Slash×Slash

M/M小説 (原書)レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
★三つ星評価システム★

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Bitter Legacy
Goodreads-icon.pngDal Maclean

BitterLegacy.jpg★★★ summary:
ロンドン警視庁、殺人課の巡査部長James Hendersonはたった三年の警察のキャリアで捜査官に抜擢されるほど勘が良く、仕事に誠実だった。
金持ちの親の跡取りになることを拒み、薄汚い部屋で暮らしながら、正義で世界を変えたいと願っていた。

そんな彼は、Mariaという弁護士の殺人事件の責任者として指名される。
Mariaがメモしていた住所に行ってみると、見事なフラットにそれは美しい男が暮らしていた。Benという男は、被害者のことは知らないと言うが、ルームメイトを探していて、うっかりJamesのことを内見にきた客のひとりだと勘違いする。

偶然、Jamesは引越先を探していた。フラットに、そしてBenに惹かれた彼はどうしてもその部屋をあきらめきれない。
もしかしたら、それが人生最悪の選択だとしても。刑事としても。男としても。
.....



Dal Macleanさんのデビュー作!
ラニヨンさんやジン・ヘイルさんに応援されてデビューしたというのも、この骨太なミステリの書きっぷりで納得いきます。

ただしこれを「ロマンス」と言っていいのかどうかはちょっと迷うところでもある。いや二人の男が(もしかしたら二人以上が)恋に落ちているのでちゃんとロマンスだとは思うんだけど。思うんだけど、結構ムカつく男なのですよ相手のBenがね!
いい奴に見えるけど全然誠実じゃないし、ことあるごとにJamesの心を掻き乱して、恋の甘い時間と嫉妬や諦念の苦い一撃とをくらわせてくれますし。もう段々Benにむかついてきて、Benにめろめろで翻弄されて大変なJamesにまでむかついてきちゃったからね、読んでいて。
途中で「いやこれくっつく相手はBenじゃないんじゃないの?」とまで思ったくらいです。実際は…うむ、実際は読んでみてもらいたいです。事件とも関係しているので。

Jamesもほんと人間が甘々で、可愛いっていうより「しゃんとしろお前は!」って気分で自分としてはあんまり感情移入できなかったんだけど、子犬のような無邪気な彼が傷ついていくのは読んでいてなんとも心が痛みました。
もうひとり、重要人物として同じフラットの違う階に住むポルノスターが出てくるんですが、いやもうこの子もいい味を出していて、いろいろと心にグサグサくる。
メインキャラにそれほど心寄せていないのに、最後まで話のパワーでぐいぐい読まされたので驚いたし、個人的にはDalさんはマストバイの作家リスト入りです。

さて、Jamesの、Benとの不安定な関係を軸とした私生活と、殺人事件の捜査の二つがメインの筋立てになっています。
Jamesはまだまだ捜査官として青いけれども、非常に勘がいい。その勘で、彼はMariaのあとに殺された女性が、事件に関係しているのではないかと感じます。これは連続殺人ではないのかと。
しかし二人の被害者をつなぐ何の糸もない。あちこちに奇妙な類似は見える。死んだ女達の性格も、男を自在に操る手管もよく似ている。そして二人とも体には古い傷がある。
偶然にしては似すぎている、でも偶然以上のものだと言うには弱すぎる。何かあるはずだが、それが何なのかJames自身にもわからない。ましてや上司には見えてこない。

この捜査がとてもおもしろいんですが、とてもキャラが多いです。うん。これはもうDalさんは、ミステリとしてもしっかり読めるミステリ書いているので周辺キャラが多いのは仕方ないんですが、日本語で読んでいても大変なんじゃないかってくらい要素が多かった。普通に分厚いハヤカワミステリ読んでるみたいだった。
なので、長いけれども一気に読んだほうがいいです。途中で忘れると大変そう。

途中でJamesが刑務所にいる女シリアルキラーに面会するシーンなんか、本当に映像化してほしいくらいよかったです。
強烈な悪意、鮮やかな支配者の姿。
そして、彼女の姿をそれだけ鮮やかに描いたからこそ、後半に事件が収束していく展開がぞくぞくするような凄みを帯びてきます。もうどうしようもないくらい閉塞的で停滞していた事件が、やっと見つけた突破口からJames自身をも巻き込んで一気に大きな絵図を描き出す。あのカタルシスと、ついにあらわれた真相への絶望感。

