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[タグ]キャラ:ミュージシャン の記事一覧

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St. Nacho's
Z. A. Maxfield
StNachos★★ summary:
Cooperは故郷から逃げ出してからこの3年、バイクで町から町へと渡り歩きながらほとんど路上で眠るような生活をしていた。時おりレストランの厨房などで働き、バイオリンを引いてチップを稼いだが、少しでも居心地がよくなるとそこからまた逃げ出す。
人と話したり、必要以上に関ったりする気はなかった。いや出来なかった。もはや彼の知る人の「言葉」は音楽だけだったからだ。

St.Nacho'sという海辺の店に転がりこんだ今度も、長く滞在するつもりはなかった。
その店では耳の聞こえないShawnという美しい若者が働いていた。彼にはCooperの音楽は聞こえない。
だがどうやってか、ShawnはCooperの中にある言葉を誰よりもよく理解するようだった。

過去と向き合うことができないまま、セックスだけの関りですべてを終わらせようとするCooperを、Shawnは時に乱暴なほどの情熱で殻から引きずり出す。そして静かな海辺の店で、Cooperは自分の中にある恐れ、罪、いつも背を追ってきた混沌とゆっくりと向き合いはじめるが、過去はやがて現実の形をとって…
.....


「何かから回復する」というのはスラにはよく見られるテーマで、それは肉体的な怪我や病気だったり、精神的なダメージだったりしますが、この話もそのひとつです。
Cooperを追っているのは過去の破滅的な生活と、その時に体にこびりついた泥のような記憶で、それから逃げつづけた彼はただこの先も逃げることだけを考えている。
ジュリアード音楽院でバイオリンを学び、もっとも若い第一バイオリン兼コンサートマスターとして未来を嘱望されていた彼は、アルコールやパーティに溺れ、車の事故をおこして、すべての未来を失っています。友人は彼のせいで刑務所へ行った。親は彼を家から追い出した。
それでも音楽だけは彼の最後の「言葉」として、世界と彼を結びつける。

Shawnは耳が聞こえません。唇を読むことはできるけれども、完全ではない。天使のようにきれいな顔をしている22歳の若者ですが、結構激しい面もあって、6歳上のCooperに対しても何の遠慮もありません。(セックスはTop、かつちょっとdirtyらしい…)
彼に惹かれたCooperは関係を持ってしまうが、それを深めたくはない。Cooperが求めているのはただのセックスであって、人との関りではない。だがShawnはCooperを離そうとしないし、Cooperの内側が痛みと混乱に満ちていることがわかってからも目をそらそうとせず、その視線につられるようにCooperもやっと自分のことを見つめるようになっていく。
その日々と変化がCooperの、淡々とした一人称で語られていきます。

Shawnに音楽が聞こえないことをわかっていて、ある時、Cooperは演奏している間バイオリンにさわらせてやる。振動をShawnが感じられるだろうと思って。
音楽はCooperにとって「最後に残された人としての言葉」で、しかしそれが誰かにつたわることを彼は期待していなかった。ましてやShawnには。だがShawnがどうやってか彼の「言葉」を正しく聞きとったことを感じ、その瞬間、はげしく動揺したCooperは演奏を乱してしまう。
これはとても美しく、痛みに満ちたシーンだと思う。音楽を自分の言葉としながらも、それが人につたわるとそこから逃げ出そうとするCooper。…まあ、もちろんShawnは彼が逃げることをゆるさないわけですが。

全体に筆致は淡々としています。痛々しくはありますが、必要以上にドラマティックに盛り上げる感じはない。文学的と言ってもいいような雰囲気もあるような。
会話文が少なく、Cooperの一人称も長いセンテンスが多い上に全体の話も長いので、多少長文読むのに慣れた人向けかと。(あとメール文などがぽつぽつ文中に入ってるので、斜体を反映しないStanzaで読むにも慣れがいる)
「うちは全部18禁だから」と言いきるLooseIDから出ているものにしては、びっくりするほどエロ描写少なめだ。
特にエロ以外の部分重視の人、繊細な話が好きな人におすすめ。

