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M/M小説 (原書)レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
★三つ星評価システム★

→このブログについて

Murder at Pirate's Cove
Goodreads-icon.pngJosh Lanyon

PiratesCove.jpg★★☆ summary:
Secrets and Scrabbleシリーズ1。

Ellery Pageは役者崩れの脚本家(もと脚本家?)。役者といっても「歯磨きのCMに出てた」というレベルの役者。
男運が悪い彼は顔も知らない大叔母から古いお屋敷とミステリーの書店を相続して、小さなパイレーツ・コーブの町に引っ越してくる。人生を仕切り直したい気分だった。
静かな田舎町で商売を軌道に乗せようと奮闘するElleryだったが、手入れの行き届かない屋敷は文字通り崩れかけで、楽天的なElleryも自分の選択を疑い始めるほどだった。
そんな中、よりにもよって彼に店を売るよう迫っていた男が殺される。Elleryの店で。Elleryを第一発見者にして。
のどかな田舎町だったはずの町は、別の顔を見せ始める。ゴシップ好きで疑り深く、よそ者嫌い。
警察署長のJack Carsonまでもがはっきり言った。Elleryが第一容疑者だと。
.....


ラニヨンさんの新シリーズ。正統派のコージーミステリーです。
日常的な謎を中心として、あまりグロテスクな描写はなく話が進んでいくのがコージーミステリー。
主人公のElleryは大叔母(実際はGreat-great-great-auntなので高祖叔母?でいいのかな?)から相続したミステリー中心の書店を経営しています。書店主というと誰かを思い出しますが、Elleryはミステリーのファンでもなんでもなく、商売のコツも知りません。
当然四苦八苦しながら、尻尾を巻いて逃げ出した方が利口かもしれないと思いつつ、人当たりはいいけれどもちょっと頑固なところがあるElleryは歯を食いしばって頑張っています。
そんなところに降ってわいたのが殺人事件。

その殺人事件を捜査するのがJack Carson。強面で厳粛な警察署長。
Elleryは彼がゲイかもしれないと思いつつ(しかし自分の勘があてにならないのも承知しつつ)、署長の結婚指輪に色々な想像を膨らませてきた。
この署長がElleryに対してビシバシと「お前が第一容疑者だ」とか遠慮なく物申します。当人は単に客観的な事実を述べているだけという感じですが、オブラートに包まないにも程がある。そういう男。

そして身の危険を感じたElleryは、殺人犯にされそうなら真犯人を探しちゃえばいいじゃない!と閃くのでした。
それ大丈夫か。

田舎町らしく、ちょっと年上の隣人が多い。おせっかいだったり、なんとなく腹に一物ある感じだったり、都会育ちのElleryはどうせすぐ田舎暮らしに飽きてしまうだろうと色眼鏡で見ている風だったり、そんな微妙な雰囲気と距離感がよく描き出されています。
楽観的で気楽で、どちらかというと流され気質のElleryがかわいいんですよ。素直で柔和で人と揉めるのが大嫌い。基本的に善良。保身のために嘘をついてもつきとおせずにすぐ告白してしまう。
殺人事件捜査には一番向かない感じの、アマチュア探偵としても心配になるような性格ですが、田舎町特有の濃いゴシップに助けられてなんとなく事件の全貌が見えてくる。

Carson警察署長との関係は、まあ進まない進まない。そもそも署長がゲイかどうかもはっきりしない。Elleryは彼のことを「ゲイだといいな」と思いますが、恋心というよりは「こんな小さな町で自分一人だけゲイだなんてちょっと肩身が狭い」という大変人間らしい理由が大きい。
でもそこに滲み出す「何かありそうな雰囲気」。ラニヨンさんはこれを書くのがほんとうまいよね!この一巻はその「何かありそうな雰囲気」のまま終わってしまいますが、この先の展開が実に楽しみです。
署長は絶対心の底で、素直で巻き込まれ体質のElleryのことを「愛い奴…」って思ってるよね。間違いない。思ってるけど、彼は彼の事情で距離を取ろうとしている感じがします。

ちょっとのどかでほのぼのして、気楽に読める一冊。殺人事件はあるけれども殺伐としてはいない話。今回のシリーズはそんなふうになりそうです。まだエロはない(って注意書きにも書いてあって笑ってしまった)。
心が少し疲れた時にもぐりこむこたつみたいな、ほっとできる(でもミステリだけどね!)一冊が読みたい時に。さらっと読めて、でもかわいいです。

