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M/M小説 (原書)レビューブログ

※万人向けの内容ではないのでご注意ください
★三つ星評価システム★

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Rocket Science
Goodreads-icon.pngK.M. Neuhold
RocketScience.jpg★★☆ summary:
恋はロケットサイエンスとは違う。
もし恋が科学と同じなら、うまくやる方法もあったはず。

弟から、離れた大学に行く親友をよろしく!とたのまれて、Paxは仕方なくElijahと会うことにした。なんとなく記憶にある、本の虫でシャイだった弟の親友。
でも怖がられていたような気がするのだが。それでも、滅多に頼みごとをしない弟のお願いだ。

Elijahは、親友の兄のPaxにずっと恋をしていた。
だが自分がとても人間付き合いが下手なのはわかっている。ずっとそばにいてくれたのは親友ひとりだけ。
だから、Paxが彼と話してくれるのも、メールを返してくれるのも、また誘ってくれるのも、ただの哀れみや義務感からに違いないのだ。
.....


ギークと世馴れた遊び人のかわいい恋物語。

人が苦手、しゃべるのも友達を作るのも苦手、なにか社交的な集まりに行くといつもいじめられたりからかわれたりして嫌な思い出しかないElijahは、自分には恋とかは縁のないものだと思ってます。もちろんバージン。
化学や数学と違って人間は全然論理的じゃない。意味がわからない。
でも恋はしたことがあって、親友の兄を見ると何も言えなくなった少年時代の気持ちを今もまだ持っている。

その親友の兄ことPaxはばりばり働き遊びまわる社会人。普通にいい人ですが、「ああいう人とは付き合うもんじゃないよ」とよく言われるタイプだし、そのことを自分でも自覚している。
恋なんかめんどくさい。誰かと付き合うと何かを期待され、その勝手な期待に応えないとなじられる。
そんな厄介はもういらない。

そんな2人が、なんだかんだで飲みに行ったり、頻繁なメールをかわしたりして、思いもかけずにお互い楽しい時間をすごすようになっていく。
そしてついつい、あんまりいい考えじゃないと知りながら一線をこえるのですが、越えてなおお互いに「これは社会勉強であって恋じゃない」っていう言い訳を盾にしているところがダメでもあり可愛くもあります。
どんな社会勉強だ。っていうかまさに「いけない大人の言い訳」なのですが、でも押してるのはPaxじゃないというところがミソ。

全体にはとても軽妙なタッチで進むおとぎ話系のロマンスで、王子様のPaxがやってきてElijahの世界が開けるというシンデレラ構成。しかしこの王子様はちょっと世間擦れしていて、それを自分でも自覚していて、「恋なんかガラじゃない」という鎧をまとっています。恋なんかガラじゃないわりにはすごく素敵なデート計画をElijahのためにせっせと練っているんですけどね。
そのつき合いの中で、Elijahがだんだんと自分に自信を持って少しずつ殻から出て行くのとは裏腹に、Paxは全然前に進めない。
そんな大人のずるさが純情でまっすぐなElijahにどこまで通用するものか。そこの葛藤が楽しい。

デートのくり返しでかわいく進んでいく(しっかりエロもある)話で、ギークと遊び人という対比もかわいいくて、いいペースで読める話です。
もう少し話のひろがりとか深みがあってもいいかなとは思うんですが、かろやかな一冊でありながら軽さだけでもなく甘さだけでもないというバランスは見事。たしかにこういう話が読みたい時もある。甘くてさわやかな読み口です。
ギークもの好き、ギャップカプ好き、軽妙な一冊を読みたい時におすすめ。

★ギーク
★年の差

Whisper
Goodreads-icon.pngTal Bauer
whisper.jpg★★★ summary:
2001年、9月11日。
CIAの若き情報分析官であるKrisは、ツインタワーに飛行機がつっこむのを見ていた。炎上したビルから、人々が飛び降りていくのを見ていた。
彼はその飛行機をハイジャックした人間たちの名前を知っていた。危険人物としてチェックしていた名だった。なのに止められなかった。

アラブの危険を甘く見ていたのは上層部だ。だがKrisは自責の念に苦しみ、ビン・ラディン狩りに編成された部隊にくわわってアフガニスタンへ赴任する。
いつ終わるかもわからない旅の、それが始まり。

Krisの態度と不屈だが生意気な物言いは敵をも多く作ってしまう。
そんな中、衛生兵として部隊に同行したDavidだけは影のように彼に寄り添い、守ろうとしてくれた。
リビアからの亡命者であるDavidは、子供の頃にイスラム教を信仰してきた。そんな彼が今度はイスラムの狂信者を狩る側に回る。
正義を求めてアフガニスタンへ来たKrisも、暴走していくアメリカの政治に翻弄される。恐怖が血を呼び、血が憎しみを呼び、互いの憎しみが戦いと死体を作り出す中、2人には互いだけが光だった。
.....