★バイオリニスト/耳の聞こえない恋人
★トラウマ・恐怖症

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Adder
Ally Blue
Adder★★ summary:
音楽、セックス、名声…それさえあれば何もいらない筈だった。
「L」ではじまるあの言葉すら。

Adderには、はっきりとした人生の目的があった。自分の音楽で身をたて、名声を得ること。人生を楽しむこと──すべての点において。
少年時代からその目標に向かってつき進み、手に入るすべてのものを楽しんできた。男だろうが、女だろうが、音楽だろうが。ファンに愛され、寝る相手にことかいたことなどない。それで満ち足りていた。
誰かと真剣につきあおうなど、1度たりと思ったこともなかった。

バンドの新しいドラマー、Kalilが自分の目を引いた時も、それまでと何も変わらないと思っていた。寝てみたいが、それだけのことだと。
KalilもAdderに惹かれるが、彼はAdderのようなやりたい放題の男の相手をするつもりも、バンドメンバーとつきあって物事をややこしくするつもりもなかった。
だが強引なAdderに、結局Kalilは押しきられてしまう。

1度寝てみて、好奇心と欲望を満たして、だが物事はそれで終わらなかった。2人の間にあるものは、彼らが考えていたよりも深く、強烈なものだったのだ。
そしてその気持ちは、彼らのどちらをも動揺させ、怯えさせる。

一方、バンドにもついに大きなチャンスが訪れ…
.....



Adderはとにかく自己主張が強く、わがままで、やりたい放題、貞操観念などかけらもなく、あからさまで、臆面もない。格好が何かキラキラしていて悪趣味。一言で言うと、性格も見た目もけばけばしい男です。
でも音楽には真摯で、友人には嘘をつきません。勝手だけど、いい加減なわけではない。そのバランスが魅力的で、時々とても笑えます。

Kalilは根っから真面目で、頑固で、融通がきかない。独占欲が強いし、ところかまわず誰かと寝たりはしない。
Adderと性格があうわけがない…と思いながら、奔放なAdderに惹かれ、結局何だかうやむやに2人でつきあっているような状態になってしまうのですが、その状況もKalilを悩ませます。
Adderともし別れたら、大好きなこのバンドを出ていかなければならないんじゃないだろうか。Adderがそのへんの女といちゃいちゃしてるのが気に入らない。でも別に何を言う権利があるわけでもないし。ああ何か息苦しい!
鬱々としながらも何も自分からは言えないKalilを、Adderはじいっと見て、悩みを聞き出して、何度も「大丈夫だ」と悟す。でもKalilは悩むのをとめられない、そういう性格。よくAdderとつきあっているもんです。

それでもって、ここはAdderが受けです。Adderいわく「俺は受けしかやらないし」だそうで、「つっこみたければ女と寝るじゃん?」ということらしい。理屈が通っているような、いないような。
Kalilも基本的に受けなんですが、Adderが「俺はやだ」と言うから、仕方なく彼が攻め役をやっています。
不憫な奴…

2人の関係が深まるうちにバンドにとっても大きなチャンスが振ってわいて、Adderはそれを本気でものにしたい。だがそれは、はじめてのKalilとの対立を生むのです。
行き違い、嫉妬なんかも含んで、若さと疾走感のある話です。
真面目でうろたえやすい、でも時にAdderも手こずるほどに頑固なKalilがAdderにいいように翻弄される様と、わがままで俺様なAdderがいつのまにかKalilにめろめろになっている様子が読みどころ。楽しい。