骨太で、捜査をがっつり描いていて、とてもおもしろかった一冊です。その一方、ちょっとクズっぽいキャラといい、煮え切らない関係や特に前半の事件の遅々として進まぬ捜査(リアルでいいと思いますが)といい、そういうのが苦手な人は持て余してしまうかも。わりと持って回った言い回しが多いしね。
本格捜査ものが読みたいとか、いきなりハッピーエンドじゃないものが読みたいとか、そういう気分の時におすすめ。でもじつに読みごたえがあって引き込まれた一冊なので、興味があったら是非読んでほしいです。
そしてBenがいかに駄目野郎か私と一緒に語り合ってほしい(本気)。あれだけ美形でモテモテで料理もできて気遣いもできる心優しい男なのにほんとJamesに対してはクズだからね!

心からおすすめなんですが、読む人を選びそうなのでめんどくさいおすすめの仕方になりました。シリアルキラー好きなら是非!

★オープンな関係
★ルームメイト

Holding Out for a Fairy Tale
Goodreads-icon.pngA.J. Thomas

HoldingOutFor.jpg★★ summary:
サンディエゴの殺人課刑事Rayは、自分がバイだと発見してこのかた、いける男をお持ち帰りして新たな世界を広げていた。
そんな夜、いきなり従兄弟があらわれてその夜の相手を人質に取り、Rayに行方不明の娘を探し出せとたのむ。いや、脅す。

だから家族は嫌いなのだ。ギャングの一家を捨てて、ここまで警官としてやってきたのに。
いつか全員を檻の中へ叩きこんでやるために。

それでも行方不明の姪を放っておけず、彼女の大学の寮へしのびこんだRayは、そこでFBI捜査官のElliot Belkampと再会する。
ホットな関係だったはずが、何故かRayが怒らせて気まずく別れて以来の再会だった。
.....



A Casual Weekend Thingの続編。とはいっても主人公も舞台立ても違うので、独立して読める感じです。
一冊目で出てきてたRayのやんちゃで手に負えない、なんかけなげなんだか無茶なんだかわからん感じが気になって、二冊目も読んでみましたが、期待を裏切らぬ型破りでいい加減で尻軽で、世界を信じないけど相棒のことは愛していて、その相棒がどこかの男とデキちゃった今は俺はひとりで生きていくんだぜ!な男でしたね。素晴らしい。
でもRayは犯罪組織の実家を捨てて、身ひとつで刑事としてキャリアを作り上げてきた正義の男でもあり、仕事に関してはまわりがついていけないほどの完璧主義者で、一枚剥げば(いや多分数枚剥げば)とても優しい男だったりもする。
そして、いつか捨てた家族が、もしくは敵対する組織が自分を殺しにくるとわかっている。歩く武器庫のように常に武装し、常に注意を怠らない。
そんな自分を誰にも見せずに。

さて、そんなRayと前の巻でなんかいい感じになってたFBIのElliot Belkamp。こっちは絵に描いたようなスマートでイケメンの捜査官。
この二人はほとんど恋人というものを持ったことがなく、だからお互いに対する気持ちを性欲とすりかえようとしますが、あまりうまくはいっていない。RayはElliotをまたベッドに引きずり込みたいが、Elliotはそれがすごくよくない考えだとわかっているので、かわす。
彼は、あまり未来はない関係だと思っている。特に、Rayがカミングアウトできていない今は。
何も恐れないように見えるRayにとって、カミングアウトはひとつの大きな壁。あと、ベッドの中でボトムになるということも。多分それは誰かに対して無防備になれないRayの、誰にも見せられない顔なのだろうけれども。

ぶつかりながらも、二人はいろいろなルールを無視して一緒に事件の捜査を始めます。なかなかその捜査ぶりもおもしろいし、Elliotの貧しい食生活をRayが改善しにかかるところも可愛い。
再会からくっつくまで、わりとじっくり関係の再構築が描かれていて、不器用だったり淋しかったりする強がる男たちの姿にあちこちニヤニヤしてしまう。