重い。重いぞ。
あらすじからわかっていたのの数倍は重い。
世界にはなんの救いもないのか、もう始まってしまった憎しみの連鎖は止められないのか、という気持ちになることいくたびか。
人間て、人間の理想って無力だ…なんていう気持ちにもなります。ニーチェは言った。「怪物を追うときは自分も怪物とならないよう心せよ」と。だが憎しみばかりがあふれる世界で、その憎しみを鏡写しのように増幅させないのはとても難しい。

そんな中、Krisの正義感や「くそくらえ」的態度には救われます。彼は別にCIAに入りたかったわけでもなく、その語学の才能とアラブの言葉や方言に通じている知能を買われてスカウトされた。そして若くしてアフガニスタンに、過大な責任を負わされて赴任する。彼を見下すマッチョな兵士たちに囲まれて。
CIAでもゲイであることを隠そうとせず、おしゃれな格好でアイライナーを引き、髪を逆立てて働いていた彼は、人から白い目を向けられ続けたせいなのか、「異文化を理解する」ことに貪欲だし、長けている。アフガニスタンの有力者をさっさと金や権力で買おうとするCIAの上司をいさめ、ゆっくりと文化的な交流を経て相手への尊敬を見せ、友誼を勝ち取る。
そんなKrisの価値を認めているのは、衛生兵のDavidだけのようにみえます。
まあ正直Krisの小生意気さには「なんだこいつ」って思うところもあったりしたんですが、取り巻く状況が過酷すぎて、もう途中からは読みながら彼の意地と気骨に拍手を送りたい気持ち。

Davidは根無し草。10歳の時にリビアからアメリカに亡命し、アラブにルーツがありながら今はイスラム教を信仰してもいない。
自分が何者なのか、Davidにとってそれはいつもグレーの領域。いわば、人に決められてきたものです。
そんな彼にとって、自分自身をいつわらず堂々としているKrisはとてもまぶしい存在だった。いつしかKrisを守ることが彼にとって生きがいになっていく。

2人はそれはもう激しい恋に落ちるんですが、この恋が純粋であればあるだけ先の展開がしんどい。
Krisがどれだけ捕虜から情報をうまく聞き出そうと、アメリカ本国は「手ぬるいんじゃないか」「もっと何かあるんじゃないか」「たしかめるために拷問しよう」とくるし、もはや政治家たちは恐怖につき動かされている。
敵を止めなければならない。敵を殺さなければならない。敵とみなしたものは殲滅せねばならない。
物語全体からその恐怖がたちのぼってきます。アメリカ側の恐怖だけではない。イスラム圏の人々の、頭上をドローンが飛び回り爆撃してくる恐怖、殺されまいと、奪われまいとして「聖戦」へと走る若者の恐怖。その連鎖の恐ろしさ。
そんな泥沼の中、Krisはより有力な情報を求めようとして、大きな判断ミスをしてしまう。

いやーもう駄目かと思った。あれだけ読んでアンハッピーエンドだったら耐えられる気がしなかったわほんと。Krisかわいそすぎるだろうー!

世界が地獄のようだからこそ、2人の燃え上がるような恋がいじらしい。
しかしその恋でも太刀打ちできない運命があるのです。彼らが生きているのはそんな世界。

こういう対テロ話にありがちにただ敵を「狂信者のテロリスト」として片付けるだけでなく、イスラム教についてきちんと描かれています。そういう意味でもDavidという、イスラム教をかつて信仰し、今でも心にその教えが残っているキャラクターの存在が際立つ。テロリストの教義を弁護するのではなく、そもそもテロの教義はイスラムの教義そのものではないということを、じっくりと描いていきます。
作者はこの話を書いた後「イスラム教信者なんですか?」という質問を随分もらったそうで(違うとのこと)、それくらいきちんと誠実に書き込まれている。
9.11が世界に与えたインパクト、その波紋が生んだ断絶。そしてその断絶は、相互理解をきっとほとんど不可能にしてしまった。そこに橋をかける日が、いつか来るのか。
傷ついたDavidを我が子のように庇護したイスラム教の男、Davidを尊敬し「ジハードは心で戦うもの」という教えを守ろうとする子供、ゲイを受け入れる進歩的なモスクの人々。そんな希望の種も物語の中にかいま見えます。