Ally Blueは人気作家なんですが個人的には相性が微妙で、現状は勝率5割。しかしたまにこういうヒットがあるから買ってしまう(話がつまらなかったことは1度もないし)。これとか「The Happy Onion」が好きです。
筋立にいつも工夫があって、人と人の対立やドラマのあるストーリーを書く人です。ここは可愛い年下攻めが、めっぽう強気で頑固。

Adderというキャラが好きになれるかどうかで、この話の評価が大きく変わると思います。
わがまま勝手で型破りなだけではなく、なかなかユニークに一本芯が通った(通り方がおかしなことにはなってますが)キャラなので、興味がある人は是非どうぞ。
バンドの他のメンバーもなかなかいい味出してます。

★バンド
★頑固×奔放(ヘタレ攻め気味)

Leftovers
Treva Harte
Leftovers★★ summary:
感謝祭は家族のものだ。
Emersonにとって、その日は家族に等しい古い友人たちと集まる、年に一度だけの日だった。

大学時代からの友人、PaulとLiz。
PaulとEmersonはかつて恋人同士だったが、ミュージシャンとしての成功を求めるPaulとEmersonの距離は広がり、今はこうして時おり会い、その時だけ情熱的な夜をすごすような、付かず離れずの関係になっていた。

だが今年は、Paulは物事を変えようと決心していた。
他人と距離を置き、いつも冷静で感情を表に出さないEmersonをどうにか説得し、彼らが恋人同士としてやっていけることをわかってもらおうと。

EmersonはPaulを愛していた。感謝祭の一日のために彼がどれほど心血を注いだか、Paulにわかるだろうか?
もしまた恋人同士になったとして、Paulが前のように一年中ツアーに出ているようなことに耐えられるとも思えない。
それに、EmersonにはPaulにも誰にも言っていない秘密、心に抱く恐怖があった。
.....



感謝祭に集まる友人3人、そのうち2人には過去あり。
感謝祭やクリスマスは普段会わない人も一斉に集まって顔合わせをしたりするので、色々な焼けぼっくいに火がついたりして、ロマンス的には大変おいしい頃合いとなっています。

その中でもクリスマスと感謝祭が違うのは(プレゼントやらクリスマスツリーやらはおいといて)、食べ物。アメリカ人は感謝祭にすさまじい量の食べ物を作るよね!いやヨーロッパのことは知らないだけだけど。
勿論ターキー、ところによってはマッシュポテトとか。デザートはパイ。なにもかも山盛り作ります。
この話での感謝祭のホスト役、Emersonも相当な量の食べ物を用意し、入念に準備をするのですが、彼にとってこの一日がどれほど大事な日なのか、Paulと会えるこの日だけが人生で意味のある日なのだとわかってくると、その準備の様子が痛々しい。

Emersonはきわめて痛々しい人間です。冷静沈着、知的で物静か。でも彼は見た目よりはるかに不安定で、その不安定さを人に見せないようにふるまっている。そして孤独です。
そんな彼に対するPaulは生き生きとして、成功したミュージシャンとしてあちこちとびまわりながら人生を楽しんでいる感じがある。でも彼も、Emersonがそばにいないことにはもう耐えられなくなっている。
彼らはかつて一緒にすごし、一緒に曲を作った。その曲がPaulをスターダムに押し上げた。でもPaulが去ってからずっと、何年もEmersonは曲を書いていない。
今年こそ。すべてを変えようとPaulは決心するのですが、Emersonの中には彼も知らないものがある。

Emersonの、ちょっと神経質なほどの繊細さを読む話です。彼は誰かの助けを必要としているのだけれど、Paulや誰かが助けようと手をのばすと後ろに下がってしまうようなところがあります。
PaulはもうそんなEmersonを手放すまいとしていてがんばるが、そのがんばりがPaul自身をまた限界までおいつめてしまう。