Rayみたいなキャラが好きなら、一冊丸ごととても楽しめる一冊。型破りと真面目くん(まあRayにくらべると…)、という組み合わせも鉄板です。
Elliotが段々と、隠されたRayの素顔や表情を読めるようになっていくところがまた可愛いんだな。それでいちいちドキッとしてあわてるRayも可愛いぞ!
ケンカップルに焦らされたい時の読書におすすめ。

★刑事×FBI
★再会

Shiver
Goodreads-icon.pngJocelynn Drake、 Rinda Elliott

shiver.jpg★★☆ summary:
Lucas Valloisは「罪の街」シンシナティで今一番ホットなクラブシーンを作り出しているクラブオーナーだ。
自分の力のみをたよりに叩き上げてきた億万長者は、すべてを自分の思い通りにコントロールしないと気が済まない。
彼が心を許すのは二人の戦友と、もう一人の若いシェフだけ。だがLucasは常に彼らを「守る側」であって、「守られる側」には決して立たない。

そんな時、Lucasに身の危険が襲いかかり、やむなく親友の進言を入れてひとりのボディガードをそばに置く。
ルーマニア出身のセクシーで、強気で、Lucas相手に遠慮しないAndrei Hadeon。
これまで誰も踏みこんだことのないLucasの心の奥までのぞきこんでくるような男。
.....



Unbreakable Bondsシリーズの1巻。
このシリーズは一冊ずつカプが変わっていく一話完結のシリーズです。その中心は30代後半の三人の男たち。

三人は戦場でともに戦い、強い絆を結んだ。そして今、一人は大成功したビジネスマン、一人は医者、一人はボディガード会社の経営者となって、それでも常に相手の背中を守り、相手のことを一番に思っている。
この三人の固い男の友情が読んでいてとても楽しいシリーズなんですよ!
三人ともがいやになるくらいの「アルファメイル」、いわゆる俺様タイプなんだけども、彼らの間には生死を一緒にくぐってきた人間たち特有の馴れ馴れしくないが熱烈な気持ちの通じ合いがある。
もうこいつらでカプになっちゃえばいいんじゃないのってくらい。…翌日には殺し合ってそうだけど。その夜には一緒に飲んだくれて笑ってそうだな。

さて、そんな固くつながりあった三人(プラスして若いシェフがいるんだけど、この子は三人に徹底的に過保護に守られているのでちょっとポジションが違う)の中の一人が恋に落ちると何が起きるかというと、まず「友情の中に入りこめない」という事態が起きますね。
特に今回LucasのボディガードになったAndreiは、友達の中の一人の部下でもあって、結構微妙な立場にある。なのでお互い「手を出すわけにはいかない」と念仏のように唱えているんだけれども、恋の力には抗えずに関係を結んでしまう。
でもじつに不器用な男どもなので、気持ちのことなんか何も言わずに「ただの体の関係」で「シリアスなものじゃない」的な言いわけをしたり、思った以上に近づいてなんだか焦れ焦れするような会話を交わしたり、またすれ違ったりするんです。
そこのところの「遠さ」と、裏腹のエロの熱烈さに勢いがあって読みやすい。あとお互いの不器用さがなかなか半端ない。体はつながるけど全然精神的な進展がないぞ!

とにかくメインの三人の友情が固すぎておもしろいので、カップリング的な萌えはちゃんとありますが、メインディッシュ(友情)にくらべるとちょっと見劣りするかなという印象はある。でも熱血のAndreiと彼に揺さぶられて動揺するLucasという組み合わせは、強い男同士のカプが好きなら鉄板で楽しい。
腕っぷし勝負になったとしても勝ってやる、という気概が両方から感じられるのがいいのです。まあAndreiがゆずってあげそうだけども。

シンシナティが舞台の話はわりと珍しく、街の輝くようなナイトライフの中、欲や犯罪者がうごめく街の闇をテリトリーとして守っていく三人の姿がまた萌えます。Lucasは自分の力の及ぶ限り街を作り直そうとしていて、その反動で命を狙われているのです。
犯罪、ギャング、地下組織。彼らと戦うLucasたちの手も決してきれいなばかりじゃないだろうという感じがひしひしとして、いい雰囲気。

三人セットのちょいワルな男たちを味わえる楽しいシリーズです。先の巻では逆転のパワーゲームとか古い戦友同士の恋心とかいろいろ読めるよ!