一方でキリスト教の存在がほぼ描かれなかったのは少しアンバランスにも感じたけれど、物語の構造として、宗教対決にしたくなかったのかなと。

物語は、2001年から「現在」、おそらくこの小説が出た2018年までの、じつに17年間続く。
そしてきっとそこで終わりではない。自分の怒りを、恐怖を、憎しみをもって何をするか、どう向き合うか、それはこの先へ向けて問いかけられているのだと思う。そんな波紋の一石のような読書でした。

読後感は、重いですけども、ロマンスとして救いのない終わり方ではないのでそこは大丈夫。9.11を真正面から描き切った社会派M/Mロマンスです。
長さも語彙もちょっと歯ごたえありますが、読みごたえもありますので、是非冬の夜長のおともにどうぞ。

★対テロ部隊
★秘密作戦

If We Could Go Back
Goodreads-icon.pngCara Dee
IfWeCouldGoBack.jpg★★☆ summary:
時々乗るシアトル行きの電車。
同じ席。座って時間をつぶす。
代わり映えのしない日々。
2人の小さな息子の成長だけが楽しみ。

なにかを待っている気がする。
自分で作り上げてしまったこの狭い世界を壊すなにかを。

気がつけば、前の席にいつも同じ男が座っていた。その男との友情がBennetの世界にヒビを入れる。
だが問題は、その男、Kieranもまた自分の生活にとじこめられた男だということだった。
妻子ある2人の男の出会いは、周囲の人間を巻き込んで人生を変えていく。
その先になにがあるのか。なにを選べるのか。なにを捨てるのか…
.....


Camassia Coveシリーズ6。
小さな町Camassia Coveを舞台にした連作のようですが、スタンドアロンで読めます。私はこのシリーズは初めて読んだかな。
妻子ある男の、でも人生が息苦しい男たちの、出会いと恋とそれがもたらす波紋の話です。

前半なかなか読書が進まなくて、主人公のBennetの一人称で話が進むんですけど、なんせ妻との折り合いが悪い。彼は大学生の時に酔っ払って今の妻と寝てしまい、セックスは合意だったけど不注意で彼女を妊娠させてしまう。責任をとって結婚し、今は大学に復帰した妻(通学のために別居中)を支え、自分だけで2人の息子を育てています。
この妻があまりいい書かれ方をしてないので、まあたしかに彼女にも問題ありますが、もうその辺が読んでいてしんどかった。リアルといえばリアルだし、決して悪し様に書いているわけではないんですけど、夫のBenneやKierantのほうもそこそこ解釈が自分勝手。
途中までは、このまま妻子持ち2人が幸せにくっついて妻がいい面の皮、という展開だったらもう本を投げるぞー(電子だけど)という気分で読んだ。

しかし後半になると、そのしんどい置石がずっしりと利いてくる。
最初から「どうにもならない」とわかって始めた関係で、だんだん相手に本気になってしまう2人ですが、それぞれ妻がいる。Bennetには、自分の不注意から人生設計を狂わせてしまった妻がいて、彼女への気持ちは冷めているけれども責任感は消えはしない。Kieranは、ゲイであることはずっと自覚していたけれども保守的な家族のためにクローゼットに入っていて、今の妻は彼がゲイであることを知りながら「いい家庭を作りましょう」と結婚してくれた。愛らしい娘もいる。妻を人生の伴侶として愛しているわけではないけれども、傷つけたくないし、波風たてたいわけではない。
「満足していないのに現状を壊せなくてずるずると問題を先延ばしにしてしまう」という、きっと多くの人が身につまされるであろう、おそろしくリアルな状況が息苦しく描き出されていく。
おだやかな地獄じゃないか、これ。