★田舎町
★アマチュア探偵

Best Man
Goodreads-icon.png Lily Morton

BestMan.jpg★★☆ summary:
ZebはJesseの上司だ。LGBTの人々を対象にした便利屋(というにはでかいけど)を経営し、人々がその場を切り抜けるための偽のボーイフレンドやガールフレンドを派遣したり、様々な助けを提供している。
学生ローンの返済のために職を探していたJesseは、3年前求人広告に応募して、この堅物としか言いようのない隙のない上司と出会ったのだった。

あれから3年。Jesseは今でもこの上司に一目惚れしたままだ。もうじき辞めるつもりだが、会えなくなったら淋しくなるだろう。
だがずっと仕事としての距離を保ってきたそのZebが、初めてJesseに個人的な頼みごとをしてきた。元彼の結婚式で介添人を頼まれたから、Jesseに一緒に来てほしいと。

恋人として。
.....


Close Proximity1。

反目、あるいは完全によそよそしい関係+フェイクボーイフレンドものです。
隙のない皮肉屋の上司と溌剌として自由奔放な若い部下、というのはこの作家さんの大好きなシチュエーションのようです。私も大好きだ!

しかしこのZebは真面目にもほどがあるでしょう。何といっても浮気して別れた恋人が、体面のために女性と結婚するというのに、ほとんど騙されるようにして結んでしまった約束をかたくなに守ってその結婚式の介添人(BestMan)として出席しようというのだから。かといって未練があるわけでもなく、気持ちは完全に切れているようなのに(少なくともebのほうからは)。
真面目だとか責任感があるとかをちょっと超えている。ふつう断るだろうそれ。

Jesseだってそうは思うのですが、この上司と一緒にいられるという特別な時間がうれしくてそんなことには目をつぶってホイホイお供についていく。かわいいな。そんな後先考えないところがJesse。

浮気者の元恋人というのは金持ちで、結婚相手の女性もどえらい金持ち。
そんなわけで結婚式もまだ先だというのに豪華なホテルを貸し切って婚前パーティーと洒落込みます。豪勢。

ああ言えばこう言う口の減らないJesseと、何かと眉を顰めながらも彼から目を離せないZeb。
41歳の上司と21歳の部下。その年の差もあってZebはいつも用心深く距離を取り、目をそらしてきたので、Jesseが学生ローン返済のために働いていることももうじき会社を辞めることもまるで気が付いていません。
Jesseの方もそれでいいと思っていた。ですが偽のボーイフレンドとしてそばで一緒に過ごすうちに、彼はZebの中にある脆くて傷つきやすいまだ子供の部分をも垣間見ることになる。
なぜZebがどんなくだらない卑怯な約束ですら破ることができないのか。まるで約束を守ることが人生で一番大事なことのように振る舞っているのか。

しかしJesseは生粋のトラブルメーカー。決して自分でトラブルを引き起こしたいわけではないし、悪意で何かするわけではないけれど、むしろ好意と過剰なエネルギーからいつも余計なことをしてしまうタイプ。
そしてはZebに対してとても強い好意を持っている。周りの人間からの悪意に過剰に反応してしまう位に。
つまるところ、口さがないことを言う花婿の両親に対して遠慮なく言い返してそのウィットで周りを爆笑させちゃったりとか。
Zebだって何故彼に恋人のふりなんてたのんだのか、自分でも自分の判断がよくわからない。Jesseは「歩く災難」「生けるカオス」で、こんな場につれてきて無事ですむなんてありえないのに。
さあその謎が彼に解けるでしょうか(わくわく)。

イギリスものらしい皮肉とウィットに富んだ会話がてんこもりで、どう見てもZebとJesseはお似合いのカップルに見える。自分自身への誓いで自縄自縛のようになっているZebを解き放てるのは、多分Jesseの奔放で野放図なエネルギーだけだしね!
話としては味方と敵が割とはっきりしていて、読みやすく、色彩豊かです。特に前半部はホテルを主に舞台にしたドタバタ群像劇の風情がある。
上司にズバズバと物申して困らせ顔を楽しむJesseも可愛いし、上司を全力で守った後にちょっとやり過ぎちゃったかなとか恥をかかせちゃったかなとか反省しておとなしく振る舞おうと努力してみるJesseも、読んでいて可愛いのですよ。
でもおとなしくなったJesseを見て、Zebはいつもの屈託のないJesseに自分がどれだけ心温められてきたか気付くのですが。