★戦友
★夜の街

The Little Library
Goodreads-icon.pngKim Fielding

TheLittleLibrary.jpg★★☆ summary:
Elliott Thompsonは一度は将来を嘱望された歴史学者だったが、男に利用されて職を失い、名声も失ってカリフォルニアの町でひっそりと通信大学の講師をしながら暮らしていた。
彼の気晴らしは、毎日のジョギングと、書店サイトで買いこむ大量の本だけ。
気がつけば家の中はゴミ屋敷、とはいかなくとも、本に占拠されつつあった。

兄にうるさく言われて、Elliottはほとんど気まぐれから家の前に小さな「図書館」を作る。実際にはそれはただの本棚のようなものだ。
最近話題の、家の図書館。誰でも本を借りていいし、読み終わったら返却するか、かわりに自分が人にすすめたい本を置いてもいい。

それは小さな一歩。
その一歩から、Elliottは近隣の住人のSimonに出会う。膝を負傷して退職した元警官とのその出会いが、Elliottの世界を少しずつ、そして大きく変えはじめた。
.....



なんかもう、可愛い話です。
別に可愛いエピソード満載とかそういうわけではないんだけども、Elliottの引きこもり具合が読んでいてじつにわかる。共感できる的な意味でわかる。
たとえ人生に挫折してなくても、ストレス溜まった時にAmazonでぽちぽち本をたのみまくる生活に耽溺してしまったらもうそこから出ていくのは面倒くさくてしょうがないよね!わかるわかる!って最初の章読みながら完全にうなずいてました。ましてや人生に挫折してそうなったならもう一生その穴ぐらから出ていける気がしない。

そんな非社交的な生活を送っているElliottは、本の処分方法を求めて、いわゆる私設図書館的な本箱を庭に置きます。
これ実際にここ数年アメリカではやりの運動で、本の貸し出しというよりは交換に近い形で本のやりとりをするんですね。とても楽しそうだと思う。紙の本ならではの自由さだなあ、これは。
もちろん庭に十数冊の本を出したところでElliottの家の中や本棚が片付くわけもないのですが(一冊もらわれていかれたら一冊どこかからやってくるシステムだし)とりあえず何かやっとけば兄貴にしばらく口出しされないですむだろという、逃避行為の一環です。
とはいえ、善意の図書館というアイデアにはElliottも心惹かれている。誰が借りるかもわからないのに、誰も借りていかないかもしれないのに、自分の蔵書の中からバランスよく本を選ぼうと考えこむElliottの姿からは、本への愛情と彼自身の誠実さが読みとれる。

真面目なだけに、かつて男に裏切られたことの傷はElliottの中に深く残っている。
憎しみや恨みというより、自分への失望感が大きい。なんであんなふうにころりと引っかかってしまったのか、自分はそれだけの人間でしかなかったのか。
そういう不確かさが、自分を信じきれなくなってしまった苦しさが、今でもElliottの中にひっそりと目立たない棘のように刺さって抜けていないのです。見えにくいけれども、たしかにそれはそこにある。そして多分、自分でも知らないうちにその小さな傷はちょっと膿んでいる。

そんな彼が出会ったのは、元警官で、膝を撃たれてリハビリ中のSimon。
二人は時おりの近所でのすれ違いから、そしてElliottの小さな図書館から、出会って、少しずつおずおずと距離をつめていきます。
Elliottの自己評価の低さをSimonはそのまま包みこんでくれるし、ゲイとしての恋愛経験のないSimonの経験不足をElliottは笑わず、一歩ずつ一緒に進んでいってあげる。杖をついて歩くSimonに歩調を合わせるのと同じように。
何気なかった日々の光景が、小さな図書館ができたこと、そしてSimonがその光景の中にいることで変わっていく。毎日が少しずつ特別に感じられはじめる。
このあたりの日常によりそった描写が自然でじっくりと読ませます。

図書館の本が借りられていくことでElliottは世間とのつながりを感じ、実際に借りていく人たちの顔を見たり言葉を交わすことで自分の本が、そこにこめた思いがとどいているような気持ちになれる。
己への信頼も他人への信頼も一度失ってしまったElliottにとって、兄やその妻のような「よく知っていて支えようとしてくれる人」よりも、本をただ借りていくゆきずりの人の笑顔のような小さなつながりこそが必要なものだったのかもしれません。世の中には悪魔やいじわるな小鬼ばっかりじゃないんだよ、という実感。
そしてそこには彼を愛してくれる誰かもいるし、出会いもあるのです。