失われた絆を、とにかくもう一度やり直そうとする、新しい生き方を探すためのひとつひとつのステップが書かれています。どちらの気持ちもひたすら相手へ向かっている、その様子が切羽詰まっていて、読んでいると静かに引きこまれる感じ。
話としてはそう長くもなく、地味な感もありますが、そのあたりの心理の揺れが濃い。Emersonって、多分第三者から見ると能面みたいな人だけど、内心の感情はすごく豊か。そしてPaulはそれを読み取るのが誰より上手です。
そういう組み合わせに萌える人、繊細でプライドの高い受けが好きな人におすすめ。

★再会
★恐怖症

A Red-Tainted Silence
Carolyn Gray
A Red-Tainted Silence★★★ summary:
Brandon AshwoodはNicholas Kilmainに出会った瞬間のことを忘れられなかった。
青い瞳、黒髪、舞台の上で他を圧するたたずまい、そしてその歌声──
Nicholasと一緒なら、夢見た音楽を作れる。どこまでもいける。そう思った17の時。

だが、彼らにはその時予想もしなかった困難な道が待っていた。
出会い、再会、恋、そして失望と、やっとつかんだ成功。
その裏でBrandonはNicolasを守るためなら何でもした。彼から離れることすら。

10年以上に及ぶ彼の苦しみは、Nicholasの誘拐と拷問という無残な形ではね返る。それでもついにNicholasを取り戻したBrandonは、これですべてが終わったと思っていた。
Nicholasを傷つけ、周囲の人間を傷つけつづけた日々は終わるだろうと。もう一度、彼らはやり直せる。

しかしそれはまだ、すべてのはじまりにすぎなかった。
.....



31歳のBrandonが病院でNicholasの看病をしながら、17の時にNicholasをはじめて見た時の回想をするシーンからはじまります。
彼は、自分がくぐりぬけてきたもの、何故愛していながらNicholasを傷つけたのか語るために、回想録をパソコンで書き始めるのです。

現在と回想の過去が折り重なる形で進むので、最初は「過去のもつれをといて、めでたしめでたし」という話かと思いましたが、もっとずっと複雑でした。Brandonの中には彼自身も押し殺している(と言っても時おりそれが表層に出ているような描写もあるのですが)暗い記憶があって、それは彼を離さず、さりとて彼自身が語る回想の中にもなく、その空白がぽっかりと物語の中に口を開けている。
やがてNicholasも気付く。Brandonがその闇に呑み込まれそうなこと、それに自分で気付いていないことにも。
Brandonが誘拐されたNicholasを救い出したように、今度はNicholasがその闇を探して、Brandonをそこから救い出さなければならない。でもNicholasにはBrandonを苦しめている物が何なのか、そもそも何を探せばいいのかがわからない。

いくつもの現実が折り重なった構成がなかなか見事で、読んでいて驚きました。
最初は彼らの置かれた状況が全然見えてこないのですが、Brandonのつづる過去と同時に、彼らのいる現在が見えてくる。
同時に、10年以上に渡ってBrandonを苦しめつづけていた悪意が、ふたたび彼に襲いかかります。誰がその牙の持ち主なのかわからないまま、2人はもがき、現在の苦しみに過去の苦しみが折り重なるようにつづられていく。
しかしその「過去」もあくまでBrandonによって語られる過去で、そこにちょっとしたトリックというか錯誤があります。あれはうまい。

BrandonもNicholasも繊細な青年で、夢を追いかけながら互いを見つけ、スターダムにまで駆け上がった。
物静かでシャイなBrandonに対してNicholasは活力にあふれ、人々の称賛や注目を必要とする、根っからのスター気質。わがままなところもありますが、飴を欲しがる子供のような純粋さは彼の魅力でもある。
2人は強く惹かれあっているけれども、Brandonは段々とNicholasの影にひきこもるようになり、Nicholasはそれに気付かない。2人の距離は離れていきます。
そんな過去が、Brandonの回想録には痛々しく記されている。その様子が読む側に少しずつ見えてくるもどかしさは、登場人物のもどかしさとシンクロしているようで、ここにも叙述のうまさが光ります。