若者にたじたじとする年上とか、逃げ腰になるけれども逃げられない年上とか、やっぱりあの笑顔が心の糧だったと後になってから気付く年上とか、そういうものを見るとついニヤニヤしてしまう人に大変おすすめ。気持ちが楽しくなれる読書です。

★年の差
★偽の恋人

The Hitman's Guide to Making Friends and Finding Love
Goodreads-icon.pngAlice Winters

HitmansGuide.jpg★★☆ summary:
殺し屋というのはなかなか良い仕事だ。いろんな役得がある。張り込みの最中、柵を乗り越えようとした謎の男がズボンを柵に引っ掛けて尻を丸出しにする瞬間を見られたりとか。
Lelandはその男のことが、というかその尻のことが忘れられなかった。

尻の持ち主は探偵のJackson。真面目で杓子定規な男。
探偵なんて殺し屋の天敵であるべきだ。だがどうもLelandの殺しのターゲットと、探偵が追っている標的は同じらしい。
獲物が同じなら共闘できる…だろうか?

殺し屋稼業なんて、一人で生きて一人で死んでいくのだと思っていた。
でももしかしたら、ほかの生き方があるのかもしれない。二人でならそれを探せるかもしれない。
.....


警察が何十年も追っている謎の殺し屋Sandman。
そのSandmanと名乗って目の前に現れた殺し屋は、飲酒もできるかどうかという若さに見えて、探偵のJacksonは目を疑います。
しかもその殺し屋は、Jacksonの尻に一目惚れしたと言う。なんてめちゃくちゃな話。

殺し屋のLelandはどういうわけかJacksonに付きまとい始め、うるさくてしつこくてふざけた若者ではあるけども、Jacksonはなんとなくほだされていくのです。LelandにはJacksonの保護欲をかきたてる脆さがあった。
いや、でも殺し屋なんだけどね!

ただSandmanは、犯罪者しか殺さないという殺し屋です。かつて例外がなかったわけではありませんが、今のLelandが標的の身辺を徹底的に調べ上げ、犯罪を把握しているのは明らかです。その調査は探偵のJacksonが感心するほど徹底したものだった。
殺し屋といえども、つい尊敬の念を抱いてしまいかねないくらい。

設定も吹っ飛んでますし、Lelandのキャラクターも吹っ飛んでいるし、話のテンションもかなり高いです。とにかくLelandがふざけている。最初のうち姿を見せないままJacksonのストーカーとなった彼は、意識のないJacksonの乗った車をアダルトグッズショップのそばに停め、座席をアダルトグッズでいっぱいにします。わあプレゼントだ!使ってみてね!
悪気のない、いや悪気はあるんだけど無邪気な、一方的な好意。冷静に考えるとかなり怖いんだけど、Lelandの、後先考えずそれだけに底抜けに明るいキャラクターのおかげでユーモラスに読めます。

前半の、殺し屋と探偵が直接顔を合わせないままネズミと猫の追いかけっこをしていたところが一番楽しかったかな。Lelandの好意(という名の嫌がらせ)、それを本気で嫌がっているけれども怒りきれないJackson。
Lelandの子供っぽさと不気味なほどの良心の呵責の欠如が、そのユーモアの中からうっすら透けて見える感じもよかった。

後半はちょっと長かったですね。殺しをしないでも生きていけるかどうかとか、Lelandの迷いとか、でも愛ゆえに、みたいな葛藤は面白いんですけど(あとどうしてもLelandに甘いJacksonとか)、やはりこの話は前半が白眉。
なんせ殺し屋が主人公なので、モラル的にどうこう言い出すとかなりアレなんですが、そういうこと抜きのシチュエーションコメディとしてかなり楽しめると思います。シリーズものなんだけどどうかなー、単発ものの方がいいんじゃないかなーと思いつつ、でも続編は読もうっと。