中盤すぎあたり少し話のペースが平板だった気がするんですが、全体としてFieldingさんらしい、丁寧でよくまとまったいい話でした。おっとりしたユーモアも楽しめる。
Simonがなんだかほのぼの系のキャラで、元警官という実感があんまりわかないんだけど(仕事中に膝を撃たれてはいるんだけど)可愛いからいいや。
ほのぼのとデートを楽しむ大人二人の男を、こっちもほのぼのとしながら読ませてもらった、そんな心あたたまる話でした。

犬可愛いので犬好きにもおすすめできる話です。二人とも大人なので声を荒げて感情的に衝突したりしないし、一言の誤解でくいちがったりもしない、安心して読める一冊。

★私設(小型)図書館
★人間不信

Weight of the World
Goodreads-icon.pngRiley Hart、Devon McCormack

WeightOfTheWorld.jpg★★★ summary:
Tommyは常に弟を守ろうとしてきた。父親からの暴力も自分が一手に引き受けて、弟にはその拳が及ばないようにした。
弟のためなら世界のすべての苦しみを引き受けてやりたかった。
だが弟のRobは、ある夜にビルから飛び降りて命を絶つ。

何故?
あんなに守ろうとしたのに、何故だ?

理解できないTommyの前に一人の若者が現われる。彼はRobを知っていると言った。
そのZackには、決してTommyに言えないことがあった。
自分はたしかにRobを知っている。だがそれは一夜だけのこと…Robが飛び降りた夜、そのビルでのわずかな出会いにすぎないのだ。
あの夜、命を絶とうとしていたのはZackのほうだった。それを救い、人生に希望を持たせてくれたのはRob。
そのRobが何故まさにその夜に飛び下りたのか、彼にはそれがわからなかった。

二人は、Robが死んだ理由を探そうとしはじめる。
何故? 何故? 何故?
残された者たちはいつまで答えを探しつづけるのだろう。
.....



あらすじでわかるように非常に重い話です。
登場人物が悲惨な状況にあるとか行き詰まっているという話はほかにもあるけれども、この話は「去っていってしまった人の影を追う」話で、残された者たちの行き場のない悲しみと苦しみが全編を黒雲のように覆っています。

ロマンスがないかといえばそういうわけでは(勿論)なく、弟を失った真面目で厳格な男Tommyと、希望を失いながらもその弟に命を救われた(でもそのことを打ち明けられない)若者Zackの二人は、死者の残した痕跡を追いながら少しずつ絆を育んでいく。
しかし、ZackはRobが死んだ夜にまさに現場のビルにいたことを言えていないわけで、その秘密が明らかになった時に兄ちゃんはきっとZackを許せないんじゃないかなーと、ここにもまたどおんと重い時限爆弾が仕掛けられています。
あー、ほんとにキリキリする。胃が重くなる話だ…!

少しずつ見えてくるRobの姿が奇妙なほど明るくて、それが不思議と気持ちをなごやかにもしてくれるし、痛々しくもある。Tommyにしてみればいつまでもフラフラしているたよりない弟でもあったけれど、Rob自身はずっと苦しんでいた。それでもその苦しみの中で精一杯明るく生きていた気配はある。
実際、読んでいてなんだかRobの印象がひっくり返ってきて、最後にはけなげに思えてきてしまったくらい。
そしてあの運命の夜、飛び下りようとしていたZackを引き止め、人生を語り、煙草をわけあって一緒にダンスしてくれたRobは、たしかに一瞬の輝きを放っていた。その輝きに惹かれてZackはもう一度人生をやり直す決心をするのです。
なのに何故、Rob自身はそこで諦めてしまったのか。手放してしまったのか。
Zackにとって、それは解かねばならない謎なのです。とんでもなく緊張しながら、会ったこともないRobの兄の家のドアを必死で叩きにいくくらいに。

言っておくと、きっぱりと白黒つけてくれるような、すべてが明らかになって目の前に分けて並べられるような話ではないです。
むしろ人には他人のことは完全にはわからないし、誰かを完全に守ることなどできないという、そういうぼんやりとした限界が見えてしまうような話でもある。
神話のアトラスは世界の重さを双肩で支えたけれども、誰にも他人の世界の重さを肩代わりしてやることはできないのです。