たまにNicholasには腹が立つけれども、でもいい子なんだよなー。Brandonを自己否定や自己嫌悪から引きずり出せるのは彼の愛の力だけ!というのはよくわかる。あそこはほんとに2人でひとつだ。
2人ともかなりささいなことに悩んだり、怒ったりして、しばしば足元をあやまる。自分の視点にとらわれて、どれほど間違っていてもそこから抜け出せなくなったりする。
そんな愚かさとか、悪循環の怖さなんかもあったりして、とても「人間らしい」2人の様子がくっきりと描き出されている話です。

いくつか設定に甘いところもなくはないし、私の好みとしてはちょっとキャラ泣きすぎ!と思ったりもしましたが、そんな細部はさしおいて、骨太なテーマに貫かれた非常にいい作品だと思います。久々に横っ面を張られたような気分。
21万語とかなり長いですが、最後まで緊張感が持続していて、その分の読みごたえはあります。(一般に長編=Novelで4万語から5万語以上)

心理が繊細に描かれた話が好きな人に特におすすめ。苦しんだり蹂躙される主人公に萌える、という人にもおいしい一冊だったり。
それにしてもいいタイトルだ。

★トラウマ
★自己犠牲

Taurus: All That You Do
Jamie Craig
Taurus: All That You Do★★ summary:
アンティークの店主Christopher Gleasonは、いつも注意深いスタンスを保ってきた。友人たちをトラブルから遠ざけ、悩みを聞き、彼らの「保護者」のようにふるまうことにも慣れていた。

そんな友人のひとりにつきあってゲイバーに行った彼は、そこにいたシャイで場違いな若者、Gage Kimballに気持ちをかき乱された。静かで、どこか自信なさげで、それでいてその向こうには情熱がひそんでいそうなGageのたたずまいは、Christopherを惹きつける。

Gageはモルモン教の家で育ち、ゲイであることを家族から拒否され、ギターだけを持ってソルトレイクを去った。傷心のままLAにたどりついた彼は、孤独だった。
多少やけっぱちな気持ちで足を踏み入れたバーで、おだやかなChristopherに出会い、Gageははじめての男とのセックスに向かって一歩を踏み出す。
それは新たな世界の入り口になるはずだった──Christopherが、Gageを未経験だと知り、背を向けて去るまでは。

Gageは混乱し、傷つき、望みがないと思いながらもChristopherに惹かれる気持ちをとめられない。
そしてChristopherもまた行き詰まっていた。Gageと友人としての距離を保ち、彼を守ろうとしながら、Christopherはこの若者から目を離すことが出来なくなっていた。

2人は微妙な距離を置き、互いを遠くから見つめる。
.....



「Boys Of The Zodiac」というシリーズ(大勢の作家がそれぞれ十二宮を書くらしい?)の一作。タウロス、牡牛座は「何があろうとあなたを守る」らしいです。

Christopherはとても落ちついた、おだやかな人間で、祖父から引き継いだアンティークショップを経営している。
友人が(やや皮肉も込めてでしょうが)「He's the oldest thirty-one-year-old I've ever known.」と評するシーンがあるほど。いつも友人たちの面倒を見て、皆で飲みに行けば彼が運転するか、タクシーを手配する。
そういう人っていますね。みんなから大切にされているけれども、どことなく微妙に貧乏くじをひいてたり。保護者というスタンスに慣れていて、落ちついているけれども、誰かにそれ以外の自分を見てほしいと思ってもいる。

一方のGageは痛みと夢とをかかえて、音楽で身を立てようと故郷を去った。ゲイであることで、家族も宗教も捨てなければならなかった彼の傷は深い。
それでも前へ進もうとしています。
彼ら2人は惹かれあうけれども、Christopherの拒否とGageの痛みが彼らの間に大きな距離をあけてしまう。