★殺し屋と探偵
★ヤンデレ気味

Imago
Goodreads-icon.pngN.R. Walker

imago.jpg★★★ summary:
本の虫で、人間関係は下手くそ。頭が良くて、自分でもその天才をよくわかっている。
そんなLawsonは、蝶を研究している昆虫学者だ。
存在しないかもしれない幻の蝶を探して、タスマニアの小さな町へとやってきた。ある年老いた学者の夢を叶えるために。

蝶を研究しているなんて言うと大体の人間が笑うのだ。可愛い仕事ですね、とか言って。
だが自然公園と野生動物の管理官をしているJackは笑わなかった。生き物の美しさを知っているから、そしてそれを守り解き明かそうとする人間の情熱を知っているからだ。
そんなふうに誰かに理解してもらえたのは、Lawsonにとってはほとんど初めてのことだった。

蝶を探しにやってきたのどかな町で、二人は思いもかけない恋を見つけることになる。一歩ずつ近づき、一つずつ育んでいく。大事な蝶の羽化を待つように。
.....


ナードな天才君とマッチョなアウトドア男の、微笑ましくも可愛らしい、そして自然描写がとても美しいお話です。
舞台はタスマニアの小さな町。独特の自然があるところで、その景色の美しさが豊かに語られている。

なんといっても読みどころはLawsonのキャラクター。典型的な文系の天才なんだけれども、奥手なタイプではない。自分のことを天才だとわかっていてそれをひけらかしもしないが隠しもせず、有能さへの賛辞を当然のように受け入れる。
割とアグレッシブなタイプの天才です。
そして蝶を心の底から愛している。

昔、ある昆虫学者が一匹の蝶を見た。まず間違いなく新種の蝶。彼は長い時間かけてそれを探したけれども、二度と出会えることはなかった。
自分が年老いた今、誰かにそのバトンを渡したい。気難しいその学者が選んだのが、歯に衣着せぬLawsonです。
そしてLawsonは人の夢を追ってタスマニアへとやってきた。
Chasing butterfliesとは、実現不可能な夢を追うことを揶揄する英語の言い回しです。いるかいないかもわからない新種の蝶を探して、あくまで楽観的に、しかし現実的に、一つ一つ土壌成分を確かめサンプルを取って、いそうな場所を探していくLawsonの仕事ぶりはなかなか興味深い。

JackはそんなLawsonの自信や自負、にじみだす自然なプライドに惹かれていきます。
常にアカデミックなLawsonのしゃべり方も、その蝶ネクタイも(英語だとbowtieですが日本語だと「蝶」ネクタイなのが偶然にしてもかわいい…)、礼儀正しく理屈っぽいその態度も、とにかくすべてがJackにとって魅力的に映る。
町に滞在できる期間が限られているLawsonのため、Jackは毎日デートを計画します。このデートがめちゃめちゃ可愛い。閉店後の町のベーカリーでの二人きりの時間、星の下でのピクニック。最高か。

常に人と違ってきたLawsonは、他人にわかってもらえないのを当然としてるようなところもあって、マイルドですがそういう葛藤や傷の描写も少しあります。
とは言えこの話のメインは、正反対の二人が出会って、お互いの間にある調和をだんだん深めていく心あたたまる姿。
地に足のついたキャラクターのおとぎ話のようなロマンスを、タスマニアの美しい景色が包み、夢か幻のような蝶がその「おとぎ話感」をいい意味で強めている。
その美しさを安心して楽しめる、いいロマンスです。

Chasing butterflies。
二兎を追うもの一兎をも得ずとは言いますが、二人は蝶と恋の両方をその手につかめるのか。是非読んでみてください。文章も素直で読みやすいです。

★幻の蝶
★天才学者

Fired Up
Goodreads-icon.pngRiley Hart

FiredUp.jpg★★★ summary:
AshとBeauは高校の同級生でフットボールチームの仲間。だがBeauはAshのことが好きではなかった。少なくともそう、自分に言い聞かせていた。
AshはいつもBeauをからかい、絡み、笑いものにしようとしているかのようだった。

とりわけある酔った夜、Beauにいきなりキスをして、酔いを言い訳にそのまま逃げ出してからは。Ashのことなど大嫌いだ。

それから10年後、アメフトの大スターとなっていたAshだったが、女遊びと酒でいつもトラブルを引き起こしていた。スキャンダルもあって新しい契約がもらえず、あてもなく故郷に戻ってくる。
10年ぶりの再会は、苦い過去の思い出を蘇らせるかのようだった。どちらもが忘れ去ろうとしてきた思い出を。
.....