作中にも、「人は誰かのために犠牲を払いながら誰かを犠牲にしている」というようなことや、究極的には「善人である」というのはどういうことなのか、という迷いが描かれています。
そこから人を導いたり救うのは愛かもしれない。
でも愛ですら誰も傷つけないというわけにはいかない。
タイトルのIf We Could Go Back、もしまたやり直せるなら、という言葉は、後半で彼らがもう一緒の未来をあきらめたところで出てきます。Bennetは「やり直せるなら、やり直す。次は電車であの席には座らない」と言うのです。じつに苦い決別の宣言。愛している相手から、そして自分を愛してくれている相手から、お前との出会いをなかったことにしたいと言われることほどしんどいことはない。

Cara Deeさんは「家族」というテーマをとても大事にする作家さんですが、今回もいろんな家族の形が活き活きと描かれてます。そしてなんせ、子供たちがめっちゃかわいい。ここはほんとに救い。

2人の恋の話というよりは、2つの家庭が再構成されていく、そんなお話だったのではないかと思う。
ちょっとストレスかかる読書ではありますが、「2人の男が思いがけない出会いから今の人生を立て直していく」というおとぎ話を、人生のいろいろな枷がはまった状態からリアルに書いた一冊は、なかなかの読み応えです。
しっとりじっくり読みたい気分の時に。

★妻子持ち
★クローゼット

Rule Breaker
Goodreads-icon.pngLily Morton

RuleBreaker.jpg★★☆ summary:
Mixed Messages1。

Dylanは今日も上司をどう殺してやろうか考えている。
この、傲慢で人を人とも思わない、口を開けば皮肉ばかりの、最高にカッコいい上司を。

Gabeのアシスタントとして働くのは楽ではないし、頭がからっぽで浮気者の彼氏がやってきて上司とイチャイチャしているのも好きではない。優秀なアシスタントであるDylanだってたまには手が滑って上司を三つ星ホテルの代わりにユースホステルに泊めてしまったりもする。もちろんうっかり。

だがある日、上司がひどい風邪で病欠の電話を入れてきて、しかも誰も看病してくれる者がそばにいないと聞いては黙っていられない。

小さな一歩。ほんの一歩。
近づくところから全ては始まった。いやもしかしたら、出会いの面接の時から、もう。
.....



スーツがばりっと決まっている傲慢上司(弁護士)と、上司を日々明るくこき下ろしながら働くアシスタントの物語。ロンドンが舞台。
まずそこからいい匂いがしますよね!
しかもこの上司、Gabeは孤独で、つき合う相手ときたら金と快楽のことしか考えてなさそうな軽い相手ばかりで、しかも3Pとかしている快楽優先の関係。
病気になったGabeの家に行ってみると、思いもかけずに素敵な一軒家だったけれども冷蔵庫にものはないし、壁に家族の写真もない。そこに見えるのは深い孤独。誰も近づけまいとしている男の。

一方のDylanはたいへん明るい、不屈のアシスタントです。どうも酒癖が悪いのか、酔った時にコピー機にのって自分の尻をコピーしたものを嫌いな顧客に送りつけたりした前科があるらしい。
Gabeの嫌味をある時は流し、ある時は豪速球で打ち返しながら、彼は上司に惹かれている自覚はあるものの、それをどうこうしようという気はなかった。

傍目から見るとGabeもDylanに惹かれているのは一目瞭然で、「好きだから距離を置いている」パターンだなということもよく伝わってくる。
まあそんな努力はしまいには無駄なわけで、やっぱり2人はくっついちゃうんですが!そうでなきゃ困るけど!

皮肉の応酬がなかなかスパイスが効いてて、ちょっといくつか由来がわからないものとかあった。2人にとってその皮肉(時に低俗な、時にエスプリが効いた)が互いへの愛情表明で、彼らの世界をつなぎ合わせる日々のやりとりなんだなというところが可愛い。
そんなわけで、仕事場でのロマンスは実を結ぶわけだけれども、Gabeは「自分は恋人になれる男ではない」というのは承知している。恋なんかほしくない。どうせいつかみんないなくなるのだから。
Dylanとの関係もただの体の関係。ということになっている。それだけが、Gabeが受け入れられる関係だから。
めんどくさい男です。
いつかは終わる関係。それを前提にしないとキスもできない。

そのめんどくささが、Dylanの本気の気持ちにふれるうちに段々と積もっていって、Dylanと距離を取りたい、でも離れられない、でも愛なんて俺は信じない、というこじれにこじれた葛藤の結果、Gabeはとんでもなく卑怯な手に出ます。クズい。クズいぞ!これまで読んだ中でも五本の指には入るだろうクズさだぞ、Gabe!!!
クズ攻めが好きなら一読の価値はあるってくらいひどい。