GageはChristopherの拒否を受け入れようとしてもがき、ChristopherはGageの保護者というポジションにおさまろうとする。誰に対してもそうだったように。
ですが、彼らの間にあるものはどんどん濃密になっていって、どちらもそれを無視できない。
その間にもGageは淋しさから刹那的な恋人を作ってしまいます。彼は孤独で、好奇心と欲望を持て余している。Christopherは嫉妬に気持ちが痛みますが、彼の理性と保護欲は、あくまでGageに対して「いい友人」というポジションを崩させない。お互いに、それぞれの理由で足踏みをしています。

2人の距離の開け方がなかなか憎い感じで、読んでいて「くっついちゃえよ!」と思うのが楽しいです。
語数の割にさらっと読める感じで、もうちょっと時間をかけてじりじり近づいてもいいかなあーと思いますが、保護者系攻めが好きならツボの一作。
作者の「Jamie Craig」ってのはPepper EspinozaとVivien Deanの共同ペンネームだそうです。

★保護者攻め
★初体験

Be The Air For You
T. A. Chase
Be The Air For You★★☆ summary:
Rod Hannahはロックスターの頂点にまでのぼりつめ、ツアーのために世界を駆け回っていた。だがはなやかな生き方の影で、彼は今でもかつての中毒の影と戦っていた。
ドラッグ、アルコール──長年の中毒からRodがかろうじて抜け出すことができたのは、友人Hawk McLeodのサポートがあってこそだった。
Hawkはいつもそこに、Rodのためにいた。必ず彼を支えた。

ツアーの最中、RodはHawkに夜中の電話をかけながら、孤独と戦う。Hawkと話し、彼の声を聞けば、薬を服用せずとも眠ることができた。

Rodはもう長い間、Hawkに恋をしていた。
だが一度として踏み出すタイミングは訪れず、今となってはあまりにもHawkは彼にとってかけがえのない存在になっていた。
決してHawkを失うことはできない。離れてしまうくらいなら、友人のままでいる方がいい。

Hawkの経営するクリニックに経済援助を続けながら、Rodは彼らはこのままずっと変わらないのだろうと思っていた。いつまでもこのままなのだろうと。
だがそんなある時、Hawkに理由のわからない変化があり…
.....



ロックスターと小さなクリニック(眼科?)の医者の友情。
これまで一歩を踏み出すには、あまりにも相手を大事にしすぎてきた、そんな2人の話。

保護者系、包容系のHawkも素敵ですが、Rodのキャラクターがいい味出してます。かつて中毒に落ち、幾度となくリハビリをくり返したRodは、最後の最後に「これで駄目だったら俺はもうお前のそばにはいられない」というHawkの最終通告をつきつけられ、すがるように立ち直った。
それでも今でもなお薄い刃のような境界線の上にいる自分を知っている。いつかまた、向こう側へ転がり落ちるかもしれない。
Rodの繊細さがあちこちの描写からにじんでいるので、彼のHawkに対する思いとためらいもよくつたわってきます。
彼はHawkの存在に支えられ、Hawkへの思いで日々をこらえている。

一方のHawkには、Rodに秘密がある。
いつまでも隠しておくつもりの秘密でもなく、彼はRodにそれを語りますが、その秘密の重さは彼らの上に強くのしかかり、彼らの人生を変えてしまう。
その中で揺さぶられながら、2人は互いを思いやり、互いを支え、時に1人で苦しんだり、2人で苦みをわけあったりしていく。
信頼、愛情、苦悶、そして絶望。
そんな彼らの気持ちの交錯が短く(話が短めなので)、でも丁寧に書かれています。

愛情にあふれた関係と、思いもかけない運命の試練が絡み合った、短いけれども読みごたえのある話。
包容系とか保護者系が好きな人におすすめ。あと闘病もの好きも。

★ロックスター
★友人同士

Wishing For A Home
T.A. Chase
Wishing For A Home★★★ summary:
Derek St. Martinは人気のカントリー歌手であった。
名声と富。熱狂的なファン。
望む物を手に入れた筈なのに、Derekの心はいつも空だった。