Fever Falls1。
仲が良かったのか仲が悪かったのかわからない、ただいつもあいつから何かとちょっかいを出してきて、やたらと角突き合わせてた気がする。
Beauの側から見たAshはそんな男。

非難の目つきを向けられることが多くて、笑ってほしくて、いつも馬鹿なことをしたり言ったりしていた。そんなことをしてるうちに、困らせたり怒らせたりするのがいつものことになっていた。
Ashの側から見たBeauはそんな男。

これがどこぞのアメフトドラマだったら確実にこの二人の二次カプは大手だね!もうくっついちゃえば!?って思うようなすれ違いですが、まあもちろんそんなにうまくはいきません。うまく行ってもらっても困ります。
二人の視点で交互に進んでいく話なんですが、とにかくAshのキャラが複雑。外面的には自信たっぷりの、スター街道を歩いてきた、女に目のないお調子者。ただ内側から見たAshには、誰にも見せない繊細な心のひだがあります。
他人の期待を裏切ることへの恐れ。フットボールと切り離したら自分には何もないのではないかという恐れ。誰もが何かを求めて利己的に近づいてきているだけではないかという恐れ。
名声を失ったら、自分は何ほどのものだろう。
そして、ずっとひた隠しにしてきた男への欲望への恐れ。

そのすべてから逃げるために彼は酒を飲み、女遊びをしてきた。

一方のBeauは、責任感の塊のような男。Ashのように有名なチームのある大学に行ってプロのアメフト選手を目指すという道もあったけれど、彼は町に残り母とダウン症の弟を支え続けてきた。
ただ彼は、あのAshとの一度のキスで自分がゲイだと悟り、今はそのことをオープンにしています。
戻ってきたAshとBeauが再会するやいなやまた遠慮のない言い合いが始まりますが、誰もが自分の機嫌を取ろうとする中でそれはAshにはとても新鮮な変化だった。Beauは変わっていなかった。そしてAshはそんな新鮮さを求めて(少なくとも自分はそんなつもりで)Beauに近づいて行くのです。

Beauにはダウン症の弟がいて、彼の面倒を自分の責任と考えていますが、弟の方では兄に自分の幸せを見つけてほしいと心から願ってます。
ここの兄弟愛が本当に美しい。障害のある子供達のためにアメフトチームを立ち上げてコーチをしているBeau。ある日Ashはそのコーチの様子を見に行って、胸を打たれます。自分がいつのまにか失ってしまっていたフットボールへの情熱を突きつけられた気がして。
この先どう生きていきたいのかまったくわかっていない、フットボール以外の夢もなかったAshにとって、ひたむきに生きているBeauとその弟の姿は、一つの道標のように輝いて見える。でもそれに手をのばすのは怖い。一線を越えてしまうのは。
そんな人間関係の心の交錯が、ふざけあい軽口を叩き合うふたりの日々から浮かび上がってくるような物語。

とにかくAshがいつもふざけている子供のようで、それが微笑ましくて楽しいけれど、時々切ない。
Beauに惹かれる気持ちのリアルさが増すにつれ、自分をゲイだと認められないAshの恐怖もだんだん高まっていきます。ずっと自分に嘘をつき、人も自分も騙して生きてきた。その生き方を変え、お調子者の仮面を外すのは彼にとって楽なことではないのです。
ただBeauはそんな仮面にとらわれず、Ashの素顔を真っ直ぐ見ている。そのBeauの存在が心の支えになります。
カミングアウトはいつでもいいよ、自分のペースで、というBeauに対して、Ashは「でもいつまでもダメだったら? いつまでも怖かったら?」と問いかけるのです。自分を信じることができない。そしてそんな自分を人に見せることができない。

軽さとリアリティ、それに恋の美しさや強さがうまく絡み合ったバランスのいい読書でした。
ゲイであることを隠すだけでなく、その裏にある根深い自己否定、自己疑心がくっきり描かれているのが印象深い。でも自分を信じる誰かがいてくれるだけで、人は時に、自分で自分を信じることもできるのです。
そんな地に足のついたカミングアウト話として、とてもおすすめ。