さて、Gabeの過去の傷が作った硬い殻を、Dylanは突破できるのか。突破するだけの意味があるのか……それを望んでいるのが自分だけなら。

楽しい読書なんだけど、Gabeが本気でDylanを傷つけにかかるところなんか洒落にならんと思ったくらいなので、そういうの苦手な人は元気な時に読むといいと思う。
おせっかいな友達とか全面的にDylanをサポートしてくれる大家族とか、全体にテンプレですが、キャラのエッジが効いているので気をそらさず読めます。
もうひとつふたつ、Gabeさんの魅力が(傲慢上司というテンプレを超えたところで)見たかったかなーという気はしますが、犬好きなところとか子犬にうっかり「パパでちゅよー」てなことを言っちゃうところが可愛かったからいいか。

傲慢上司と口の減らないアシスタントの、火花散るあれこれを読みたい気分の時におすすめ。

★上司と部下
★心の傷

Window Watcher
Goodreads-icon.pngMatt Converse

window_watcher.jpg★★☆ summary:
Hestonは社交的なほうではない。家にこもって小説を書いているほうが落ちつく。孤独ではないが、ひとりでいることを好んだ。
関係を持っている若い相手はいる。そのIcarusはHestonの恋人になりたいと言うのだが、あくまでセックスフレンドとしての距離感を保ちたいHestonはその言葉をかわしつづけていた。

窓から眺める世界が、Hestonにとっては世間そのもの。その切り取られた四角い世界に、向かいの部屋に引っ越してきた男が現れる。恋多き様子のその男は、残念なことに、いつもいいところになるとブラインドを下げるのだった。

そんなある日、Icarusから「ゲイの連続殺人鬼」のニュースを聞かされる。
もしかして、向かいの謎めいた男は殺人者なのか? それともそれはHestonの作家的想像力が生み出した妄想にすぎないのか?
.....



ミステリ仕立てで、最後まで一気にページをめくらせる中編小説。
いうまでもなく設定はヒッチコックの名作「裏窓」ヘのオマージュ。あの映画では、足を負傷した主人公が動けないことに飽き飽きして、良くない気を起こして人の部屋を望遠レンズでのぞき見しているうちに殺人事件らしきものと遭遇する。
今回の小説は、主人公は怪我で動けないわけではなく、ただ家にいるのが好き。狭い世界の快適さになじんでいて、そこに波風たてられるのを好まない。
だが、否応無しに、その彼の「聖域」は脅かされるのです。

ネタバレになりそうであまり中の話をしてはいけない感じの話ですが、筆致がなかなかいいです。語り口が端整というか、理知的でクラシカル。そのあたりもヒッチコック風を意識しているのかな。この作家さんを読んだのが初めてなのでわかりませんが。
キャラにも嫌味がなくて、まあ登場人物は主人公Heston、彼のセフレである若くてかわいいIcarus、そして引っ越してきたばかりの謎の男の三人だけで、しかも謎の男はほぼ遠くから眺めるだけなので、セリフつきは二人だけです。それでしっかり話を作ってきた構成と展開のうまさは見事。

ロマンスというほどのロマンスではないとはいえ、ちゃんとそういう味付けもあって、がっかりはさせません。ちゃんとした恋人関係になりたいIcarus、だがそういう一歩は踏み出したくないHeston。彼らの関係は、二人が窓向こうのミステリを解こうと一緒に頭を突き合わせるうちに変わっていきます。
「窓の外」はHestonにとって一歩踏み出した変化の世界であって、その隠喩が話の中にさりげなく組み込まれている。
そのあたりも基本をしっかり押さえたお手本のような展開力でした。これはやっぱり、かなりこなれた腕前の作者さんと見た。

贅沢なことをいえば、もうひとひねりほしかった気がする。とはいえ、いいテンポで楽しく、ハラハラしながら最後まで読めるいい一本。
一息つきたい、重くないけどおもしろい話を読みたいという気分の時におすすめの一作。

★怪しい隣人
★のぞき

How to Walk Like a Man
Goodreads-icon.pngEli Easton
howtowalklikeaman.jpg★★★ summary:
How to Howl at the Moon続編。
人の姿になれる犬たちがひっそり生きている町マッドクリーク。そこに新たな難題がふりかかる。
山中にアジトを拡大しようとする麻薬組織の動きを受け、DEAは町に一人、常駐のエージェントを派遣してくるというのだ。
Lanceの全力の反対も実らず、マッドクリークの町にもDEAエージェントのMattがやってくる。
この町の真実を彼に知られてはならない! 隠しとおすのだ!