謎を解くことよりも、人の死をどうやって残された人たちが整理し、あるいは背負い、悲しみ、その悲しみを消化していくのかというところに眼目のある物語です。
主役二人にもそれぞれの弱さや欠点があるし、それがむき出しにされる瞬間もあって、この兄貴に苛々させられたりもする。「正しい人」って困ったもんだ。

読む時の気持ちを選ぶ一冊で、そして読んですべてが晴れるかというとわからない。愛とロマンスはちゃんとあるけどね!
それでもよい物語だったと、読み終わった時にそう思った一冊でした。
人が人と理解しあうことには、たしかに限界がある。それでも、きっとそれだからこそ、そうして得られたつながりは大切で、思っていたよりも脆いその絆が、ときに失われたり、またつながりあったりすることが人生の陰影なのかもしれません。

重めに浸りたい時の一冊として。
こういう話もあるところが、M/Mジャンルの広さでもありカオスの一面でもあるなあ。

★秘密
★喪失

Plenty of Fish
Goodreads-icon.pngJosh Lanyon

PlentyOfFish.jpg★★☆ summary:
FinnはBlairのことを愛している。BlairもFinnのことを愛しているが、それは「そういう」愛ではないのだという。

Finnにはわかっていた。Blairはもっとキラキラした、物語のようなロマンスがほしいのだ。子供のころからずっと知っていた相手への気持ちにはそんなロマンスが欠けている。
Blairがいつも求めているのは、そんなロマンスそのものへの恋。相手への恋心はいつも二の次。

それでもFinnはずっとBlairのそばにいたし、Blairは必ずFinnのところへやってきた。
海にはたくさんの魚がいる。恋の相手には事欠かないはずだ。
だがその中のたった一匹に恋をしてしまったら? その時、海の広さはただの不毛な場所になりはしないだろうか?
.....



昔から知っている二人の、かわいい、ちょっとだけドラマティックな夏の恋物語です。
友達から恋人になりたい。それは的外れな恋心なのか?

FinnはBlairをずっと大好きだけれども、仕方なく親友が次から次へとロマンスの相手を変えていくのを見ている。
恋人にはなれなくとも常に自分は親友の「特別」であると思っているから、どこかで最後には自分のところへ戻ってくるだろうと思っているところがあります。
それでもBlairが、恋人とのデートの予行演習に自分を使おうとする無神経さにはちょっとカチンとくる。
たとえ、Blairと時間を一緒にすごせるならと承知してしまうとしても。ていうか承知してしまうんだけどね!駄目でちょとかわいそうなFinnなのです。

Blairだってそこまで無神経ではないだろう…ないはずだ…と読者的にもちょっとムカッとしながら(可愛い二人なんだけどね。親友ものって大好き)読んでいくと、Blair視点も出てきて、無神経ではないけどもしかして衝動にまかせて失敗しちゃう子かな?というところが見えてきます。
彼はFinnが恋しい。それを恋だと思っているわけではなく、ただ「昔ながらのFinnが恋しい。最近ちょっと冷たくない?」というたちの悪い無邪気な郷愁から、Finnが素直に恋しい。

で、実のところBlairにだってFinnに恋してるかも!って思った時代はあるのです。
ずっと昔、少年だった頃。
衝動的にキスしてみたけどFinnに怒られた甘酸っぱい、いやどちらかというと苦い思い出があって、それからFinnのことは心の中で恋の対象外に置いてきた。少年の時のそういう傷つきやすさっていうのは馬鹿にならないもので、とうに二人の間では昔話だけどBlairの心の中にはまだあの頃の自分も住んでいる。
あの時Finnに恋したと思った少年の自分も、拒絶に傷ついた少年の自分も。

そんな、仲良しだけれどもそれぞれ心にぐるぐる回る葛藤をかかえたいい大人の二人が、Blairのデートの予行演習という名目で沈没船の沈んだダイビングスポットに向かいます。
舞台設定は万全。そりゃあもちろんそこで何か起きるだろうというもの。