★カミングアウト
★スター選手

Top Secret
Goodreads-icon.pngSarina Bowen, Elle Kennedy

TopSecret.jpg★★ summary:
LukeはKeatonが大嫌いだった。この寮にいる全員と同じく、甘やかされた金持ちのドラ息子。
寮長選挙などにも興味はない。だが寮長は1年間の寮費が無料だと聞いて、LukeはKeatonの対抗馬として選挙に出ることにする。学費を稼ぐので必死の彼にとって、寮費免除はそれだけの価値があった。

Keatonはつき合っている彼女から「誕生日プレゼントに3Pがしたい」と言われて頭を悩ませていた。友達にたのむのも変だろうし、知らない相手は危ないだろう。ついに彼はネットの出会い系掲示板に頼る。
LobsterShortsと名乗る彼の悩みに相談に乗ってくれたのはSinnerThreeというアカウントで、いつしか二人は誕生日プレゼントの相談を越えて親しいテキストを交わすようになっていく。

同じ寮の仲間だとは、まるで知らないまま。
.....


というわけで、「Him」を書いた人気作家コンビが久しぶりに出版したM/Mということで、とても人気の一冊です。
シチュエーションはわかりやすい。金持ちと貧乏人、銀のスプーンをくわえて生まれてきた者と泥の中から這い上がってきた者。
基本的にはシンデレラストーリーの構造をしていると思います。

Luke(SinnerThree)は地元の生まれで、地元枠を使って大学に入った。家から通うのが普通なのだけれども、毒親と犯罪者の兄から離れようと無理やりに寮に入った。寮費その他の工面にいつも四苦八苦していて、ゲイバーでストリップのバイトをしています。
Keatonはそれとは正反対。製薬会社経営者の父親、昔からの婚約者、金と友達には困ったことがない。ただ彼は父の描く未来図とは違った夢を持っていて、それをまだ言えずにいます。

二人は水と油のように反目し合っている。Lukeは自分の状況を誰かに知られるのが嫌で閉じこもっているし、さもなければバイトに行ってて留守だし、Keatonのような金持ちのボンボンをバカにしているところもある。
誰とでも仲良くやってきたつもりのKeatonは、Lukeの刺々しさや反発心にとまどい、腹を立て、その悪循環はすっかりこじれている。

彼らは偶然にもネットを通じてテキスト友達になり、3Pに協力してくれる?の相談だったはずが、いつのまにかお互い誰にもこれまで言ったことのないような打ち明け話をする仲にまで発展します。しかも段々話の方向がエロくなっていく。彼女抜きで。
この二人のテキストがかなりはっちゃけていて、同時にリアルで顔を合わせる二人はいつも刺々しく、そのギャップがなかなかの読みどころです。可愛いし楽しい。同時に、いつバレるのかなというスリリングさもある。
この軽やかな読み味がこの作品の魅力だと思います。

ただこれ割と、日本の読者さんだとなんだかどっかで読んだ感じがあるんじゃないかと思う。BLとか、そうでなくても普通に漫画にありそうなシチュエーションと展開だと思ってしまった。テンションがちょっと漫画に近いんですよね。だから読んでて楽しいんだけど、深く引き込まれたり、濃密なスパークを感じるシーンはあまりなかったかな。
あと、彼女との3P相手を探すという最初の目的ゆえに前半は結構彼女が濃厚に出てきて、個人的にはちょっとしんどかった。この手の話の中で女の子とのスキンシップは絶対に読みたくない、という人はやめといたほうが無難かと。

Lukeの毒親問題とか重い側面はありますが、大学生、しかも友愛会の寮という(この友愛会がAlphaDeltaって名前なんだよ!)現実離れしたシチュエーションで話が進んでいくので、全体には軽くて気分のいい読書。寮長選挙の選挙活動が「素敵なパーティーを主催すること」だったりするあたりもご愛嬌。
その手のシチュエーションものが読みたい時にはぴったりの楽しい読書です。やっぱりBLとの親和性が高いと思うので、M/Mの中でもBL寄りのものがいいな、という気分の時に。

★格差カプ
★大学の寮

Tallowwood
Goodreads-icon.pngN.R. Walker

tallowwood.jpg★★★ summary:
Tallowwoodの小さな町で死体が見つかった。
それはただの古い死体かと思われた。だが町の警官、Jacob Porterは何かひっかかるものを感じ、シドニー警察のコールドケース班主任、August Shawに連絡を取る。これは連続殺人のひとつではないかと。