そのために、LanceはMattにお目付け役をあてがう。
Roman、元軍用犬のジャーマンシェパードだった男。
Mattを町からできる限り引きはなしておく任務を、Romanは生真面目にこなすのだが、人間になって問もないRomanにとってすべてが不慣れで新しかった。そしてMattと一諸にいると世界はいつもより鮮やかに見えた。
.....



1では生まれつき変身能力を持ったボーダーコリーLanceの話でしたが、そこにも出ていたジャーマンシェパードのRomanの話が続編。lの後半でRomanが救ったSWAT隊員Mattが町にやってくる!
あわてたのはLanceです。人間というものを信用していないLanceは今回も態度が悪い。ありていに言って、あやしい。
この町は何か隠しているんじゃないのか、とMattも疑いはじめます。完全にやぶ蛇じゃん?

RomanはLanceの命令を受け、Mattに周囲の山を案内して回る。それはMattを町から引き離すためですが、Mattは観察力があり思慮深いRomanに感心するし、RomanはMattから今まで知らなかったことをたくさん教えてもらう。パチパチする飲みもの(シャンパン)とか!自転車とか!
誠実なMatt、不器用なRoman。この2人がじっくりと近づく様子がほほえましい。どっちもとても誠実で、それぞれのぎこちなさをかかえています。
ジャーマンシェパードだったRomanは最愛の人間を戦場で失い、ヒトの姿になれる力を得たのですが中味はまだかなり犬。それも心傷ついた犬です。
そんな彼が、町を守るという目的を見つけ、居場所を得て、そしてMattと出会って初めて笑い方を知るのです。狭い世界に生きていたジャーマンシェパードが少しずつ人間になっていく感じ。もーほんと応援したい。

軽やかな話の展開も健在で、今回もLanceがヤバい。Romanは軍用犬だったこともあってまあセックスの知識ゼロなんですが、素直だからなんでもLanceに聞いちゃう。ムラッとするのはどうしてですかとか股間でかくなったんですけど病気ですかとか。ぜんぶ。
多分、マッドクリークのみんなは困ったらLanceに聞けばよし!と無条件に信頼しているんだと思うけど、そりゃあLanceも大変だろうとちょっと同情するぞ。がんばれLance。

同時に、これはRomanの喪失と再生の物語でもあります。
最愛の人間を失い、ヒトとして生きていくことはつらい。右も左もわからない世界で何をよりどころにして生きていいのか、どうやってこの喪失をうめればいいのか。純粋なジャーマンシェパードの心が切ない。
世界は過酷です。光を奪われても歩いていくしかない。立ち上がって、2本の足で。
そこで出会う誰かが、その愛が、その一歩の力になるかもしれないから。
そして自分も、誰かの力になれるかもしれないから。

MattはRoman相手にとまどいつつ、自分の望みを見つけ、彼もまた歩いていく方向を、道標を見つけるのです。
もちろん2人の間には大きな秘密があって、Romanは町の真実を何があっても隠しとおすしかない。でも嘘が下手な男なのですよ。大丈夫か?

ほのぼのしたり、切なくなったり、2人の可愛い恋模様を味わえる1冊。周囲も可愛いし。特に犬好きには何粒もおいしいぎゅっと濃厚な物語です。

★犬シフター
★軍用犬

Trick Roller
Goodreads-icon.pngCordelia Kingsbridge

trickroller.jpg★★★ summary:
Seven of Spades2

つき合いはじめたLeviとDomicicだったが、まだ最後までセックスはしていなかった。Leviはこの関係が3年間暮らした恋人と別れた反動なのかどうか、見きわめる時間がほしかった。
そして3ヶ月。2人の関係は本物に思えた。

LeviはまだSeven of Spadesが野放しになっていると思っていたが、周囲の警官は否定している。シリアルキラーがラスベガスで次の犯行を計画中だなんて誰だって思いたくはない。それはLeviにもよくわかった。

だから彼は一人で追っていた。シリアルキラーを。ひそかに。
まるで取り憑かれたように。
.....