ひと夏の海と太陽の美しさと、さわやかで甘酸っぱい光景が楽しめる短編。
大人同士の話なのに青春ものを読んだような気持ちになる、肩の凝らない一本です。

★ダイビング
★幼なじみ

The Raven King
Goodreads-icon.pngNora Sakavic

TheRavenKing.jpg★★★ summary:
大きな犯罪組織から逃げているNeilを、Andrewは守れると言った。学校に残ってExyをプレイするかどうかはNeil次第だと。
だがAndrewは代価を要求する。天才プレーヤーKevinが逃げ出さないよう、同じチームに引き止めておくこと。

誰もが過去から逃げている。
彼らを守っているのは、社会病質者の青年Andrewだけ。
いびつな、一瞬にして壊れそうな状況の中で、少しずつNeilたちのチームはこれまでなかったまとまりを得ていく。
それは団結ではない。
きっともっと必死でもっと切羽詰まった、一秒ずつのサバイバル。

そんな中、AndrewとAaronの双子にも過去が追いついてくる。いつも一緒にいるくせに互いを憎んでいるこの双子たちにもそれぞれの物語があり、それがついに白日のもとにさらされていく。

そしてNeilの恐るべき敵も、Neilの存在に気がついていた。Neilはついに選択を迫られる。
すべてを捨てて逃げるか。手に入れるつもりもなかったなにもかもを後に残して。
それとも、足をとめて立ち向かうか。たとえ死が避けられないとしても。
.....



All for the Game2。
逃げ回り、警戒心が強く、人を信用しないNeilが少しずつ変わっていくシリーズ二冊目です。
彼とAndrewの関係もこの二巻で大きく変わる。

Andrewは、Neilが大量の偽パスポートを持っていることも逃亡中であることも知っているけれども、周囲にそれを話す気配はない。
彼にとって大事なのはKevinの身の安全のことだけに思える。
とは言っても、サイコパス気味で薬を飲んでいるAndrewに保護欲があるようには見えず、Neilに対してもなんだか「珍しいいきもの」「便利かもしれないいきもの」を見ているような感じです。

そのAndrewが大きな傷をかかえていること、そして彼なりの無慈悲で効率的な形でそばにいる人間を守っていることが、この二巻で見えてきます。
痛みをどこかに強くとじこめてしまったAndrewは、決して弱音は吐かない。ただ自分と世界を切り離しているだけ。
彼を覆った鋼の殻の向こう側をのぞけるのは、あるいはのぞこうという度胸を持つのは、同じくらい大きな痛みを背負って前に進みつづけているNeilだけなのです。
だからこそAndrewはNeilを嫌いながら興味を持ち、Neilの薄皮をはぐようにその中をのぞきこもうとする。
でも忘れてはならない。深淵をのぞきこむ時、向こうだってこっちがのぞけるということを。

二人のわずかな、一瞬だけかさぶたの内側を見せ合うような交流は、ピュアでもあるし痛々しくもある。

いろんな血なまぐさい設定はありながら、スポーツで青春で全寮ものの王道をきちんと踏んでいるシリーズだと思う。
青少年のわかりあえなさと、わかりあえないからこその互いの引力(二人だけでなく、チーム全体としても)が時に繊細に、時に荒々しく描き出されています。

一巻で少しゆったり目だった展開が、キャラ紹介完了で二巻になって走り出した感じ。ほかのチームの面々もはっきりとした個性や役割を見せて、このでこぼこで落ちこぼれのチームがまとまりはじめます。
Neilは気がついていないけれども、彼らをまとめていっているのはNeilの存在なのです。人のことに興味がないといいながら人のことを放っておけず、逃げるべきだとわかっていてもExyを愛するあまり(そしてチームにも愛着を持ちはじめて)自分の命の残りが減っていくのにそこを去ることができない。彼には自分でも気がついていない強さと統率力があって、それが見えてくるのもこの2巻からです。読んでいてとても応援したい。
それにしても人からちょっと優しいことをされるたびに、思考停止でフリーズしてしまうNeilがかわいいやら不憫やら。

2を読むなら3も買っておいたほうがいいですよこれは。
そこそこ青春展開だった2巻の後半から一気に怒濤の血まみれ展開がはじまって3巻になだれこみます。
YAだけれどもむしろ「YAはあまり」という人に読んでほしいシリーズ。有無を言わせぬ少年漫画っぽさもあって楽しいです。

★青春
★自己犠牲

★Three-Star rating system★


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