中をかえたい」という気持ちで「正義の人」になるわけです。Kyleはそのことに反対しているわけではない。でも自分たちの時間もほしいし、プライバシーもほしい。
ある種の「ヒーロー」となったSeanにはエージェントがつき、そのエージェントが2人の生活の中にまで入りこんでくるけれども、Seanはそのことに対しても鷹揚。でもKyleには耐えられない。
耐えられないが、笑顔で「大丈夫」と請け負ったりする。Seanのためだから。Seanはさすがに恋人の中にある不満に気付くけれども、「ほかにどうしようもないし、Kyleはわかってくれている」と自分の気持ちをKyleの気持ちの上に置いてしまう。

それでも彼らの生活はうまくいかず、Kyleは元のような2人に戻りたいと思う。Seanにとってはすべてはもう変わってしまったことで、戻りたいと言われてもわからない。
そして彼は何故、Kyleが今の状況を理解してくれないのかわからない。
Kyleが言うのは「2人」のことばかりで、でもSeanには今や、自分たちより優先されるべきことがある。それが正義だと思うから。
でも愛は前の通りそこにあるし、Seanはそれでいいと思っている。

KyleはSeanの新しい生き方に添ってみようとしたり、耐えられなくなって態度が悪くなったり、Seanとぎくしゃくしたりします。「お前は自分中心すぎる」とSeanは言うけれども、Kyleは「自分を大切にしてほしい」のではなく(それもあるけど)「2人を大切にしてほしい」のです。
2人の認識のずれがものすごく詳細に書かれていて、これ結構怖い話だと思います。些細な言葉、些細な態度から色々なものが溜まっていく。ほんとに些細なことで、些細だから口に出してみると馬鹿馬鹿しく、それだけに気持ちの持って行きどころがない。
ほんとは、もっと根本的なところで彼らの立ち位置は間違っているのです。

優しくて判断力にあふれたSeanはいい男で、癇癪もあるが活発なKyleとは本当にいいカップルです。
その2人が、大きな一瞬の暴力によって、これまで築いてきたすべてが危険にさらされる。2人の愛情がはっきり書かれているだけに、彼らの関係がいびつになっていく様子がつらい。
派手なエピソードもありますが、大半が暮らしの中のリアルな物事を通して描かれていて、ディテールがすごくしっかりしています。
またK. A. Mitchellが日常の繰り返しの中で歯車が狂っていく様子を書くのがうまいので、読んでいてとても面白いし、気持ちがざわざわします。

心理描写や日常描写の詳細な話が好きな人におすすめ。

★発砲事件
★ヒーロー

The Dickens with Love
Josh Lanyon
The Dickens with Love★★ summary:
3年前のスキャンダルによって、ブックハンターのJames Winterはすべてを失った。
名声、職、恋人、彼とともに暮らした家、そして自分自身への誇り。

だが何とか裕福で傲慢な顧客を1人つかみ、彼は食いつないでいた。
本を見る目には自信がある。
彼が自分を疑っているのは、人を見る目だった。それさえあれば、こんなふうに人生から転落することもなくすんだ筈だ。

顧客は、ディケンズの未発表のクリスマス作品がオークションにかけられる前に、それが本物であるか確かめ、本物であればどんな手を使っても入手しろとJamesに命じる。
その仕事をやり遂げなければ、彼に先はない。

だが本の持ち主の教授は、Jamesの過去を知っていた。彼はJamesに疑いの目を向ける。
過去はいつまでJamesの足を引っぱるのだろう。彼を、誰が信じてくれるというのだろう。
.....



クリスマス・キャロルの作者として有名なディケンズですが、彼には「クリスマス・ブックス」と呼ばれるクリスマスシリーズがあって、5編、発表されているそうです。
その6編目を誰かが持っていて、オークションにかけようとしている?という話。

35歳のブックハンターJamesは、本の持ち主である42歳の大学教授Sedgwick Crisparkleと顔を合わせ、彼の持つディケンズを見て、一目でそれが本物だと確信します。
Jamesの、本に対する、そしてディケンズに対する愛情がその時の興奮にあらわれていて、だからこそ過去のスキャンダルに足をすくわれる彼の姿がいたましい。

彼は本がほしい。それと同時に、持ち主にも惹かれてしまう。
雇い主が誰なのか、Sedgwickに告げることは禁止されていて、Jamesは罪の意識を感じながらも彼と近づいていく。物事を隠したまま仕事と私的感情が入り乱れてしまう、そりゃ大抵行き詰まるものと相場が決まっています。
案の定、Jamesも失敗する。クリスマスなのに。

ディケンズに愛着を持っている方が面白く読めるとは思いますが、ブックハンターの内情がかいま見えるのが楽しい。
教授はちょっとキャラが薄い気もするんですが(紳士的で素敵な人だが)、その分を補って余りあるのがJamesの痛みでしょう。彼は傷つき、人生を見失い、それでも本を愛してもがいている。明日の食事もあやしいのに、狭いアパートの自分の本棚を眺めている。
そんな彼が、孤独なクリスマスシーズン、傲慢な顧客と頑固な大学教授や幻のディケンズの本の間をさまよう姿には独特の切なさが漂っています。強気で、シニカルで、独立心が強く、でも孤独で繊細。