ゲイであることを知られるわけにはいかない。それは彼のキャリアを滅ぼしかねないとマネージャーは言い、Derekは何年も嘘で塗り固めた生活を続けてきた。
だがもう限界だった。
薬で痛みをやわらげながら、このままどんなふうに生きていけるだろう。

義理の弟は彼に休みをすすめた。誰も彼のプライバシーに踏み込んでこない、静かなところ。
知り合いがいい牧場を持っていると言う。

牧場頭のMax Furloは、カントリーシンガーがやって来ると聞いて、あまりいい気持ちではなかった。
牧場のオーナーたちは、彼にセレブのお守りをまかせてヨーロッパへ出かけてしまったのだ。
わがままな歌手の面倒を見るつもりなど、彼にはさらさらなかった。

音楽の寵児と、無愛想なカウボーイ。
彼らの出会いは偶然で、たとえ一線を踏み越えるとしても、それは一夏限りの軽い遊びで終わる筈だった。
.....



Homeシリーズ第三作。
今回はTonyとBrody(Home of His Ownより)の牧場が舞台ですが、2人はTonyの甥に会いにヨーロッパへお出かけ中。
残された牧場頭のMaxと、そこにバケーションにやってきたカントリーシンガー、スーパースターのDerekの話です。

Derek St. Martinは前作の「Home of His Own」にちらっと出ていますね。Tonyがハワイから帰る飛行機で隣に乗り合わせて、2人で話をしていた。
Derekは深くクローゼットに入ったゲイで、そのことにすっかり疲れ果てている。誰も彼を気にしない静かな牧場に来て、ゆっくり眠り、彼はやっと自分を見つめる時間を取り戻します。そして、そこにいるカウボーイMaxに視線を惹かれる。

彼とMaxが近づく、その過程はゆっくりです。
そこに何かがあるのを知りながら、まず2人は友人として親しみを持ち、互いを認めあう。Derekの歌に対する情熱をMaxは理解し、DerekはMaxの頑固さと誠実さを心地いいと思う。

これまでのシリーズ二作のように、大勢がより集まってわやわやと疑似家族をしているにぎやかさがないのは淋しいですが、DerekとMaxがゆっくりと関係を作り上げていく様子はひたむきで、真摯なものです。
2人とも、これがこの夏だけの関係であると知っている。休暇が終わってDerekがまた「スーパースター」に戻れば、Maxと関係を続けられるわけがない。Maxは嘘の中で生きることは出来ないし、Derekはスーパースターの仮面を外せない。
それでも、その夏だけでも、彼らは丁寧に相手と向き合おうとするのです。
それは、深い孤独や傷を知っている者同士の、おだやかな癒しの行為でもある。いかにも大人同士という感じが素敵だ。

最後の最後にDerekがする決断は深いもので、彼がその道を「Maxのためではなく、自分のために」選びとった、そのことが本当に深い。
それ以上、自分を失わないために。
でもそんなふうにはっきりと彼の姿を鏡に映し出し、Derekに自分の望むものをわからせてくれたのも、Maxの存在と愛情なのです。

前作までのキャラがちらちらと出てくるのも楽しい。次の話のネタも蒔かれています(次はPeterでしょう、きっと!)。
ワイオミングの自然も美しくて、その中でゆっくりと心をほぐしていくDerekの姿が静謐に書かれています。

単体でも読めるけど、他のキャラもうろうろしているので、DerekとMax以外の人間関係がつかみにくいかも。やはりこれはシリーズでいった方がいいと思います。
カウボーイ好き、孤独な2人の大人がわりとのどかに互いを好きになる話に萌える人におすすめ。

★一夏の恋
★スーパースター

★Three-Star rating system★


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