Shawはかつて輝けるゲイの星であった。まだ時代がそこまで追いついてないころ、警察内で胸を張ってオープンにゲイだと公表し、公的なパーティーに恋人をつれていった。
かつて雑誌にも載った、その幸せそうで誇らしそうな彼らの姿はJacobに勇気を与え、自分の性的指向を隠さずに生きていく心の支えとなった。

そのShawと、ついに本当に対面するのだ。憧れの相手と。
そして現れたShawはにこりともしない、陰気で、自分の内にとじこもった仕事中毒の男であった。
彼は変わったのだ。8年前に恋人が殺されてから。
.....



N.R.Walkerさんのコールドケースミステリーもの。
読みやすくほのぼのするようなお話が多かったWalkerさんですが、ここ数年でかなり作風を広げています。この一作もそのひとつ。今とても注目の作家さんと言えるでしょう。もちろん人気もある。
さて、この作者さんにしては珍しく、この話はどこか鬱々とするような暗い影が底に流れています。それは不気味な、自殺に見せかけられた連続殺人の存在と同時に、主人公の片方、Shawのキャラクターによるところが大きい。
シドニーの警察で狭苦しい一室をオフィスとして与えられ、ただ一人コールドケースに取り組んでいる刑事。仕事以外では誰とも関係を持っていません。職場の誰も、腫れ物のように彼に近づかない。ひたすらに孤立し、その孤独を鎧のようにまとっている。
今の彼の生きがいはただ昔の事件を解決し、苦しんでいる遺族たちに「答え」を届けることだけ。
ひたむきで、痛々しい生き方です。

一方のJacobは、若々しくを明るくへこたれず、憧れのShawのパーソナルスペースに平然と踏み込んでくる。
刑事としても非常に勘が良く、同時に捜査の手順を心得ていて、臨時ですがとてもいいShawのパートナーになります。
誰かと一緒に捜査など長いことしたことがないShawにとっては、大きな環境の変化。しかもどういうわけかJacobの家に世話になるなんてことになります。

子犬がむっつりしたおじさんにまとわりついているかのようで、不屈のJacobに何度も笑みを誘われます。洒落やギャグを飛ばしながら、Jacobは心得顔で、ひとつずつShawの鎧をこじあけていく。
その下にいる、優しい人の顔を知っているから。
原住民の血を引いているJacobは、「それはアボリジニの超感覚か?」なんてShawが不適切なジョークをうっかりとばしても流すことなく「人種差別」ときっぱり指摘する、そんな断固とした勇ましさをも持っています。
オーストラリアは多くの人種がいて、移住者による先住民差別の歴史なども根深いと私も知識としてはぼんやり知っていますが、はっとさせられる部分がいくつもありました。大胆にShawへと踏みこんでくるJacobが、人を深く思いやる繊細さを同時に見せるのは、彼自身の複雑なバックグラウンドによるものなのかもしれない。

連続殺人の一環とみられた死体を捜査するうち、さらに別の死体も出てきて、これまでの犯人の行動原理と合わない部分も出てきます。
そのパズルを解こうとShawは躍起になりますが、解いた先に待っているのは彼の過去にも深く結びついた、遠い昔からの因縁。
Shawを今のような殻にとじこもった男にしたあの事件。

そのShawの殻を叩き壊していくJacobの勇ましさと不屈のユーモア精神がとにかく素晴らしく、こんな子犬にロックオンされてしまったらもう諦めるしかないんじゃないだろうか。
それでも一歩ごとに「俺はこんな男だ」「お前には似合わない」と抵抗するShawですが、ついに彼が心を開いた瞬間のシーンが素晴らしい。
過去から解放され、重荷を下ろした瞬間。自分を罰さなくてもいいのだと心から悟れた瞬間。
過去ありの中年キャラ好きなら読んで損はありませんね!

事件も非常によく書き込まれていて、ミステリとロマンスがきちんと両立した貴重な一冊です。
冬の夜長のお供に一冊いかがでしょうか。ミステリ好き、過去ありキャラ好きには特におすすめ。

★コールドケース
★連続殺人

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・2020年春 叛獄の王子短編集「夏の離宮」

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*他訳者さん*
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