ディケンズのクリスマスストーリーをめぐりつつ、これ自体がひとつのクリスマスストーリーという構成になっています。
現実のほろ苦さと、クリスマスならではのおとぎ話的な美しさが絡み合って、後味はさらりときれい。

小粋なクリスマスストーリーを読みたい人、古書萌えの人におすすめ。

★クリスマスプレゼント
★雪

Finding Zach
Rowan Speedwell
Finding Zach★★★ summary:
Zach Tylerは5年の間行方不明だった。
救出された時、彼は犬として誘拐犯に飼われ、人に口をきこうとしなかった。

精神的にも肉体的にもひどいダメージを負ったZachは、それから2年の治療がすぎてもなお不安定な日々をすごしていた。
恵まれているのはわかっている。裕福な両親とともに毎日セラピストと話しあい、家族ぐるみでZachのための出口を探している。
だがZachは、自分の苦しみが愛する家族の心に重い負担をかけていることに耐えられなかった。
もしかしたら、彼は戻ってくるべきではなかったのかもしれない。あのまま、ベネズエラの森の奥で死んでいた方が、皆のためだったのかもしれない。

そんなある日、Davidが町に戻ってきた。
Zachの少し年上の幼なじみで、Zachの初恋。だが2年前、救出されたZachにDavidが会いに来た時、Zachは取り乱し、叫んだ。
それ以来DavidはZachに近づかず、NYに去った。彼は何故Zachにそこまで憎まれるのか理解できず、深く傷ついていた。

Zachは、Davidとの再会にどうしていいのかわからない。
誘拐され虐待を受けていた間、Davidは唯一のZachの聖域だった。
今、のばせばふれられる距離にいながら、Zachはどうしても動けない。心も体も傷だらけの彼を、誰が望むだろう。
Davidの知らない暗い秘密を山ほどかかえた彼が、どうしてDavidを望めるだろう。
.....



かなり痛々しいトラウマの話です。
が、Zachの痛々しさとともに、彼の生来のたくましさ、生きようとした意志、彼がかつて持っていたユーモアのセンスなどがあちこちにかいま見えて、強さに満ちた話でもあります。
もっともそのユーモアや強さは、誘拐される前の彼がどれほど溌剌として希望にあふれた少年だったのかも浮かび上がらせて、それがまた痛いのですが。それは、永遠に失われてしまった少年の姿です。

Davidは、Zachが誘拐されて半狂乱になり、助け出されたと聞いて歓喜する。でも会いに行った彼を迎えたのはZachの心の底からの恐怖の悲鳴で、それは彼をうちのめします。
その恐怖がDavidに向けられたものではないことを、Zach以外の誰も知らない。

そうしてZachに背を向け、去ったDavidですが、それでも彼はZachの元に戻る。
彼とZachの間に生まれる関係は、脆く、痛みと混乱に満ちていて、Zachのねじれた気持ちは彼にねじれた言葉を吐かせる。DavidはZachを守りたいのですが、Zachはそれを望んでいるわけではないし、そもそも何から守ったらいいのかわからない。
手探りで、ぶつかりあいながら、2人は関係を築いていかねばなりません。
Zachのトラウマだけでなく、Davidの混乱や怒りもあらわで、相手の気持ちを探りそこねて迷える2人の様子は、シンプルで根本的なラブストーリーでもある。
愛はある。でもそれで充分なのか。それで足りるのか。

少しずつ追憶を織りまぜていく話の展開が練れた感じでうまいですね。深刻な話なんだけれども、痛々しさばかりに焦点を当てず、動きのある話の展開になっています。
Zachの気持ちの揺れ、同じところをぐるぐる回ってしまう彼の逡巡や自己嫌悪、心の奥に植え付けられた恐怖──そういうものが、Davidの存在によってひとつずつ薄らいでいく(魔法のようになくなったりはしないわけですが)、その様がきちんと描き出されている。

凄惨な描写がある話なので、痛いのが苦手な人は要注意。文章は "matter of fact" という感じでそれほど湿っていません。笑えるエピソードも織りまぜられていて、テンションのめりはりがきいている。
トラウマもの、立ち直っていく話が読みたい人におすすめ。

★人質
★初恋

★Three-Star rating system★


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・2017年
・後半 王子二巻
・12月 アドリアンXmas

・ほかにも出るかも
・王子とか何か売れてくれ〜(色々軽くピンチ)
・来年はもふもふやるよ!

*発行済*
・フェア・ゲーム
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・恋のしっぽをつかまえて
・狼を狩る法則
・狼の遠き目覚め
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・海賊王の死(アドリアン4)
・瞑き流れ(アドリアン5)
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*他訳者さん*
・わが愛しのホームズ
・ロング・ゲイン
・恋人までのA to Z
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