 

1巻で大金持ちの恋人と別れ、シリアルキラーになんだか馴れ馴れしく接触され、Domicicと出会って、Leviの生活はがらりと変わっています。わりと幸せそうに見えるし、2人の関係が深まっていく様子はほほえましい。あとエロい。根っからのボトム体質のLeviと巨根のDominic。エロの相性は最高ですね!
でもLeviは皆に隠れてまだSeven of Spadesを追っているし、探偵事務所で働き出したDominicは自分のギャンブル依存症のことを仕事場で言っていない。言えない、というのが正確かも。プライドが邪魔をしている。
なんとなく、彼らの立つ場所はあやうい。

そんな中、Leviは事件の絡みでひとりの少女を保護します。虐待されていたらしい彼女は、大柄なDominicの姿に怯えますが、その時のDominicの対応が素晴しい。そっと下がり、自分をできるだけ小さく見せて姿を消す。
無言の理解、そしていたわり。他人の痛みというものをわかって、それを尊重できる男なのです。それがこのシーンにあふれている。
これくらいの包容力がないといつもピリピリしているLeviの相手はできないよね!
Leviの中には深い怒りと傷があって、隙あらば彼の内側からあふれ出そうとしている。その自覚があるので、あくまでどこまでも潔壁に正義を求める。自分のすべてを捜査に注ぎ込む。それがLeviの生き方です。
やはり、あやうい。

スーツの似合う美人だとかクールで強気なのにベッドの中では受けだとか格闘で欲情しちゃって自分をもてあますとか、読んでいるとこんなLeviさんにシリアルキラーが執着するのも当然っすね!という気分になります。前の恋人Stanton(大金持ちのイケメン!)も未練たらたらな様子。
でもLeviにとってDominicははじめての、自分が自然体でいられる相手。好かれているだけでなく、理解され、尊重されているのを感じる。

Dominicはほんっとにいいやつなんですけど、ナチュラルに嘘がうまくて、それも不吉ですねー。その嘘が優しさや真情から出ているうちはいいけど、人をうまく操る彼にLeviですら不安な目を向ける時がある。
ぴったりな相性の2人がかわいくて萌え萌えしつつ、なんだかいつも何かヤバいことが起きるのを待っているような読書です。気が抜けない。
そして必ず、何かが起きるんだよー。

このシリーズでは捜査の描きこみも本格で読みごたえがある。あと格闘シーンもさすがです。作者さんが長年のエキスパートでいらっしゃるらしい。

作者さんによると全8巻。毎回クリフハンガー!
今回そうでもないけどスプラッタっぽいシーンとかもあるので血が苦手な人はご用心。エロに萌えつつ心がキリキリしてくるタイプの読書です。誰もが弱さをかかえ、時に誰にも言えずに深い闇へ落ちていく。
愛だけでそれを止められるのか。戦えるのか。これはそういう物語なんだと思います。ハラハラしながら2人を見守り展開に翻弄される、そんな読書がしたい時におすすめ。あーそれにしても2人が心配だ!

★シリアルキラー
★クリフハンガー

★Three-Star rating system★


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■公式サイト⇒■

・2019年
・6月 雑誌に叛獄の王子後日談「夏の離宮」
・10月「ヒトの世界の歩きかた」(もふもふ2巻)
・11月「ロイヤル・シークレット」
・12月 モネ・マーダーズ
・12月 フェア・チャンス(予定)
・カササギとか英王室ものとか?


*発行済*
・月への吠えかた教えます
・叛獄の王子
・高貴なる賭け
・王たちの蹶起
・夏の離宮(電子版)
・フェア・ゲーム
・フェア・プレイ
・天使の影(アドリアン・イングリッシュ1)
・死者の囁き(アドリアン2)
・悪魔の聖餐(アドリアン3)
・海賊王の死(アドリアン4)
・瞑き流れ(アドリアン5)
・So This is Christmas(外伝、短編集)
・ドント・ルック・バック
・マーメイド・マーダーズ
・恋のしっぽをつかまえて
・狼を狩る法則
・狼の遠き目覚め
・狼の見る夢は
・幽霊狩り(ヘルハイ1)
・不在の痕(ヘルハイ2)
・夜が明けるなら(ヘルハイ3)
・還流
その他電子短編いろいろ

*他訳者さん*
・わが愛しのホームズ
・ロング・ゲイン
・恋人までのA to Z
・マイ・ディア・マスター


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